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後輩と同期の話を立ち聞きする
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豊来は強引な所もあるが、いつもそういうわけではない。
昼休みも毎日くるわけではなく、仕事で外に出ているときもあるから一週間くらい姿を見ない時もある。
そのときはメールが送られてくる。チャットアプリはやらないと断っているからだ。
今日も静かな昼だ。
自分のペースで昼休みを過ごすのを選んだのだから邪魔されないほうがいいのに、少しだけ寂しさを感じてしまう。
「本を読んでいたのを邪魔されて、キスされたんだよな」
同性にキスをされるなんて思いもよらなかった。
しかも連絡先は勝手に交換しているしGPSのアプリもいれられてしまった。
文辻はごくごく普通の男だ。見た目がいいわけでも面白いわけでもない。それなのに好意を持たれているのだ。
少し前までは苦手な男だった豊来が、今では文辻の中へと入り込んでいる。
「あぁ、もう、本を読むのはあきらめよう」
とても本を読む気分にはなれない。
時間をつぶすのにコンビニでも行こうかとスマートフォンを持ってデスクを離れる。
途中、給湯室がある。
小さなキッチンと冷蔵庫が置かれていて、お茶を用意するために使う場所なので二・三人中にいると窮屈な場所だ。その中に見慣れた姿があった。
豊来だ。それと水守。総務と営業は別フロアなのに何故ここにいるのか。
「お前さ、文辻のこと、やりすぎだぞ」
「またその話しですか? 俺は引くつもりはありませんよ。それに押しに弱いですし」
押せばどうにかなる、そういいたいのか。顔がいいからと誰でも落ちるとはかぎらないのに。
「俺に対してだけですよ。ね、文辻さん」
話を聞いていたのがバレていたのか。豊来が顔をのぞかせる。
「俺は簡単な男じゃないから」
「はい。経理部の文辻さんは簡単じゃありませんよ」
「くっ、むかつく」
豊来の頬を摘まんで引っ張る。言い返そうにも豊来の悪いところが浮かばない。
営業成績は悪くないし、恋人もいただろうし。経験が豊富そうだ。
「こらこら、こいつの顔だけはやめてあげて。武器の一つなんだからさ」
「ふへへ、いいれすよぉ。スキンシュプだいかんれい」
なにをやっても喜ばれるとはどういうことだ。
文辻は手を離すと二人から一歩後ろに下がる。
「今度は俺の番ですよね?」
「やめなさい。どさくさにまぎれて変なところを触りかねないから」
「ところでふたりはどうしてここに?」
「文辻さんに会いに行こうとしたら水守さんに邪魔されてここに連れ込まれたんです」
「だって心配だろうが」
なんか、水守が母親のように見えてきた。
「こいつ、人の好い好青年て感じなのに。文辻が相手だと暴走するし」
文辻だって豊来に対して容姿の優れた人当たりの良い男としか見ていなかった。
どちらかが会社を辞めるか定年になるまで仕事のことでしか関わることはないだろう。
「豊来はさ、なんで俺なんか相手にするんだよ」
「うーん、切っ掛けは水守さんですかね」
「え、俺ぇ?」
自分を指さす水守に豊来は頷いた。
「伝票の締め切りは必ず守れよといいながら、経費で落ちない伝票を締め切り過ぎた後に持っていくから気になって」
「ほぉん」
「文辻って懐かない猫みたいじゃないか」
「あ、わかります。人慣れしていないみたい猫」
「随分な言い方だな、お前ら」
人見知りという訳ではない。同じ課の人とは仕事以外でも話をする。水守以外の同期の女子とだって席が近いからよく話す。
友達の多さと言われたら、少ないほうだろうが。
「で、懐かせたいと?」
腕を組んで二人を睨めば、
「たまに一緒に遊んでくれたら嬉しいかも」
「俺にだけ甘えてほしいですね」
返事の意味はわかりますよね、と豊来に言われてしまう。
水守は友達として、豊来は……。
「そもそも俺は猫じゃないし」
返事をしたくないからそう口にしたのに、頬が熱い。
「これは期待してもいい感じですかね」
「いや、ほだされてるだけだろ」
「どっちでもない。お前ら、一つ下のフロアだろ、自分のところの給湯室を使え」
「今更そこですか」
「はは、照れるな」
二対一では勝ち目がない。
「もういい」
いつものように逃げようと思ったのに、手を握りしめられてしまう。
「水守さん。ふたりになりたいんで」
「無理やり何かするようなことはないようにな」
「わかってます」
文辻ではなく水守が給湯室から出ていき、豊来に両腕を掴まれていた。
「無理やりはよくないぞ」
「でも文辻さんは好きですよね、こういうの」
いつ、好きだといった!
こういうシチュエーションに慣れていないから戸惑ってしまうだけだ。
「どうせ俺は押せば何とかなる男だよ」
「おや、簡単ではないのでは?」
「揚げ足を取るな」
豊来は文辻のペースを崩してくれる。
迷惑だけど、ひとりだった頃よりも少しだけ楽しいと思う自分がいる。
「で、何で顔が近づいている訳?」
「え、ここはキスする流れじゃ」
豊来がよせる想いと自分の想いはまだ同じではないだろう。
「こんなところでする気か」
いつ、誰がこの前を通るか解らない。
「それならあそこへ行きましょう」
そういうとトイレの個室へと連れていかれて唇を奪われた。
昼休みも毎日くるわけではなく、仕事で外に出ているときもあるから一週間くらい姿を見ない時もある。
そのときはメールが送られてくる。チャットアプリはやらないと断っているからだ。
今日も静かな昼だ。
自分のペースで昼休みを過ごすのを選んだのだから邪魔されないほうがいいのに、少しだけ寂しさを感じてしまう。
「本を読んでいたのを邪魔されて、キスされたんだよな」
同性にキスをされるなんて思いもよらなかった。
しかも連絡先は勝手に交換しているしGPSのアプリもいれられてしまった。
文辻はごくごく普通の男だ。見た目がいいわけでも面白いわけでもない。それなのに好意を持たれているのだ。
少し前までは苦手な男だった豊来が、今では文辻の中へと入り込んでいる。
「あぁ、もう、本を読むのはあきらめよう」
とても本を読む気分にはなれない。
時間をつぶすのにコンビニでも行こうかとスマートフォンを持ってデスクを離れる。
途中、給湯室がある。
小さなキッチンと冷蔵庫が置かれていて、お茶を用意するために使う場所なので二・三人中にいると窮屈な場所だ。その中に見慣れた姿があった。
豊来だ。それと水守。総務と営業は別フロアなのに何故ここにいるのか。
「お前さ、文辻のこと、やりすぎだぞ」
「またその話しですか? 俺は引くつもりはありませんよ。それに押しに弱いですし」
押せばどうにかなる、そういいたいのか。顔がいいからと誰でも落ちるとはかぎらないのに。
「俺に対してだけですよ。ね、文辻さん」
話を聞いていたのがバレていたのか。豊来が顔をのぞかせる。
「俺は簡単な男じゃないから」
「はい。経理部の文辻さんは簡単じゃありませんよ」
「くっ、むかつく」
豊来の頬を摘まんで引っ張る。言い返そうにも豊来の悪いところが浮かばない。
営業成績は悪くないし、恋人もいただろうし。経験が豊富そうだ。
「こらこら、こいつの顔だけはやめてあげて。武器の一つなんだからさ」
「ふへへ、いいれすよぉ。スキンシュプだいかんれい」
なにをやっても喜ばれるとはどういうことだ。
文辻は手を離すと二人から一歩後ろに下がる。
「今度は俺の番ですよね?」
「やめなさい。どさくさにまぎれて変なところを触りかねないから」
「ところでふたりはどうしてここに?」
「文辻さんに会いに行こうとしたら水守さんに邪魔されてここに連れ込まれたんです」
「だって心配だろうが」
なんか、水守が母親のように見えてきた。
「こいつ、人の好い好青年て感じなのに。文辻が相手だと暴走するし」
文辻だって豊来に対して容姿の優れた人当たりの良い男としか見ていなかった。
どちらかが会社を辞めるか定年になるまで仕事のことでしか関わることはないだろう。
「豊来はさ、なんで俺なんか相手にするんだよ」
「うーん、切っ掛けは水守さんですかね」
「え、俺ぇ?」
自分を指さす水守に豊来は頷いた。
「伝票の締め切りは必ず守れよといいながら、経費で落ちない伝票を締め切り過ぎた後に持っていくから気になって」
「ほぉん」
「文辻って懐かない猫みたいじゃないか」
「あ、わかります。人慣れしていないみたい猫」
「随分な言い方だな、お前ら」
人見知りという訳ではない。同じ課の人とは仕事以外でも話をする。水守以外の同期の女子とだって席が近いからよく話す。
友達の多さと言われたら、少ないほうだろうが。
「で、懐かせたいと?」
腕を組んで二人を睨めば、
「たまに一緒に遊んでくれたら嬉しいかも」
「俺にだけ甘えてほしいですね」
返事の意味はわかりますよね、と豊来に言われてしまう。
水守は友達として、豊来は……。
「そもそも俺は猫じゃないし」
返事をしたくないからそう口にしたのに、頬が熱い。
「これは期待してもいい感じですかね」
「いや、ほだされてるだけだろ」
「どっちでもない。お前ら、一つ下のフロアだろ、自分のところの給湯室を使え」
「今更そこですか」
「はは、照れるな」
二対一では勝ち目がない。
「もういい」
いつものように逃げようと思ったのに、手を握りしめられてしまう。
「水守さん。ふたりになりたいんで」
「無理やり何かするようなことはないようにな」
「わかってます」
文辻ではなく水守が給湯室から出ていき、豊来に両腕を掴まれていた。
「無理やりはよくないぞ」
「でも文辻さんは好きですよね、こういうの」
いつ、好きだといった!
こういうシチュエーションに慣れていないから戸惑ってしまうだけだ。
「どうせ俺は押せば何とかなる男だよ」
「おや、簡単ではないのでは?」
「揚げ足を取るな」
豊来は文辻のペースを崩してくれる。
迷惑だけど、ひとりだった頃よりも少しだけ楽しいと思う自分がいる。
「で、何で顔が近づいている訳?」
「え、ここはキスする流れじゃ」
豊来がよせる想いと自分の想いはまだ同じではないだろう。
「こんなところでする気か」
いつ、誰がこの前を通るか解らない。
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