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第4話(2)
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仕事の合間に休憩をしようと、社員食堂へと向かうがそこに旭日の姿はない。
顔を見たかったのに残念だと自動販売機へと向かうと、そこに八潮と話す旭日の姿を見つけた。
声を掛ける前にこちらに気が付き、 八潮が手を挙げた。
「いいところにきたねぇ」
やたらと楽しそうな八潮課長に対し、旭日は機嫌が悪そうだ。
一体どうしたんだろうと隣に立つ。
「夜久君、じつはね、旭日君たら」
「八潮課長っ」
それでなくとも目つきが怖いのに、八潮を見る目は更に凄みを増していた。
「旭日君?」
顔を覗きこめば、ぱっと表情を変えた。目尻をさげて剣がとれる。
「好きな子には可愛い顔をするんだねぇ」
楽しそうな八潮に、悔しそうな旭日。これは、自分と関係をからかっているのだろう。
「あ、夜久君、顔が真っ赤だよ」
にぃ、と口角をあげる。
「なんで、こんなことになってるの」
小声で旭日に問うと、拗ねた表情で夜久を見る。
「え、俺がなにかした?」
「昼休みに、八潮さんに頭を撫でられて嬉しそうだったんで」
あれを見て拗ねてしまったのか。
まさか、そんな可愛い理由だとは。唇がふよふよと緩みだす。
それを見て、旭日にジト目を向けられる。
「旭日君ね、 僕が夜久君のことを好きなんじゃないかって。昨日のこともあるから妬いてたよぉ」
「八潮課長っ」
旭日の顔が真っ赤だ。
嬉しい。妬いて貰えるのが。
幸せだ。愛されていると感じて。
「え、ちょ、夜久君!」
「夜久さん」
二人が驚いた顔をする。
一体どうしたんだろうと首を傾げると、旭日がポケットに突っ込んであったタオルを手にして顔を拭われた。
「え、俺、泣いてた?」
「はい」
心配そうに見つめられ、ありがとうと礼を言い、
「八潮課長は優しい人だから、相談にのってくれただけ。俺の心と身体は君のモノだから」
そう告げると、
「いうねぇ」
「夜久さん!」
八潮課長は口笛を吹き、旭日は照れる。
また、変なことを口にしてしまったのだろうか。目を瞬かせて二人を見ると、八潮が夜久の肩に手を置いた。
「うん、君って、天然なんだね」
「それには同意見です」
どういうことだと、自分が口にしたことを思い浮かべ、身体が燃えるような恥ずかしさを感じる。
「あ、う、あれは……」
「あははは、愛されているねぇ、旭日君」
「はい。八潮課長、先ほどは嫉妬してすみませんでした」
夜久の羞恥心をよそに、二人は握手をして笑い合っていた。
一時間ほど、残業になってしまったが、旭日は食堂で待っていてくれた。
「それじゃ行きましょうか」
「うん」
住まいは地下鉄で一つ駅を超えたところにあり、部屋の中は綺麗に整頓されている。
「おじゃまします」
「ここにどうぞ」
折り畳みの円卓と座布団が敷かれている。
「すぐに用意しますね」
「うん」
椅子に引っ掛けてあるエプロンを手にし、身に着ける。
普段はコックコートを着て厨房に立っているので、エプロンもいいなと後ろ姿を眺める。
「いいね、誰かに料理を作ってもらうのって」
「そうですか」
何かをフライパンで炒める音と、いい匂いがしてくる。
できあがりを楽しみに待っていると、テーブルの上に家庭的な料理が並んでいく。
「うわぁ、すごい」
「夜久さん、酒は?」
「今日はいいや」
目の前にほかほかの料理がある。はやくそれを食べたいと旭日を見る。
「それじゃ、食べましょうか」
「頂きます」
手を合わせて煮物に手を伸ばす。薄味で出汁がしっかりとしみている。
「美味しい」
「よかったです」
他の料理も美味しく、いつも以上に食していた。
「あー、幸せ」
ご機嫌で旭日にもたれかかる。
「満足いただけましたか?」
「うん。お腹いっぱいだよ」
とお腹をさする。
その姿を優しい表情でみている旭日に、食欲が満たされて別の欲がむくむくと湧き上がる。
「旭日君、しようか」
食事を終えたばかりで性急すぎるかと思ったが、自分を押さえることができなそうだ。
「いいんですか?」
「うん。旭日君が欲し……、んっ」
唇が重なり合う。 深く、何度も唇を重ね合い、手を引かれて寝室へと向かう。
「夜久さん、負担をかけてしまいますが、俺のを受け入れてくれますか?」
「うん。そう思っていたから覚悟はできているよ」
「ありがとうございます」
「旭日君、敬語で話さなくていいよ。調理場にいるときが本当の君なんでしょう?」
「えぇ。口が悪いんで、おやっさんが『社会人なんだから、敬語を使うことを学べ』って。調理場では使う余裕がないんで、自がでちゃって」
二人でいる時ぐらい、素でいて欲しい。
「じゃぁ、二人きりの時は遠慮なく」
ベッドに組み敷かれて口づけをする。
旭日の唇が、手が、夜久を蕩かせ、快楽へと導く。
「あさひくん、だいすき」
自分を求め、ぎらつく目を向ける。
このまま食い尽くしてほしい。嬌声をあげながら彼を受け入れるように両腕を背中に回した。
顔を見たかったのに残念だと自動販売機へと向かうと、そこに八潮と話す旭日の姿を見つけた。
声を掛ける前にこちらに気が付き、 八潮が手を挙げた。
「いいところにきたねぇ」
やたらと楽しそうな八潮課長に対し、旭日は機嫌が悪そうだ。
一体どうしたんだろうと隣に立つ。
「夜久君、じつはね、旭日君たら」
「八潮課長っ」
それでなくとも目つきが怖いのに、八潮を見る目は更に凄みを増していた。
「旭日君?」
顔を覗きこめば、ぱっと表情を変えた。目尻をさげて剣がとれる。
「好きな子には可愛い顔をするんだねぇ」
楽しそうな八潮に、悔しそうな旭日。これは、自分と関係をからかっているのだろう。
「あ、夜久君、顔が真っ赤だよ」
にぃ、と口角をあげる。
「なんで、こんなことになってるの」
小声で旭日に問うと、拗ねた表情で夜久を見る。
「え、俺がなにかした?」
「昼休みに、八潮さんに頭を撫でられて嬉しそうだったんで」
あれを見て拗ねてしまったのか。
まさか、そんな可愛い理由だとは。唇がふよふよと緩みだす。
それを見て、旭日にジト目を向けられる。
「旭日君ね、 僕が夜久君のことを好きなんじゃないかって。昨日のこともあるから妬いてたよぉ」
「八潮課長っ」
旭日の顔が真っ赤だ。
嬉しい。妬いて貰えるのが。
幸せだ。愛されていると感じて。
「え、ちょ、夜久君!」
「夜久さん」
二人が驚いた顔をする。
一体どうしたんだろうと首を傾げると、旭日がポケットに突っ込んであったタオルを手にして顔を拭われた。
「え、俺、泣いてた?」
「はい」
心配そうに見つめられ、ありがとうと礼を言い、
「八潮課長は優しい人だから、相談にのってくれただけ。俺の心と身体は君のモノだから」
そう告げると、
「いうねぇ」
「夜久さん!」
八潮課長は口笛を吹き、旭日は照れる。
また、変なことを口にしてしまったのだろうか。目を瞬かせて二人を見ると、八潮が夜久の肩に手を置いた。
「うん、君って、天然なんだね」
「それには同意見です」
どういうことだと、自分が口にしたことを思い浮かべ、身体が燃えるような恥ずかしさを感じる。
「あ、う、あれは……」
「あははは、愛されているねぇ、旭日君」
「はい。八潮課長、先ほどは嫉妬してすみませんでした」
夜久の羞恥心をよそに、二人は握手をして笑い合っていた。
一時間ほど、残業になってしまったが、旭日は食堂で待っていてくれた。
「それじゃ行きましょうか」
「うん」
住まいは地下鉄で一つ駅を超えたところにあり、部屋の中は綺麗に整頓されている。
「おじゃまします」
「ここにどうぞ」
折り畳みの円卓と座布団が敷かれている。
「すぐに用意しますね」
「うん」
椅子に引っ掛けてあるエプロンを手にし、身に着ける。
普段はコックコートを着て厨房に立っているので、エプロンもいいなと後ろ姿を眺める。
「いいね、誰かに料理を作ってもらうのって」
「そうですか」
何かをフライパンで炒める音と、いい匂いがしてくる。
できあがりを楽しみに待っていると、テーブルの上に家庭的な料理が並んでいく。
「うわぁ、すごい」
「夜久さん、酒は?」
「今日はいいや」
目の前にほかほかの料理がある。はやくそれを食べたいと旭日を見る。
「それじゃ、食べましょうか」
「頂きます」
手を合わせて煮物に手を伸ばす。薄味で出汁がしっかりとしみている。
「美味しい」
「よかったです」
他の料理も美味しく、いつも以上に食していた。
「あー、幸せ」
ご機嫌で旭日にもたれかかる。
「満足いただけましたか?」
「うん。お腹いっぱいだよ」
とお腹をさする。
その姿を優しい表情でみている旭日に、食欲が満たされて別の欲がむくむくと湧き上がる。
「旭日君、しようか」
食事を終えたばかりで性急すぎるかと思ったが、自分を押さえることができなそうだ。
「いいんですか?」
「うん。旭日君が欲し……、んっ」
唇が重なり合う。 深く、何度も唇を重ね合い、手を引かれて寝室へと向かう。
「夜久さん、負担をかけてしまいますが、俺のを受け入れてくれますか?」
「うん。そう思っていたから覚悟はできているよ」
「ありがとうございます」
「旭日君、敬語で話さなくていいよ。調理場にいるときが本当の君なんでしょう?」
「えぇ。口が悪いんで、おやっさんが『社会人なんだから、敬語を使うことを学べ』って。調理場では使う余裕がないんで、自がでちゃって」
二人でいる時ぐらい、素でいて欲しい。
「じゃぁ、二人きりの時は遠慮なく」
ベッドに組み敷かれて口づけをする。
旭日の唇が、手が、夜久を蕩かせ、快楽へと導く。
「あさひくん、だいすき」
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このまま食い尽くしてほしい。嬌声をあげながら彼を受け入れるように両腕を背中に回した。
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