獣人ハ恋焦ガレル

希紫瑠音

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獣人ハ恋ニ落チル

お風呂で×××

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 ダイニングルームでは食事の用意がはじまっているようで、いい香りが部屋中に充満している。

「帰ってきたか」

 エプロン姿のゾフィードを見た瞬間、ホッとして強張った表情がほぐれた。

「美味しそうなにおい」
「そうだろう。お前用にパイを焼いている」
「本当! 嬉しいなぁ」

 ゾフィードに抱き着いてにおいを吸い込んだ。

「俺の匂いで腹いっぱいにするなよ?」

 ぽんと頭に手をのせて、座って待っているように言われた。

「うん、そうだね」

 ほっと息を吐くとロシェが隣に座り、

「元気がでたか?」

 と顔を覗き込む。

「あ、やっぱりばれてたか」

 ゾフィードに甘えて元気をもらっていたのを。

「それにしても、アイツ、優しくなったな」
「うん。今までなら邪魔だって言われてたろうね」

 ロシェにもわかるゾフィードの変化。セドリックがしてくれたことは刺激となり良い方向へむかっていた。





 ゾフィードが差し出す皿の上には、ドニが食べられるものを少量ずつ盛ってある。そして別口にパイが一つ。

 無理なく食べ切れる量だ。

「ゆっくりでいい。これだけは食べろよ」
「うん」

 焼き立てのパイはさくっと音をたて、フルーツの甘みと柔らかさの中にかりっと香ばしい触感がある。

「はぁ、美味しい」
「そうだろう? これはファブリスの母であるコレットさんの得意な料理でな。とても美味くて俺も好きなんだ」

 そういうとゾフィードがファブリスを見る。母親を褒められるのは嬉しいのだろう。相好を崩した。

「そうなのか」

 ロシェも興味を持ったようだ。

 ファブリスと出会う前のロシェは何に対しても興味を示さず、誰かと関わり合いになることすらしなかった。

 恋は人すら変えるのだなと、ドニは微笑ましくロシェを眺める。

「母は果樹園で育てた果物で菓子を作るのが好きでな。これからたくさん食べさせてやりたい」

 そっとロシェの手の上に自分の手を重ねた。

「はぅぅ、いいなぁ。料理上手なお母さんの獣人」

 エプロン姿の雌の獣人を思い浮かべると、つい、涎がたれそうだ。

「こら、コレットさんを汚すな!」
「えぇっ」

 顔も知らないからファブリスの雌バージョンで想像していたのがバレたかと一瞬思った。

 まぁ、そんなわけがないのだが。

「とてもかわいらしい方なんだ」

 ゾフィードがそういうのだから、ドニが会ったら息が荒くして興奮してしまうのだろう。

「いいなぁ、会ってみたいなぁ」
「そうだな。今度、家へ招待しよう」
「うそ、やったぁ!」

 ファブリスの言葉に、会えるんだと思うと嬉しくて頬を緩ませていると、ゾフィードが嫌そうな顔をしていた。

 それに気が付いて、

「流石に嘗め回したりしないよ?」

 そう口にすれば、絶対会わせるなとファブリスの肩をつかんで激しく揺さぶっている。

「はは、確かに会わせるのに少し不安があるな。それならばジョゼットさんもお呼びしよう」

 ジョゼットとの言葉に、ドニがぴくりと反応する。

「え、だれ、ジョゼットさん!」

 新たな雌の獣人かとワクワクしながら答えを待つ。

「ファブリス、俺の母上を巻き込むな」

 とゾフィードががっくりと肩を落とす。

「ゾフィードのお母さん!」
「シュゼットさんは元・騎士でな、強くそして美しい方だ」
「へぇぇ、じゅる、やば、よだれが……」

 ゾフィードの家族となればドニが落ち着いていられるわけがない。好意を持っている相手なのだから。

「変態め、絶対に会わせん!」
「えぇ、お母さんとお会いしたかったなぁ」
「お前なぁ」

 自分には親はいないし、ロシェは小さな頃に彼の父親が無理心中を計り家に火を放ち両親を亡くしている。

 ゆえに母親とはどういう存在なのか知らない。

 過去を知っているので二人は聞いてこなかったが、若い獣人の一人が訪ねてきた。

「あ……、俺らはいないんだ」
「それは、失礼しました」
「うんん。だから皆の話を聞かせて」

 それから家族の話を聞き、楽しい時間を過ごした。

 食事を終えて、お風呂へと向かう。

 一人、湯船につかっていると先ほどの会話を思い出して落ち込んでしまった。

「家族か」

 今まで羨ましいと思ったことなど一度もない。自分には祖父とロシェがいたから。

 だが、ロシェは新しい家族を持った。

「俺、ひとりぼっちなんだな……」

 欲しいけれど望んでも手に入らないものもある。周りが幸せになるのを僻んた時もあったが

「あぁ、もうっ、どうこうできるもんじゃないんだからさっ。俺ってどうしてこうなんだろう」

 湯船で何度も顔を洗うと少し気持ちが落ち着いた。

「はぁ。ばかみたい」

 風呂から上がって寝てしまおうと湯船を出ようとすれば、

「ドニ、入るぞ」

 ゾフィードの声がし中へと入ってきた。こちらから誘っても一度もうんといってくれたためしはない。それなのに今日にかぎって彼の方から声をかけてくるなんて。

「珍しいね」
「なんだ、一緒に入るのは嫌だったか」
「そんなわけないでしょ。ゾフィードと一緒に入れるんだもの」

 そう笑って見せるが、顎にゾフィードの手が触れて顔を覗き込まれた。

 もしや、村で起きたことを話したのだろうか。

「で、誰かから頼まれたの?」
「あぁ。ドニの傍にいてやってほしいとロシェに頼まれた」

 夫婦にされたこと、孤独を強く感じてしまったこと、色々とあってドニは複雑な気持ちだった。
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