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佐木
佐木の話(3)
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二度目の訪問は九時半を過ぎていた。かえって迷惑になるのではと思いながらも足は阿部の家へと向いていた。
しかも途中でコンビニに寄り、自分の弁当以外に二人にと買っていた。
チャイムを鳴らすと恵が迎え入れてくれた。
「ごめんな、遅くに」
「うんん。おふろにはいってしゅくだいしてた」
部屋に入ると阿部がソファーに座っていて、いらっしゃいと声を掛ける。
「お前、起きていていいのかよ」
「さっきまで妹がきていたから起きていたんだ。ところでご飯は?」
「弁当買ってきたから。後、お前にお粥とスポーツドリンク。恵君にプリンを買ったんだけど、必要なかったな」
妹が来ていたのなら食事は用意してくれただろうし、ドリンク類も買ってあるだろう。
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
袋を受け取り、プリンを取り出して恵に手渡す。
「恵、プリンを貰ったよ。よかったな」
「うん! ありがとう、さきさん」
嬉しそうに両手でそれを受け取って、冷やしてくるねと部屋を出る。
「本当、来てくれてありがとう」
嬉しさを隠そうとしない。告白される前ならへんに意識などしなかったのに。頬が熱くなるのはそのせいだ。
「さきさん、あした、おやすみ?」
恵が部屋に戻ってきて佐木の隣へと座った。
明日は土曜日で何事もなければ休みとなる。
「あぁ」
「じゃぁ、おうちにとまっていってよ」
ね、と恵が阿部に言う。
「そうだな。佐木さえよければ」
「実はさ、そのつもりでシャツとパンツを買ってきた」
大人が一人いれば恵も安心だろう。けして好きだと言われたからじゃないと自分に言い訳をする。
「やった!」
はしゃぐ恵が可愛くて心が和む。ふ、と、視線を感じてそちらを見れば阿部が嬉しそうに目を細めて佐木を見ていた。
「なに見てんだよ」
照れを隠すように乱暴に言うと、
「いやぁ、佐木は優しいなって」
と口元に笑みをうかべる。
「てめぇっ」
顔が熱い。悔しい、阿部にしてやられた。
「さっさと寝ろ!」
寝室を指さすと、
「恵。そろそろ寝る時間だよ」
恵のほうを向き、肩を抱いて部屋へと行くように促す。
「えぇ、もう少しだけ」
佐木の側にきて手を握りしめられた。
ちらっと佐木を見る恵の表情は、一緒にいたいといっている。
「うっ」
慕われるのはうれしい。だが、佐木は恵の頭を撫でて、
「お休み、恵君」
と口にすると、お休みと言ってしょんぼりとしながら部屋へと戻っていった。
「ほら、お前も休め」
次は阿部の番だ。恵のためにも身体を休めて治すことに専念すべきだが阿部は動こうとしない。
「阿部」
「食事が終わるまで、話をしてもいいか?」
と真剣な表情を浮かべた。きっと大切な話をする。それを感じたから了承した。
「恵のことなんだ」
「あぁ。お前、離婚したのか?」
「いや。恵は俺ではなく姉の子なんだ」
阿部の姉は離婚して、息子の恵を連れ実家に戻ってきた。旦那の浮気が原因だったそうだ。
両親は二人を温かく迎え入れた。それから新生活がスタートする。
恵のためにとたくさん働いた。それでも休みになると普段寂しくさせている分、色々な場所へと連れて行った。
その日は晴天で風も穏やかで、遊びに行くのには最高だった。一泊二日で東北へと両親と共に出かけたのだが、悪質なドライバーに絡まれ、そして進路妨害をされて事故がおきた。
父親と姉は即死、母親は重傷をおい病院で亡くなった。まだ赤子であった恵は姉が守り軽傷で済んだ。
地検は、危険運転致死傷罪などで起訴。地裁は懲役18年を言い渡す。罪を犯した男は服役中だ。
「そんなことがあったのか」
全然知らなかった。久しぶりに会った時だって何も話さなかったから、結婚して幸せに暮らしているのだと思っていた。
わかっている。話したところでどうにかなるわけではない。阿部の心が苦しくなるだけだということは。
ただ、友達だと思っていたから勝手にショックを受けているだけだ。
「やっぱりそんな顔をさせてしまったな」
手が頬に触れて親指で優しくなでられる。
「わるい」
「でも、俺はそういう所も好きなんだ」
阿部が肩に頭を乗せる。
「阿部、お前、そろそろ寝ろ」
胸の鼓動が跳ね、佐木は阿部の頭をつかんで引き離す。
「気持ちは本当だからな。覚えておいてくれ」
と胸をトンと叩かれた。
「……わかった」
この気持ちに嘘はない。それは目を見たらわかる。
「まいった。悪い気がしないんだよな」
この頃、忙しさもあり恋愛ごとから遠ざかっていた。それだけに余計に思ってしまうのだろう。
もともと阿部のことは好きだ。ただ、同性だから、友達だからとそれ以上に見ることはなかっただけ。
別の見方で阿部を見たら、自分の気持ちはどうなるだろう。それを知りたい。
「は、なんだよ、もう答えが出たじゃん」
明日、思いを告げたら阿部はどんな顔をするだろう。
頭の中で浮かぶ表情。それが見れたらきっと彼を抱きしめるだろう。
<了>
しかも途中でコンビニに寄り、自分の弁当以外に二人にと買っていた。
チャイムを鳴らすと恵が迎え入れてくれた。
「ごめんな、遅くに」
「うんん。おふろにはいってしゅくだいしてた」
部屋に入ると阿部がソファーに座っていて、いらっしゃいと声を掛ける。
「お前、起きていていいのかよ」
「さっきまで妹がきていたから起きていたんだ。ところでご飯は?」
「弁当買ってきたから。後、お前にお粥とスポーツドリンク。恵君にプリンを買ったんだけど、必要なかったな」
妹が来ていたのなら食事は用意してくれただろうし、ドリンク類も買ってあるだろう。
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
袋を受け取り、プリンを取り出して恵に手渡す。
「恵、プリンを貰ったよ。よかったな」
「うん! ありがとう、さきさん」
嬉しそうに両手でそれを受け取って、冷やしてくるねと部屋を出る。
「本当、来てくれてありがとう」
嬉しさを隠そうとしない。告白される前ならへんに意識などしなかったのに。頬が熱くなるのはそのせいだ。
「さきさん、あした、おやすみ?」
恵が部屋に戻ってきて佐木の隣へと座った。
明日は土曜日で何事もなければ休みとなる。
「あぁ」
「じゃぁ、おうちにとまっていってよ」
ね、と恵が阿部に言う。
「そうだな。佐木さえよければ」
「実はさ、そのつもりでシャツとパンツを買ってきた」
大人が一人いれば恵も安心だろう。けして好きだと言われたからじゃないと自分に言い訳をする。
「やった!」
はしゃぐ恵が可愛くて心が和む。ふ、と、視線を感じてそちらを見れば阿部が嬉しそうに目を細めて佐木を見ていた。
「なに見てんだよ」
照れを隠すように乱暴に言うと、
「いやぁ、佐木は優しいなって」
と口元に笑みをうかべる。
「てめぇっ」
顔が熱い。悔しい、阿部にしてやられた。
「さっさと寝ろ!」
寝室を指さすと、
「恵。そろそろ寝る時間だよ」
恵のほうを向き、肩を抱いて部屋へと行くように促す。
「えぇ、もう少しだけ」
佐木の側にきて手を握りしめられた。
ちらっと佐木を見る恵の表情は、一緒にいたいといっている。
「うっ」
慕われるのはうれしい。だが、佐木は恵の頭を撫でて、
「お休み、恵君」
と口にすると、お休みと言ってしょんぼりとしながら部屋へと戻っていった。
「ほら、お前も休め」
次は阿部の番だ。恵のためにも身体を休めて治すことに専念すべきだが阿部は動こうとしない。
「阿部」
「食事が終わるまで、話をしてもいいか?」
と真剣な表情を浮かべた。きっと大切な話をする。それを感じたから了承した。
「恵のことなんだ」
「あぁ。お前、離婚したのか?」
「いや。恵は俺ではなく姉の子なんだ」
阿部の姉は離婚して、息子の恵を連れ実家に戻ってきた。旦那の浮気が原因だったそうだ。
両親は二人を温かく迎え入れた。それから新生活がスタートする。
恵のためにとたくさん働いた。それでも休みになると普段寂しくさせている分、色々な場所へと連れて行った。
その日は晴天で風も穏やかで、遊びに行くのには最高だった。一泊二日で東北へと両親と共に出かけたのだが、悪質なドライバーに絡まれ、そして進路妨害をされて事故がおきた。
父親と姉は即死、母親は重傷をおい病院で亡くなった。まだ赤子であった恵は姉が守り軽傷で済んだ。
地検は、危険運転致死傷罪などで起訴。地裁は懲役18年を言い渡す。罪を犯した男は服役中だ。
「そんなことがあったのか」
全然知らなかった。久しぶりに会った時だって何も話さなかったから、結婚して幸せに暮らしているのだと思っていた。
わかっている。話したところでどうにかなるわけではない。阿部の心が苦しくなるだけだということは。
ただ、友達だと思っていたから勝手にショックを受けているだけだ。
「やっぱりそんな顔をさせてしまったな」
手が頬に触れて親指で優しくなでられる。
「わるい」
「でも、俺はそういう所も好きなんだ」
阿部が肩に頭を乗せる。
「阿部、お前、そろそろ寝ろ」
胸の鼓動が跳ね、佐木は阿部の頭をつかんで引き離す。
「気持ちは本当だからな。覚えておいてくれ」
と胸をトンと叩かれた。
「……わかった」
この気持ちに嘘はない。それは目を見たらわかる。
「まいった。悪い気がしないんだよな」
この頃、忙しさもあり恋愛ごとから遠ざかっていた。それだけに余計に思ってしまうのだろう。
もともと阿部のことは好きだ。ただ、同性だから、友達だからとそれ以上に見ることはなかっただけ。
別の見方で阿部を見たら、自分の気持ちはどうなるだろう。それを知りたい。
「は、なんだよ、もう答えが出たじゃん」
明日、思いを告げたら阿部はどんな顔をするだろう。
頭の中で浮かぶ表情。それが見れたらきっと彼を抱きしめるだろう。
<了>
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