3 / 27
獣人の子供
しおりを挟む
その子供の獣人はルクス系で羊のようにもふもふとした毛並みをしていた。だが、よく見ると毛玉ができており酷いありさまだ。
「え、まさか……」
獣人の国は中心が王都、その周りを囲むように東国、西国、南国、北国とわかれており、第二王子であるヴァレリーと北国へ視察へと出かけたのは一か月前のことだ。
ブレーズがセドリックと知り合ってから北国へ偵察へ向かったのは三度目。
こんなに魅力的な男なのだから、自分の知らぬところでそういうことになる可能性はあるだろう。
その時に関係をもった雌との間に子供ができた?
もし、その通りだとしたらと頭が真っ白になり体が強張った。
「ちょっと、ブレーズまで皆と同じ反応しないでくれよ。視察を終えた帰りに王都と北国の境付近で行き倒れになっていて保護をしたんだ」
「え、そう、なの?」
セドリックの子供ではない、その言葉に安堵して唇がひくっと震え綻びそうになるがそれは抑える。
向こうはそれには気が付いていないようで話をつづけた。
「診療所に入院していて、今日、やっと退院となったのだが、記憶を失ってしまってな。家族を探す間、俺が面倒を見ることになったわけ」
「そうなんだ。こんにちは。僕はブレーズだよ」
セドリックの後ろに隠れている少年に視線を合わせると、恥ずかしさからか顔を引っ込めて耳だけだしている。
「……リュン」
今にも消えてしまいそうなか細い声で名を告げて、セドリックの足に抱きついた。しかも尻尾を股の間に挟んでいる。
恥ずかしいのではなく恐がっている。ブレーズはセドリックを見上げた。
「大丈夫だ、リュン。この世界には二種類の生き物がいる。俺たち獣人と彼のような人の子だ。何も怖いことはしない」
そう優しく頭を撫でると、セドリックを見つめた後にブレーズの方へと視線を向けた。だがまだ怖いのだろう。耳が垂れたままだ。
ブレーズは立ち上がり奥へと向かう。そして戸棚に飾ってあったものを手にしてリュンの元へと戻った。
「リュン、このことお友達になってくれる?」
リュンの前にうさぎのぬいぐるみを差し出した。
「え?」
「うさぎっていうんだよ」
「うさぎ?」
興味はある。尻尾が揺れているから。だが手を伸ばさずにセドリックを見上げた。
「お友達になりたいって。触ってごらん」
そっと手を伸ばして顔に触れると笑顔を見せ、怖い思いをしてほしくはなかったのでその表情を見てホッとした。
「リュン、よかったな。お友達だぞ」
「うん!」
すっかりうさぎのぬいぐるみに夢中のリュンを眺めながら、
「やはりブレーズのところに連れてきて正解だったよ」
という。どういう意味なのかを尋ねると、
「倒れているところを見つけて保護したといっただろう? 目を覚ました後に大人を怖がってパニックになったんだ。それのせいなのか自分の名前すらわからなかった。リュンという名は俺がつけたんだ」
恐怖で記憶を失った。そうセドリックは考えているようだ。
「そうしたら俺に懐いてくれて。この子の親が見つかるまで俺が一緒にいることになったんだ」
セドリックは一人者だし忙しい身だ。そこに子育てが加わるとなると大変ではないだろうか。今まで受けてきた恩を返すチャンスだ。
「ねぇ、僕にも手伝わせてくれないかな?」
「ブレーズならそう言ってくれると思ってた!」
ぱぁっと明るい表情を浮かべ、尻尾を揺らしている。そこでなにかに気が付いて首を傾げる。
もしや、セドリックははじめからそのつもりでここにリュンを連れてきたのだろうか。
「セド、もしかして」
「いやぁ、助かるなぁ」
ブレーズの両手をつかみ上下に揺らす。どうやら正解のようだ。
「もう。都合よく思ってない?」
そういいながらも頼られるのが嬉しい。
「思うものか。心強いよ。一緒にこの子を幸せにしてやろうな」
とリュンを片手で抱き上げて、もう片方の手をブレーズの腰に回した。
「えっ」
セドリックがふたりを抱きしめるようなかたちになり、顔が熱くなるのをとめられない。
「セ、セド」
「まるで夫婦だな」
その一言に、力が抜けてよろめいた。それは獣人の国でいう番のことで、人の子の国の言葉だ。
それを口にするなんて。ブレーズを何度キュンとさせれば気が済むのだろうか。
「おっと、大丈夫か?」
さらに体を引き寄せられて心臓が飛び出そうになったが、リュンの尻尾がブレーズの顔にもふっと当たった。
「あっ、シッポ」
リュンがそれを両手で隠す。よく見れば顔が強張っている。毛並みのことで何か嫌なことを言われたことがあるのだろう。
「僕はリュンの尻尾、大好きだよ」
そう口にすると、大きな目をぱちぱちとさせて、
「ほんとう?」
尻尾を隠していた手を放した。
「うん。さてと、リュン、まずはお風呂だね。洗ってあげる。その後はブラシね」
獣人はブラシをするとゴロゴロと喉を鳴らしたり尻尾を揺らして喜んでくれる。
「ブラシ、すき」
まだぎこちないけれど強張った顔がほぐれた。
「いいな、俺も! シャンプーもお願い」
細い尻尾が揺れる。獣人は爪が鋭いので洗う時は専用のブラシを使う。
一度だけシャンプーをしてあげたことがあるのだが、それが非常に気持ちよかったようで、やってほしいと強請られるのだが、気持ちを意識してからは身が持たないから断っていた。
「いいよ。今日は特別」
リュンがいればどうにか気持ちも誤魔化せるだろう。本当はあの逞しい体をまた洗ってあげたいと思っていたのだから。
「よし、そうと決まればブレーズの家へいくぞ!」
「待って、片づけるから」
「おう、あ、それとリュンに着るものを頼めるか?」
「わかった」
今は間に合わせに店にある子供服をと着れそうなものを数点手に取る。
帰る途中でリュンの下着と、食料品を買い足した。町でもセドリックを知る人は多い。店に行くたびに声を掛けられる。
大抵の貴族は偉ぶるものなのに、セドリックは気さくで親切、困った人がいると手を差し伸べる。
そういうところも友として誇らしく、そして愛おしく思う。
「え、まさか……」
獣人の国は中心が王都、その周りを囲むように東国、西国、南国、北国とわかれており、第二王子であるヴァレリーと北国へ視察へと出かけたのは一か月前のことだ。
ブレーズがセドリックと知り合ってから北国へ偵察へ向かったのは三度目。
こんなに魅力的な男なのだから、自分の知らぬところでそういうことになる可能性はあるだろう。
その時に関係をもった雌との間に子供ができた?
もし、その通りだとしたらと頭が真っ白になり体が強張った。
「ちょっと、ブレーズまで皆と同じ反応しないでくれよ。視察を終えた帰りに王都と北国の境付近で行き倒れになっていて保護をしたんだ」
「え、そう、なの?」
セドリックの子供ではない、その言葉に安堵して唇がひくっと震え綻びそうになるがそれは抑える。
向こうはそれには気が付いていないようで話をつづけた。
「診療所に入院していて、今日、やっと退院となったのだが、記憶を失ってしまってな。家族を探す間、俺が面倒を見ることになったわけ」
「そうなんだ。こんにちは。僕はブレーズだよ」
セドリックの後ろに隠れている少年に視線を合わせると、恥ずかしさからか顔を引っ込めて耳だけだしている。
「……リュン」
今にも消えてしまいそうなか細い声で名を告げて、セドリックの足に抱きついた。しかも尻尾を股の間に挟んでいる。
恥ずかしいのではなく恐がっている。ブレーズはセドリックを見上げた。
「大丈夫だ、リュン。この世界には二種類の生き物がいる。俺たち獣人と彼のような人の子だ。何も怖いことはしない」
そう優しく頭を撫でると、セドリックを見つめた後にブレーズの方へと視線を向けた。だがまだ怖いのだろう。耳が垂れたままだ。
ブレーズは立ち上がり奥へと向かう。そして戸棚に飾ってあったものを手にしてリュンの元へと戻った。
「リュン、このことお友達になってくれる?」
リュンの前にうさぎのぬいぐるみを差し出した。
「え?」
「うさぎっていうんだよ」
「うさぎ?」
興味はある。尻尾が揺れているから。だが手を伸ばさずにセドリックを見上げた。
「お友達になりたいって。触ってごらん」
そっと手を伸ばして顔に触れると笑顔を見せ、怖い思いをしてほしくはなかったのでその表情を見てホッとした。
「リュン、よかったな。お友達だぞ」
「うん!」
すっかりうさぎのぬいぐるみに夢中のリュンを眺めながら、
「やはりブレーズのところに連れてきて正解だったよ」
という。どういう意味なのかを尋ねると、
「倒れているところを見つけて保護したといっただろう? 目を覚ました後に大人を怖がってパニックになったんだ。それのせいなのか自分の名前すらわからなかった。リュンという名は俺がつけたんだ」
恐怖で記憶を失った。そうセドリックは考えているようだ。
「そうしたら俺に懐いてくれて。この子の親が見つかるまで俺が一緒にいることになったんだ」
セドリックは一人者だし忙しい身だ。そこに子育てが加わるとなると大変ではないだろうか。今まで受けてきた恩を返すチャンスだ。
「ねぇ、僕にも手伝わせてくれないかな?」
「ブレーズならそう言ってくれると思ってた!」
ぱぁっと明るい表情を浮かべ、尻尾を揺らしている。そこでなにかに気が付いて首を傾げる。
もしや、セドリックははじめからそのつもりでここにリュンを連れてきたのだろうか。
「セド、もしかして」
「いやぁ、助かるなぁ」
ブレーズの両手をつかみ上下に揺らす。どうやら正解のようだ。
「もう。都合よく思ってない?」
そういいながらも頼られるのが嬉しい。
「思うものか。心強いよ。一緒にこの子を幸せにしてやろうな」
とリュンを片手で抱き上げて、もう片方の手をブレーズの腰に回した。
「えっ」
セドリックがふたりを抱きしめるようなかたちになり、顔が熱くなるのをとめられない。
「セ、セド」
「まるで夫婦だな」
その一言に、力が抜けてよろめいた。それは獣人の国でいう番のことで、人の子の国の言葉だ。
それを口にするなんて。ブレーズを何度キュンとさせれば気が済むのだろうか。
「おっと、大丈夫か?」
さらに体を引き寄せられて心臓が飛び出そうになったが、リュンの尻尾がブレーズの顔にもふっと当たった。
「あっ、シッポ」
リュンがそれを両手で隠す。よく見れば顔が強張っている。毛並みのことで何か嫌なことを言われたことがあるのだろう。
「僕はリュンの尻尾、大好きだよ」
そう口にすると、大きな目をぱちぱちとさせて、
「ほんとう?」
尻尾を隠していた手を放した。
「うん。さてと、リュン、まずはお風呂だね。洗ってあげる。その後はブラシね」
獣人はブラシをするとゴロゴロと喉を鳴らしたり尻尾を揺らして喜んでくれる。
「ブラシ、すき」
まだぎこちないけれど強張った顔がほぐれた。
「いいな、俺も! シャンプーもお願い」
細い尻尾が揺れる。獣人は爪が鋭いので洗う時は専用のブラシを使う。
一度だけシャンプーをしてあげたことがあるのだが、それが非常に気持ちよかったようで、やってほしいと強請られるのだが、気持ちを意識してからは身が持たないから断っていた。
「いいよ。今日は特別」
リュンがいればどうにか気持ちも誤魔化せるだろう。本当はあの逞しい体をまた洗ってあげたいと思っていたのだから。
「よし、そうと決まればブレーズの家へいくぞ!」
「待って、片づけるから」
「おう、あ、それとリュンに着るものを頼めるか?」
「わかった」
今は間に合わせに店にある子供服をと着れそうなものを数点手に取る。
帰る途中でリュンの下着と、食料品を買い足した。町でもセドリックを知る人は多い。店に行くたびに声を掛けられる。
大抵の貴族は偉ぶるものなのに、セドリックは気さくで親切、困った人がいると手を差し伸べる。
そういうところも友として誇らしく、そして愛おしく思う。
1
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします
真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。
攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w
◇◇◇
「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」
マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。
ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。
(だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?)
マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。
王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。
だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。
事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。
もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。
だがマリオンは知らない。
「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」
王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
獣人の子育ては経験がありません
三国華子
BL
36歳シングルファーザー
転生したら、見た目は地味になったけど、可愛い子供ができました。
異世界で、二度目の子育て頑張ります!!!
ムーンライトノベルズ様にて先行配信しております。
R18要素を含むタイトルに「※」をつけます。
感想はネタバレも公開することにしました。ご覧になる場合はご注意下さい。
オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。
篠崎笙
BL
薬学部に通う理人は植物採集に山に行った際、救世主として異世界に召喚されるが、熊の獣人に拾われてツガイにされてしまい、もう元の世界には帰れない身体になったと言われる。そして、世界の終わりの原因は伝染病だと判明し……。
《完結》狼の最愛の番だった過去
丸田ザール
BL
狼の番のソイ。 子を孕まねば群れに迎え入れて貰えないが、一向に妊娠する気配が無い。焦る気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいのある日 夫であるサランが雌の黒い狼を連れてきた 受けがめっっっちゃ可哀想なので注意です ハピエンになります ちょっと総受け。
オメガバース設定ですが殆ど息していません
ざまぁはありません!話の展開早いと思います…!
【完結】生贄赤ずきんは森の中で狼に溺愛される
おのまとぺ
BL
生まれつき身体が弱く二十歳までは生きられないと宣告されていたヒューイ。そんなヒューイを村人たちは邪魔者とみなして、森に棲まう獰猛な狼の生贄「赤ずきん」として送り込むことにした。
しかし、暗い森の中で道に迷ったヒューイを助けた狼は端正な見た目をした男で、なぜかヒューイに「ここで一緒に生活してほしい」と言ってきて……
◆溺愛獣人攻め×メソメソ貧弱受け
◆R18は※
◆地雷要素:受けの女装/陵辱あり(少し)
【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった
佐伯亜美
BL
この世界は獣人と人間が共生している。
それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。
その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。
その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。
「なんで……嘘つくんですか?」
今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。
狼は腹のなか〜銀狼の獣人将軍は、囚われの辺境伯を溺愛する〜
花房いちご
BL
ルフランゼ王国の辺境伯ラズワートは冤罪によって失脚し、和平のための人質としてゴルハバル帝国に差し出された。彼の保護を名乗り出たのは、銀狼の獣人将軍ファルロだった。
かつて殺し合った二人だが、ファルロはラズワートに恋をしている。己の屋敷で丁重にあつかい、好意を隠さなかった。ラズワートは最初だけ当惑していたが、すぐに馴染んでいく。また、憎からず想っている様子だった。穏やかに語り合い、手合わせをし、美味い食事と酒を共にする日々。
二人の恋は育ってゆくが、やがて大きな時代のうねりに身を投じることになる。
ムーンライトノベルズに掲載した作品「狼は腹のなか」を改題し加筆修正しています。大筋は変わっていません。
帝国の獣人将軍(四十五歳。スパダリ風戦闘狂)×王国の辺境伯(二十八歳。くっ殺風戦闘狂)です。異種族間による両片想いからの両想い、イチャイチャエッチ、戦争、グルメ、ざまあ、陰謀などが詰まっています。エッチな回は*が付いてます。
初日は三回更新、以降は一日一回更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる