6 / 47
獣人ト出逢ウ
自分にできること
しおりを挟む
時間があるとドニはシリルに会いに、ロシェは剣術を学ぶために獣人の住む屋敷へと向かう。
憧れていた獣人と出逢えたこと、友達になれたことが嬉しくて時間があると連絡をして遊びに行っていた。
ドニたちの前では明るい表情を見せるが、ファブリスからは鏡を見てはため息をついていることを聞いていた。
シリルのために何かできないだろうか。
そして思いついたのが薬師としての自分ができることだった。
床に積み上げてある本の中から植物図鑑を取り出してあるページを開き確認する。
「うーん、ロシェ、付き合ってくれるかなぁ」
そこに書かれている、ある個所を指でなぞる。
これを見せたら怒られるだろうが、どうしてもドニは手に入れたかった。
図鑑を抱きかかえ、ロシェのもとへ向かう。
ロシェはファブリスに剣を教えてもらっていて、腕も上がっている。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
剣を振るっていた手を止め、木に掛けてある手拭いで汗をぬぐう。
「あのね、ある木の実が欲しいんだけど、森の奥までお願いできる?」
「構わないが、なんだか言いにくそうだな」
「えへへ」
植物図鑑をロシェの目の前に開いて見せると、
「な、ドニ、お前っ!」
思った通りの反応だ。それもそのはず、図鑑にはベアグロウムの好物と書かれているからだ。
「お願いっ。シリルの為にどうしても必要なんだ」
「駄目だ。危険すぎる」
「お願い」
手を合わせて拝み倒すと、大きくため息をつく。
「危険だと俺が判断したら手に入らなくても逃げる事。それを守れるなら」
「うん。ありがとう」
薬草の見分けは大変だが、木の実なら上から落としてもらえばいい。
いつもの場所より更に奥。ピリピリといやな緊張感を感じる。
「流石に雰囲気が変わるな」
「うん。ロシェ、口と鼻をこれで覆って。今日は乾燥したのを炊くから」
「あぁ」
いつもは草を揉むだけなのだが、乾燥をさせて炊くと更に匂いは強烈となり、流石に人でも鼻を刺激されるので覆う布を巻きつけなければいけない。
小さな網籠に炊いた草を入れて棒の先の輪に引っ掛ける。それをドニが持つ。
「で、目的の物は?」
「あの木の実の種が必要なんだ。背負ってきた籠いっぱいにね」
手のひら程の大きさの木の実で、殻は硬くそれを割り種と実と分ける。
実はホクホクとしており、蒸して食べたりお菓子にする。
種はすりつぶしてオイルをとる。荒れた肌に塗ったり、ヘアケアに使ったりするものだ。
「これの方が上質なオイルがとれるんだ」
「よりによってベアグロウムの好物を……」
どれだけ危険な事をしようとしているか。ロシェがしつこく口にするのはドニが危険な目に合わない為にそう言っているのだ。
「さっさと集めて逃げるから、ね?」
「絶対にだぞ」
ロシェが木に登り実を落としていき、それをドニが拾い、籠の中へと入れていく。
そうこうしているうちに籠の中がいっぱいになり、木から離れようとした、その時。
低い唸り声が聞こえ、がザッと草が揺れる。
白い耳が見える。雄のベアグロウムだろう。
「ゆっくりと後ろに下がれ」
ロシェがドニを守るように前に立つ。
ゆっくりと後に下がっていくと、ベアグロウムがその姿を現す。
「グルゥゥ……」
威嚇しながら身を引くし、いつ襲い掛かろうかと様子を窺っている。
「ロシェ」
「大丈夫だ。お前がくれた匂い袋がある。鼻が敏感な獣には、今日は特に嫌な臭いだろうさ」
「うん」
怖くて足が竦みそうになるが、ロシェが励ましながら腕を優しく叩いて気持ちを落ち着かせてくれる。正面にベアグロウムを見据えながら後ろへと下がる。
彼らには背中を見せたら最後、襲ってくださいといっているようなものだから。
「この木の後ろに隠れろ」
大きな木を指さし様子を窺う。
憧れていた獣人と出逢えたこと、友達になれたことが嬉しくて時間があると連絡をして遊びに行っていた。
ドニたちの前では明るい表情を見せるが、ファブリスからは鏡を見てはため息をついていることを聞いていた。
シリルのために何かできないだろうか。
そして思いついたのが薬師としての自分ができることだった。
床に積み上げてある本の中から植物図鑑を取り出してあるページを開き確認する。
「うーん、ロシェ、付き合ってくれるかなぁ」
そこに書かれている、ある個所を指でなぞる。
これを見せたら怒られるだろうが、どうしてもドニは手に入れたかった。
図鑑を抱きかかえ、ロシェのもとへ向かう。
ロシェはファブリスに剣を教えてもらっていて、腕も上がっている。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
剣を振るっていた手を止め、木に掛けてある手拭いで汗をぬぐう。
「あのね、ある木の実が欲しいんだけど、森の奥までお願いできる?」
「構わないが、なんだか言いにくそうだな」
「えへへ」
植物図鑑をロシェの目の前に開いて見せると、
「な、ドニ、お前っ!」
思った通りの反応だ。それもそのはず、図鑑にはベアグロウムの好物と書かれているからだ。
「お願いっ。シリルの為にどうしても必要なんだ」
「駄目だ。危険すぎる」
「お願い」
手を合わせて拝み倒すと、大きくため息をつく。
「危険だと俺が判断したら手に入らなくても逃げる事。それを守れるなら」
「うん。ありがとう」
薬草の見分けは大変だが、木の実なら上から落としてもらえばいい。
いつもの場所より更に奥。ピリピリといやな緊張感を感じる。
「流石に雰囲気が変わるな」
「うん。ロシェ、口と鼻をこれで覆って。今日は乾燥したのを炊くから」
「あぁ」
いつもは草を揉むだけなのだが、乾燥をさせて炊くと更に匂いは強烈となり、流石に人でも鼻を刺激されるので覆う布を巻きつけなければいけない。
小さな網籠に炊いた草を入れて棒の先の輪に引っ掛ける。それをドニが持つ。
「で、目的の物は?」
「あの木の実の種が必要なんだ。背負ってきた籠いっぱいにね」
手のひら程の大きさの木の実で、殻は硬くそれを割り種と実と分ける。
実はホクホクとしており、蒸して食べたりお菓子にする。
種はすりつぶしてオイルをとる。荒れた肌に塗ったり、ヘアケアに使ったりするものだ。
「これの方が上質なオイルがとれるんだ」
「よりによってベアグロウムの好物を……」
どれだけ危険な事をしようとしているか。ロシェがしつこく口にするのはドニが危険な目に合わない為にそう言っているのだ。
「さっさと集めて逃げるから、ね?」
「絶対にだぞ」
ロシェが木に登り実を落としていき、それをドニが拾い、籠の中へと入れていく。
そうこうしているうちに籠の中がいっぱいになり、木から離れようとした、その時。
低い唸り声が聞こえ、がザッと草が揺れる。
白い耳が見える。雄のベアグロウムだろう。
「ゆっくりと後ろに下がれ」
ロシェがドニを守るように前に立つ。
ゆっくりと後に下がっていくと、ベアグロウムがその姿を現す。
「グルゥゥ……」
威嚇しながら身を引くし、いつ襲い掛かろうかと様子を窺っている。
「ロシェ」
「大丈夫だ。お前がくれた匂い袋がある。鼻が敏感な獣には、今日は特に嫌な臭いだろうさ」
「うん」
怖くて足が竦みそうになるが、ロシェが励ましながら腕を優しく叩いて気持ちを落ち着かせてくれる。正面にベアグロウムを見据えながら後ろへと下がる。
彼らには背中を見せたら最後、襲ってくださいといっているようなものだから。
「この木の後ろに隠れろ」
大きな木を指さし様子を窺う。
10
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
獣人の番!?匂いだけで求められたくない!〜薬師(調香師)の逃亡〜【本編完結】
ドール
恋愛
獣人に好かれる匂いをもつ、リンジェーラ=ベルタス
それが原因により起きた事件で、宮廷薬師に拾われ、宮廷魔導師団おかかえの薬師(調香師)として働いている。自分の匂いを誤魔化すため、獣人に嫌煙される匂いをまといながらも、宮廷騎士団副長の白狼獣人と結ばれるまでのストーリー。
*誤字脱字、設定などの不可解な点はご容赦ください。
だだの自己満作品です。
R18の場合*をつけます!
他作品完結済みも、宜しければ!
1作目<好きな人は兄のライバル〜魔導師団団長編〜>【完結】後日談は継続中
2作目<好きな人は姉への求婚者!?〜魔導騎士編〜>【完結】
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話
匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。
目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。
獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。
年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。
親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!?
言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。
入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。
胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。
本編、完結しました!!
小話番外編を投稿しました!
【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ
天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。
俺が王子の婚約者?
隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。
てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。
婚約は解消の方向で。
あっ、好みの奴みぃっけた。
えっ?俺とは犬猿の仲?
そんなもんは過去の話だろ?
俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた?
あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。
BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。
そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。
同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
SODOM7日間─異世界性奴隷快楽調教─
槇木 五泉(Maki Izumi)
BL
冴えないサラリーマンが、異世界最高の愛玩奴隷として幸せを掴む話。
第11回BL小説大賞51位を頂きました!!
お礼の「番外編」スタートいたしました。今しばらくお付き合いくださいませ。(本編シナリオは完結済みです)
上司に無視され、後輩たちにいじめられながら、毎日終電までのブラック労働に明け暮れる気弱な会社員・真治32歳。とある寒い夜、思い余ってプラットホームから回送電車に飛び込んだ真治は、大昔に人間界から切り離された堕落と退廃の街、ソドムへと転送されてしまう。
魔族が支配し、全ての人間は魔族に管理される奴隷であるというソドムの街で偶然にも真治を拾ったのは、絶世の美貌を持つ淫魔の青年・ザラキアだった。
異世界からの貴重な迷い人(ワンダラー)である真治は、最高位性奴隷調教師のザラキアに淫乱の素質を見出され、ソドム最高の『最高級愛玩奴隷・シンジ』になるため、調教されることになる。
7日間で性感帯の全てを開発され、立派な性奴隷(セクシズ)として生まれ変わることになった冴えないサラリーマンは、果たしてこの退廃した異世界で、最高の地位と愛と幸福を掴めるのか…?
美貌攻め×平凡受け。調教・異種姦・前立腺責め・尿道責め・ドライオーガズム多イキ等で最後は溺愛イチャラブ含むハピエン。(ラストにほんの軽度の流血描写あり。)
【キャラ設定】
●シンジ 165/56/32
人間。お人好しで出世コースから外れ、童顔と気弱な性格から、後輩からも「新人さん」と陰口を叩かれている。押し付けられた仕事を断れないせいで社畜労働に明け暮れ、思い余って回送電車に身を投げたところソドムに異世界転移した。彼女ナシ童貞。
●ザラキア 195/80/外見年齢25才程度
淫魔。褐色肌で、横に突き出た15センチ位の長い耳と、山羊のようゆるくにカーブした象牙色の角を持ち、藍色の眼に藍色の長髪を後ろで一つに縛っている。絶世の美貌の持ち主。ソドムの街で一番の奴隷調教師。飴と鞭を使い分ける、陽気な性格。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる