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飲みに行く約束
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朝、渡部さんからのメールが届く。
風邪が良くなったという事と、昼に電話しますという連絡だった。
前も時間を気にしてそわそわとしたときがあった。時計の針が十二時をさし、電話がいつ鳴るかと待っていた。
そのせいか、いざ、電話が鳴り緊張してしまい、出た時に声が少し上擦いてしまっていた。
「はい、穂高です」
『恭介君、渡部です。この前はお見舞いありがとうございました』
「いいえ! 俺の方こそすっかりご馳走になっちゃって。風邪も良くなったとのことで安心しました」
実はメールを貰う前から久遠に渡部さんの体調の事は聞いていた。二日ほど休んだそうだが、もう大丈夫だと言っていた。
本人の元気そうな声を聴けてほっとした。
「良かったです」
『久遠に聞きましたよ。心配してくれていた事』
久遠の奴、渡部さんに話すなよって言ったのに。
「俺のせいですし」
『またそんな事を言って。自己責任ですから』
と言った後に、
『では……、今晩おごってくださいませんか?』
それでこの話はおしまいですよと、そうすることで俺が気を病む事のないようにと言ってくれたのだろう。また気を遣わせてしまった。
すみませんと言いかけて俺は慌てて口を塞ぐ。また謝ってしまったら渡部さんの気遣いが無駄になってしまうからだ。
「はい。奢らせて頂きますっ」
おもわず、気合の入った返事と共に拳を握りしめて高く突き上げていた。
これ、見られていたら恥ずかしいやつだ。一人きりで良かった。
『楽しみにしてますね』
待ち合わせの場所と時間を決め、また後でと言って通話を切る。
久しぶりに渡部さんと飲める事が嬉しくて、鼻歌を歌いだしそうなほどのテンションの俺に、保健室に遊びに来た勇人がまるで変なものを見るような目をしていた。
※※※
待ち合わせをしていたバーにはすでに渡部さんの姿があり、これでも早めに家を出たはずなのに、いつも先に来て俺を待っている。
「すみません、待たせてしまって」
「いえ、私もここに着いたばかりですから」
本当はかなり前から待っているのではないだろうか。渡部さんならありえそう。
「さあ、行きましょうか」
その後、軽く食事をして華矢の所へ行く。
邪魔にならない音楽と落ち着いた内装。いつ来てもこの店の雰囲気は良い。
渡部さんもここが気に入ったそうで、よくこの店にくるのだという。
カウンター席に座ると、俺達に気が付いて華矢が声を掛けてきた。
「いらっしゃい」
「よ、華矢」
「こんにちは、華矢さん」
俺は軽く手を挙げ挨拶をし、渡部さんは小さくお辞儀をする。
「渡部さん、この前はありがとうございました」
「いえ、私こそ。ご一緒で来て楽しかったです」
俺の前で突然始まる二人の間でしかわからない会話。
胸にもやっとしたものを感じて二人の会話の間にはいりこもうと口を開く。
「あれ、二人で何処に行ったんですか?」
華矢と渡部さんを交互に見れば、
「まぁね」
と意味ありげに華矢が言う。
もし、俺には関係ないと言われたらそれまでだ。だが、なんだかそれが面白くなくてムキになる。
「教えろよ」
何故か俺を見て華矢が笑う。それが余計に頭に血を上らせる。だが、聞きだす前に客に呼ばれて行ってしまった。
彼女はこの店のバーテンダーなのだから仕方がない。だが、この時ばかりは呼んだ客にさえ腹が立った。
渡部さんに理由を尋ねたら、華矢の事がやはり好きなんだろうと勘違いされそうで嫌だ。俺はモヤモヤとした気持ちのまま、カクテルを何杯もあけた。
風邪が良くなったという事と、昼に電話しますという連絡だった。
前も時間を気にしてそわそわとしたときがあった。時計の針が十二時をさし、電話がいつ鳴るかと待っていた。
そのせいか、いざ、電話が鳴り緊張してしまい、出た時に声が少し上擦いてしまっていた。
「はい、穂高です」
『恭介君、渡部です。この前はお見舞いありがとうございました』
「いいえ! 俺の方こそすっかりご馳走になっちゃって。風邪も良くなったとのことで安心しました」
実はメールを貰う前から久遠に渡部さんの体調の事は聞いていた。二日ほど休んだそうだが、もう大丈夫だと言っていた。
本人の元気そうな声を聴けてほっとした。
「良かったです」
『久遠に聞きましたよ。心配してくれていた事』
久遠の奴、渡部さんに話すなよって言ったのに。
「俺のせいですし」
『またそんな事を言って。自己責任ですから』
と言った後に、
『では……、今晩おごってくださいませんか?』
それでこの話はおしまいですよと、そうすることで俺が気を病む事のないようにと言ってくれたのだろう。また気を遣わせてしまった。
すみませんと言いかけて俺は慌てて口を塞ぐ。また謝ってしまったら渡部さんの気遣いが無駄になってしまうからだ。
「はい。奢らせて頂きますっ」
おもわず、気合の入った返事と共に拳を握りしめて高く突き上げていた。
これ、見られていたら恥ずかしいやつだ。一人きりで良かった。
『楽しみにしてますね』
待ち合わせの場所と時間を決め、また後でと言って通話を切る。
久しぶりに渡部さんと飲める事が嬉しくて、鼻歌を歌いだしそうなほどのテンションの俺に、保健室に遊びに来た勇人がまるで変なものを見るような目をしていた。
※※※
待ち合わせをしていたバーにはすでに渡部さんの姿があり、これでも早めに家を出たはずなのに、いつも先に来て俺を待っている。
「すみません、待たせてしまって」
「いえ、私もここに着いたばかりですから」
本当はかなり前から待っているのではないだろうか。渡部さんならありえそう。
「さあ、行きましょうか」
その後、軽く食事をして華矢の所へ行く。
邪魔にならない音楽と落ち着いた内装。いつ来てもこの店の雰囲気は良い。
渡部さんもここが気に入ったそうで、よくこの店にくるのだという。
カウンター席に座ると、俺達に気が付いて華矢が声を掛けてきた。
「いらっしゃい」
「よ、華矢」
「こんにちは、華矢さん」
俺は軽く手を挙げ挨拶をし、渡部さんは小さくお辞儀をする。
「渡部さん、この前はありがとうございました」
「いえ、私こそ。ご一緒で来て楽しかったです」
俺の前で突然始まる二人の間でしかわからない会話。
胸にもやっとしたものを感じて二人の会話の間にはいりこもうと口を開く。
「あれ、二人で何処に行ったんですか?」
華矢と渡部さんを交互に見れば、
「まぁね」
と意味ありげに華矢が言う。
もし、俺には関係ないと言われたらそれまでだ。だが、なんだかそれが面白くなくてムキになる。
「教えろよ」
何故か俺を見て華矢が笑う。それが余計に頭に血を上らせる。だが、聞きだす前に客に呼ばれて行ってしまった。
彼女はこの店のバーテンダーなのだから仕方がない。だが、この時ばかりは呼んだ客にさえ腹が立った。
渡部さんに理由を尋ねたら、華矢の事がやはり好きなんだろうと勘違いされそうで嫌だ。俺はモヤモヤとした気持ちのまま、カクテルを何杯もあけた。
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