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元・副会長だった僕は卒業する

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元・副会長だった僕は卒業する

 僕の学園生活を聞いて欲しい。

 一年の時、憧れていた生徒会の役員に選ばれ、とても誇らしくて自分を認めて貰えたことがとても嬉しかった。

 学園の為にと先輩方に必死についていった。

 二年に上がり生徒会副会長というポジションを手に入れた時は、会長を支えるために全力で頑張ろうと、帰りが遅くなるのも厭わなかった。

 だが、二学期の半ばにやってきた一人の転校生が僕の人生を狂わせた。

 もじゃもじゃ頭の瓶底眼鏡をした、天真爛漫な一年生。

 この学園の生徒は裕福な家庭の者が多いので身だしなみもきちんとしている。故にその姿は衝撃だった。

 しかも上級生に対する礼儀は無く、誰に対してもタメ口で、すぐに友達になろうとする。

 それを人懐っこいと好意的に思う者は彼に惹かれ、気にくわないと思う者はとことん嫌った。

 僕は惹かれた方の一人だ。

 今まで彼のような存在は周りにおらず、一緒にいることが楽しくて夢中になった。

 憧れていた生徒会。その仕事を蔑にしてまで僕は彼といることを望んでしまったのだ。

 リコールされたのは二学期の半ば。体育祭が終わり、生徒会の仕事が一先ず落ち着く頃であった。

 その頃、転校生が起こした不祥事の数々により、彼とそれを揉み消してきた叔父である学園長が去ることになった。

 解っていた。転校生がしていることは良くないことだと。生徒会長が仲良くなってくれないといっては暴れ、風紀が邪魔をするといっては暴れ、不良に囲まれては暴れていたのだから。

 僕は荒っぽいことが苦手なのでそれ自体には関わっていないが、副会長という立場を利用して庇っていた。風紀と生徒会を敵に回しても僕は転校生を守るつもりであった。

 それでも会長は僕に戻ってこいと手を差し伸べてくれたのに、その時は転校生しか見えておらず、その手を振り払ってしまったのだ。

 そして、僕は副会長の座をリコールというかたちで失った。

 僕と親衛隊の間は転校生のこともあり、ぎくしゃくしていた。そこにリコールだ。隊は解散し彼らは去って行った。

 残ったのはリコールをされた元・副会長という不名誉な言葉だけ。

 元々、仲の良い者などもいない。しかも転校生に夢中になっていた頃の僕を皆知っている。

 独占したくて常に傍にいたし、馴れ馴れしい相手には牽制したものだ。

 嫌な奴、周りからそう思われているのも解っていた。だが、それでも、僕にとっては転校生が全てだったんだ。

 誰にも相手にされなくなり、三年に上がると自分は存在していないんじゃないかと思う程、空気と同化していた。

 成績も落ち、生徒会のこもあって親からは見放されてしまった。

 苦しくて辛い学園生活。

 生徒会長の隣には新しい副会長が並ぶ。僕が仕事をしない間、代わりに会長を支えてきた者だ。

 献身なその姿は、生徒会入りを果たして頑張っていた頃の僕を思い出させる。

 どうして、僕はこうなってしまったんだろう。

 見た目の地味な現・副会長。でも今の僕には彼が眩しすぎて直視できなかった。

 誰にも見られたくない。僕は出来るだけ人のいない場所で過ごす様になった。

 今までは生徒会専用の食堂で、一流シェフの作ったランチであったが、今は購買部のパンが主に僕のお昼ご飯だ。

 外のベンチに座りパンをかじる。

 この頃はあまり味を感じなくなり、食べる量も減ったため、体重はあの頃と比べて5キロ減った。

 もともと細かった身体は今ではアバラが浮き上がり、白く艶のある美しい肌は荒れいるし青白くて不健康的な色をしていた。

 サラサラでさわり心地の良い髪は、今では手入れも怠り適当に伸ばして一つに束ねている。

 華があった。生徒会に居た頃は。だが、今では見る影もない。

 だが、みじめな学園生活もこれでおしまい。今日は卒業式だから。

 式を終え、花道を歩くが僕に誰も「おめでとう」と声を掛けてこない。

 あの日から、ここから出ていくことだけを考えていた。だけど寂しい。

 はやく校門をでてしまいたい。

 目頭が熱く、それが零れ落ちぬ前に……。

「卒業おめでとう」

 その声に足が止まる。

 まさか、それは僕に言っているの?

 その声がした方へと顔を向けると、そこに居たのは生徒会の担当の教師だ。

「先生……」

 自由な校風とうたっているだけあり、教師が普段はホストのような恰好をしていても何も言われない。だが今

 だが今日は流石に落ち着いたスーツとシャツを着ており、普段は絞めていないネクタイをしていた。

「なんだ、いつもは俺のことを冷ややかな目で見て来るくせに」

 僕は先生が苦手だ。馴れ馴れしくしてくるから。つい、冷たい目で見てしまうのはそのせいだった。

 だけどいつもと雰囲気が違うし、大人の男と意識してしまうような魅力を感じる。

 調子が狂う。

 目を見開いたままの僕に、先生の指が目の下を撫でた。

「泣くな」
「え?」

 泣いてなんかいない。目を瞬かせると、頬を伝うものに気がついた。

 先生が困った顔をしている。

 そう思えば、先生には泣き顔ばかり見られている気がする。

 初めは、生徒会入りをしたとき。

 嬉しくて泣いていたのを見られた。

 次は転校生に好きと言われた時。まぁ、彼にとっては友達として好きという意味だったが、それが特別なモノと感じて泣いていた所を見られた。

 そして転校生が学園を退学になった時。自分に何も言わずに去ってしまったことが悲しくて泣いた。

 その時、先生に抱きしめられた。ほんのりと香水の匂いがして、それが意外と好きな匂いだったなと思いだす。

「せんせぇ、僕……」
「おいで」

 手を掴まれひとけの無い場所へと連れて行かれる。

 そして先生に抱きしめられた。

「お前は気持ちに真っ直ぐすぎて周りが見えてなかっただけだ」

 優しく背中を撫でられて嗚咽が止まらなくなる。

「そんなお前が放っておけなかった」

 とキスされた。

「先生っ」

 びっくりして涙が一瞬で引っ込んだ。

「泣いているお前より、笑っている方が良い」

 その優しさはずるい。

 折角止まった涙が再びあふれ出る。

「まいったな。卒業式は笑顔にしてやろうと思っていたのに」
「先生」

 最後に卒業証書と共に暖かいものを貰った。

「今日で学園ここは卒業だけど、俺からは卒業させねぇから」

 これからが始まりだと抱きしめられ、僕はその暖かさに身をゆだねた。







 あれから僕は先生と一緒に住んでいる。

 卒業と同時に親から「大学までは行かせてやるが、家からは出て行け」と言われたからだ。

 贅沢な暮らしは出来ないけれど、今まで味わったことのない幸せがある。

 食事も三食しっかり摂るようになり、僕の体重は元に戻り肌艶も良くなってきた。

 今まで家事などしたことが無かったが、少しずつやるようにしている。だってそこまで先生に甘えるわけにはいかないから。

 はじめて作った料理は目玉焼きだった。

 それすらまともに焼けなくて泣きそうになった僕を、先生は大丈夫だよと頭を撫でて慰めてくれた。

 今では卵焼きだって焼けるようになった。

 そうそう、つい最近、転校生にばったり会った。

 彼は以前と変わっておらず、周りの子を振り回して生きているみたい。

 今更だけど、あんな自分勝手な子に想いを寄せていたんだろう。まぁ、それが解るようになったのは、今は先生に恋をしているから。冷静に見れるようになったってことなんだろうね。

 あとね、大学で友達が出来た。

 なんと、僕の後に副会長になったあの地味な子だ。

 話してみるとすごく良い子で、会長のことを話しながらキャッキャとしている。

 あ、二人はお付き合いしているんだって。

 先生は何となく気が付いていたようで、そうかと言って笑っていた。

「僕を救ってくれてありがとうございます。そして、僕を愛してくれてありがとうございます」

 先生の広い背中に寄りかかりそう言うと、僕の頭を撫でながら俺もだと抱きしめてくれる。

 学園に居た頃は笑えなかった僕が今は笑顔でいられるのは、卒業式に僕に手を差し伸べてくれたからだ。

「俺の手を掴んでくれたことに感謝する。笑顔を見せてくれて、隣で笑ってくれていて……、感謝する」

 あぁ、なんて幸せなんだろう。

 僕は先生の温もりを感じながら唇に笑みを浮かべた。
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