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王都
シリル ④
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謁見室には王だけではなく、王妃とアドルフ、そして宰相の姿がある。
今まで家族から向けられるのは厳しい顔だったり、冷たい顔しかない。だが、シリルを見た途端に相好を崩した。
特に王はひどい。
「王、お顔が」
となりで宰相が注意をするほどだ。
「お前が『威厳を保たれよ』とかいうから、シリルに怖がられる羽目になったではないか」
と恨めしそうに言う。
シリルの知る王は、眼光が鋭く、冷静で厳しい。だが、目の前の王は随分とお茶目な獣人だった。
「父上、シリルが驚いて目をまん丸くさせてますよ」
そう、アドルフが口にすると、王がおろおろとしながら立ち上がる。
「え、あ、シリルよ、怖がらせてしまったか」
「い、いえ、少し驚いただけです」
本当に王なのかと、いまだ信じられない。
「そうだよな、驚くよな。シリルの悲しそうな顔をする度に、心の中で『お兄ちゃんはこんな怖くないんだよ』て何度弁解したことか」
いつもゴミを見るような目で見下していたアドルフが言う。
「俺たちくらいは可愛がってもいいでしょうに、父上が拗ねるから俺達や母上までそうする羽目になって、いい迷惑です」
ずっと無表情にシリルを見ていたヴァレリーが言う。
「なっ、お前たち」
言い争いを始める父と兄弟の姿に、シリルは呆気にとられながら見ていると王妃に手を握りしめられた。
彼女にはさんざん無視をされ続けてきた。
「母様」
「ごめんなさい。これには理由があるの。宰相」
「はい」
シリルは生まれた時から小さくてふわふわな毛並をした子であった。
生まれたての子には良くあることで、月日がたつごとにかわっていくものなのだが、彼にはなにも変化がなかった。しかも身体も小さいままだ。
毛並みや身体格が重視されているとしても、可愛いことにはかわりない。王は仕事に手がつかず、兄達は弟の取り合いを始める。王妃にいたっては、そのまま二人きりで部屋に閉じこもってしまおうかしらと思うくらい、シリルは家族に愛されていた。
子煩悩な王が悪いわけではない。だが、このままでは公務がとどまってしまう。
それでは困ると泣きつき、王や兄弟たちはシリルと過ごす時間を減らされることになった。
顔を見ると相好を崩すので、その度に宰相に注意をされ、シリルと顔を合わせる度に眉間にしわを寄せるようになってしまった。
王宮には古き考えを持つ者がいる。良く言えば国を思っている、悪く言えば頭がかたいということだ。
老臣はシリルが王宮から出ていくか、王族でなくなればそれでよかった。
金と権力で何か仕向けてくる前に手を打たなければならない。そう思っていたところに老臣の取り巻きであるカルメ大臣までもが何かを企む素振りをみせた。
どちらからの目からも遠ざけようと王族が管理する屋敷へと隠した。
実はその屋敷は王族のみが使える隠し通路からほど近く、だが、門から向かうとなればそこそこ遠い場所にある。
誰も近づけぬように屋敷の近くに町を作り、兵士を待ち人として置いた。
シリルが成人の儀を迎え、王族から抜けてしまえばシリルに対して攻撃をするものはいなくなる。
宰相から聞いた話に驚くばかりだ。
自分は愛されていなかった訳ではなく、寧ろ逆だった。家族の暖かい腕に抱かれてそれを実感する。
「辛い思いをさせました」
「確かに王族では古臭い考えを持つ者もいるが、余も王妃もお主の兄弟も、お前が可愛いのだよ」
それに美しくなったなと微笑む。
耳は垂れているし綿あめみたいな尻尾は相変わらずだが、ドニが作ってくれたオイルの良いにおいがするし、艶が出てきたし櫛の通りも良い。
「自分の子を愛しく思わぬ親はおりません」
と母が抱きしめ、兄弟たちが抱きしめてくる。
「そうだよ。俺達だって同じだ」
「母様、兄様……、父様」
皆を包み込むように王が抱きしめる。
頬を熱いモノが伝わり、それを王妃が拭ってくれた。
「ふふ、母様も」
泣いている王妃に手を伸ばせば、ルージュの塗られた唇を綻ばせて優しい子と頬を撫でながら口にした。
この前、寝ている自分にパンを届けてくれたのは王妃であった。
起きたら食事がとれるようにと軽食を用意してもらい部屋へと向かう途中で王妃とであい、任せてほしいと頼まれたそうだ。
「あの手は母様だったんですね」
頭を撫でてくれた暖かい手を思い出す。
「我慢できず、王に内緒で、ね」
チャーミングに笑う王妃に、王はずるいと拗ね、兄たちは羨ましいと言う。
「これから先、いくらでもする機会はあります」
それがシリルにとってどれだけ嬉しい言葉だろうか。
「母様」
「でしょう?」
「はい」
素直にうなずき笑顔を見せれば、皆が一緒に笑ってくれる。
ファブリスと目が合うと、彼の表情は良かったですねとそういっていた。
家族の暖かさを十分に感じ、そしてファブリスと共に自室へと戻る。
今だ気持ちは浮き足立ち、落ち着かない。
「ファブリスは知っていたのか?」
「はい。シリル様に接触しようとするだろうと」
ゆえに見張りにはわざとやる気のなさそうな態度をとらせて隙をつくらせた。
だが、本当はそんなことはなく、 逐一、報告をさせていたそうだ。
「おとりにするような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
と片膝をつき頭を深く下げた。
「ファブリス頭をあげてくれ。ヴァレリー兄上も同意のことだろう? それにきちんと守ってくれたじゃないか」
「シリル様」
彼らを捕らえる手助けをすることができたのだから。
「ところで、マルクとその仲間たちは?」
「今は牢に。そろそろ、カルメ大臣が動き出すでしょう」
誰かに罪をなすりつけて牢から出ようという三段か。
「レジスを傷つけた。絶対に許さない」
「……シリル様、貴方にもですよ。決して許せません」
静かに怒るファブリスは怖い。そういう所はランベールに似ている。
ふ、と、会いたくなって胸がきゅっと締め付けられた。
「さ、シリル様、お風呂とお着替えをなさってください。今日の食事には叔父上もいらっしゃいます」
「え?」
心を読まれたかと、驚いてファブリスを見上げる。
「お顔に出てますよ」
そう自分の頬を指で差して微笑んだ。
「うう……」
恥ずかしいと頬を手で押さえた。
夕食は今までで一番楽しいものとなった。
皆がシリルの面倒をみたがり、周りの給仕係がそれを微笑ましく見つめ、ランベールがいい加減にしなさいとそれを止めた。
王には拗ねられたが、シリルの笑顔を見れば皆が嬉しそうに微笑んだ。
今まで家族から向けられるのは厳しい顔だったり、冷たい顔しかない。だが、シリルを見た途端に相好を崩した。
特に王はひどい。
「王、お顔が」
となりで宰相が注意をするほどだ。
「お前が『威厳を保たれよ』とかいうから、シリルに怖がられる羽目になったではないか」
と恨めしそうに言う。
シリルの知る王は、眼光が鋭く、冷静で厳しい。だが、目の前の王は随分とお茶目な獣人だった。
「父上、シリルが驚いて目をまん丸くさせてますよ」
そう、アドルフが口にすると、王がおろおろとしながら立ち上がる。
「え、あ、シリルよ、怖がらせてしまったか」
「い、いえ、少し驚いただけです」
本当に王なのかと、いまだ信じられない。
「そうだよな、驚くよな。シリルの悲しそうな顔をする度に、心の中で『お兄ちゃんはこんな怖くないんだよ』て何度弁解したことか」
いつもゴミを見るような目で見下していたアドルフが言う。
「俺たちくらいは可愛がってもいいでしょうに、父上が拗ねるから俺達や母上までそうする羽目になって、いい迷惑です」
ずっと無表情にシリルを見ていたヴァレリーが言う。
「なっ、お前たち」
言い争いを始める父と兄弟の姿に、シリルは呆気にとられながら見ていると王妃に手を握りしめられた。
彼女にはさんざん無視をされ続けてきた。
「母様」
「ごめんなさい。これには理由があるの。宰相」
「はい」
シリルは生まれた時から小さくてふわふわな毛並をした子であった。
生まれたての子には良くあることで、月日がたつごとにかわっていくものなのだが、彼にはなにも変化がなかった。しかも身体も小さいままだ。
毛並みや身体格が重視されているとしても、可愛いことにはかわりない。王は仕事に手がつかず、兄達は弟の取り合いを始める。王妃にいたっては、そのまま二人きりで部屋に閉じこもってしまおうかしらと思うくらい、シリルは家族に愛されていた。
子煩悩な王が悪いわけではない。だが、このままでは公務がとどまってしまう。
それでは困ると泣きつき、王や兄弟たちはシリルと過ごす時間を減らされることになった。
顔を見ると相好を崩すので、その度に宰相に注意をされ、シリルと顔を合わせる度に眉間にしわを寄せるようになってしまった。
王宮には古き考えを持つ者がいる。良く言えば国を思っている、悪く言えば頭がかたいということだ。
老臣はシリルが王宮から出ていくか、王族でなくなればそれでよかった。
金と権力で何か仕向けてくる前に手を打たなければならない。そう思っていたところに老臣の取り巻きであるカルメ大臣までもが何かを企む素振りをみせた。
どちらからの目からも遠ざけようと王族が管理する屋敷へと隠した。
実はその屋敷は王族のみが使える隠し通路からほど近く、だが、門から向かうとなればそこそこ遠い場所にある。
誰も近づけぬように屋敷の近くに町を作り、兵士を待ち人として置いた。
シリルが成人の儀を迎え、王族から抜けてしまえばシリルに対して攻撃をするものはいなくなる。
宰相から聞いた話に驚くばかりだ。
自分は愛されていなかった訳ではなく、寧ろ逆だった。家族の暖かい腕に抱かれてそれを実感する。
「辛い思いをさせました」
「確かに王族では古臭い考えを持つ者もいるが、余も王妃もお主の兄弟も、お前が可愛いのだよ」
それに美しくなったなと微笑む。
耳は垂れているし綿あめみたいな尻尾は相変わらずだが、ドニが作ってくれたオイルの良いにおいがするし、艶が出てきたし櫛の通りも良い。
「自分の子を愛しく思わぬ親はおりません」
と母が抱きしめ、兄弟たちが抱きしめてくる。
「そうだよ。俺達だって同じだ」
「母様、兄様……、父様」
皆を包み込むように王が抱きしめる。
頬を熱いモノが伝わり、それを王妃が拭ってくれた。
「ふふ、母様も」
泣いている王妃に手を伸ばせば、ルージュの塗られた唇を綻ばせて優しい子と頬を撫でながら口にした。
この前、寝ている自分にパンを届けてくれたのは王妃であった。
起きたら食事がとれるようにと軽食を用意してもらい部屋へと向かう途中で王妃とであい、任せてほしいと頼まれたそうだ。
「あの手は母様だったんですね」
頭を撫でてくれた暖かい手を思い出す。
「我慢できず、王に内緒で、ね」
チャーミングに笑う王妃に、王はずるいと拗ね、兄たちは羨ましいと言う。
「これから先、いくらでもする機会はあります」
それがシリルにとってどれだけ嬉しい言葉だろうか。
「母様」
「でしょう?」
「はい」
素直にうなずき笑顔を見せれば、皆が一緒に笑ってくれる。
ファブリスと目が合うと、彼の表情は良かったですねとそういっていた。
家族の暖かさを十分に感じ、そしてファブリスと共に自室へと戻る。
今だ気持ちは浮き足立ち、落ち着かない。
「ファブリスは知っていたのか?」
「はい。シリル様に接触しようとするだろうと」
ゆえに見張りにはわざとやる気のなさそうな態度をとらせて隙をつくらせた。
だが、本当はそんなことはなく、 逐一、報告をさせていたそうだ。
「おとりにするような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
と片膝をつき頭を深く下げた。
「ファブリス頭をあげてくれ。ヴァレリー兄上も同意のことだろう? それにきちんと守ってくれたじゃないか」
「シリル様」
彼らを捕らえる手助けをすることができたのだから。
「ところで、マルクとその仲間たちは?」
「今は牢に。そろそろ、カルメ大臣が動き出すでしょう」
誰かに罪をなすりつけて牢から出ようという三段か。
「レジスを傷つけた。絶対に許さない」
「……シリル様、貴方にもですよ。決して許せません」
静かに怒るファブリスは怖い。そういう所はランベールに似ている。
ふ、と、会いたくなって胸がきゅっと締め付けられた。
「さ、シリル様、お風呂とお着替えをなさってください。今日の食事には叔父上もいらっしゃいます」
「え?」
心を読まれたかと、驚いてファブリスを見上げる。
「お顔に出てますよ」
そう自分の頬を指で差して微笑んだ。
「うう……」
恥ずかしいと頬を手で押さえた。
夕食は今までで一番楽しいものとなった。
皆がシリルの面倒をみたがり、周りの給仕係がそれを微笑ましく見つめ、ランベールがいい加減にしなさいとそれを止めた。
王には拗ねられたが、シリルの笑顔を見れば皆が嬉しそうに微笑んだ。
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