獣人ハ恋シ家族ニナル

希紫瑠音

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一緒に子育て

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 リュンに必要なものは栄養満点の食事だ。骨が浮き出ていてまともに食べれていなかったのだろうということはわかる。

「獣人の子供はどれくらい食べるの?」

「そうだな、肉なら店で売られている塊の半分くらいかな。だがたくさん食べるとリュンの胃には負担になるようで吐き戻してしまうんだ」

 ゆえに肉や魚は少量、パンやお菓子を食べているそうだ。

「あまり脂っこいものが食べられないようでな。ドニやブレーズが食べるような料理のほうがたくさん食べれると思うんだ」
「わかった。普段食べている料理を作るね。セドリックにはちゃんと別でこってりなの作るから」
「タレの美味いあれがいい」

 豆を発酵させて作った豆油とうゆという調味料と米酒、ガリクとショウキョウをすりおろしたものをまぜる。それをカットした肉と共に焼くのだ。

「わかった」

 食事の準備はふたりが手伝ってくれたおかげで、いつもよりも量が多くても時間がかからずに仕上がった。

 湯気を立てる料理をテーブルへ並べると、セドリックが鼻を鳴らす。

「はぁ、美味そうだなぁ」

 耳を小さく動かし、ぺろりと口元を舐める。

「うん」

 肉から香る良いにおいに興味があるのかリュンが尻尾をふりふりしながら見ている。

「リュン、食べてみる?」

 そう尋ねれば、答えるより先にセドリックの方を見る。

 うさぎのぬいぐるみを渡したときは警戒していたからだと思っていたが、もしや確認をとっているのだろうか。

「リュン、自分が思った通りにしていいんだぞ?」

 その言葉にリュンが戸惑い、セドリックが軽く息を吐くと頭を撫でた。

「美味しいから一緒に食べような」
「うん!」

 子供が大人に伺いを立てる、そういう躾をされていたのだろうか。だが、セドリックの反応に胸がモヤっとする。

 それは後で尋ねることにして、リュンにご飯を食べて美味しいって顔を見せてもらいたい。

 肉はセドリックのために焼いたので皿ごと渡す。

 フォークをグーの手つきで持ち、食べやすいサイズにカットされた肉を突き刺す。

 それを食べた途端に耳がぴゅるると動く。

「おいしい!」
「よかった」

 自分の料理を美味そうに食べてくれる。それだけでブレーズは幸せだ。 

「リュン、果物のパイだよ。熱いからふーふーして食べてね」

 パイをのせた皿を渡すと大きな目がさらに大きく見開かれて耳が動き出す。どうやら気に入ってくれたのだろう。

 だが、先ほどのようにセドリックを見て、食べていいのかという顔をする。

「これはリュンのだから食べていいんだぞ」

 フォークを手に持ち、食べやすいサイズにカットするとフーフーと息をふきかけて口の中へと入れると、ふにゃと表情を緩めた。

「くっ」

 ブレーズは小さくガッツポーズをし、ふ、と、視線を感じて見上げればセドリックがにやにやとして見ていた。

「かわいい、だろ?」
「うん。やばすぎる」

 これからセドリックと共にリュンが幸せだと感じてくれるその姿を見ていきたい。

「リュン、今日はたくさん食べられたな」

 ごちそうさまとフォークを置いたリュンの頭を撫でる。

「あのね、ブレーズのごはんがおいしかったの。それにいっしょだから」

 とセドリックを見てブレーズを見る。

「そうか」

 幸せ。

 自分にも耳と尻尾があったなら、きっとたれていることだろう。

「何、ドニ曰く『はわわわ』な状態?」
「そう」

 ドニが獣人に対してきゅんとしたときに出る言葉だ。

「はわわわ?」

 首をこてっと横にしてリュンが口にする。

「かわいい」
「はは。ブレーズよ。これからずっとだぜ。心臓持つのか?」
「持たないかも……」

 その時はリュンに看病をしてもらえとセドリックが顔を向けると、お腹いっぱい食べて眠くなってしまったかリュンが舟をこぎ出していた。

「おねむのようだな」

 セドリックが席を立ちリュンを抱き上げた。

「セド、ベッドに」

 寝室用として使っている部屋のドアを開くと中へと入りリュンをベッドの上に寝かせた。

「よかった。眠れるということは安心しているってことだから」

 パニックを起こして倒れてからもリュンが安心できるまでに時間がかかった。

 部屋の端っこで過ごし、寝るときは毛布にくるまって床に横になっていた。しかも物音を立てるとすぐに起き上がっていたそうだ。

「あの子は大人が子供に向ける愛情を知らない。頭を撫でようとしたら恐がって尻尾を股の間に挟んだんだ。だからまずは顔を背けられないように話すこと。次に触れても怖がられないこと。そうやって少しずつ愛情に慣れてもらいたくてな」

 ゆっくりと時間をかけて今の関係になれたという。

 それでもはじめての人は怖がってしまうんだとセドリックの表情が曇った。

「リュンは今までどんな生活をしていたのかと想像するだけで辛い」

 優しい彼が心を痛めている。ブレーズはそれがつらい。

「セド、僕たちでいっぱい愛情をあげようね」

 立ち上がりセドリックの傍へといくと頭を抱きしめた。

「あぁ。夫婦の共同作業だな!」
「また、なんでそういう言葉を覚えるかな」

 好意を持っている相手に言われたら勘違いをさせてしまう言葉だ。ブレーズは言葉に反応して照れてしまう。

「ふふ、まだ知っているぞ。交尾のことは……」
「わー!」

 流石にその言葉は意識してしまう。黙らせるようにセドリックの頭を乱暴に撫でた。

「はは、大事な行為だぞ。交尾は」
「その話題から離れなさいっ」

 両耳を引っ張ると、セドリックが参ったと両手を上げた。
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