獣人ハ恋ヲスル

希紫瑠音

文字の大きさ
上 下
1 / 11

獣人と出逢う

しおりを挟む
 この世界には獣人と人の子が暮らしている。

 獣人の雌は少なく、人と交わった場合も獣人が生まれる率は少ない。その為、獣人の数は二割ほどだ。

 彼らは人の子よりも優れており、知識や身体能力はもちろん、加えて立派な身体格を持ち、特別の存在として崇められている。

 一度でいいから話をしてみたい。そのつやつやでもふもふな尻尾を撫でてみたいという夢を、幼馴染であるドニは持っていて、毎日、それについて語るのをウンザリとしながらロシェは聞く日々だ。

「いいよなぁ、あのもっふもふな尻尾。耳の動きもたまらない」
「俺にはサッパリ良さが解らん」 

 妄想しながら今にも涎を垂らしそうなドニの隣で、ロシェが肩肘をついて呆れ顔でみる。

「な、あの耳と尻尾に触って癒されたいと思わないの!!」

 興奮気味に尻尾と耳の良さを口にするドニに対し、冷静な態度をとるロシェ。それが面白くないのか、

「だぁっ、ロシェ、もう少し、興味を持とうよ」

 きっと本物を目の前にすれば獣人の良さが解るだろうにと肩を掴んで揺らされるが、ドニだって本物を見たことは無い癖にと心の中でぼやく。

「獣人の話はおわりな。薬草を取りに森に行くのだろう?」

 ドニが獣人のことを話し始めると長くなる。それゆえに話は終わりとロシェは森に向けて歩き出す。

「待ってよ」

 慌てて大きなカバンを肩に下げ、手には籠を持って隣に並んで歩きだした。

 二人は同じ年で、今年、十八となる。二人とも身体の線が細いのは満足に食べることができないためだ。

 身長はロシェはそこそこ伸びたが、ドニは低い。薬師であり彼は薬を作っていると食事を忘れることがあるためだ。

 ロシェは幼き頃から剣を握り、力はないが素早い動きで敵を仕留める。顔と身体には火傷の跡があった。

 二人は人の目から逃れるように集落のはずれに建つ家に住んでいるのだが、近くにある森にはとても貴重な薬草が自生しており、薬師にとってはお宝の森である。

 だが、そこには凶暴な獣が生息しているので危険な場所でもあった。 

「今日はもう少し奥に進むからね」

 ドニの欲しい薬草は、少し奥の方まで行かないと採取できないため、森に入る前に念入りに準備を整える。

「はい、これを腰につけて」

 獣の嫌がる臭いのする草が入った袋だ。草自身体には特に匂いはなく、それを揉むと悪臭を放つ。それを薄い布の袋へ入れれば獣除けになる。

 慎重に奥へと進んで行くと、視線の先に獣の耳が見えて二人は足を止める。

「ドニ、俺の後ろに」
「うん」

 ロシェよりも背が高く色が白い。ベアグロウムだろうかとひやりと背筋が凍る。

 雄は毛が白くて二メートル以上あるものもいる。凶暴な性格をしているので襲われたらひとたまりもない。

 だが、ここらにはベアグロウムが好む餌は無く、もっと奥に生息している筈だ。

 確かめるために草をかき分けて覗き込めば、その身なりと背の低さからしてまだ子供の雄の獣人だろうかと、大柄な雄の獣人がいた。

「じゅ……っ」

 まさかと目を疑った。まさかこんな所にいるなんて。隣をみればドニが興奮状態となっていた。

「ドニ、駄目だ」

 静止を聞かずにドニが向かっていく。

「ドニ!」
「誰だッ」

 ロシェの声と獣人の声が重なり、少年は大柄な背に隠れてしまう。

 本物だ……。

 獣の顔、だが、獣と違うのは毛は纏っているが人と似た身体つきと服を身に着けている。そして言葉を発することができる。

「本物だぁ、やばい、ロシェ、獣人、うわぁ、どうしよう、ロ、ふがっ」

 うるさいとドニの口元を手でふさぐ。

「ふが、ふががっ」

 押さえている手を叩かれる。邪魔をするなと言いたいのだろう。だが、離す気はなく、さらに強く抑えた。

「人の子よ、その匂いをどうにかしてもらえないだろうか」

 大柄な獣人が鼻が鼻を押さえながら、腰にぶら下げてある獣除けをの匂い袋を指さす。

「ふがっ」

 再び手を叩かれる。

「わかった」

 と手を離すと、ドニが腰の匂い袋を外して生地の厚い袋へと入れた。

「これで大丈夫かな?」
「あぁ、多少は匂うが平気だ」

 そして目が合い、ドニがにへっと笑う。

「あの、お会いできてうれしいです。俺、獣人に会うの初めてで、あぁ、すごいなぁ、本物だよぉ」

 せきを切ったように話しだす。

 それをポカンと獣人が眺めていた。

「ドニ、止まれ」
「え、なに。邪魔しないでよ」

 目の前に獣人がいるせいで抑えがきかない。殴ってやろうかと拳を固めたところに、大柄の獣人がドニの頭の上に手を置いた。

「ふあぁぁぁっ」

 嬉しそうに目を輝かせるドニに、

「すまん、話の途中で邪魔をするが、人の子よ、薬を持っていないだろうか?」

 と聞かれ、ドニの表情が真面目なものへとかわる。

「薬って、どこか怪我でも」

 大柄な獣人が後に隠れる少年の方を見る。

「見せて」

 少年の方へと近寄ると膝から黒ずんだ血が流れていて、ドニは傷の具合を確かめるように、

「触るよ」

 と手を伸ばした。

 それに驚いたか、

「なにをする」

 拒否をするように手を払おうとするが、薬師の顔となったドニは有無も言わせずに掴んだまま離さない。

 そうしている姿は頼もしくて、ロシェはいつ指示がきてもいいように備える。

「ロシェ、薬の入った袋を」
「わかった」

 森では何が起こるかわからないので、色々な症状に対応できるように薬を用意してある。

「君、これを飲んで」

 薄い紫色の液体の入った小瓶を差し出す。

「なんだ、これは」

 少年は不信がってそれを受け取ろうとしない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人ハ恋シ家族ニナル

希紫瑠音
BL
ブレーズは獣人の国で服を作り売っている。そんな彼の元に友人のセドリックが子供の獣人を連れてきて新しい生活がはじまる。 都合よく話が進みます。 獣人(人の好い)×人の子(家事が得意で手先が器用)・子育て ほのぼの・いちゃいちゃな展開で書いてはおりますが、悲しいシーンがそこそこあります。 ※印はR18またはR15(ゆる~いのにもつけてます)

男娼ウサギは寡黙なトラに愛される

てんつぶ
BL
「も……っ、やだ……!この、絶倫……!」 ・・・・ 獣人の世界では、過去にバース性が存在した。 獣としての発情期も無くなったこの時代に、ウラギ獣人のラヴィはそれを隠して男娼として生きていた。 あどけなくも美しく、具合の良いラヴィは人気があった。 でも、人気があるだけ。本気でラヴィを欲しがる者はいない事を、彼は痛い程知っていた。 だけどそう――たった一度だけ自分を抱いた、あのトラ獣人だけは自分に執着を示していたのだ。 干支BL。 オメガバ事前知識有前提のゆるい設定です。 三が日の間に完結したいところ。

天使の小夜曲〜黒水晶に恋をする〜

黒狐
BL
 天使の小夜曲(セレナード)。  魔力を持たない『落ちこぼれ」と呼ばれた悪魔のモリオンは、人間に化けた他の悪魔の密告により、身を隠していた洞窟から天界へと連行されてしまう。  大人しく懲罰房に幽閉されたモリオンは、そこでも激しい暴力を受けていた。  そんなある日、長い髪に美しい6枚の翼を持つ上級天使...アクロアが懲罰房に訪れたことから物語は動き出す。  アクロア(美形天使攻め)✕モリオン(男前悪魔受け)の恋愛BLです。🔞、暴力、途中攻がモブレされる描写があるので苦手な方は閲覧注意です。  性行為のある話には⭐︎がついています。  pixivに載せている話を少し手直ししています。

【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった

佐伯亜美
BL
 この世界は獣人と人間が共生している。  それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。  その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。  その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。 「なんで……嘘つくんですか?」  今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。

SODOM7日間─異世界性奴隷快楽調教─

槇木 五泉(Maki Izumi)
BL
冴えないサラリーマンが、異世界最高の愛玩奴隷として幸せを掴む話。 第11回BL小説大賞51位を頂きました!! お礼の「番外編」スタートいたしました。今しばらくお付き合いくださいませ。(本編シナリオは完結済みです) 上司に無視され、後輩たちにいじめられながら、毎日終電までのブラック労働に明け暮れる気弱な会社員・真治32歳。とある寒い夜、思い余ってプラットホームから回送電車に飛び込んだ真治は、大昔に人間界から切り離された堕落と退廃の街、ソドムへと転送されてしまう。 魔族が支配し、全ての人間は魔族に管理される奴隷であるというソドムの街で偶然にも真治を拾ったのは、絶世の美貌を持つ淫魔の青年・ザラキアだった。 異世界からの貴重な迷い人(ワンダラー)である真治は、最高位性奴隷調教師のザラキアに淫乱の素質を見出され、ソドム最高の『最高級愛玩奴隷・シンジ』になるため、調教されることになる。 7日間で性感帯の全てを開発され、立派な性奴隷(セクシズ)として生まれ変わることになった冴えないサラリーマンは、果たしてこの退廃した異世界で、最高の地位と愛と幸福を掴めるのか…? 美貌攻め×平凡受け。調教・異種姦・前立腺責め・尿道責め・ドライオーガズム多イキ等で最後は溺愛イチャラブ含むハピエン。(ラストにほんの軽度の流血描写あり。) 【キャラ設定】 ●シンジ 165/56/32 人間。お人好しで出世コースから外れ、童顔と気弱な性格から、後輩からも「新人さん」と陰口を叩かれている。押し付けられた仕事を断れないせいで社畜労働に明け暮れ、思い余って回送電車に身を投げたところソドムに異世界転移した。彼女ナシ童貞。 ●ザラキア 195/80/外見年齢25才程度 淫魔。褐色肌で、横に突き出た15センチ位の長い耳と、山羊のようゆるくにカーブした象牙色の角を持ち、藍色の眼に藍色の長髪を後ろで一つに縛っている。絶世の美貌の持ち主。ソドムの街で一番の奴隷調教師。飴と鞭を使い分ける、陽気な性格。

くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました

あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。 一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。 21.03.10 ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。 21.05.06 なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。 21.05.19 最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。  最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。  最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。 23.08.16 適当な表紙をつけました

裏の権力者達は表の権力者達の性奴隷にされ調教されてます

匿名希望ショタ
BL
ある日裏世界の主要人物が集まる会議をしていた時、王宮の衛兵が入ってきて捕らえられた。話を聞くと国王がうちの者に一目惚れしたからだった。そこで全員が表世界の主要人物に各々気に入られ脅されて無理矢理、性奴隷の契約をすることになる。 他の作品と並行してやるため文字数少なめ&投稿頻度不定期です。あらすじ書くの苦手です

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

処理中です...