1 / 10
出逢い
しおりを挟む
お互い、いまだ恋人はおらず、居酒屋で飲む時はいつも仕事の話や昔話が主になる。
今日も、高校の時からの友人であり、しょっちゅう飲みに行く筧秀一郎との会話は、職場の上司の事、そしてつい最近では片思いの相手の話も加わった。
二人には一度も会ったことが無い。だが、話によく聞くせいか、知り合いのように感じてしまう。
秀一郎の会話の中でよく登場する上司の人には一度も会ったことが無いのだが、知り合いのように感じてしまうほどだ。
特に上司の人は気になる。養護教諭である自分には仕事の相談する相手が学校の中におらず、それ故に憧れる。
ほんわかとしていて優しくて、仕事の事以外にも相談事ものってくれるなんて、なんて理想的なんだろう。
秀一郎が片思いをしている子がその人と知り合いらしく、よく相談にのってもらっていると話していたっけ。
「いい上司と巡り合えたな」
余程、慕っているようで、いつも自慢げに上司の事を話すものだから、その方に会ってみたいと思ったほどだ。
それだけに秀一郎が羨ましく思い、一度でいいから渡部さんに会ってみたいとすら思ったほどだ。
そろそろ店を出ようということになり、今日は俺がおごるよと秀一郎に外で待っていてと先にいかせる。
代金を支払い外へ出れば、秀一郎と上背のある男二人と何かを話していた。
一人は淡いブルーのシャツとジャケットという姿で眼鏡を掛けており、もう一人は金髪で耳に何個もピアスをしたライダースジャケットを着た目つきの悪い男だった。
眼鏡の男だけなら、秀一郎の会社の同僚かと思えただろう。だが、もう一人はどうみても普通のサラリーマンとは思えない。
秀一郎は中世的な顔達をしており、女性が着てもおかしくないような恰好を好んでする。
それゆえか、女性と勘違いをした酔っ払いによく絡まれたりする。今日もその類かと思い秀一郎と男達の間に割って入った訳だ。
「俺の連れに何か用ですか?」
自分よりも頭一つ分ほど身長の高い眼鏡の男を睨みつければ、
「恭くん大丈夫だよ、二人とも知り合いだから」
と後ろから秀一郎が肩を叩く。
「……え?」
「渡部さんと悠馬くん」
耳元でこそっと教えてくれる。
「秀一郎の上司さんと片思い中の……」
瞬きをしながら二人をゆっくりと指さしていく。
俺の呟きが聞こえたか、目つきの悪い金髪元い乍君が嫌そうな顔をする。
「今晩は。私は筧君の上司の渡部雅史と言います。こちらは筧君の想い人である乍悠馬《ながらゆうま》君です」
ふふっと笑いながら、そう紹介をする渡部さんに、秀一郎がやめてくださいよと頬を赤く染め、乍君がふざけんなと睨みつける。
「帰る」
と言ってポケットに手を突っ込んで駅の方へ向かって行ってしまった。
「え、悠馬くん」
心底悲しそうに名を呼びながら手を伸ばす秀一郎に、渡部がごめんねと手を合わせて謝る。
「少しからかいすぎちゃいましたかね」
いつもああなんですよと、渡部さんは苦笑いをしながら俺の方へと視線を向ける。
「すみません、ご挨拶の途中だったのに」
「いえ。俺は筧とは高校からの付き合いで、穂高恭介といいます」
宜しくお願いしますねとお互いに握手をし、がっかりとしている秀一郎を肩を励ますようにぽんと叩く。
「うう、こうなった原因の渡部さんには責任とってもらいますからね」
俺と渡部さんの腕を掴んで別の居酒屋へと向かって歩き出す秀一郎に、
「はい、お付き合いしますよ。まだ飲んでないので。穂高君、この後の御予定とか大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
ずっと秀一郎の話でしか知らなかった渡部さんと話を出来るチャンスなのだ。是非にでもご一緒したい。
「楽しみです」
そう、ふわりと笑う渡部さんを見ていたら、なんだか心が温かくなってきた。
渡部さんは優しく暖かい人。眼鏡の奥の目は穏やかで優しい色をしている。しかも話上手の聞き上手でもある。
話が弾み、酒も進む。
つい楽しくて、明日も仕事だというのにこの時間を終わらせたくないと思うほどだ。
「もう、のめませぇん」
酔っぱらった秀一郎が、突然帰ると立ち上がり、俺達は一緒に店を出る。
「責任をとれっていったの誰だよ」
「おれでぇ~す」
可愛い子ぶって、こてっと首を傾かせて手をあげる。
そして、当の本人は笑いながらタクシーに乗り込み、さっさと帰ってしまった。
俺達は秀一郎の付き合いで飲んでいた訳で、本人が居なくなってしまったのだからお開きにすべきだろう。だが、もう少しだけ渡部さんと話をしながら飲みたいという気持ちもある。
「どうしますか?」
俺の方からはお開きにしようとは言わず、渡部さんの返答次第に任せる。
「穂高君さえよければ、もうすこし付き合ってくれますか?」
と俺が望む方の返事をくれた。
「はい、喜んで」
「よかった。じゃぁ、行きましょうか」
今度は落ち着いた場所で飲みたいということになり、渡部さんのおすすめのバーへと向かう事になった。
今日も、高校の時からの友人であり、しょっちゅう飲みに行く筧秀一郎との会話は、職場の上司の事、そしてつい最近では片思いの相手の話も加わった。
二人には一度も会ったことが無い。だが、話によく聞くせいか、知り合いのように感じてしまう。
秀一郎の会話の中でよく登場する上司の人には一度も会ったことが無いのだが、知り合いのように感じてしまうほどだ。
特に上司の人は気になる。養護教諭である自分には仕事の相談する相手が学校の中におらず、それ故に憧れる。
ほんわかとしていて優しくて、仕事の事以外にも相談事ものってくれるなんて、なんて理想的なんだろう。
秀一郎が片思いをしている子がその人と知り合いらしく、よく相談にのってもらっていると話していたっけ。
「いい上司と巡り合えたな」
余程、慕っているようで、いつも自慢げに上司の事を話すものだから、その方に会ってみたいと思ったほどだ。
それだけに秀一郎が羨ましく思い、一度でいいから渡部さんに会ってみたいとすら思ったほどだ。
そろそろ店を出ようということになり、今日は俺がおごるよと秀一郎に外で待っていてと先にいかせる。
代金を支払い外へ出れば、秀一郎と上背のある男二人と何かを話していた。
一人は淡いブルーのシャツとジャケットという姿で眼鏡を掛けており、もう一人は金髪で耳に何個もピアスをしたライダースジャケットを着た目つきの悪い男だった。
眼鏡の男だけなら、秀一郎の会社の同僚かと思えただろう。だが、もう一人はどうみても普通のサラリーマンとは思えない。
秀一郎は中世的な顔達をしており、女性が着てもおかしくないような恰好を好んでする。
それゆえか、女性と勘違いをした酔っ払いによく絡まれたりする。今日もその類かと思い秀一郎と男達の間に割って入った訳だ。
「俺の連れに何か用ですか?」
自分よりも頭一つ分ほど身長の高い眼鏡の男を睨みつければ、
「恭くん大丈夫だよ、二人とも知り合いだから」
と後ろから秀一郎が肩を叩く。
「……え?」
「渡部さんと悠馬くん」
耳元でこそっと教えてくれる。
「秀一郎の上司さんと片思い中の……」
瞬きをしながら二人をゆっくりと指さしていく。
俺の呟きが聞こえたか、目つきの悪い金髪元い乍君が嫌そうな顔をする。
「今晩は。私は筧君の上司の渡部雅史と言います。こちらは筧君の想い人である乍悠馬《ながらゆうま》君です」
ふふっと笑いながら、そう紹介をする渡部さんに、秀一郎がやめてくださいよと頬を赤く染め、乍君がふざけんなと睨みつける。
「帰る」
と言ってポケットに手を突っ込んで駅の方へ向かって行ってしまった。
「え、悠馬くん」
心底悲しそうに名を呼びながら手を伸ばす秀一郎に、渡部がごめんねと手を合わせて謝る。
「少しからかいすぎちゃいましたかね」
いつもああなんですよと、渡部さんは苦笑いをしながら俺の方へと視線を向ける。
「すみません、ご挨拶の途中だったのに」
「いえ。俺は筧とは高校からの付き合いで、穂高恭介といいます」
宜しくお願いしますねとお互いに握手をし、がっかりとしている秀一郎を肩を励ますようにぽんと叩く。
「うう、こうなった原因の渡部さんには責任とってもらいますからね」
俺と渡部さんの腕を掴んで別の居酒屋へと向かって歩き出す秀一郎に、
「はい、お付き合いしますよ。まだ飲んでないので。穂高君、この後の御予定とか大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
ずっと秀一郎の話でしか知らなかった渡部さんと話を出来るチャンスなのだ。是非にでもご一緒したい。
「楽しみです」
そう、ふわりと笑う渡部さんを見ていたら、なんだか心が温かくなってきた。
渡部さんは優しく暖かい人。眼鏡の奥の目は穏やかで優しい色をしている。しかも話上手の聞き上手でもある。
話が弾み、酒も進む。
つい楽しくて、明日も仕事だというのにこの時間を終わらせたくないと思うほどだ。
「もう、のめませぇん」
酔っぱらった秀一郎が、突然帰ると立ち上がり、俺達は一緒に店を出る。
「責任をとれっていったの誰だよ」
「おれでぇ~す」
可愛い子ぶって、こてっと首を傾かせて手をあげる。
そして、当の本人は笑いながらタクシーに乗り込み、さっさと帰ってしまった。
俺達は秀一郎の付き合いで飲んでいた訳で、本人が居なくなってしまったのだからお開きにすべきだろう。だが、もう少しだけ渡部さんと話をしながら飲みたいという気持ちもある。
「どうしますか?」
俺の方からはお開きにしようとは言わず、渡部さんの返答次第に任せる。
「穂高君さえよければ、もうすこし付き合ってくれますか?」
と俺が望む方の返事をくれた。
「はい、喜んで」
「よかった。じゃぁ、行きましょうか」
今度は落ち着いた場所で飲みたいということになり、渡部さんのおすすめのバーへと向かう事になった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう
乃木のき
BL
母親の再婚によってあまーい名前になってしまった「佐藤蜜」は入学式の日、担任に「おいしそうだね」と言われてしまった。
周防獅子という負けず劣らずの名前を持つ担任は、ガタイに似合わず甘党でおっとりしていて、そばにいると心地がいい。
初恋もまだな蜜だけど周防と初めての経験を通して恋を知っていく。
(これが恋っていうものなのか?)
人を好きになる苦しさを知った時、蜜は大人の階段を上り始める。
ピュアな男子高生と先生の甘々ラブストーリー。
※エブリスタにて『sugar sugar honey』のタイトルで掲載されていた作品です。
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる