短編集

希紫瑠音

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素直になれない恋心

白(1)

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 先輩に付き合って行ったペットショップで一目ぼれをした。

 ふわふわで真っ白な子猫が愛くるしい目で僕を見る。

 ガラス越しにじっと見つめていたら、店員さんが、

「抱いてみませんか?」

 と俺に子猫を優しく抱き移すと大人しく僕の腕の中に納まって、にぁと鳴いた。

 その瞬間、心臓を打ち抜かれた。





 パソコンの画面を睨みながら俺は猫の名前を考えていた。

 大切なうちの子の名前だ。良い名をつけてあげたい。

「キョウちゃん、ねぇ、恭太郎きょうたろうってばっ」

 袖を引っ張られて画面から目を離してそちらを向く。

 幼馴染の高次たかつぐが唇を尖らせる。

「さっきからパソコンとにらめっこしてて、つまんない」

 俺よりも頭一つ分背が高くて男前なのに、甘えん坊なところがある。

 学生だった頃、女の子たちはそういうギャップがたまらないとか言っていたけれど、鬱陶しいだけなんだけどな。

「つまらないなら帰れ。俺はこの子の名前を考えるのに忙しいし」

 膝の上で大人しく丸くなる子猫を撫でながら再び画面に視線を向ける。

 だが、またそれを高次に邪魔される。

「ヤダ、俺の相手もしてよぉ」

 後から抱きしめられて、俺は座椅子代わりに高次に寄りかかった。

「これ、良い」
「うわぁん、俺は座椅子じゃなもん」

 手が服の下にはいり、俺の肌を撫でていく。

 俺がくすぐったがりなの解ってて、たまにこういう風に触ってくる。

「高次、これ以上さわったら追い出す」

 手の甲を抓ってやれば、痛いといって手が抜ける。

「お前は大人しく座椅子になっとけ」
「ひどいよぉ」

 めそめそと泣き出すイケメン。あぁ、マジで鬱陶しい。

「ごめんね。鬱陶しいよねぇ」

 子猫を抱いて頬ずりをすれば、いいなという声が耳元で聞こえる。

 可愛くもないお前に頬ずりするかよ。

 振り向けば嬉しそうな顔をする高次に、デコピンを食らわす。

「いたっ」
「お前にはそれで十分」

 フンと鼻を鳴らして画面へ向ける。

 そこである漢字に目が留まる。

「雪って良いかも」

 そう呟いたのは俺じゃなくて高次で、同じことを思っていたようだ。

「平仮名で、ゆき、こゆき、わたゆき……」
「わたゆきがいい」

 真っ白でほわほわで可愛い。

「じゃぁ、わたゆきちゃんで決定だね」

 よろしくねと、後ろからわたゆきを撫でる高次。

「俺とキョウちゃんが名付け親ってことだよねぇ」

 やたら嬉しそうに言う高次に、

「お前は関係ないから」

 と腹に肘鉄をして離れる。

「うぐっ」

 そのまま倒れ込んで拗ねだした。

 少しやりすぎたか。

 これ以上、鬱陶しくなられても困るので、こいつの好物でも作ってやろうかな。

 そうすれば機嫌が良くなるからだ。

「高次、拗ねてないで手伝え」
「うん」

 起きあがって俺の後をついてくる。

 思えば幼稚園の時からずっとそうだ。

 就職先は流石に別々になったが、暇さえあればうちにくるし、くっついてくる。

 いつか高次にもそういう相手が出来るだろうな。

 なんか寂しとか思ってしまって、その考えを否定する。

 一生、面倒なんて見てやれない。俺だっていつか結婚して家庭を持つのだから。

「ねぇ、キョウちゃん、今日、一緒に寝てもいい?」
「嫌だね」

 高次と寝るとがっちりとホールドされてしまうから寝苦しくて嫌だ。

「そんなぁ」

 しょんぼりと肩を落として潤んだ目でこちらをみる。

 そんな顔をされても駄目なものは駄目だ。自分の安眠の方が大切だからな。

「泊めてはやるけど寝るのは別々な。それが嫌なら帰れ」

 どうせこの幼馴染は俺の言う事なんて聞かないんだ。

 別々に寝ていても、朝、必ず隣で寝ている。

 それでも泊めてやるんだから、俺もこいつには甘いよな。





 わたゆきを飼う事に決めた時、先輩にはいろいろとお世話になった。お礼に食事に誘おうかと思っていたら、わたゆきを見たいというので、ならばと宅飲みをすることになった。

 高次には家に来るなと言ってある。邪魔されたら嫌だからな。

 先輩の猫の話からはじまり、恋人の話となった。実は相手は男の人で俺よりも二つ年下だ。

 スマホで撮った写真を見せて貰ったんだけど、すごく可愛い人だった。

「いいなぁ、俺も恋人が欲しい」

 羨ましくてそうぼやけば、

「なんだ、気になる子は居ないのか?」

 と言われて考えてみる。

 よくよく思えば、いつも高次が傍に居て、俺が良いなって思った子は彼に恋していた。

 告白されても誰とも付き合わず、俺の傍に居る方が良いって言って……。

「恭太郎?」
「あ、すみません」

 女の子の事より幼馴染の顔が浮かぶってどうよ。

 高次がまとわりつくせいだ。
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