獣人ハ恋焦ガレル

希紫瑠音

文字の大きさ
上 下
12 / 47
獣人ト出逢ウ

新たな出逢い

しおりを挟む
 時間があるとドニはシリルに会いに、ロシェは剣術を学ぶために獣人の住む屋敷へと向かう。

 憧れていた獣人と出逢えたこともが、自分が友達になれたことが嬉しくて、遊びに来てほしいと言う言葉に甘えてほぼ毎日のように遊びに行っていた。

 屋敷まで行くにはベアグロウムが生息する場所を通らなくてはならず、そのたびにファブリスが近くまで迎えに来てくれる。連絡用の伝書鳥にドニたちが住む家と屋敷までの場所を覚えてもらった。

 だが、流石に生活するためにはお金が必要で、そろそろ薬を作り売りに行かねばならない。

 それを作るのに一週間、さらに知り合いの医者に頼まれた薬草も作っていたので更に一週間かかった。

 当分の間は手紙のやり取りだなと覚悟はしていたが限界だ。

「もふりたい、もふりたい、もふりたい……」

 ぶつぶつと呟くドニに、ロシェが呆れ顔でため息をつく。

 二週間ぶりに会えると思うと、欲が溢れて手がわきわきと動いてしまう。

 屋敷が見えてきて、ドニの足が自然と早くなる。

 すると庭にはファブリスと見知らぬ獣人がいて、ドニの目がギラリと光る。

「二人とも、よく来た」
「あれがお前が話していた人の子……、って、近い!」

 ファブリスのようにサラサラの尻尾ではなく艶やかな尻尾だ。

「ふぉぉぉぉっ、また違う種類の獣人がぁぁ、尻尾、つやつやぁ」

 涎をじゅるりと飲み込み、尻尾をめがけて手を伸ばすが、寸前で交わされてしまう。

「なんだ、この変態はっ」

 黒い艶やかな毛並の獣人。腰に剣を下げており、彼もまた剣士なのだろう。身体格はロシェと同じくらいだ。

「あぁ、彼はいつものことだから大丈夫だ」

 と、ファブリスがフォローにならないフォローをいれた。

「いや、駄目だろう、人として」

 ロシェがそうツッコむが、興奮状態のドニには届かない。

「ファブリス、紹介して!」

 ファブリスの腕をつかみ、黒い獣人を見上げる。

「あぁ。彼はゾフィード。叔父上の従者だ」
「はじめまして。俺はドニで、ロシェ」
「どうも」

 互いの紹介を終えると、ファブリスが中へ行こうと誘う。

「まて、ファブリス。これを連れて行くのか?」

 ゾフィードが指をさす。危険なやつだと思われているのか尻尾を膨らませ警戒をしている。

「ドニはシリルの友達だ。それに叔父上を紹介したい」

 再び中へと向かおうとするファブリスに、

「ぬぉっ、もうお一方いらっしゃると!?」
「ダメだろ、これは!」

 興奮するドニと、警戒するゾフィードがファブリスに迫る。

「二人とも落ち着け」

 宥めるように掌を向けるが、

「無理だっ」
「落ち着いてなんていられないよ」

 さらに二人は詰め寄り、互いに顔を合わせる。

 ゾフィードの視線は冷たく、ドニは表情が緩みっぱなしだ。

「先に行く」

 先に中へと入っていくゾフィードに、その後ろ姿を見つめてドニはぐふふと笑う。

 尻尾がゆるりと揺らめき、それを撫でたい触りたいと頭の中はそれでいっぱいとなる。だが、口にしたら流石に警戒をさらに強めてしまいそうなので黙っておいた。

「おい、涎」
「だって、獣人が四人だよっ、興奮せずにはいられないよぉ」

 手の甲で拭い、ロシェに熱く語ろうとしていた所に、

「あ、はいはい」

 勝手にしてくれと鼻であしらう。

「いいもんっ、目の保養をしにいくから」

 共感してもらえないのはいつものことなので、自分が満足できればいいとロシェより先に屋敷へと入る。

 ドローイングルームで優雅に茶を飲むシリルと美丈夫がいる。その隣にはゾフィードが立つ。

 なんとも絵になる。鼻息荒くその姿を見つめていれば、隣でぼそりと「変態」といわれる。

「ドニっ、二週間ぶりだな。待っていたぞ」

 随分と明るい表情をしている。傍にいる獣人がそうさせているのだろうと気が付く。

 なんにせよ、シリルが楽しそうでよかった。

「こちらはランベール。で、ドニとロシェだ」

 シリルが互いの紹介をしてくれる。

「はじめまして。私はファブリスの叔父であるランベールだ」
「はじめましてドニです」
「どうも」

 握手をかわし、ソファーに座るように勧められて腰を下ろす。

「人の子の友達ができたという手紙を貰ってね。ずっと会いたいと思っていたよ」

 ランベールは旅に出ていることがおおいらしく、鳥に手紙を運ばせてやりとりをしているそうだ。

「俺も、こんなに素敵な獣人に会えてうれしいです」

 デレっとしながらランベールを見上げると、ゾフィードがジト目でこちらをみていた。

「本当は成人の儀に間に合うように戻るはずだったのだが、シリルからの手紙に会って欲しいと書いてあったのでね」
「成人の儀?」

 その言葉にシリルの表情が曇り出す。

「あぁ。二か月後に今年十五歳を迎える子達の成人の儀を王宮で執り行う」
「そうなんだ」

 シリルにとってはあまり嬉しくないことなのだろう。事情を知っているだけに複雑な気持ちとなる。

 だが、そんなシリルに、

「シリル、私はね、君の成人の儀を見るのを楽しみにしているんだよ」

 と優しく語る。

「だが」
「成人の儀は子供たちの成長を祝うものだ」
「家族に見放された僕を、誰が祝おうなんて思うんだ!」

 悲痛な叫びにドニはシリルを抱きしめる。

「ランベールさん」

 もうこれ以上はシリルを悲しませるだけだ。やめてほしいと首を横に振るがランベールが大丈夫だよとドニの肩に手を置く。

「シリル、私達に祝わせてはくれないのかい?」

 その言葉に、シリルが弾かれたように顔を上げる。

「君のことは三つの頃から見ていた。大きくなっていく姿を見てどれだけ嬉しかったか」
「そうだぞ、シリル」

 とファブリスが同調し、ゾフィードもうなずいた。

 三人がシリルに向ける愛は本物で、すごく胸がむずむずしてくる。

 彼らと比べたらまだ日が浅い付き合いだが、思う気持ちは一緒なんだと彼らの中へと入りたい。

「……ドニとロシェも祝ってくれるだろうか」
「勿論だよ!」
「あぁ」
「ありがとう」

 気持ちが通じたかと思った。嬉しくて笑顔を向けると、シリルも笑ってくれた。<







 お茶を飲み終え、ロシェ達は手合せをすると庭へ行ってしまった。

「ところで、シリルから聞いたのだが、君がケア用のオイルを作ってくれたそうだね」

 今日もつかってくれたようで、シリルからは甘い花の香りがしてくる。

「ベアグロウムの好物である実の種を使って作ったんだ」

 その名を聞いた途端、ランベールが驚いた表情を浮かべる。

「そうだったか。あれは人の子にしてみたら相当凶暴だろうに、大丈夫だったのかい?」
「え?」

 ランベールの言葉に、今度はシリルが驚いた表情を浮かべてこちらをみる。

「獣が嫌がる匂いのする草を炊いて、ロシェに護衛をして貰って」
「まて。ランベール、どういうことだ、凶暴って」

 どういうことだとシリルがランベールに詰め寄る。

「……あの実を手に入れるのはすごく大変だったということだよ。ドニ、シリルには話をしなかったのかい?」
「えぇ」

 危険だとしったら、いらないと言われてしまうだろう。だから何も話さずにいた。

「危険なことまでしてっ、どうせ僕の毛並には効果なんてないのにっ」
「それでも、俺はシリルに自信を持ってほしかった」
「ドニのバカっ。君に何かあったら僕は辛い」

 ぎゅっと抱きついて涙を流すシリルに、ドニの胸がしめつけられる。

「シリル」
「もう、僕のために危険なことはしないで欲しい」
「うん」
「良いお友達を持ったね、シリル」

 とランベールが二人の頭をなでた。

「あぁ。ドニありがとう。成人の儀にも使わせてもらう」

 可愛い笑顔を浮かべるシリルに、ドニは心から良かったと思う。

 心に残る良い成人の儀が迎えることができれば、ドニにとってそれが何よりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

獣人の番!?匂いだけで求められたくない!〜薬師(調香師)の逃亡〜【本編完結】

ドール
恋愛
 獣人に好かれる匂いをもつ、リンジェーラ=ベルタス  それが原因により起きた事件で、宮廷薬師に拾われ、宮廷魔導師団おかかえの薬師(調香師)として働いている。自分の匂いを誤魔化すため、獣人に嫌煙される匂いをまといながらも、宮廷騎士団副長の白狼獣人と結ばれるまでのストーリー。 *誤字脱字、設定などの不可解な点はご容赦ください。 だだの自己満作品です。 R18の場合*をつけます! 他作品完結済みも、宜しければ! 1作目<好きな人は兄のライバル〜魔導師団団長編〜>【完結】後日談は継続中 2作目<好きな人は姉への求婚者!?〜魔導騎士編〜>【完結】

【完結】闇オークションの女神の白く甘い蜜に群がる男達と女神が一途に愛した男

葉月
BL
闇のオークションの女神の話。 嶺塚《みねづか》雅成、21歳。 彼は闇のオークション『mysterious goddess 』(神秘の女神)での特殊な力を持った女神。 美貌や妖艶さだけでも人を虜にするのに、能力に関わった者は雅成の信者となり、最終的には僕《しもべ》となっていった。 その能力は雅成の蜜にある。 射精した時、真珠のように輝き、蜜は桜のはちみつでできたような濃厚な甘さと、嚥下した時、体の隅々まで力をみなぎらせる。  精というより、女神の蜜。 雅成の蜜に群がる男達の欲望と、雅成が一途に愛した男、拓海との純愛。 雅成が要求されるプレイとは? 二人は様々な試練を乗り越えられるのか? 拘束、複数攻め、尿道プラグ、媚薬……こんなにアブノーマルエロいのに、純愛です。 私の性癖、全てぶち込みました! よろしくお願いします

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。 目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。 獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。 年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。 親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!? 言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。 入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。 胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。 本編、完結しました!! 小話番外編を投稿しました!

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...