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ファブリスとロシェ(2)
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◇…◆…◇
これ以上、自分との距離を縮めないで欲しい。
ファブリスは、ただ、剣を教わるだけの存在であり、シリルはドニの友達であり自分には関係ない。
それなのに心の中へと入り込もうとするファブリスにロシェは困惑していた。
火傷跡に目をそらさずに触れてきたのは、ドニ以外で彼だけだ。思えばシリルも特に気にしている様子はない。
「調子が狂う」
唇が触れた箇所が熱くてしかたがない。
二人の食生活はドニが育てた野菜と森で狩った鳥や小物の獣、木の実などだ。
ドニはあまり肉が好きではなく、野菜ばかりで食が薄い。それゆえか身体は痩せている。
だが、この頃はファブリスの作った菓子を食べているので身体重が増えた。
それでも痩せすぎだとファブリスは肉をどうにか食わせようと試行錯誤をしているようで、たまに肉や魚のパイを焼く。
包丁で細かく叩いて野菜や果物を混ぜたパイはドニも喜んで食べていた。
まぁ、ドニと二人の食事はただ焼いて味付けに塩を振るうくらいだから、手の込んだ手料理を食べさせてもらった時には感動したものだ。
「ファブリスが奥さんだったら幸せだろうなぁ」
その言葉になぜかドキッとした。
「はは、ドニは面白いことを言うな」
楽しそうに笑うファブリスに、ムカついて舌打ちをする。
周りがシンとなるのは、それが思いのほか大きかったからだろう。
「あ、本気で言っているんじゃないよ?」
「当たり前だ。獣人を嫁に貰うとか、あほか」
「……そうじゃないんだけどなぁ」
ならどういう意味だ。
ドニが言いたいことが解らず、席を立とうとすれば、ファブリスが肩を押さえてそれを止める。
「ロシェ、お前等の為に焼いたパイだ。もっと食え」
大きくカットしたパイを皿の上へと盛る。そして暖かい紅茶をコップに注いだ。
それを口にすれば、イライラしていた気持ちが収まってどうでもよくなってきた。
「はぁ、お前ってやつは」
と、何故かため息をつかれた。
「なんだよ」
「いや、美味そうに食うなと思ってな」
「はぁ? 俺よりドニの方だろ」
そちらへと目を向ければ、相好を崩しパイを頬張っているドニの姿がある。
確かにそうだなとファブリスが笑い、
「ついているぞ」
と親指でロシェの口の端を拭うと、指についたそれを舌で舐めとった。
その仕草に、耳がやたらと熱くなる。
「ガキじゃねぇんだから、やめろよな」
「ん?」
「くそっ」
シリルとドニがニヤニヤとしながら自分を見ている。子ども扱いされているのを面白がっているのだろう。
「見るなよ。お前の分も食っちまうぞ」
二人の皿の上のパイにフォークを突き刺そうとすれば、ドニに皿を避けられてしまう。
「ロシェってば、食い意地が張っているんだから」
と取られないように自分の手でガードをしながらパイを食べ、
「まぁ、ファブリスの作ったパイは美味いから、食べてしまいたくなる気持ちは解らなくもないぞ」
シリルは笑みを浮かべて優雅に食べる。
「本当に、美味そうだ」
そうファブリスがポツリと呟き、
「自画自賛かよ」
自分のパイに乱暴にフォークを突き刺せば、苦笑いをするファブリスと目があった。
これ以上、自分との距離を縮めないで欲しい。
ファブリスは、ただ、剣を教わるだけの存在であり、シリルはドニの友達であり自分には関係ない。
それなのに心の中へと入り込もうとするファブリスにロシェは困惑していた。
火傷跡に目をそらさずに触れてきたのは、ドニ以外で彼だけだ。思えばシリルも特に気にしている様子はない。
「調子が狂う」
唇が触れた箇所が熱くてしかたがない。
二人の食生活はドニが育てた野菜と森で狩った鳥や小物の獣、木の実などだ。
ドニはあまり肉が好きではなく、野菜ばかりで食が薄い。それゆえか身体は痩せている。
だが、この頃はファブリスの作った菓子を食べているので身体重が増えた。
それでも痩せすぎだとファブリスは肉をどうにか食わせようと試行錯誤をしているようで、たまに肉や魚のパイを焼く。
包丁で細かく叩いて野菜や果物を混ぜたパイはドニも喜んで食べていた。
まぁ、ドニと二人の食事はただ焼いて味付けに塩を振るうくらいだから、手の込んだ手料理を食べさせてもらった時には感動したものだ。
「ファブリスが奥さんだったら幸せだろうなぁ」
その言葉になぜかドキッとした。
「はは、ドニは面白いことを言うな」
楽しそうに笑うファブリスに、ムカついて舌打ちをする。
周りがシンとなるのは、それが思いのほか大きかったからだろう。
「あ、本気で言っているんじゃないよ?」
「当たり前だ。獣人を嫁に貰うとか、あほか」
「……そうじゃないんだけどなぁ」
ならどういう意味だ。
ドニが言いたいことが解らず、席を立とうとすれば、ファブリスが肩を押さえてそれを止める。
「ロシェ、お前等の為に焼いたパイだ。もっと食え」
大きくカットしたパイを皿の上へと盛る。そして暖かい紅茶をコップに注いだ。
それを口にすれば、イライラしていた気持ちが収まってどうでもよくなってきた。
「はぁ、お前ってやつは」
と、何故かため息をつかれた。
「なんだよ」
「いや、美味そうに食うなと思ってな」
「はぁ? 俺よりドニの方だろ」
そちらへと目を向ければ、相好を崩しパイを頬張っているドニの姿がある。
確かにそうだなとファブリスが笑い、
「ついているぞ」
と親指でロシェの口の端を拭うと、指についたそれを舌で舐めとった。
その仕草に、耳がやたらと熱くなる。
「ガキじゃねぇんだから、やめろよな」
「ん?」
「くそっ」
シリルとドニがニヤニヤとしながら自分を見ている。子ども扱いされているのを面白がっているのだろう。
「見るなよ。お前の分も食っちまうぞ」
二人の皿の上のパイにフォークを突き刺そうとすれば、ドニに皿を避けられてしまう。
「ロシェってば、食い意地が張っているんだから」
と取られないように自分の手でガードをしながらパイを食べ、
「まぁ、ファブリスの作ったパイは美味いから、食べてしまいたくなる気持ちは解らなくもないぞ」
シリルは笑みを浮かべて優雅に食べる。
「本当に、美味そうだ」
そうファブリスがポツリと呟き、
「自画自賛かよ」
自分のパイに乱暴にフォークを突き刺せば、苦笑いをするファブリスと目があった。
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