獣人ハ恋ヲスル

希紫瑠音

文字の大きさ
上 下
5 / 11

ファブリスとロシェ(2)

しおりを挟む
◇…◆…◇



 これ以上、自分との距離を縮めないで欲しい。

 ファブリスは、ただ、剣を教わるだけの存在であり、シリルはドニの友達であり自分には関係ない。

 それなのに心の中へと入り込もうとするファブリスにロシェは困惑していた。

 火傷跡に目をそらさずに触れてきたのは、ドニ以外で彼だけだ。思えばシリルも特に気にしている様子はない。

「調子が狂う」

 唇が触れた箇所が熱くてしかたがない。




 二人の食生活はドニが育てた野菜と森で狩った鳥や小物の獣、木の実などだ。

 ドニはあまり肉が好きではなく、野菜ばかりで食が薄い。それゆえか身体は痩せている。

 だが、この頃はファブリスの作った菓子を食べているので身体重が増えた。

 それでも痩せすぎだとファブリスは肉をどうにか食わせようと試行錯誤をしているようで、たまに肉や魚のパイを焼く。

 包丁で細かく叩いて野菜や果物を混ぜたパイはドニも喜んで食べていた。

 まぁ、ドニと二人の食事はただ焼いて味付けに塩を振るうくらいだから、手の込んだ手料理を食べさせてもらった時には感動したものだ。

「ファブリスが奥さんだったら幸せだろうなぁ」

 その言葉になぜかドキッとした。

「はは、ドニは面白いことを言うな」

 楽しそうに笑うファブリスに、ムカついて舌打ちをする。

 周りがシンとなるのは、それが思いのほか大きかったからだろう。

「あ、本気で言っているんじゃないよ?」
「当たり前だ。獣人を嫁に貰うとか、あほか」
「……そうじゃないんだけどなぁ」

 ならどういう意味だ。

 ドニが言いたいことが解らず、席を立とうとすれば、ファブリスが肩を押さえてそれを止める。

「ロシェ、お前等の為に焼いたパイだ。もっと食え」

 大きくカットしたパイを皿の上へと盛る。そして暖かい紅茶をコップに注いだ。

 それを口にすれば、イライラしていた気持ちが収まってどうでもよくなってきた。

「はぁ、お前ってやつは」

 と、何故かため息をつかれた。

「なんだよ」
「いや、美味そうに食うなと思ってな」
「はぁ? 俺よりドニの方だろ」

 そちらへと目を向ければ、相好を崩しパイを頬張っているドニの姿がある。

 確かにそうだなとファブリスが笑い、

「ついているぞ」

 と親指でロシェの口の端を拭うと、指についたそれを舌で舐めとった。

 その仕草に、耳がやたらと熱くなる。

「ガキじゃねぇんだから、やめろよな」
「ん?」
「くそっ」

 シリルとドニがニヤニヤとしながら自分を見ている。子ども扱いされているのを面白がっているのだろう。

「見るなよ。お前の分も食っちまうぞ」

 二人の皿の上のパイにフォークを突き刺そうとすれば、ドニに皿を避けられてしまう。

「ロシェってば、食い意地が張っているんだから」

 と取られないように自分の手でガードをしながらパイを食べ、

「まぁ、ファブリスの作ったパイは美味いから、食べてしまいたくなる気持ちは解らなくもないぞ」

 シリルは笑みを浮かべて優雅に食べる。

「本当に、美味そうだ」

 そうファブリスがポツリと呟き、

「自画自賛かよ」

 自分のパイに乱暴にフォークを突き刺せば、苦笑いをするファブリスと目があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

獣人ハ恋シ家族ニナル

希紫瑠音
BL
ブレーズは獣人の国で服を作り売っている。そんな彼の元に友人のセドリックが子供の獣人を連れてきて新しい生活がはじまる。 都合よく話が進みます。 獣人(人の好い)×人の子(家事が得意で手先が器用)・子育て ほのぼの・いちゃいちゃな展開で書いてはおりますが、悲しいシーンがそこそこあります。 ※印はR18またはR15(ゆる~いのにもつけてます)

男娼ウサギは寡黙なトラに愛される

てんつぶ
BL
「も……っ、やだ……!この、絶倫……!」 ・・・・ 獣人の世界では、過去にバース性が存在した。 獣としての発情期も無くなったこの時代に、ウラギ獣人のラヴィはそれを隠して男娼として生きていた。 あどけなくも美しく、具合の良いラヴィは人気があった。 でも、人気があるだけ。本気でラヴィを欲しがる者はいない事を、彼は痛い程知っていた。 だけどそう――たった一度だけ自分を抱いた、あのトラ獣人だけは自分に執着を示していたのだ。 干支BL。 オメガバ事前知識有前提のゆるい設定です。 三が日の間に完結したいところ。

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

完結R18BL/君を愛することはないと言われたので、悪役令息は親友になってみた

ナイトウ
BL
呪われた大公×異世界召喚された社畜 日本で社畜をしていたカナトは、気が付いたら知らない世界にいた。 異世界召喚されて悪行ばかりを働く伯爵令息ドロテオの体に閉じ込められたからだ。 カナトを保護したドロテオの婚約者、スマラルダス大公オズバルドは死の呪いのために人と関わらないようにして生きていた。 そんな2人が友達になって、落ちてはいけない恋に落ちる話。 BL大賞に参加してます! 何卒投票よろしくお願いします!!

獣人王の想い焦がれるツガイ

モト
BL
山暮らしの“コバ”は、怪我を負い倒れている獣人を見つけ看病する。目が覚ました獣人はコバを見て何かを言ってくるが伝わらない。その時、獣人は番だと言っていた。 一人ぼっちの少年が訳も分からず惹かれた獣人は別の国の王様でした。 強く逞しく生きるコバとそんな彼を溺愛したい王のお話。 コバと獣人は運命の番。番を知らないコバと彼に焦がれる獣人。 獣人は妊娠可能の世界になっております。ムーンライトノベルズにも投稿しております。

処理中です...