獣人ハ恋シ家族ニナル

希紫瑠音

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怪しい男たち

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 帰りにクッキーを貰い、店を後にする。オイルは仕上がったら連絡をくれるといっていたので楽しみに待つことにした。

 パルファンを出て獣人商売組合の前を通りもうすぐ角を曲がろうとしていた時だ。

 通りを歩く痩せた獣人とがっちりとした獣人が目に入る。がっちりとした方はスーツ姿、やせた男はシャツとベストという格好で、主と使用人という所か。

 特に珍しい光景ではないのだが、リュンの態度がおかしかった。あきらかにふたりの姿に怯えている。

 ブレーズはリュンを抱きかかえると、身を隠すように細い路地へと入った。

 通りを見渡すと男たちは向こうの建物の方へと歩いて行った。

「どうやらいなくなったみたい」

 ホッと息を吐き、リュンの顔を覗き込む。

「大丈夫?」

 血の気のない顔で真っすぐ見つめたまま、

「ミヒル……」

 そう呟くと体が傾き、ブレーズはリュンを抱きしめた。

「リュン!」

 意識を失っている。ブレーズは急いで歩いてきた道を戻っていく。すぐ近くに獣人商売組合の建物があるからだ。

 受付の小さな窓口にはベルがありそれを鳴らすとドアが開いて獣人がやってくる。そしてすぐにリュンに気が付いてドアを開けてくれた。

「さ、こちらに」

 案内された部屋に大きなソファーがあり、そこにリュンを寝かせた。

「ブレーズさん、どうなさいましたか」

 受付の獣人が呼んでくれたのか、ピトルが中へと入ってくる。

「ピトルさん」

 彼の姿をみたら気が抜けて床に座り込んだ。

「大丈夫ですか」

 ルルス系の肉球がぷにぷにと頬を撫でる。

「ふ、柔らかくてぷにぷにですね」
「そうでしょう? 私の肉球は評判が良いのですよ。ルキンスが幼いころは撫でてあげるとすぐに寝てしまっていたんですよ」

 とブレーズを和ませようとしてくれている。とても優しい獣人だ。

「リュンさんに何があったのですか」
「家に帰ろうとしていた途中で、男ふたりを見かけて、そうしたら意識を失ってしまったんです」

 今まで怖がることはあったが、気を失うようなことはなかった。それにミヒルという名も気になる。リュンがきてから初めて聞く名だった。

 リュンが記憶をなくす前のことを知る、何かヒントになるかもしれない。

「そうだったのですね。その男たちのこと、警戒しておきますね」
「はい」

 頭をなでながら様子をうかがっていると、リュンの目がうっすらと開き、意識が戻ったようだ。

「大丈夫?」
「ん?」

 まるでお昼寝から覚めた時のようにぽやっとしながら目をこすっている。

 もしや覚えていないのだろうか。ピトルと目が合う。そして首を横に振った。

 覚えていないのならそのままで、そういいたいのだろう。ブレーズもそのほうがいいと思うので頷いた。

「私も今日は上りなのですよ。一緒に帰ってもよいでしょうか」
「え、いっしょにかえれるの! うれしい」

 ソファーから降りて飛び跳ねて喜ぶ。その姿を見てブレーズはホッとして息を吐いた。






 リュンは倒れたときのことを覚えておらず、ピトルと共に家に帰ることを喜んでいる。

「ねぇ、ブレーズ。さっきのおかし、ピトルさんにたべてほしいの」
「ふふ、本当はリュンが食べたいんでしょ」

 そういって鼻先をつっつくと、照れながら体をよじらせた。

「くっ」

 あまりの可愛さにきゅんときているのだろう。ブレーズも同じだ。

「ぜひ、リュンくんと食べさせてください」
「うん、たくさん用意しますね」

 家に帰ると貰ったクッキーを皿にのせて紅茶を入れる。

 ふたりで仲良くクッキーを食べ始め、ブレーズも椅子に腰を下ろした。温かい紅茶とクッキーを口にしてホッとした。

「これは、美味しいですね」

 耳が動いている。口にあったようで良かった。

「ゾフィードのお手製クッキーです。アイシングには果樹園のジャムを使ったそうですよ」
「ほう、お噂で聞いたことがあります。さぞや素敵な場所なのでしょうね」
「そうでしょうねぇ」

 どんなところなのかとふたりで思い浮かべて、ホンワカとした気持ちになる。

「ふふ、顔色が良くなりましたね」
「あ、はい。ピトルさんのおかげです」
「それはなによりです」

 傍にピトルがいてくれて心強い。リュンのこともだが、ブレーズのことも心配に思ってくれたのだろう。

 どれだけ周りに恵まれているのだろう。こうして心配してくれる獣人がいるのだから。

「おやおや、クッキーが残り二つになってしまいましたね」

 目を離した隙にお皿の上のクッキーがあと二つになっていた。

「リュン」

 手にクッキーを持ったままテーブルの下に隠れるリュンに、顔を覗き込めばそこから出て椅子の上に座ってクッキーを口の中へと入れた。

「もうっ。夜ご飯が食べられなくなっちゃうよ」

 額を指で軽くついて、しょうがないなと笑う。

「つい食べてしまう気持ちはわかりますよ。おいしいですからね」
「うん!」
「今日だけだよ」
「はーい」

 こんなにおやつを食べたのは初めてだ。倒れた前のことは覚えていないようだったが、心の奥では不安や恐怖があるのではないだろうか。

 優しい甘さはそれを取り除くようにしみわたる。

「ブレーズさん、セドリックさんが帰ってきたようですよ」

 パッと顔を上げて窓から外を見るとセドリックがこちらに向かっているところだった。
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