獣人ハ恋焦ガレル

希紫瑠音

文字の大きさ
上 下
9 / 47
獣人ト出逢ウ

日常と大好きな獣人(シリル)②

しおりを挟む
 次の日。午後を少し回ったころに荷物を沢山持ったランベールとゾフィードが屋敷へと到着した。

「ランベール!」

 掃除をしていたのでシャツの腕を捲った恰好だ。汚れているので抱きつくこともできず、尻尾だけを揺らす。

「おや、抱きついてはくれないのかい?」

 寂しそうにランベールがシリルを見る。

「だって、掃除してたから汚いし」
「おやおや、旅から戻ったばかりの私たちのほうが汚れているだろうに」

 それでも迎え入れて抱きついてくれたよねと、ランベールが手を広げた。

「うん。おかえりなさい」

 その腕に飛び込むとランベールが抱きしめてくれる。旅をしてきたというのにランベールからは良いにおいしかしない。

「ただいま。会いたかったよシリル」
「僕も」

 鼻先をこすりあわせようとしたら、ランベールの顔が離れてしまう。

「ランベール様、外ですよ」

 ゾフィードだ。獣人は外だろうが気にしないのだが、彼はシャイなのか時折邪魔をされる。

「ちょっと、久しぶりに会ったのだからいいじゃない」
「ダメです。シリル様、お久しぶりです」

 ランベールに向けていた冷めた目は、シリルの前では優しいものとかわり丁重に頭を下げる。

 ファブリス同様にここでは敬語は禁止と彼にも伝えてあるのだが、ランベールに使うのにシリルに使わないわけにはいかないとそのまま使い続けている。

「いいよ、中でするから」

 いこうとランベールが腰に腕を回す。そのままドローイングルームへと向かった。

 ランベールとこのままくっついていたいが、まだ掃除が終わっていない。

「掃除があと少しで終わるから、少し待っていてはくれないだろうか」
「あぁ。ここでゆっくりとさせてもらうよ」

 行っておいでと言われ、部屋を出ていく。掃除の続きをしようとしたが、ファブリスから着替えるように言われ、二人の事を頼まれる。

「キッチンにお茶とお菓子の用意は出来ている。お湯を沸かしてお茶を入れてあげて欲しい」
「わかった」

 着替えてキッチンへと向かいお茶の用意をする。

 お盆の上のモノを落とさないように慎重に運ぶ。部屋では二人が寛ぎながら話をしている途中だった。

「おや、掃除は終わったのかい?」
「おもてなしを頼まれた。お茶とお菓子をどうぞ」

 カップを置きお茶を入れる。手が震えてしまったが、なんとかこぼさずに入れることができた。

「嬉しいねぇ、シリルにお茶を入れて貰えるなんて」
「美味しいです。シリル様」

 二人に喜んでもらえて嬉しい。

 十分にお茶を楽しんだ後、

「さてと、ファブリスの手伝いをしてきますので、シリル様、ランベール様の相手をお願いします」

 とゾフィードがキッチンルームへと向かった。

 働き者だなと思いながらその背中を見送ると、ランベールがおいでと自分の膝の上を叩く。

「ランベール」

 昔から彼の膝の上が好きだ。近くで顔が見れるから。

「いい子にしていたかい」

 と額に自分の額をくっつける。

「あぁ。いい子で待っていたぞ、ランベール」

 鼻と鼻をこすりつけ合い、唇を軽く重ねて離れる。愛情をたくさん感じることができて幸せな気持ちになり、尻尾がふるふると揺れてしまう。

「ランベール、人の子の友達ができたんだ」
「おや、それは本当かい」

 屋敷に移された時、王である父に王族だということを口にしてはいけないと言われている。

 元より告げるつもりはない。第一、この屋敷の近くに家はなく、近い村へも行くのには半日かかるのだから。

 ファブリスの役に立ちたい、食べ物を集めるくらいならできるだろうと森にやってきたのだが軽率な考えであった。

 シリルは獣人であっても身体は小さくて非力だった。

 しかも森に一度も行ったことがないのに、シャツと半ズボン、そして革靴というスタイルで入ってしまい、木の根っこに足をとられて転んで怪我を負ってしまった。しかもその時に草むらに突っ込んでしまったのだ。
しおりを挟む
<獣人、恋慕ノ情ヲ抱ク>シリーズ

獣人ハ恋ヲスル
・獣人剣士(家事が得意)×少年剣士(火傷があり、コンプレックスに)【R18】

獣人ハ恋シ家族ニナル
・獣人(人の好い)×人の子(家事が得意で手先が器用)・子育て【R18】

獣人ハ甘ヤカシ、甘ヤカサレル
・人の子(年上・医者)×獣人(パン屋)/歳の差【R18】

あなたにおすすめの小説

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

魔性の男は純愛がしたい

ふじの
BL
子爵家の私生児であるマクシミリアンは、その美貌と言動から魔性の男と呼ばれていた。しかし本人自体は至って真面目なつもりであり、純愛主義の男である。そんなある日、第三王子殿下のアレクセイから突然呼び出され、とある令嬢からの執拗なアプローチを避けるため、自分と偽装の恋人になって欲しいと言われ​─────。 アルファポリス先行公開(のちに改訂版をムーンライトノベルズにも掲載予定)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...