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王都
ランベールの屋敷
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シリルにやってきた幸せ。
つらい思いをしていたのを知っているだけに、家族に愛されランベールに求婚されたというのを聞いて嬉しかった。
だが、嬉しそうな顔を見ているうちに、心が疲れてしまった。
自分は嫌な子だ。心の奥底では黒いモノが渦を巻いている。
机の上に飾られた王と王妃からの贈り物。両親はすでに他界してしまったドニにとって、二度と感じることのできぬ家族の愛情。
そしてもう一つ。綺麗な宝石箱には愛しい人からの贈り物が入っている。ドニが欲しくても手に入れられなかったものだ。
ドニは視線をそらすと、シリルと目が合った。
「ドニ、ランベールの屋敷へ送っていこう」
「うん」
まだ身体がだるいのであまり馬車には揺られたくはないが、幸せの象徴が飾られているこの部屋から出れるならそれでよかった。
馬車は門をくぐり敷地内へと入っていく。広い庭には綺麗な紫色い花が咲いていた。
「あれ、綺麗だね」
「あぁ、ブランシェ家の家紋にもなっているブランローズの花だな。色が何種類かあってな、ランベールは紫、ファブリスは白を受け継ぐ」
「そうなんだ。だから庭に紫色のが咲いているんだね」
「あぁ。それにあの花はいい匂いもする」
それは興味がある。あとでランベールに許可をもらって見せてもらおう。
馬車が屋敷前にとまり、使用人が出迎えた。
「シリル様、ドニ様、ようこそおいでくださいました」
一人だけ服装が違う白髭の生えた獣人が頭を下げる。
「ドニ、彼はここの執事だ」
「あの、ドニです。お世話になります」
頭を下げると、執事は優しく微笑んだ。
「さ、中へ。ランベール様がお待ちです」
執事の案内でランベールが待つ部屋へと案内され、部屋には二人の獣人の姿がある。
そこにゾフィードの姿を見つけて、肩が揺らいでしまった。
「君たちの護衛としてゾフィードをつけることになった」
「……そうなんだ」
それはここにいる間、ゾフィードがいるということか。
「ん、嬉しくないのかい?」
「え?」
表情に出てしまっているのか、そんなことはないと笑って見せる。
「ランベール様、今日のご予定を」
ゾフィードの表情は変わらず、ドニだけが意識している。
「ロシェとファブリスはすでに屋敷を出ている。ドニはセドリックと共に衣装を作りに向かう。本当はゾフィードをつけるはずだったのにね、セドが自分が行きますっていうものだから。いつの間に仲良くなったんだい?」
「旅の間、親切にしてもらったんだ」
失恋して泣いているのを慰めてもらって、そして口説かれた。
「そうだったのかい」
「ランベール様、馬車の手配をしてまいります」
ゾフィードはこちらを見ることなく部屋を出ていくと、ランベールとシリルが一斉にドニを見る。
「ドニはいつもより大人しいし、喧嘩でもしたのかい?」
あまりにぎこちなくてばれてしまったか。だが、幸せな二人に心配をかけたくなく、何でもないと答えた。
「そうなのか。なんだか様子がおかしかったぞ」
シリルが疑うようにドニに顔を近づける。
「あ……、獣人に興奮しすぎてばてちゃってさ。迷惑をいっぱいかけたからかも」
「それはドニの性格だもの。想定済みだろ」
ずばっと言われてちょっとだけ傷ついた。
「うう、この頃、遠慮がないねシリル」
「あ、すまん」
「まぁ、ゾフィードはいつもあんなだったね。さて、セドが来るまでお茶にしようか」
その話から離れてくれてホッと息を吐き捨てる。つっこんで聞かれたらつい話してしまいそうだったから。
「ランベールさん、シリルとのことを聞きました。おめでとうございます」
「ありがとう、ドニ」
ランベールの手が頭を撫でる。それが優しくて自然と唇が綻んだ。
「あの宝石を手に入れるのは大変だって聞いたんだけど」
「そうだねぇ。でも、ゾフィードもいたからね、大丈夫だよ」
と、宝石の話になった途端、シリルが泣きそうな顔をする。
「父様がごめん、ランベール」
「あぁ、困ったねぇ。そんな顔をさせたいわけじゃないのに」
ランベールがそっとシリルを抱き寄せる。
その姿を見ると胸が大きな音をたてて跳ねた。今までとは明らかに違うふたりの関係。それが素敵だと思うし羨ましいとも思う。
次第に胸がずきずきとしはじめて視線をそらすと、ドアをノックする音が聞こえて、
「ランベール様、団長がおつきになられました」
とドア越しにゾフィードの声が聞こえた。
「わかった。ドニ、行っておいで」
「はい。シリルまたあとでね」
「あぁ」
ドアを開くとゾフィードが立っており、彼の後に続きゲストルームへと向かう。
そして部屋のドアを開くと満面な笑みを浮かべたセドリックが両手を広げるとドニを抱きしめた。
「ドニ、おはよう」
「おはよう、セドリック」
「それでは俺はここで」
ゾフィードが部屋を出て行こうとするが、立ち止まってこちらへ視線を一瞬向ける。
「ゾフィード」
その目は何か言いたげであったが、結局はそのまま黙って出て行った。
「ありゃ、軽蔑されたかぁ」
「え?」
どうして、とセドリックを見るが、それには何も答えずに、
「ドニ、行こうか」
と背中に手を添えて、促されるように部屋を後にした。
つらい思いをしていたのを知っているだけに、家族に愛されランベールに求婚されたというのを聞いて嬉しかった。
だが、嬉しそうな顔を見ているうちに、心が疲れてしまった。
自分は嫌な子だ。心の奥底では黒いモノが渦を巻いている。
机の上に飾られた王と王妃からの贈り物。両親はすでに他界してしまったドニにとって、二度と感じることのできぬ家族の愛情。
そしてもう一つ。綺麗な宝石箱には愛しい人からの贈り物が入っている。ドニが欲しくても手に入れられなかったものだ。
ドニは視線をそらすと、シリルと目が合った。
「ドニ、ランベールの屋敷へ送っていこう」
「うん」
まだ身体がだるいのであまり馬車には揺られたくはないが、幸せの象徴が飾られているこの部屋から出れるならそれでよかった。
馬車は門をくぐり敷地内へと入っていく。広い庭には綺麗な紫色い花が咲いていた。
「あれ、綺麗だね」
「あぁ、ブランシェ家の家紋にもなっているブランローズの花だな。色が何種類かあってな、ランベールは紫、ファブリスは白を受け継ぐ」
「そうなんだ。だから庭に紫色のが咲いているんだね」
「あぁ。それにあの花はいい匂いもする」
それは興味がある。あとでランベールに許可をもらって見せてもらおう。
馬車が屋敷前にとまり、使用人が出迎えた。
「シリル様、ドニ様、ようこそおいでくださいました」
一人だけ服装が違う白髭の生えた獣人が頭を下げる。
「ドニ、彼はここの執事だ」
「あの、ドニです。お世話になります」
頭を下げると、執事は優しく微笑んだ。
「さ、中へ。ランベール様がお待ちです」
執事の案内でランベールが待つ部屋へと案内され、部屋には二人の獣人の姿がある。
そこにゾフィードの姿を見つけて、肩が揺らいでしまった。
「君たちの護衛としてゾフィードをつけることになった」
「……そうなんだ」
それはここにいる間、ゾフィードがいるということか。
「ん、嬉しくないのかい?」
「え?」
表情に出てしまっているのか、そんなことはないと笑って見せる。
「ランベール様、今日のご予定を」
ゾフィードの表情は変わらず、ドニだけが意識している。
「ロシェとファブリスはすでに屋敷を出ている。ドニはセドリックと共に衣装を作りに向かう。本当はゾフィードをつけるはずだったのにね、セドが自分が行きますっていうものだから。いつの間に仲良くなったんだい?」
「旅の間、親切にしてもらったんだ」
失恋して泣いているのを慰めてもらって、そして口説かれた。
「そうだったのかい」
「ランベール様、馬車の手配をしてまいります」
ゾフィードはこちらを見ることなく部屋を出ていくと、ランベールとシリルが一斉にドニを見る。
「ドニはいつもより大人しいし、喧嘩でもしたのかい?」
あまりにぎこちなくてばれてしまったか。だが、幸せな二人に心配をかけたくなく、何でもないと答えた。
「そうなのか。なんだか様子がおかしかったぞ」
シリルが疑うようにドニに顔を近づける。
「あ……、獣人に興奮しすぎてばてちゃってさ。迷惑をいっぱいかけたからかも」
「それはドニの性格だもの。想定済みだろ」
ずばっと言われてちょっとだけ傷ついた。
「うう、この頃、遠慮がないねシリル」
「あ、すまん」
「まぁ、ゾフィードはいつもあんなだったね。さて、セドが来るまでお茶にしようか」
その話から離れてくれてホッと息を吐き捨てる。つっこんで聞かれたらつい話してしまいそうだったから。
「ランベールさん、シリルとのことを聞きました。おめでとうございます」
「ありがとう、ドニ」
ランベールの手が頭を撫でる。それが優しくて自然と唇が綻んだ。
「あの宝石を手に入れるのは大変だって聞いたんだけど」
「そうだねぇ。でも、ゾフィードもいたからね、大丈夫だよ」
と、宝石の話になった途端、シリルが泣きそうな顔をする。
「父様がごめん、ランベール」
「あぁ、困ったねぇ。そんな顔をさせたいわけじゃないのに」
ランベールがそっとシリルを抱き寄せる。
その姿を見ると胸が大きな音をたてて跳ねた。今までとは明らかに違うふたりの関係。それが素敵だと思うし羨ましいとも思う。
次第に胸がずきずきとしはじめて視線をそらすと、ドアをノックする音が聞こえて、
「ランベール様、団長がおつきになられました」
とドア越しにゾフィードの声が聞こえた。
「わかった。ドニ、行っておいで」
「はい。シリルまたあとでね」
「あぁ」
ドアを開くとゾフィードが立っており、彼の後に続きゲストルームへと向かう。
そして部屋のドアを開くと満面な笑みを浮かべたセドリックが両手を広げるとドニを抱きしめた。
「ドニ、おはよう」
「おはよう、セドリック」
「それでは俺はここで」
ゾフィードが部屋を出て行こうとするが、立ち止まってこちらへ視線を一瞬向ける。
「ゾフィード」
その目は何か言いたげであったが、結局はそのまま黙って出て行った。
「ありゃ、軽蔑されたかぁ」
「え?」
どうして、とセドリックを見るが、それには何も答えずに、
「ドニ、行こうか」
と背中に手を添えて、促されるように部屋を後にした。
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