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獣人ハ恋ニ落チル
新しい生活
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成人の儀も終わり、シリルの婚姻の儀にも出席することができた。
沢山の獣人に会えたことは楽しかった。だが、人の子を全ての獣人が受け入れてくれる訳ではない。
確かに成人の儀の後に開かれたパーティで、汚い物を見るような視線を浴びせてこそこそと話している獣人を見かけた。
古い考えを持つ獣人もいるのだと、シリルの兄であるヴァレリーが教えてくれた。
毛並の良しあしで差別するのはそういう考えの者であり、人の子を見下すのも自分達より下等な生き物だと思っているそうだ。
それでもドニはここにいたい。好きな獣人には振られてしまったけれど、やはりあきらめることはできない。
それにここに残れるようにと色々考えてくれたのだ。だから色々とあきらめたくなかった。
店を開くためには、まず獣人商売組合にどんなものを売るのか実際に商品を見てもらう。それでOKを貰うと今度は国の面接がある。それに合格をして初めて店が持てるわけだ。
そのためにはオイルと滋養強壮剤を作るために材料と道具、そして作る場所が必要になる。
シリルに相談したら、きっといつまでもいていいと言ってくれるだろう。もしくは住む場所を知らぬ間に用意してしまいそうなので、家を出ると話す前にはきちんと住む場所を見つけなければならない。
ゾフィードに相談しようと思っていたのだが、この頃は忙しいのか顔を見ていない。
どうしようかと考えているうちに、一日、また一日と過ぎていく。
「ドニ、街にでも行くか?」
「うん」
気分転換にもなるし、どんなものが売っているのか、じっくりと見るのもいい。
馬車に乗り外を眺めていると、
「何か悩みごとか」
と聞かれる。
「え、どうして」
「ぼっとしていることが多いとシリル様が心配されていた」
「あ……」
何度かシリルに大丈夫かと聞かれた。
「はぁ、シリルに悪いことしちゃったかな」
自分だってシリルが悩んでいたら心配になるし、力になりたいと思う。
シリルもきっとそうだ。いつ話をしてくれるのかと待っていたのだろう。
「俺、ここに残るって決めたけれど、いつまでもランベールさんの屋敷にはいられないなって」
「あぁ、そういうことか。向こうは番になったばかりだしな。ドニの気持ちはわかるよ」
「でも、シリルに家のこととか相談したら、『いつまでもいていい』とか『心配するな。僕が用意する』とか言いそうでしょっ」
「たしかに」
気持ちは嬉しいが流石に甘えられないというと、それならと馬車の行き先を変える。
「どこへ行くの?」
「ま、楽しみにしてな」
どこに行くのかは教えてもらえず馬車に揺られていれば、庭付きの一軒家の前で馬車が止まった。
「ここは?」
「俺の隠れ家なんだ」
今までが立派で大きな館ばかりだったから、ドニからしたらこれでもまだ大きな家だが落ち着くサイズではある。
「わぁ、素敵なお家だね」
「一人になりたいときにと思って買ったのだがほとんど使っていなくてな。そのままにしておくと傷むばかりだから住んでくれると助かる」
ドニにとってありがたい話だ。
「そういってもらえて助かるけれど……」
一人になりたいときはどうするのだろう。ドニの考えていることに気が付いたか、
「団長には専用の部屋もあるからな。大丈夫だ」
と肩に手を置いた。
「そうなんだ。それじゃ借りるね」
「あぁ。食べ物以外は生活に必要なものはそろっている。それも使ってくれ」
「うん。ありがとう」
「よし、まずは掃除からだな」
実はここに来るのは半年ぶりだという。
「わ、それじゃ、掃除からだね」
セドリックは団長だから忙しいのだろう。
家の中へと入り、掃除をしながら部屋の中を見ていく。
キッチンにリビング、寝室、そして何もない部屋が一つ。
「あ、ドニはここを使ってくれ」
「え?」
目をぱちぱちとさせながらセドリックを見る。
「ベッドは使っちゃダメなの?」
だが、セドリックは応える代わりに口角をあげ、そして頭に手を置いた。
「少し外に出るが、掃除をして待っていてくれるか」
「……うん」
一体どこへ行くのか。色々な疑問を残したままセドリックは馬車に乗り込み行ってしまった。
家を貸してはくれるが寝室はダメとはどうしてだろうと考えていて、ある答えにたどり着いた。
「あ、セドリックが使う、とか」
番にならないか、そうセドリックに言われていた。もしや、家を貸すといったのもそういう意味だったのだろうか。
それなのにドニは嬉しくて抱きついた。
「そっか、俺って鈍いよね」
あの時、後でといったものそういう意味だったのだろう。
ドニには別に思う相手がいるのだ。応えられぬのなら甘えてはいけない。
振出しに戻ることになるが、迷惑をかけた分は部屋の掃除はしっかりしておこう。
丁寧に拭き掃除をし、カーテンや寝室のシーツを洗濯する。
それも干し終えたとき、馬の足音が聞こえる。
戻ってきたかと外へ出ると、そこにいるのは荷馬車だった。
しかもセドリックではなくゾフィードが座っていた。
「なんで?」
「団長から頼まれた。ベッドを用意してやってくれと」
「あの、家のことなんだけど」
ゾフィードから伝えてもらおうと、別の場所を借りると告げようとするが、
「俺もここに住むことになった」
その言葉に、言おうとしていたことではなく驚きの声がでる。
「えぇっ」
「ずっとではない。お前がここでの暮らしになれるまでだ。手狭になってしまうが我慢してくれ」
あの部屋はセドリックが使うのではなくゾフィードが使うからだった。
勘違いと、ゾフィードと一緒にいられる喜びとで顔が熱くなる。
「あうぅ」
「ドニ、俺はベッドを組み立てるから、掃除の続きを頼む」
「あう」
熱を冷ますように手を動かして風をおくる。
セドリックのあの笑いはこういうことだったのか。しかも思い上がりで恥ずかしい勘違いをしていた。
落ち着いていられなくてジタジタとしていたら、ゾフィードに落ち着けと額を指で弾かれた。
「うう、だって、予想外の展開」
「警護はできても、団長は家事が一切できない。それだけだ」
それだけだとしてもだ。ゾフィードと二人きりの生活なのだから嬉しくないわけがない。
なぜだろう、ドニに都合の良い方向へと向かっている気がする。
「俺、もしかして死ぬのかな」
「何を馬鹿なことを言っているんだ。折角、獣人の国で暮らせるのだぞ? 死んでなどいられないだろう」
その通りだ。しかも好意を寄せている獣人と一つ屋根の下で暮らすのだから。
「お風呂に一緒に入るまでは死ねないぃ」
ぎゅっと背中に腕を回して抱きつくと、ゾフィードが頭の上に手を置いた。
「この家のサイズからして狭いだろう」
お風呂はコミュニケーションの場。そうランベールが言っていたことを思い出す。
もしや、大きければ一緒に入るチャンスがあるということか。
「確認する!」
大きさを確認するために二人でお風呂へと向かい、がっかりと肩を落とす。ドニが入る分には十分だが、二人はきつそうだ。
「いや、俺、頑張れば小さくなれるかも」
やればできると拳を上げるが、
「あきらめろ」
即答されて、ドニはトボトボと風呂を後にした。
沢山の獣人に会えたことは楽しかった。だが、人の子を全ての獣人が受け入れてくれる訳ではない。
確かに成人の儀の後に開かれたパーティで、汚い物を見るような視線を浴びせてこそこそと話している獣人を見かけた。
古い考えを持つ獣人もいるのだと、シリルの兄であるヴァレリーが教えてくれた。
毛並の良しあしで差別するのはそういう考えの者であり、人の子を見下すのも自分達より下等な生き物だと思っているそうだ。
それでもドニはここにいたい。好きな獣人には振られてしまったけれど、やはりあきらめることはできない。
それにここに残れるようにと色々考えてくれたのだ。だから色々とあきらめたくなかった。
店を開くためには、まず獣人商売組合にどんなものを売るのか実際に商品を見てもらう。それでOKを貰うと今度は国の面接がある。それに合格をして初めて店が持てるわけだ。
そのためにはオイルと滋養強壮剤を作るために材料と道具、そして作る場所が必要になる。
シリルに相談したら、きっといつまでもいていいと言ってくれるだろう。もしくは住む場所を知らぬ間に用意してしまいそうなので、家を出ると話す前にはきちんと住む場所を見つけなければならない。
ゾフィードに相談しようと思っていたのだが、この頃は忙しいのか顔を見ていない。
どうしようかと考えているうちに、一日、また一日と過ぎていく。
「ドニ、街にでも行くか?」
「うん」
気分転換にもなるし、どんなものが売っているのか、じっくりと見るのもいい。
馬車に乗り外を眺めていると、
「何か悩みごとか」
と聞かれる。
「え、どうして」
「ぼっとしていることが多いとシリル様が心配されていた」
「あ……」
何度かシリルに大丈夫かと聞かれた。
「はぁ、シリルに悪いことしちゃったかな」
自分だってシリルが悩んでいたら心配になるし、力になりたいと思う。
シリルもきっとそうだ。いつ話をしてくれるのかと待っていたのだろう。
「俺、ここに残るって決めたけれど、いつまでもランベールさんの屋敷にはいられないなって」
「あぁ、そういうことか。向こうは番になったばかりだしな。ドニの気持ちはわかるよ」
「でも、シリルに家のこととか相談したら、『いつまでもいていい』とか『心配するな。僕が用意する』とか言いそうでしょっ」
「たしかに」
気持ちは嬉しいが流石に甘えられないというと、それならと馬車の行き先を変える。
「どこへ行くの?」
「ま、楽しみにしてな」
どこに行くのかは教えてもらえず馬車に揺られていれば、庭付きの一軒家の前で馬車が止まった。
「ここは?」
「俺の隠れ家なんだ」
今までが立派で大きな館ばかりだったから、ドニからしたらこれでもまだ大きな家だが落ち着くサイズではある。
「わぁ、素敵なお家だね」
「一人になりたいときにと思って買ったのだがほとんど使っていなくてな。そのままにしておくと傷むばかりだから住んでくれると助かる」
ドニにとってありがたい話だ。
「そういってもらえて助かるけれど……」
一人になりたいときはどうするのだろう。ドニの考えていることに気が付いたか、
「団長には専用の部屋もあるからな。大丈夫だ」
と肩に手を置いた。
「そうなんだ。それじゃ借りるね」
「あぁ。食べ物以外は生活に必要なものはそろっている。それも使ってくれ」
「うん。ありがとう」
「よし、まずは掃除からだな」
実はここに来るのは半年ぶりだという。
「わ、それじゃ、掃除からだね」
セドリックは団長だから忙しいのだろう。
家の中へと入り、掃除をしながら部屋の中を見ていく。
キッチンにリビング、寝室、そして何もない部屋が一つ。
「あ、ドニはここを使ってくれ」
「え?」
目をぱちぱちとさせながらセドリックを見る。
「ベッドは使っちゃダメなの?」
だが、セドリックは応える代わりに口角をあげ、そして頭に手を置いた。
「少し外に出るが、掃除をして待っていてくれるか」
「……うん」
一体どこへ行くのか。色々な疑問を残したままセドリックは馬車に乗り込み行ってしまった。
家を貸してはくれるが寝室はダメとはどうしてだろうと考えていて、ある答えにたどり着いた。
「あ、セドリックが使う、とか」
番にならないか、そうセドリックに言われていた。もしや、家を貸すといったのもそういう意味だったのだろうか。
それなのにドニは嬉しくて抱きついた。
「そっか、俺って鈍いよね」
あの時、後でといったものそういう意味だったのだろう。
ドニには別に思う相手がいるのだ。応えられぬのなら甘えてはいけない。
振出しに戻ることになるが、迷惑をかけた分は部屋の掃除はしっかりしておこう。
丁寧に拭き掃除をし、カーテンや寝室のシーツを洗濯する。
それも干し終えたとき、馬の足音が聞こえる。
戻ってきたかと外へ出ると、そこにいるのは荷馬車だった。
しかもセドリックではなくゾフィードが座っていた。
「なんで?」
「団長から頼まれた。ベッドを用意してやってくれと」
「あの、家のことなんだけど」
ゾフィードから伝えてもらおうと、別の場所を借りると告げようとするが、
「俺もここに住むことになった」
その言葉に、言おうとしていたことではなく驚きの声がでる。
「えぇっ」
「ずっとではない。お前がここでの暮らしになれるまでだ。手狭になってしまうが我慢してくれ」
あの部屋はセドリックが使うのではなくゾフィードが使うからだった。
勘違いと、ゾフィードと一緒にいられる喜びとで顔が熱くなる。
「あうぅ」
「ドニ、俺はベッドを組み立てるから、掃除の続きを頼む」
「あう」
熱を冷ますように手を動かして風をおくる。
セドリックのあの笑いはこういうことだったのか。しかも思い上がりで恥ずかしい勘違いをしていた。
落ち着いていられなくてジタジタとしていたら、ゾフィードに落ち着けと額を指で弾かれた。
「うう、だって、予想外の展開」
「警護はできても、団長は家事が一切できない。それだけだ」
それだけだとしてもだ。ゾフィードと二人きりの生活なのだから嬉しくないわけがない。
なぜだろう、ドニに都合の良い方向へと向かっている気がする。
「俺、もしかして死ぬのかな」
「何を馬鹿なことを言っているんだ。折角、獣人の国で暮らせるのだぞ? 死んでなどいられないだろう」
その通りだ。しかも好意を寄せている獣人と一つ屋根の下で暮らすのだから。
「お風呂に一緒に入るまでは死ねないぃ」
ぎゅっと背中に腕を回して抱きつくと、ゾフィードが頭の上に手を置いた。
「この家のサイズからして狭いだろう」
お風呂はコミュニケーションの場。そうランベールが言っていたことを思い出す。
もしや、大きければ一緒に入るチャンスがあるということか。
「確認する!」
大きさを確認するために二人でお風呂へと向かい、がっかりと肩を落とす。ドニが入る分には十分だが、二人はきつそうだ。
「いや、俺、頑張れば小さくなれるかも」
やればできると拳を上げるが、
「あきらめろ」
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