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誘われる(2)

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 高校生の頃は乱暴な言葉使いと目つきの悪さが怖いと言われていたが、あのころよりも角がとれている。しかも客商売ともあり口調も丁寧だ。

 カウンター越しでシェイカーをふるう姿はかっこよく、ゆるみそうな表情を両手でこすりつけて引き締める。

「先生、どうしたの」
「なんでもないよ。それにしても君が作ってくれたカクテルを飲む日がくるなんてな」

「俺も担任に飲ませるとは思わなかった」

 いい雰囲気の店だ。皆が酒を楽しんでいる。

「そういえば大和君は」
「二階に住居があるからそこにいる」
「へぇ、お、大和君のお母さんは何の仕事をしているんだ」

 浅木の奥さんとして聞くのではなく大和の母親として尋ねる。変に思われたかと浅木を見るが特に気にした様子はない。

「看護師。俺と違ってあいつは昔から勉強頑張ってたからな」

 その口ぶりからして幼馴染か。ともかく自分よりも付き合いが長い相手なのだろう。

 これ以上はあまり聞きたくはない。この歳で妻子を持たない自分がみじめに感じてしまいそうだ。

「それにしてもこれ美味いな」
「そうだろう? 学生時代ていう名前」

 変わったネーミングだなとグラスをまじまじと眺めた。

「へぇ。淡い青色は青春?」

 その個所を指さして浅木を見ると、

「先生はそうなんだ」

 と小さく笑う。

「違うのか」
「ガラスのふちに塩をつけてあるだろう。それが運動部だった人には大会で流した汗とか涙のようだって」
「なるほどな。それなら下の方の白いのは……」
「俺の記憶」

 その言葉にぎくりとした。すぐに表情を隠そうと口元をきつく結ぶがうまくはいかなかった。

「なんてな。これは俺が持つ学生って白のイメージ」

 あれは浅木がみせた心の中だ。それを教師として間違った反応をしてしまった。

 しかし返す言葉が思い浮かばずに結局は黙り込んでしまう。

「悪い。俺は先生と楽しい時間を過ごしたかっただけなのに水を差した」
「あ、いや」

 気まずくて残りを一気に呷る。空になったグラスを浅木が手に取って振った。

「先生、次は?」
「浅木のお勧めで」

 急に酔いが回ってきたような気がする。あんな飲み方をしたのがまずかったか。

 再びシェイカーをふるう浅木の姿を眺め、何度目かの時に彼の顔が近づいた。

 なんだかぽわぽわとして気分が良くなっていた。そう、まるで浅木と過ごした放課後の時間のようだ。

「大人の男になったなぁ」

 しかも色気までついた。桧山が担任をしていた高三の頃はまだ少年らしさが残っていたから。

「そりゃ十年だぞ? 先生だってたいして変わってねぇよ」

 さすがにそれはないだろう。老けたと言わなかったことに偉く感心した。

 あの浅木がと、ただ嬉しくて幸せでふわふわとしていた。
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