獣人ハ恋焦ガレル

希紫瑠音

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王都

街へいく(2)

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 屋敷に帰ると、シリルの姿はなく、ランベールとゾフィードがお茶を飲んでいた。

「シリルは?」
「帰ったよ」

 てっきりここに泊まるのだと思っていたのに残念だ。

「そうなんだ」
「王の命令でね、成人の儀が終わるまではしかたがない」

 今まで一緒にいられなかった時間を少しでも取り戻したいそうだ。

 ランベールと番になったら王宮から離れなければならないのだから、時間がいくらあっても足りないだろう。

「さ、座って。お茶を用意させようね」
「私がご用意してきます」
「ゾフィード、うちの使用人の仕事を奪わないでやってよ」

 ベルを鳴らすと使用人が中へ入ってきて、ランベールがお茶を頼む。

 それからすぐにテーブルの上にお茶と菓子が用意される。

「服はいいのがあったかい?」
「はい。サイズが合わないので直さねばならないですが」

「そうだよねぇ、ドニは細すぎるよ」

 たくさんお食べとお菓子を手渡される。真っ赤なジャムがたっぷりのったタルトだ。

「ありがとう」

 ジャムの部分は甘酸っぱく、タルトはサクサクとしている。美味しくて顔が緩む。

「可愛い顔して。そんなに美味いのか」

 セドリックはドニを可愛いといってくれる。そのたびにむずむずとしてしまう。

「おいしいよ」

 一つとってあげれば、手をつかんでそのまま口へと入れた。

「ふぉっ」
「うん、うまい」
「な、団長、何をして」

 ゾフィードが腰を浮かせ、それを見ていたランベールがおやおやと笑う。

「やっぱ、可愛い子に食べさせてもらった方が何倍も美味いだろ?」

 しれっとそんなことを口にするものだから、ドニのほうが照れてしまう。

「団長、ドニを調子つかせると尻尾を舐めたり噛まれるかもしれないぞ」
「やられたのかい?」

 過激だねぇと口元を抑えるランベールに、

「まだやっていないよ」

 と答えると、セドリックが尻尾をつかんでドニを見る。

「セドリック」

 むっとしながら彼をみれば、笑って頭を撫でてゾフィードの方へと顔を向けた。

「ところで、ゾフィードがたくさん服を用意してくれたようで」

 とセドリックがいうと、ゾフィードが苦い顔になる。

「ドニは獣人が好きだから、長く滞在したいと言い出すかと思ってな」

 やはり思った通りだった。わかっていたのに、少しだけ期待をしてしまったことが恥ずかしい。

「やっぱりね」
「それ以外になにがある?」

 そうきっぱりと言われしまい、ずきりと胸に痛みがはしる。

「ないよ」

 だからこんなにも悲しくて辛いのだ。

「ごめん、俺、疲れたから」

 部屋を出て行こうと立ち上がるが、いつの間にか傍にいたセドリックに腕をつかまれる。

「つれねぇ雄だなぁ。ドニ、あんなのはさっさと忘れて俺の番になりなよ」

 と指が鼻先に触れた。

「へ?」

 いきなりのことに驚き、そしてかたまってしまった。

「あぁ、そういうことか。それなら私も賛成だな」

 二人を見上げてにっこりとほほ笑む。

「え、あ、何を言って」

 冗談でしょうと二人を見るが、

「番になるなら素直に気持ちが伝えられる雄のほうがいい。ねぇ、ゾフィード」

 とゾフィードに話を振る。聞きたくない、彼の言葉は。

「こんな変態と番になりたいなんて、変わってますね」

 そう顔をそむけられて、ドニはショックで目をぎゅっと閉じた。

「変態と変わり者かぁ。いいじゃない。ドニ、考えておいて。俺は素直に好きだっていうし、中途半端に優しくしない。あ、あと悪口とみえて独占欲まるだしなことも言わないから」
「あはは、そうだねぇ。セドは昔から面倒見がよくて素直な雄だからね。ドニ、彼は我らと同じく名門貴族だ。優良物件だと思うが、どうだね」

 セドリックはドニに優しくしてくれる。獣人と番になれたら幸せなことだが、ちらりとゾフィードを見ると、その視線に気が付いて顔を背けられた。

 俺は知らない、勝手にしろ。そう言いたいのだろう。

「あの、俺は……」
「すぐに返事を貰おうとは思ってないさ。よく考えてみて」

 といわれ、何も言えずに頷いた。
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