獣人ハ恋焦ガレル

希紫瑠音

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獣人ト出逢ウ

獣人と出逢う(2)

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「なんだ、これは」

 だが少年にとっては得体の知れぬものにしか見えないようで受け取ってくれない。

「これはこの植物の毒に有効な薬だから大丈夫だよ」

 手に薬を握らせて、清潔な布を袋から取り出して緑色の液身体をしみこませる。

「すこし痛いけど我慢してね」

 傷口をぬぐうと、しみたのだろう。ぶわっと尻尾が膨らんだ。

「ロシェ、ガーゼと包帯」
「わかった」

 そしてさらに薬をしみこませたガーゼを傷にあてて包帯を巻いていく。

「ほら、薬を飲んで。じゃないと高熱がでるよ」
「人の子の言うとおりにしよう」

 と大柄な獣人が言うと、目をぎゅっとつぶり、一気に紫の薬を飲みこんだ。

「不味い……」
「あはは、薬だからねぇ」

 空の瓶を渡されてそれを受け取る。

 それにしても可愛い獣人だ。尻尾はまんまるでほわほわとしており、耳も大きくてたれている。

「ぐふふふ、幸せ」

 気持ち悪い笑みを浮かべながら少年を見るドニの姿に、毛を逆立てて大柄な獣人の後ろへと隠れてしまった。

「こら、変な顔をして見てんじゃねぇよ。薬草を取りに行くんだろう」

 もういいだろうと言わんばかりにドニの腕を掴んで引っ張る。

 実に名残惜しい。だが、力ずくで引っ張られたらロシェには敵わないので仕方なくそうことにした。

「わかったよぉ。今日は安静にしていた方がいいよ」

 じゃぁねと手を振り、歩き出そうとしていた所に、

「待ってくれ」

 大柄な獣人が二人を引き止めた。

「まだ、何か用か?」

 早く立ち去りたいと、不機嫌さを隠さないロシェだ。

「助かった。ありがとう」

 そう言うと胸に手を当てて丁寧に頭を下げる。その仕草があまりにさまになっていて、まるで物語に登場する騎士のように見えた。

「お礼に家へと招待したい」

 と、おずおずと少年が前へと出る。

 獣人ともっと親しくなれるチャンスだ。ドニに断る選択肢はない。だが、ロシェはそうではないだろう。

 断りを入れてしまう前に、

「行く、絶対に行くからねっ」

 そう口にした。

「ドニ、てめぇっ」

 薬草をとりに向かうぞと腕をつかまれ引っ張られるが、その手は大柄な獣人によって引き離された。

 自分ではロシェの力には叶わない。阻んでくれたことにありがとうと指を組んで獣人を見上げた。

「なっ」
「行こう」

 大柄な獣人はロシェの腕をつかんだままだ。

「お前……」

 大人しくついてこい、そういっているかのようだ。

 乱暴な真似をするようには見えないので、きっと少年のためにしているのだろう。

「そうか。では、ついて来い」 

 獣人の手が離れ、少年の後ろを歩き出す。それはまるで主人と従者のようにみえた。

 よくよく二人を見れば、着ている物も自分達とは違い立派なものだし、大柄な男は剣を下げている。

「ところで、森で何をしていたんです?」

 獣人は王都に住んでいるはずだ。場所は人の子が暮らす国、王宮のある街の中心部にあり、彼らとの国へ行くには門を通り橋を渡った先にある。まさか人の子の国である森で会うとは思わなかったのだ。

「この森に果実を採りに。いつもは俺が行くのだが、手伝ってくれようとしたみたいでな」

 ぽんと頭の上に手をやる。

「だって、ファブリスにばかりさせるのは悪いと思って」
「それは別に気にするなと言っているだろう?」
「でも……」

 二人が食べるものを探しにきたことはわかった。だが、街からここまでかなり距離があるはずだ。

 しかも高い壁でさえぎられていると本で読んだことがある。

「え、獣人はもっと街の方に住んでいるのでは? だって身なりも良さそうだし、貴族じゃ」
「あぁ、まぁ、な」

 苦笑いで返され、どこか気品があるなと思っていたことに納得する。後は、色々と聞きたいところだがロシェに何か言われそうなのでやめておく。

 あと、今更だが馴れ馴れしい態度をとってしまったが、大丈夫だろうか。

「あ、俺、言葉遣いとか」
「貴族と言っても獣人の国でのこと。種族が違うのだから気にするな」

 だから今まで通りにと言われてホッとする。

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はファブリス。こちらはシリルだ」
「俺はドニ。こっちはロシェだよ」

 ロシェは黙ったままお辞儀だけする。自分以外の誰に対してもこのような態度だ。

 大抵の人は面白くなさそうに彼を見るのだが、ファブリスは違った。宜しくと言うと顔を近づける。

「近づけんなよ」

 それに気が付いてロシェが一歩後ろへと下がる。

「あぁ、すまない。挨拶をするときは目と目を合わせるものだと思ってな」

 その言葉に、一瞬、険悪になりかけたが、

「そんな近くで見れるなんて、ロシェ、羨ましい!」

 本気で羨ましがるドニに、空気はがらりと変わり、ファブリスが尻尾をゆるりと動かしながらクツクツと笑う。

「そんなに俺の顔を間近で見たいのか?」

 と顔を近づけられて、幸せすぎて口元が緩む。

「ありがとうございますぅ」

 神を拝むように手を合わせてすり合わせる。

「人の子は皆そうなのか?」

 そうシリルに真剣に聞かれて、

「んな訳あるかよ。こいつだけだ」

 とすぐさまロシェがつっこんだ。

「そうか。ドニは変わっているな」

 その口元に笑みを浮かべる。獣人も人と同じで表情が豊かで可愛い。




 
 これがドニが獣人であるシリルとファブリスとの出逢いだ。
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