33 / 47
獣人ハ恋ニ落チル
ゾフィード①
しおりを挟む
ドニは獣人が好きだ。
それゆえに興味があることを隠さずに、しかもあの場にいた獣人でルルス系はゾフィードだけなので珍しく感じたのだろう。
好奇心で触れられるのは不愉快でしかなく、その時は傷つけてしまった。
だが、毛並みのことで辛い思いをしていたシリルのために人の子には危険な獣に立ち向かいオイルを作ったり、友達のために何かをしてやれる者だと知った。
変なやつだが明るくていい奴、そう思えるようになった。
ドニとゾフィードの関係は、シリルやロシェのような友達というわけではない。ファブリスやランベールのような保護者ともちがう。兄のような存在もピンとこない。
なんともあやふやな関係だ。
ゾフィードがもし、ドニと同じ人の子だったとしたら興味を持つこともなく、ランベールの付き添いという存在だけだっただろう。
ゆえに、ドニに鼻先にキスされて好意を示されても気持ちを素直に受け取ることができなかった。
ドニは獣人なら誰でもいいのではないだろうか、たまたま傍にいたのが自分だからではないだろうかと疑った。
セドリックに番になってほしいと言われて、きっとその手を取るだろうと思った。
それなのにドニは泣いてゾフィードを責めた。自分に対する想いは本物なのだと気が付いた。
自分は愚かで鈍い。
ドニを泣かせたくない。だから今までよりも優しくしようと自分自身に誓った。
セドリックに呼ばれて団長室へと向かうと、
「ゾフィード、俺の家にドニと一緒に住め」
と言われた。
「いきなりですね」
「ドニを一人にするのは不安だからな。だが、俺は護衛はできるが家事ができん。お前ならどちらもできる」
「そうですね」
王の命令で、ランベールが旅に出ることになり、監視と世話役としてジュベル家がつくことになった。
母親は「一人で生活できる最低限のことは覚えろ」という人なので、兄弟は幼き頃から剣術以外に家事を覚えさせられた。 それもありランベールのお付となったわけだ。
「いいんですか。ドニと番になりたいと言っていたのに俺に任せて」
「あぁ、うん。あれは嘘だから」
「はぁ!?」
あっけらかんとそんなことを口にする目の前の雄に殺意がわきそうになった。
「あんた、何考えて」
「ゾフィード、俺、団長ね」
「うるさい、黙れ」
団長だろうが殴られてもいいレベルの嘘だ。
「何を考えているんですか」
「あんっ、考えなしにあんなことは言わねぇよ。お前が悪いんだからな」
拳で胸を殴られる。
ドニの好意を疑った。それをセドリックは知らないだろうが、気持ちに応えないことを責められている。
「明日、ドニには正直に話すよ。だからさ、お前も素直になんなよ」
それは無理だ。今更、好きになる資格など自分にはない。
「家の件は了解しました」
ゆえに素直になれという言葉には答えなかった。
※※※
ドニが生活するのに必要なことは何でもしてやりたい。
ランベールの屋敷に泊まらなかったのは、ドニに秘密で部屋に机と棚を作っておきたかったからだ。
寝ずの作業になるだろうからと、少し濃いめの煎り豆茶をポットに入れて用意しておいた。
机と棚は組み立てればよいだけのものを買ってある。
棚には蝶番とアクリルを使い扉をつける。どの棚に何があるかが一目でわかるようにだ。
机の棚には細かいものがおけるようにしたい。ランプを置いたり掛けたりする場所もだ。
すべてが仕上がったころには夜が明けており、朝ごはんを食べる時間となっていた。
手作り感が半端ないが、きっとドニは喜んでくれるだろう。
これを見せたときにどんな顔をするか楽しみだと口元を綻ばせる。そんな気持ちになるなんて、自分はドニと出会ってから変わった。
「俺は馬鹿だな」
このように思える相手と出会えたのに。
工具をしまい部屋の隅へと置くと床に横になる。ここにドニがいないことが寂しい。手を天井に伸ばし空をつかんだ。
もふんとした感触が鼻のあたりでして目が覚めた。
あのまま寝落ちしてしまったようだ。
「お、生きてたか」
「なっ、団長!」
触れていたのはセドリックの尻尾だった。
「いやぁ、床で倒れているからさ確かめてた」
「それ、ドニしか喜びませんよ」
「それもそうだな。ゾフィード、ランベール様が森のことでお前をお呼びだ。ドニたちは俺が待っているから」
ドニの喜ぶ顔が見れないことに、耳と尻尾が垂れ下がる。
「おやぁ、この素敵なお部屋を見せられなくてがっかりしちゃってるの?」
「……別に」
にやにやとしているセドリックにムカついた。
「それにしても、頑張ったな」
「ドニに見せてやってください」
「俺が見せていいの?」
「シリル様もいらっしゃるのに、部屋は見せられませんというわけにはいかないでしょう」
絶対に部屋の話になるのだから。
部屋を自ら見せることができないのは残念だが、家に帰ってくれば感想を伝えてくれるだろう。
「それでは、行ってきます」
「はいよ。行っておいで」
手を振るセドリックに小さく頭を下げて家を出るとランベールの元へと向かった。
それゆえに興味があることを隠さずに、しかもあの場にいた獣人でルルス系はゾフィードだけなので珍しく感じたのだろう。
好奇心で触れられるのは不愉快でしかなく、その時は傷つけてしまった。
だが、毛並みのことで辛い思いをしていたシリルのために人の子には危険な獣に立ち向かいオイルを作ったり、友達のために何かをしてやれる者だと知った。
変なやつだが明るくていい奴、そう思えるようになった。
ドニとゾフィードの関係は、シリルやロシェのような友達というわけではない。ファブリスやランベールのような保護者ともちがう。兄のような存在もピンとこない。
なんともあやふやな関係だ。
ゾフィードがもし、ドニと同じ人の子だったとしたら興味を持つこともなく、ランベールの付き添いという存在だけだっただろう。
ゆえに、ドニに鼻先にキスされて好意を示されても気持ちを素直に受け取ることができなかった。
ドニは獣人なら誰でもいいのではないだろうか、たまたま傍にいたのが自分だからではないだろうかと疑った。
セドリックに番になってほしいと言われて、きっとその手を取るだろうと思った。
それなのにドニは泣いてゾフィードを責めた。自分に対する想いは本物なのだと気が付いた。
自分は愚かで鈍い。
ドニを泣かせたくない。だから今までよりも優しくしようと自分自身に誓った。
セドリックに呼ばれて団長室へと向かうと、
「ゾフィード、俺の家にドニと一緒に住め」
と言われた。
「いきなりですね」
「ドニを一人にするのは不安だからな。だが、俺は護衛はできるが家事ができん。お前ならどちらもできる」
「そうですね」
王の命令で、ランベールが旅に出ることになり、監視と世話役としてジュベル家がつくことになった。
母親は「一人で生活できる最低限のことは覚えろ」という人なので、兄弟は幼き頃から剣術以外に家事を覚えさせられた。 それもありランベールのお付となったわけだ。
「いいんですか。ドニと番になりたいと言っていたのに俺に任せて」
「あぁ、うん。あれは嘘だから」
「はぁ!?」
あっけらかんとそんなことを口にする目の前の雄に殺意がわきそうになった。
「あんた、何考えて」
「ゾフィード、俺、団長ね」
「うるさい、黙れ」
団長だろうが殴られてもいいレベルの嘘だ。
「何を考えているんですか」
「あんっ、考えなしにあんなことは言わねぇよ。お前が悪いんだからな」
拳で胸を殴られる。
ドニの好意を疑った。それをセドリックは知らないだろうが、気持ちに応えないことを責められている。
「明日、ドニには正直に話すよ。だからさ、お前も素直になんなよ」
それは無理だ。今更、好きになる資格など自分にはない。
「家の件は了解しました」
ゆえに素直になれという言葉には答えなかった。
※※※
ドニが生活するのに必要なことは何でもしてやりたい。
ランベールの屋敷に泊まらなかったのは、ドニに秘密で部屋に机と棚を作っておきたかったからだ。
寝ずの作業になるだろうからと、少し濃いめの煎り豆茶をポットに入れて用意しておいた。
机と棚は組み立てればよいだけのものを買ってある。
棚には蝶番とアクリルを使い扉をつける。どの棚に何があるかが一目でわかるようにだ。
机の棚には細かいものがおけるようにしたい。ランプを置いたり掛けたりする場所もだ。
すべてが仕上がったころには夜が明けており、朝ごはんを食べる時間となっていた。
手作り感が半端ないが、きっとドニは喜んでくれるだろう。
これを見せたときにどんな顔をするか楽しみだと口元を綻ばせる。そんな気持ちになるなんて、自分はドニと出会ってから変わった。
「俺は馬鹿だな」
このように思える相手と出会えたのに。
工具をしまい部屋の隅へと置くと床に横になる。ここにドニがいないことが寂しい。手を天井に伸ばし空をつかんだ。
もふんとした感触が鼻のあたりでして目が覚めた。
あのまま寝落ちしてしまったようだ。
「お、生きてたか」
「なっ、団長!」
触れていたのはセドリックの尻尾だった。
「いやぁ、床で倒れているからさ確かめてた」
「それ、ドニしか喜びませんよ」
「それもそうだな。ゾフィード、ランベール様が森のことでお前をお呼びだ。ドニたちは俺が待っているから」
ドニの喜ぶ顔が見れないことに、耳と尻尾が垂れ下がる。
「おやぁ、この素敵なお部屋を見せられなくてがっかりしちゃってるの?」
「……別に」
にやにやとしているセドリックにムカついた。
「それにしても、頑張ったな」
「ドニに見せてやってください」
「俺が見せていいの?」
「シリル様もいらっしゃるのに、部屋は見せられませんというわけにはいかないでしょう」
絶対に部屋の話になるのだから。
部屋を自ら見せることができないのは残念だが、家に帰ってくれば感想を伝えてくれるだろう。
「それでは、行ってきます」
「はいよ。行っておいで」
手を振るセドリックに小さく頭を下げて家を出るとランベールの元へと向かった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう
乃木のき
BL
母親の再婚によってあまーい名前になってしまった「佐藤蜜」は入学式の日、担任に「おいしそうだね」と言われてしまった。
周防獅子という負けず劣らずの名前を持つ担任は、ガタイに似合わず甘党でおっとりしていて、そばにいると心地がいい。
初恋もまだな蜜だけど周防と初めての経験を通して恋を知っていく。
(これが恋っていうものなのか?)
人を好きになる苦しさを知った時、蜜は大人の階段を上り始める。
ピュアな男子高生と先生の甘々ラブストーリー。
※エブリスタにて『sugar sugar honey』のタイトルで掲載されていた作品です。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】ハシビロコウの強面騎士団長が僕を睨みながらお辞儀をしてくるんですが。〜まさか求愛行動だったなんて知らなかったんです!〜
大竹あやめ
BL
第11回BL小説大賞、奨励賞を頂きました!ありがとうございます!
ヤンバルクイナのヤンは、英雄になった。
臆病で体格も小さいのに、偶然蛇の野盗を倒したことで、城に迎え入れられ、従騎士となる。
仕える主人は騎士団長でハシビロコウのレックス。
強面で表情も変わらない、騎士の鑑ともいえる彼に、なぜか出会った時からお辞儀を幾度もされた。
彼は癖だと言うが、ヤンは心配しつつも、慣れない城での生活に奮闘する。
自分が描く英雄像とは程遠いのに、チヤホヤされることに葛藤を覚えながらも、等身大のヤンを見ていてくれるレックスに特別な感情を抱くようになり……。
強面騎士団長のハシビロコウ✕ビビリで無自覚なヤンバルクイナの擬人化BLです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
お一人様希望なので、その番認定は困ります〜愛されるのが怖い僕と、番が欲しい宰相閣下の話~
飛鷹
BL
森の民であるウィリテは、一族の持つ力を欲する権力者に一族を滅ぼされた過去を持つ。
一族の特別な力を継承していたウィリテは、一人ひっそりと生きていく事を望んでいた。
そんなある日、ウィリテが住む街に高位貴族が訪れた。獏の獣人であるその貴族は、どうやら番を探しているらしい。
街は俄に騒然となるが、ウィリテには関係のないことと思っていた。
しかし薬草採取で訪れた森で、怪我をしている男性を見付けた事から、ウィリテの平穏は崩れていく……。
番を望む聖獣『獏』の獣人と、精霊に愛されたの森の民の生き残りの、想いが通い合うまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる