短編集

希紫瑠音

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夏休みの過ごし方

2-2

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 冷房の効いた本屋に入った途端、二人してホッとため息をつく。

「生きた心地がする」
「確かに」

 何処に向かうのかと思えば、度道府県の旅行ガイドブックが置かれた棚だった。

「土日に遊ぶところを決めよう」

 と一冊の本を手渡される。地元が紹介されているガイドブックだ。

 背後に立ち、少し横へとずれた所でピタリとくっついてきて、何事かと高貴を見れば、

「ほら、ページ捲って」

 どうやら一緒に一冊の本をみるようで、驚きつつも友人同士はこういうものなのかと素直に頁をめくる。

「お、美味そう」

 遊びとグルメと書かれた文字と、食べ物の写真。

 丁度、お腹がすく時間帯だ。食べものについ目がいってしまうのは仕方がないことだ。

「ここの喫茶店って夏限定で、ふわふわなかき氷が食べられるんだって。女子に聞いた」

 隣に移動してきたが、その距離感は相変わらず近くて緊張してしまう。

「……そうなのか」

 きっと彼はもてるのだろうなと思う。女子に優しくしている姿を思い浮かべ、なぜか胸がモヤっとしてしまう。

 自分にはできないことを彼は普通にこなしてしまうだろう、きっとそれを羨ましく思ったのだろう。

「駅とは反対側なんだよな。今度、食いに行こうぜ」

 女子でなくていいのかと口にしそうになりやめた。折角、自分を誘ってくれたのだから素直に返事をしよう。

「あぁ、今度な」
「これも夏の楽しみの一つかな」

 と、話題は次へとうつる。

 頁をめくる度に、小さな頃の思いでからつい最近のことまで、表情をコロコロとかえながら話聞かせてくれる。

 それが楽しくて、クスクスと声をあげて笑っていた。

「えへへ、なんか嬉しい」
「ん?」

 何が嬉しいのだろうかと、小首を傾げれば、

「巧巳が俺の話に笑ってくれて」

 と、指で口角を上げてニッコリと笑う。

「あ……」

 それは自然とでた笑いであり、高貴に気を許しているということだ。

「もっと笑顔、みたいな」

 そう、ふわりと微笑む彼は、天然のタラシではないだろうか。ただ、相手が女子でないのが残念だと思うが。

「そのために、夏休みの楽しみ方を教えてくれるのだろう?」

 わざとぶっきらぼうに言うと本を彼の方へと押し付けた。

「そうなんだけどね。あ、そうだ。プールとか、どう」

 泳げるのかと聞かれ、たまに勉強の息抜きで泳いでいることを話す。

「へぇ、だからか……。じゃぁ、地元でメジャーなトコだけど、行っちゃう?」

 とスマホを取り出してホームページを開いた。プールへは遊ぶ目的で行ったことはなく、そこは名前だけは聞いたことがあるという程度だった。

「ウォータースライダーがあるんだな」
「ここ、去年、リニューアルしたんだよ」

 泳ぐだけならジムのプールで十分。だが、遊びとなるとウォータースライダーや波のプールは興味がそそられる。

「楽しそうだな」
「楽しいよ。あ、そうだ。他の奴等も呼ぼうか?」

 大勢も楽しいぞと言われ、やはり自分だけではつまらないのだろうかと、楽しいという気持ちが一気に落ちていく。

「あ……、嫌だった?」

 顔に出ていたのだろうか。 

 空気が読めない奴と、一度、誰かに言われたことがある。

 それを思い出して顔が強張っていく。

「すまない、あまり大勢で行くのは慣れていないから」
「そっか。俺こそごめん。二人きりなら、良いかな?」

 プールが嫌なんじゃないよね、と、心配そうにこちらを窺っている。

「あぁ、プールは嫌じゃない」
「よかった。じゃぁ、二人で行こう」

 土曜に駅前で待ち合わせをすることになり、楽しみだねと高貴の言葉に頷いた。
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