小さな食堂

希紫瑠音

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沖と郷田の話

ある日常(2)

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 佐木は郷田が出て行ってすぐに、また来ますと店を後にしたそうだ。

「『郷田があんなことをいうなんてな。いい人に出会えてよかったな』って。あの時の佐木さん、優しい顔をしてたな」

 郷田はつまらない男だった。感情が乏しくて話もあまりしない。しかも強面だから、交番勤務の時は随分と怖がらせてしまった。

「俺は移動になってからいい出会いばかりなんです」

 仕事の面では相棒の佐木がカバーしてくれる。プライベートな時間では沖が傍にいてくれるのだから。

「いいよなぁ。一太君と佐木さんの関係。話を色々聞いたんだけど信頼しあってるって感じ」 

 一緒に住むことになり、二人きりの時は名前で呼び合うようになった。

 はじめは互いに照れていたが、今は名前呼びもなじんだ。

 台所で熱いお茶を入れ、ソファーに座る。

「そうですね。相棒が佐木さんで良かったと思ってます」
「それ、ちょっと妬けるな」

 クッションをつかんで抱きしめる。拗ねる姿が可愛くて郷田はその身を抱きしめる。

「駿也さんと出会えたことも、ですよ」
「ほんとう?」

 嬉しそうに顔を緩ませる沖に触れるだけのキスをする。

「一太君……」

 じっと何か言いたげに見つめる沖に、なんだろうと見つめ返す。

 だが、何も言わずに微かにほほ笑んだ。

「どうしました?」
「うんん。明日、早く家を出るんだよね」
「はい」

 違う話をしてごまかした。遠慮せずに言ってほしいのに、恋人同士となった今でも沖は郷田に遠慮する。

 どうやって口を割らせようか。沖を腕の中に抱きしめ、そのまま布団の中へと入る。

「え、いった、くん!?」
「駿也さん、俺に何か言いたいことがありますよね?」

 唇を親指でなでると、目元がトロンと垂れる。

「ん、何もないよ」
「素直に自白してください」

 ゆるりと首をなでると、ふるっと小さく震えた。

「いつもは怖い顔して取り調べをしているって聞いたよ」
「俺、今、どんな顔をしていますか?」
「ん、優しい顔をしている」

 目じりを親指がなでる。それくすぐったくて、口元がゆるむ。

「俺といるときはこんなだよ」

 だけどこれは俺専用、そういって首に腕を回して抱き寄せられた。

「駿也さん」
「ごめんね、仕事、早いのに」

 顔が近づき、その目は潤み欲を含んでいる。

「体力には自信があります」

 それよりも自分に対して遠慮をしないでほしい。

「駿也さん、言ってください」
「一太君の、たべていい?」
「はい。お腹いっぱいになるまで食べてください」

 腕を腰へと回しキスをする。

 沖の身体はどこもかしこも敏感で、郷田の指がふれると喜びで身体が跳ね上がり、 広げた足から見せる後孔は、押すとぱくぱくと食いついてきた。

「可愛いですね」
「一太君、意地悪しないで」

 いつまでも入口付近をいじる郷田に、しびれを切らして沖が切ない表情をしている。

 もう少し見ていたい気もするが、自分のほうも限界で、指を奥まで入れて解し始めた。




 結局、郷田のほうが我慢できず、沖に負担をかけてしまった。

 それなのに郷田よりも早く起き、朝食の用意をしてくれた。

「一太君、俺に申し訳ないと思っているでしょう?」

 その通りなのでうなずくと、山盛りのご飯を手渡された。

「一緒に住もうって言ったのは、朝、一太君に温かいご飯を食べて仕事に行ってほしいから。それって俺の我儘なんだよ」

 俺の癒しの時間なんだからという。

 自分にとっても沖との時間は大切なものだ。遠慮された時は悲しかった。まさにそれと同じだ。

 だから沖に言うのは謝る言葉ではなく、

「ごはん、いただきます」

 だ。

「はい。召し上がれ」

 選んだ言葉は正解だったようで、沖は微笑みながら見ている。

 ほこほこと湯気を立てる白米に、焼き魚とみそ汁。それだけでも十分なのだが、そこにトメさんから分けてもらったぬか床で作った漬物と卵焼き。

 漬物をつかみ白米を大きな一口。

 一緒に食事をする沖の箸が止まり、こちらを眺めている。

「駿也さん、今日も美味しいです」

 料理はもちろん、駿也さんと食卓を囲んでいるから。そう付け加えれば沖が目を見開き、頬を真っ赤に染めた。 



<ある日常・了>
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