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短編まとめ
勘太と与六の噺
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その男はふらりとやってきては、客が待つ座敷でお茶を飲みながら話をしている。
声を掛けてくれたらよいのに。いつの間に来たんだと、つい口にしてしまうほどだ。
「おう、与六の邪魔をしねぇように、こう、抜き足、差し足、忍び足ってね」
たちあがり、何故かモノノケのように手を前に垂らして音を立てずにそっと歩く。
それを見て周りの客が笑う。
「まるで忍びのようだな」
「確かに」
と常連の一人が勘太の背中を強く叩く。
出逢いは真夏の夜だ。涼を求めて川辺で夕涼みをする者、舟遊びをする者、その日も人が多く集まっていた。
川辺に座り涼をとっていれば、声を掛けられた。大店の息子であり同い年、名は菊次郎という。以前から何かとちょっかいをかけられていた。
与六はどこか色気のある男だ。幼き頃は男女と苛められもしたが、歳を重ねるごとに欲を含んだ目で見られるようになった。
菊次郎もその中の一人だ。昔は仲間と共に与六を苛めていたというのに。
いつものようにつれなくすれば、相手はあきらめるだろう。だが、今日は相当に飲んだらしく酔っぱらっていた。
「与六、乗れよ」
腕を掴まれて引っ張られる。
「お断りだね。俺はもう帰るから」
それを払いのけようとするが、手が肩に回り船の方へと引きずり込まれそうになる。
「離しとくれ」
暴れて逃れようとするが、他の仲間に羽交い絞めにされてしまう。菊次郎一人なら大したことは無いのだが、流石に人数がいるとどうにもならない。
「与六ぅ、船の上で楽しもうや」
手を差し込み太ももを撫でる。それが不愉快で、だが、身体の自由を奪われてしまい、なす術がない。
このまま連れて行かれたら最後、無理やりまぐわうことになるだろう。
助けを呼びたくとも口を手でふさがれてしまった。もう、だめだと思っていたその時、
「おい、その辺にしておきなよ」
まさしく天の助け。
声の方へと顔を向ければ、随分と大柄な男が立っていた。
「勘太だ」
一人がそういうと、羽交い絞めから解放される。
「あいつはやばいから」
と大店の息子にいい、悔しそうに離れていった。
たしかにこれだけ迫力があると逃げ出したくなる気持ちもわかる。助けてもらったというのに与六も怖いと思ってしまった。
自分の身を守るように身体を丸くすると、男は提灯の灯りをこちらに照らした。
「おう、無事かい?」
ずいぶんとおおきい。六尺(約182センチ)はあるだろうか。
「あぁ、助かったよ。お前さん、名は」
「荒くれ者の勘太って、聞いた事ねぇ?」
その名は聞き覚えがある。大柄で背中に龍の彫り物をしているとか。
「龍の……」
「あぁ、これかい?」
提灯を手渡されて何かと思いきや、男が背を向けて上半身を肌蹴させる。
灯りに照らされて男の背中の彫り物が露わとなる
見事な龍だ。力強く天へと昇る。その立派な姿に目を奪われる。
「すごい」
「俺の師匠に彫ってもらったんだ。ただし、自分じゃ拝めねぇのが残念でな」
なんて心から嬉しそうに笑うんだろう。自慢したくしかたがない、そんな感じなのだろう。
「お前さん、彫師なんだね」
このまま別れるのが惜しいと感じた。
「そうか。なぁ、今日のお礼に、一献、どうだい?」
と誘う。
「いいねぇ。なぁ、お前さんの名も教えてくれよ」
「俺かい? 髪結いの与六だ」
「そうかい。今度、髪結いでも頼もうか」
「あぁ。更に男前にしてあげるよ」
というと、そりゃいいと威勢よく笑った。
座敷ではを剃る者と与六の姿があり、客は茶を啜り話をしながら待つ。
勘太もふらりとやって来てはその話の輪に入り、誰かが仕入れてきた噂話に耳を傾ける。それが日常茶飯事となりつつあった。
たまに髭そりと髪結いをすることもあるが、思えば最後に勘太の身なりを整えたのはひと月前のことだ。
いったい何をしていることやら。勘太は大男というだけでも目立つから居ないとすぐにわかる。客が来るたびに彼のことを聞かれるのでまいったものだ。
たしか、仕事を頼まれると外にあまりでなくなると話していた気がするが、本当にそうなのかもわからない。
ここに来るのが飽きてしまったか。もしもそうだとしたら寂しいと思うほどには与六の中に勘太の存在は根付いている。
最後の客が帰り、店を閉めようとしていた所に髭を生やしたぼさぼさ頭の男が中へと入ってくる。
「おや、まぁ、ご無沙汰なことで」
せっかくの男前がもったいないと嘆く。
「ははは」
バリバリと髪を掻き、髭の生えた顔を緩める。
「やっと下絵が完成してな、お客さんに見せようと思ってよ。その前に綺麗にしてもらおうと来たんだが……、店じまいか?」
仕事をしていたと知り、内心ほっとした。
「構わないよ。どうぞ」
座るようにいうと、勘太が座布団の上に胡坐をかく。
「他の店に心替えしてしまったのかと思った」
「は、おめぇの腕を知っているのに、他の所なんか行くかよ」
剃った場所から髪が生え始め、胡麻のようになっていている。月代(さかやき)を剃り、髪を結い直して髭を剃る。
静かな部屋にじょりじょりと毛を剃る音がする。
「いったい、何をしていたんだい?」
「実はよぉ、心から彫りてぇと思える相手に出会えてさ」
ワクワクとした表情は、まるで童のようだ。よほど、勘太を夢中にさせる客だったのだろう。
「ろ組の佐平、知ってるかい?」
火消しは憧れの対象だ。佐平は粋な男で若い娘たちの心を虜にしている。
火事があった日には、髪結いにくる客はろ組の佐平のことが話題にあがる。
「知っているよ。仕事の相手は佐平だったのか」
「おうよ。頭ン中に彫りてぇもんがわいてきて、筆が止まらねぇの」
夢中になると幾日も部屋にこもるらしく、野性的な身なりとなるわけか。
すっきりとした顔を、ぬるま湯を用意し、手拭いをしたして絞る。
それで顔を拭いてやると気持ちいいなと目を細めた。
「勘太、身体を拭いてこれに着替えて。その間に夕餉の支度をしておくからさ」
いつ勘太が来てもいように用意しておいた浴衣と手拭いを渡す。
「もしかして、与六が縫ってくれたのか?」
「古着を仕立て直しただけだから」
「それでも、ありがとうよ」
嬉しそうな表情を見せ、受け取ってくれる。それを見ることができてよかった。
急いでご飯と汁物の用意をする。後は近所で貰ったお漬物とめざしを焼けばいいだろう。
暫くするとさっぱりとした勘太が火照って流れる汗を拭きながら部屋にはいってくる。
「ふぃ、気持ち良かったぜ」
熱を冷ますように開いた前衿から、男らしい鍛えられた肌がみえる。
つい、そこに目がいってしまい、ばれぬうちに視線を外した。
「ご飯、もう少し待って。お酒は準備できてる」
「お、ありがてぇ。ご相伴にあがるかね」
焼きたてのめざしと漬物を肴に酒を飲み始める。
「あぁ、うめぇ」
とお猪口を掲げる。
「なんだ、飲んでいなかったのかい?」
「まぁな。仕事中は白湯しか飲まねぇのよ」
それはまた、酒好きの勘太がそれで過ごせたものだ。しかも、その反動なのか酒の減りがやたらと早い。
もうひと瓶買っておくべきだったかと立ちあがる。
「酒を買ってくるよ」
「いいよ、これで十分。それよりも、な」
腕を掴まれて引き寄せられる。久しぶりに感じる熱だ。
「食欲が満たされたら、今度は性欲かい?」
けして二人は甘い関係ではないのだが、身体が疼く程に勘太を欲している。
「あぁ、久しぶりに会うお前さんに煽られた」
激しく襲う欲情だらけの男を止める術など与六にはい。
「わかったよ。布団を敷くから」
と用意するや否や、布団の上に組みしかれて、前衿を掴んで開きその唇に食らいつた。
「まて、そんなにガッツくなって」
と、欲のまま襲いかかる勘太を止めようとする与六の言葉に、聞く耳を持ってはくれなかった。
「んッ……!」
ちょっと待ってくれと、そう言おうとした与六だったが、その言葉にふたをするような、そんな口づけをくらい、割りこんできた舌が与六の舌に絡みつき卑猥な音を立てm喉の奥から甘い声がもれはじめて熱い息を吐く。
糸を引きあう舌が離れ、すっかり息の上がった与六はとろんとした目で勘太を見つめれば、欲をみなぎらせた視線が絡みつく。
「あぁッ」
下半身が疼き、じわっと体が熱くなる。
ほんのりと色付き始めた肌を、味わうように舌が肌をたどり、鬱血する程唇で吸いあげられる。
ピリッとした感触と共に鬱血の痕が残る。そこを愛おしげに撫でたあと、手は下へと向かい、乳輪を指でくるりと撫でて乳首を押しつぶす。
「ひゃッ」
ビクッと身体が跳ね上がる。指に犯され硬くなった乳首の一つをちゅっと音を立てて吸いあげて、舌の先でころがしはじめる。
「あ、あぁっ! 勘太ァ……」
突起した箇所を弄られれば、快感に身体がしびれて、マラが反応してたちあがる。
「そんなに好いか?」
勘太の視線が自分のマラを見ているのに気がつき、与六は恥ずかしくて顔を赤らめて勘太の鎖骨の辺りに噛みついた。
「ん、噛みつくなんて、おっかねぇなぁ」
照れ隠しの行為とばれている。勘太がにやりと笑い、仕返しとばかりに乳首を口に含み歯を立てて甘噛みを数回繰り返した後、強めに噛みつかれた。
「あ、あぁぁんッ」
痛みと快感がたまらなく好い。
「好い顔だな」
と、与六の顔を覗き込み、乳首を引っ張りあげた後、爪の先でかりかりと刺激をあたえてくる。
「勘太ァ、もっとおくれよ」
強く吸い付いてほしくて、胸を張り首に腕を回す。
「待ってろって。今度はこいつを可愛がってやらねぇとな」
と、たちあがるマラをゆるりと撫でられて、与六の口元が緩む。
「うん、可愛がって」
片足をゆるりとあげて勘太を誘う。
「本当、おめぇって奴は」
足を掴んで開かれて、揺れるマラに食らいついて刺激を与えられる。
「はぁん、勘太ぁ」
大きな口に咥えて吸われ、あっという間にのぼりつめてしまう。
「勘太、はなして」
「いいよぉ、だしちまいな」
と強く吸われて、イってしまった。
「あぁっ、だめだよ、吐きださないと」
受け止めるように手を差し出すが、喉が鳴り飲み下されてしまった。
「ちょいと、そんなモン飲むんじゃないよ」
「あぁん? 別にイイだろ。俺ン中に与六のが入っただけだし。それに今からおめぇの中にも入れるんだしな」
そう豪傑のように大きく笑い、腰を持ち上げられた。
舌が後孔を濡らし、指が入り込み中を広げるように動く。
時折、それが良いところをかすめるものだから、その度に甘い声がもれる。
「勘太、そこぉ……」
「良いのかい?」
「うん」
目の端に涙をため身を善がらしながら、勘太を煽るように誘う。
「与六、今度は俺のコイツを気持良くしてくれ」
と、膨れ上がった勘太のモノを与六の尻になすりつけた。
よくぞそこまで大きくなるものだ。それが中に入り自分を責めたてる、その何ともいえぬ快感を思いだして与六の体が嬉しそうに震えた。
はやくあれが欲しい。
頭の中はそれでいっぱいとなった。
「あぁ、来い……」
手を伸ばして欲しがる与六に、勘太は微笑みながら中へと入り込んだ。
背中の彫り物は何度みてもウットリとする。
「与六よ、俺の腕ン中においでって」
「だめ。もう少し背中にくっついていたい」
そういうと背中の彫り物に口づけをする。
「まさか、俺より背中の彫り物に惚れたってぇことはねぇよな?」
勘太が体位を変換し、向かう合うかたちとなる。まるで嫉妬をしているかのように機嫌が悪い。
「……内緒だよ」
といってやれば、
「与六ぅ」
あまりに情けない声をだすものだから可笑しくて笑う。
「好きだよ、全部ひっくるめて」
出会ったあの日から勘太は与六の心を掻っ攫ったのだ。
「はぁ。よかった」
勘太が体位を変換し、向かう合うかたちとなる。
「俺の帰る場所がなくなると思ったぜ」
「帰る場所?」
「そうよ。おめぇの所が俺の帰る場所だ」
と心の臓のあたりを指さされる。
「出会ったあの日から、俺はお前の虜よ」
目を見開く。まさか勘太も同じだったなんて。
「なんだよぉ、そんな顔をされるとまたまぐわいたくなるぞ」
どんな顔なのかは自分ではわからぬが、勘太が望んでくれるなら本望だ。
「いいよ」
腕を回して引き寄せれば、参ったなと頭を掻く。
「いっとくけど、俺ァ貪欲だぜ?」
ぺろりと下唇を舐め、ぎらつきながら与六を射抜く。
「うん、おいで」
後は勘太のマラを咥え込み悦に入る。
それからずっと休みなく責められて、散々泣かされ、鳴かされて、声もガラガラ、身体は怠く起きあがれない。
「ちょいとぉ、仕事ができないじゃないのさ……」
お天道様が見ている。流石にそこまえまぐわうことになろうとは。
「あははは……、すまん」
勘太が胡坐をかいたまま頭を下げる。
だが、与六だって、もっと欲しいと強請って勘太のマラを離さなかったのだから同罪だ。
「でな、与六、わりぃんだけど」
手を合わせてこちらを窺うように顔を覗き込む。
「店に行くんだろう?」
「あぁ」
勘太をとられてしまうのは癪だが、彫師としての腕を振るう、そのことにわくわくとしている姿は可愛い。
「わかった。ただし、帰ってくるのはここだよ」
と与六は自分を指さす。
「おう」
着替えを済ませて家を出ようとするが、再び与六の元へと戻りかるく口づける。
それは予想外で、照れる与六に、
「へへ、いってくるわ」
と勘太自身も照れて頬を赤く染めていた。
「いっといで」
まるで夫婦のようだ。それがじわりと浸透し、胸がぽかぽかと暖かくなった。
声を掛けてくれたらよいのに。いつの間に来たんだと、つい口にしてしまうほどだ。
「おう、与六の邪魔をしねぇように、こう、抜き足、差し足、忍び足ってね」
たちあがり、何故かモノノケのように手を前に垂らして音を立てずにそっと歩く。
それを見て周りの客が笑う。
「まるで忍びのようだな」
「確かに」
と常連の一人が勘太の背中を強く叩く。
出逢いは真夏の夜だ。涼を求めて川辺で夕涼みをする者、舟遊びをする者、その日も人が多く集まっていた。
川辺に座り涼をとっていれば、声を掛けられた。大店の息子であり同い年、名は菊次郎という。以前から何かとちょっかいをかけられていた。
与六はどこか色気のある男だ。幼き頃は男女と苛められもしたが、歳を重ねるごとに欲を含んだ目で見られるようになった。
菊次郎もその中の一人だ。昔は仲間と共に与六を苛めていたというのに。
いつものようにつれなくすれば、相手はあきらめるだろう。だが、今日は相当に飲んだらしく酔っぱらっていた。
「与六、乗れよ」
腕を掴まれて引っ張られる。
「お断りだね。俺はもう帰るから」
それを払いのけようとするが、手が肩に回り船の方へと引きずり込まれそうになる。
「離しとくれ」
暴れて逃れようとするが、他の仲間に羽交い絞めにされてしまう。菊次郎一人なら大したことは無いのだが、流石に人数がいるとどうにもならない。
「与六ぅ、船の上で楽しもうや」
手を差し込み太ももを撫でる。それが不愉快で、だが、身体の自由を奪われてしまい、なす術がない。
このまま連れて行かれたら最後、無理やりまぐわうことになるだろう。
助けを呼びたくとも口を手でふさがれてしまった。もう、だめだと思っていたその時、
「おい、その辺にしておきなよ」
まさしく天の助け。
声の方へと顔を向ければ、随分と大柄な男が立っていた。
「勘太だ」
一人がそういうと、羽交い絞めから解放される。
「あいつはやばいから」
と大店の息子にいい、悔しそうに離れていった。
たしかにこれだけ迫力があると逃げ出したくなる気持ちもわかる。助けてもらったというのに与六も怖いと思ってしまった。
自分の身を守るように身体を丸くすると、男は提灯の灯りをこちらに照らした。
「おう、無事かい?」
ずいぶんとおおきい。六尺(約182センチ)はあるだろうか。
「あぁ、助かったよ。お前さん、名は」
「荒くれ者の勘太って、聞いた事ねぇ?」
その名は聞き覚えがある。大柄で背中に龍の彫り物をしているとか。
「龍の……」
「あぁ、これかい?」
提灯を手渡されて何かと思いきや、男が背を向けて上半身を肌蹴させる。
灯りに照らされて男の背中の彫り物が露わとなる
見事な龍だ。力強く天へと昇る。その立派な姿に目を奪われる。
「すごい」
「俺の師匠に彫ってもらったんだ。ただし、自分じゃ拝めねぇのが残念でな」
なんて心から嬉しそうに笑うんだろう。自慢したくしかたがない、そんな感じなのだろう。
「お前さん、彫師なんだね」
このまま別れるのが惜しいと感じた。
「そうか。なぁ、今日のお礼に、一献、どうだい?」
と誘う。
「いいねぇ。なぁ、お前さんの名も教えてくれよ」
「俺かい? 髪結いの与六だ」
「そうかい。今度、髪結いでも頼もうか」
「あぁ。更に男前にしてあげるよ」
というと、そりゃいいと威勢よく笑った。
座敷ではを剃る者と与六の姿があり、客は茶を啜り話をしながら待つ。
勘太もふらりとやって来てはその話の輪に入り、誰かが仕入れてきた噂話に耳を傾ける。それが日常茶飯事となりつつあった。
たまに髭そりと髪結いをすることもあるが、思えば最後に勘太の身なりを整えたのはひと月前のことだ。
いったい何をしていることやら。勘太は大男というだけでも目立つから居ないとすぐにわかる。客が来るたびに彼のことを聞かれるのでまいったものだ。
たしか、仕事を頼まれると外にあまりでなくなると話していた気がするが、本当にそうなのかもわからない。
ここに来るのが飽きてしまったか。もしもそうだとしたら寂しいと思うほどには与六の中に勘太の存在は根付いている。
最後の客が帰り、店を閉めようとしていた所に髭を生やしたぼさぼさ頭の男が中へと入ってくる。
「おや、まぁ、ご無沙汰なことで」
せっかくの男前がもったいないと嘆く。
「ははは」
バリバリと髪を掻き、髭の生えた顔を緩める。
「やっと下絵が完成してな、お客さんに見せようと思ってよ。その前に綺麗にしてもらおうと来たんだが……、店じまいか?」
仕事をしていたと知り、内心ほっとした。
「構わないよ。どうぞ」
座るようにいうと、勘太が座布団の上に胡坐をかく。
「他の店に心替えしてしまったのかと思った」
「は、おめぇの腕を知っているのに、他の所なんか行くかよ」
剃った場所から髪が生え始め、胡麻のようになっていている。月代(さかやき)を剃り、髪を結い直して髭を剃る。
静かな部屋にじょりじょりと毛を剃る音がする。
「いったい、何をしていたんだい?」
「実はよぉ、心から彫りてぇと思える相手に出会えてさ」
ワクワクとした表情は、まるで童のようだ。よほど、勘太を夢中にさせる客だったのだろう。
「ろ組の佐平、知ってるかい?」
火消しは憧れの対象だ。佐平は粋な男で若い娘たちの心を虜にしている。
火事があった日には、髪結いにくる客はろ組の佐平のことが話題にあがる。
「知っているよ。仕事の相手は佐平だったのか」
「おうよ。頭ン中に彫りてぇもんがわいてきて、筆が止まらねぇの」
夢中になると幾日も部屋にこもるらしく、野性的な身なりとなるわけか。
すっきりとした顔を、ぬるま湯を用意し、手拭いをしたして絞る。
それで顔を拭いてやると気持ちいいなと目を細めた。
「勘太、身体を拭いてこれに着替えて。その間に夕餉の支度をしておくからさ」
いつ勘太が来てもいように用意しておいた浴衣と手拭いを渡す。
「もしかして、与六が縫ってくれたのか?」
「古着を仕立て直しただけだから」
「それでも、ありがとうよ」
嬉しそうな表情を見せ、受け取ってくれる。それを見ることができてよかった。
急いでご飯と汁物の用意をする。後は近所で貰ったお漬物とめざしを焼けばいいだろう。
暫くするとさっぱりとした勘太が火照って流れる汗を拭きながら部屋にはいってくる。
「ふぃ、気持ち良かったぜ」
熱を冷ますように開いた前衿から、男らしい鍛えられた肌がみえる。
つい、そこに目がいってしまい、ばれぬうちに視線を外した。
「ご飯、もう少し待って。お酒は準備できてる」
「お、ありがてぇ。ご相伴にあがるかね」
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「あぁ、うめぇ」
とお猪口を掲げる。
「なんだ、飲んでいなかったのかい?」
「まぁな。仕事中は白湯しか飲まねぇのよ」
それはまた、酒好きの勘太がそれで過ごせたものだ。しかも、その反動なのか酒の減りがやたらと早い。
もうひと瓶買っておくべきだったかと立ちあがる。
「酒を買ってくるよ」
「いいよ、これで十分。それよりも、な」
腕を掴まれて引き寄せられる。久しぶりに感じる熱だ。
「食欲が満たされたら、今度は性欲かい?」
けして二人は甘い関係ではないのだが、身体が疼く程に勘太を欲している。
「あぁ、久しぶりに会うお前さんに煽られた」
激しく襲う欲情だらけの男を止める術など与六にはい。
「わかったよ。布団を敷くから」
と用意するや否や、布団の上に組みしかれて、前衿を掴んで開きその唇に食らいつた。
「まて、そんなにガッツくなって」
と、欲のまま襲いかかる勘太を止めようとする与六の言葉に、聞く耳を持ってはくれなかった。
「んッ……!」
ちょっと待ってくれと、そう言おうとした与六だったが、その言葉にふたをするような、そんな口づけをくらい、割りこんできた舌が与六の舌に絡みつき卑猥な音を立てm喉の奥から甘い声がもれはじめて熱い息を吐く。
糸を引きあう舌が離れ、すっかり息の上がった与六はとろんとした目で勘太を見つめれば、欲をみなぎらせた視線が絡みつく。
「あぁッ」
下半身が疼き、じわっと体が熱くなる。
ほんのりと色付き始めた肌を、味わうように舌が肌をたどり、鬱血する程唇で吸いあげられる。
ピリッとした感触と共に鬱血の痕が残る。そこを愛おしげに撫でたあと、手は下へと向かい、乳輪を指でくるりと撫でて乳首を押しつぶす。
「ひゃッ」
ビクッと身体が跳ね上がる。指に犯され硬くなった乳首の一つをちゅっと音を立てて吸いあげて、舌の先でころがしはじめる。
「あ、あぁっ! 勘太ァ……」
突起した箇所を弄られれば、快感に身体がしびれて、マラが反応してたちあがる。
「そんなに好いか?」
勘太の視線が自分のマラを見ているのに気がつき、与六は恥ずかしくて顔を赤らめて勘太の鎖骨の辺りに噛みついた。
「ん、噛みつくなんて、おっかねぇなぁ」
照れ隠しの行為とばれている。勘太がにやりと笑い、仕返しとばかりに乳首を口に含み歯を立てて甘噛みを数回繰り返した後、強めに噛みつかれた。
「あ、あぁぁんッ」
痛みと快感がたまらなく好い。
「好い顔だな」
と、与六の顔を覗き込み、乳首を引っ張りあげた後、爪の先でかりかりと刺激をあたえてくる。
「勘太ァ、もっとおくれよ」
強く吸い付いてほしくて、胸を張り首に腕を回す。
「待ってろって。今度はこいつを可愛がってやらねぇとな」
と、たちあがるマラをゆるりと撫でられて、与六の口元が緩む。
「うん、可愛がって」
片足をゆるりとあげて勘太を誘う。
「本当、おめぇって奴は」
足を掴んで開かれて、揺れるマラに食らいついて刺激を与えられる。
「はぁん、勘太ぁ」
大きな口に咥えて吸われ、あっという間にのぼりつめてしまう。
「勘太、はなして」
「いいよぉ、だしちまいな」
と強く吸われて、イってしまった。
「あぁっ、だめだよ、吐きださないと」
受け止めるように手を差し出すが、喉が鳴り飲み下されてしまった。
「ちょいと、そんなモン飲むんじゃないよ」
「あぁん? 別にイイだろ。俺ン中に与六のが入っただけだし。それに今からおめぇの中にも入れるんだしな」
そう豪傑のように大きく笑い、腰を持ち上げられた。
舌が後孔を濡らし、指が入り込み中を広げるように動く。
時折、それが良いところをかすめるものだから、その度に甘い声がもれる。
「勘太、そこぉ……」
「良いのかい?」
「うん」
目の端に涙をため身を善がらしながら、勘太を煽るように誘う。
「与六、今度は俺のコイツを気持良くしてくれ」
と、膨れ上がった勘太のモノを与六の尻になすりつけた。
よくぞそこまで大きくなるものだ。それが中に入り自分を責めたてる、その何ともいえぬ快感を思いだして与六の体が嬉しそうに震えた。
はやくあれが欲しい。
頭の中はそれでいっぱいとなった。
「あぁ、来い……」
手を伸ばして欲しがる与六に、勘太は微笑みながら中へと入り込んだ。
背中の彫り物は何度みてもウットリとする。
「与六よ、俺の腕ン中においでって」
「だめ。もう少し背中にくっついていたい」
そういうと背中の彫り物に口づけをする。
「まさか、俺より背中の彫り物に惚れたってぇことはねぇよな?」
勘太が体位を変換し、向かう合うかたちとなる。まるで嫉妬をしているかのように機嫌が悪い。
「……内緒だよ」
といってやれば、
「与六ぅ」
あまりに情けない声をだすものだから可笑しくて笑う。
「好きだよ、全部ひっくるめて」
出会ったあの日から勘太は与六の心を掻っ攫ったのだ。
「はぁ。よかった」
勘太が体位を変換し、向かう合うかたちとなる。
「俺の帰る場所がなくなると思ったぜ」
「帰る場所?」
「そうよ。おめぇの所が俺の帰る場所だ」
と心の臓のあたりを指さされる。
「出会ったあの日から、俺はお前の虜よ」
目を見開く。まさか勘太も同じだったなんて。
「なんだよぉ、そんな顔をされるとまたまぐわいたくなるぞ」
どんな顔なのかは自分ではわからぬが、勘太が望んでくれるなら本望だ。
「いいよ」
腕を回して引き寄せれば、参ったなと頭を掻く。
「いっとくけど、俺ァ貪欲だぜ?」
ぺろりと下唇を舐め、ぎらつきながら与六を射抜く。
「うん、おいで」
後は勘太のマラを咥え込み悦に入る。
それからずっと休みなく責められて、散々泣かされ、鳴かされて、声もガラガラ、身体は怠く起きあがれない。
「ちょいとぉ、仕事ができないじゃないのさ……」
お天道様が見ている。流石にそこまえまぐわうことになろうとは。
「あははは……、すまん」
勘太が胡坐をかいたまま頭を下げる。
だが、与六だって、もっと欲しいと強請って勘太のマラを離さなかったのだから同罪だ。
「でな、与六、わりぃんだけど」
手を合わせてこちらを窺うように顔を覗き込む。
「店に行くんだろう?」
「あぁ」
勘太をとられてしまうのは癪だが、彫師としての腕を振るう、そのことにわくわくとしている姿は可愛い。
「わかった。ただし、帰ってくるのはここだよ」
と与六は自分を指さす。
「おう」
着替えを済ませて家を出ようとするが、再び与六の元へと戻りかるく口づける。
それは予想外で、照れる与六に、
「へへ、いってくるわ」
と勘太自身も照れて頬を赤く染めていた。
「いっといで」
まるで夫婦のようだ。それがじわりと浸透し、胸がぽかぽかと暖かくなった。
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ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
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幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
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