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古強者は恋慕う
伴侶になってくれ!
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呂宗は細身ながらも筋肉はついており、五十に近い歳の割にその肉体は今も美しい。
若かりし頃の彼を知っている彼もまた同じ年代であり、顔のしわが増えてきた。
互いに歳をとったなと笑いあい、都合が悪いときは年寄だからと逃げ口に使うが、戦いとなると別だ。
まだ若い者には場所を譲らないと、昇進の話を蹴とばして「剣の第一部隊」と呼ばれる強者揃いの第一部隊に居続ける。
今は三大強国で平和条約が結ばれており国同士での大戦はないが、騎士としてワジャートの民に何かあれば一番に現場へと向かうのだ。
今日も盗賊の一味を捕まえてきた後で、馬を馬小屋に戻し第一隊専用の宿舎へと向かう途中、
「お年なのですから、いつも真っ先に飛び出して行かぬようにと申しているじゃないですか」
部隊の中で年長であるクレイグ・バルベに物申す事が出来る人間は数少なく、その中の一人である宗の息子の呂周にくぎをさされ、耳に指を突っ込んで聞こえないふりをする。
「嫌だねー、お前さ、ますますソウに似てきたんじゃない?」
宗の父親は剣舞の腕を見初められ三強大国のひとつ、漢栄からワジャート王国へとやってきた。
真っ直ぐでサラサラな美しい黒髪と切れ長で色っぽい目は母親譲で、性格は父親に似ているが体格の良さは受け継がなかったようだ。
特に戦っている時の宗は美しい。見事な剣さばきで強い相手に挑んでいく。その姿に心を奪われた。
戦う姿を近くで見ていたい。その思いで、一番の友達というポジションを手に入れたのだが、彼の心は別の女性が射止めていた。
宗の妻、朱玉《シュギョク》も漢栄の出身で、それは大層美しい女性だった。
朱玉は酒場で踊り子をしており、美味い酒の美女の踊りは酒場の者達を酔わせていた。
そんな彼女を、ガラの悪い男達が暴力にモノを言わせて自分のモノにしようとした。それを助けたのが宗とクレイグで、それが切っ掛けで三人は仲良くなった。
それからあっという間だ。宗と朱玉は婚姻し、息子の周が生まれてたのは。
いつか誰かの者になる。その相手が朱玉でよかったと、クレイグは素直に二人の幸せを願い、周が誕生したときには自分の子供が誕生したかのように喜んだ。
だが、そんな幸せな日々も終わりを告げる。
その年の冬は寒い日が続いた。
朱玉は持病もちで、日々、体力が落ちていきベッドがら起きあがる事すらできなくなってしまい、最後は眠るように逝った。
今でも宗が静かに涙を流す姿が目に焼きついている。
あれから二十年。
そろそろ、友人から伴侶という位置を手に入れたいと、そう思っている。
「なぁ、シュウ」
「なんでしょうか」
「お前の父親の事、貰ってもよいか?」
大柄で筋肉質な身体を丸めてモジモジとする姿に、周は嫌なモノでも見る様な表情を浮かべる。
そういう目で自分を見る姿は宗とそっくりだな、と、クレイグは心の中でぼやく。
「やっとその気になったんですね」
「な、何を?」
どういう事だろうか。
今まで宗に対する気持ちは隠してきた。誰にもばれていないはずと思っていたに。
「クレイグさん、うまく隠せていると思ったら大間違いですよ?」
「え!」
「それも、隊長なんて二人が付き合う事を俺が反対していると思われているんですからね!!」
宗に対する気持ちを全然隠せていないし、しかも関係のない周には悪い事をしてしまった。
「うわぁ、それは、なんか、ゴメン」
「ちなみに、とうの昔に父にもばれてますからねっ。待たせたから良いお返事はもらえないかもしれませんよ」
「宗にまでばれてるのか!」
そんなに自分はわかりやすいのか。恥ずかしくて、いたたまれない気持ちとなる。
「そりゃ、いつからだよぉ」
「本人の口から聞いて下さい」
知りませんと腕を組みながらそっぽを向く周に、こりゃ大変だと慌てる。
「すまん、俺、行くわ!」
知られていたという事実がものすごく恥ずかしいが、それを知ってしまった以上、何もなかったという事にするのは出来ない。
「はい。まぁ、一応、頑張ってください」
「あぁ」
「父は鍛錬所へ向かったようなので」
「はは。暴れたりないと言っていたからな」
あまりに骨のない相手だった故、宗は同じように暴れたりない奴等と手合せをしているだろう。
求婚に必要なアレは、非番で宿舎で休んでいる奴に中身は内緒で預けてある。
それを受け取りに、ひとまず、その者の元へと向かう。
勝手に部屋に入り、寝ている所を叩き起こす。そして荷物を受け取ると宗の元へと向かう。
綺麗な箱の中身は、求婚をする時に贈るシルバーのアクセサリーだ。
大抵、女性には指輪、男性には首飾りを贈るのだが、クレイグが用意しておいたのは細かい彫を施したカフスである。
これは知り合いの商人に頼んでアクトリア王国に住む職人に作らせたものだ。
それを握りしめ、額に当てる。
闘いに向かう時とは違う緊張感。求婚をするときは戦う時よりも緊張する……、仲間の誰かが口にした言葉を思い出す。
皆が話していた通りだった。胸の高鳴りが落ち着かない。
こんな姿、宗に見られたら情けないと思われてしまいそうだ。
宗は鍛錬所で後輩たちと手合せを終え、水場で汗を流していた。
濡れた細身の体は色っぽくて、つい見惚れてしまう。
暫くの間、黙ってその姿を見ていたら、
「なんだ、手合せでもしたくなったか?」
と剣を手にし、挑戦的な表情を浮かべる。
ゾクッとする格好よさ。
その誘いによろめきかけて、だめだと頭を振るう。
「とても魅力的な誘いだが、今は大切な話がある。すこし付き合ってくれないか?」
「あぁ、良いぞ」
身体を拭き、着替えが終わった所で、宗を人気のない場所へと連れて行く。
そして、いざ求婚、と思ったが照れてしまい話を切り出せない。
「どうした?」
「あぁ、なんだ、その……」
ガシガシと頭をかき、言葉を絞り出そうとするが口から出てこない。
いつまでも話しださないクレイグに、宗は眉間にしわを寄せ、
「話が無いのなら俺は戻るぞ」
と、きた道を戻ろうとする。
「あっ、待て! えっと、俺とだな」
「あぁ」
「は、はん、りょ」
「何?」
クレイグは、落ち着けと、息を大きく吸ってからはき出す。そして、ポケットの中に入れておいた箱を取り出し、
「俺の伴侶となって欲しんだ!!」
と蓋をあけた。
「ほう、良い品だな。しかも俺好みだ」
「だろう?」
「これは貰っておこう。だが、俺が伴侶になるかどうかは、お前次第だ」
そう言うと、カフスの入った箱を軽く上げて立ち去る。
「俺次第ねぇ……」
一筋縄ではいかない相手に対してどう攻めるべきか。
それが闘いならば経験豊富なのだが、恋愛の方は不得意だ。
ガシガシと頭を掻き、ため息をついて項垂れる。
「こりゃ、一人で考えるのは無理だわ」
誰かにアドバイスを貰おうと歩き出した。
若かりし頃の彼を知っている彼もまた同じ年代であり、顔のしわが増えてきた。
互いに歳をとったなと笑いあい、都合が悪いときは年寄だからと逃げ口に使うが、戦いとなると別だ。
まだ若い者には場所を譲らないと、昇進の話を蹴とばして「剣の第一部隊」と呼ばれる強者揃いの第一部隊に居続ける。
今は三大強国で平和条約が結ばれており国同士での大戦はないが、騎士としてワジャートの民に何かあれば一番に現場へと向かうのだ。
今日も盗賊の一味を捕まえてきた後で、馬を馬小屋に戻し第一隊専用の宿舎へと向かう途中、
「お年なのですから、いつも真っ先に飛び出して行かぬようにと申しているじゃないですか」
部隊の中で年長であるクレイグ・バルベに物申す事が出来る人間は数少なく、その中の一人である宗の息子の呂周にくぎをさされ、耳に指を突っ込んで聞こえないふりをする。
「嫌だねー、お前さ、ますますソウに似てきたんじゃない?」
宗の父親は剣舞の腕を見初められ三強大国のひとつ、漢栄からワジャート王国へとやってきた。
真っ直ぐでサラサラな美しい黒髪と切れ長で色っぽい目は母親譲で、性格は父親に似ているが体格の良さは受け継がなかったようだ。
特に戦っている時の宗は美しい。見事な剣さばきで強い相手に挑んでいく。その姿に心を奪われた。
戦う姿を近くで見ていたい。その思いで、一番の友達というポジションを手に入れたのだが、彼の心は別の女性が射止めていた。
宗の妻、朱玉《シュギョク》も漢栄の出身で、それは大層美しい女性だった。
朱玉は酒場で踊り子をしており、美味い酒の美女の踊りは酒場の者達を酔わせていた。
そんな彼女を、ガラの悪い男達が暴力にモノを言わせて自分のモノにしようとした。それを助けたのが宗とクレイグで、それが切っ掛けで三人は仲良くなった。
それからあっという間だ。宗と朱玉は婚姻し、息子の周が生まれてたのは。
いつか誰かの者になる。その相手が朱玉でよかったと、クレイグは素直に二人の幸せを願い、周が誕生したときには自分の子供が誕生したかのように喜んだ。
だが、そんな幸せな日々も終わりを告げる。
その年の冬は寒い日が続いた。
朱玉は持病もちで、日々、体力が落ちていきベッドがら起きあがる事すらできなくなってしまい、最後は眠るように逝った。
今でも宗が静かに涙を流す姿が目に焼きついている。
あれから二十年。
そろそろ、友人から伴侶という位置を手に入れたいと、そう思っている。
「なぁ、シュウ」
「なんでしょうか」
「お前の父親の事、貰ってもよいか?」
大柄で筋肉質な身体を丸めてモジモジとする姿に、周は嫌なモノでも見る様な表情を浮かべる。
そういう目で自分を見る姿は宗とそっくりだな、と、クレイグは心の中でぼやく。
「やっとその気になったんですね」
「な、何を?」
どういう事だろうか。
今まで宗に対する気持ちは隠してきた。誰にもばれていないはずと思っていたに。
「クレイグさん、うまく隠せていると思ったら大間違いですよ?」
「え!」
「それも、隊長なんて二人が付き合う事を俺が反対していると思われているんですからね!!」
宗に対する気持ちを全然隠せていないし、しかも関係のない周には悪い事をしてしまった。
「うわぁ、それは、なんか、ゴメン」
「ちなみに、とうの昔に父にもばれてますからねっ。待たせたから良いお返事はもらえないかもしれませんよ」
「宗にまでばれてるのか!」
そんなに自分はわかりやすいのか。恥ずかしくて、いたたまれない気持ちとなる。
「そりゃ、いつからだよぉ」
「本人の口から聞いて下さい」
知りませんと腕を組みながらそっぽを向く周に、こりゃ大変だと慌てる。
「すまん、俺、行くわ!」
知られていたという事実がものすごく恥ずかしいが、それを知ってしまった以上、何もなかったという事にするのは出来ない。
「はい。まぁ、一応、頑張ってください」
「あぁ」
「父は鍛錬所へ向かったようなので」
「はは。暴れたりないと言っていたからな」
あまりに骨のない相手だった故、宗は同じように暴れたりない奴等と手合せをしているだろう。
求婚に必要なアレは、非番で宿舎で休んでいる奴に中身は内緒で預けてある。
それを受け取りに、ひとまず、その者の元へと向かう。
勝手に部屋に入り、寝ている所を叩き起こす。そして荷物を受け取ると宗の元へと向かう。
綺麗な箱の中身は、求婚をする時に贈るシルバーのアクセサリーだ。
大抵、女性には指輪、男性には首飾りを贈るのだが、クレイグが用意しておいたのは細かい彫を施したカフスである。
これは知り合いの商人に頼んでアクトリア王国に住む職人に作らせたものだ。
それを握りしめ、額に当てる。
闘いに向かう時とは違う緊張感。求婚をするときは戦う時よりも緊張する……、仲間の誰かが口にした言葉を思い出す。
皆が話していた通りだった。胸の高鳴りが落ち着かない。
こんな姿、宗に見られたら情けないと思われてしまいそうだ。
宗は鍛錬所で後輩たちと手合せを終え、水場で汗を流していた。
濡れた細身の体は色っぽくて、つい見惚れてしまう。
暫くの間、黙ってその姿を見ていたら、
「なんだ、手合せでもしたくなったか?」
と剣を手にし、挑戦的な表情を浮かべる。
ゾクッとする格好よさ。
その誘いによろめきかけて、だめだと頭を振るう。
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「あぁ」
「は、はん、りょ」
「何?」
クレイグは、落ち着けと、息を大きく吸ってからはき出す。そして、ポケットの中に入れておいた箱を取り出し、
「俺の伴侶となって欲しんだ!!」
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「ほう、良い品だな。しかも俺好みだ」
「だろう?」
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そう言うと、カフスの入った箱を軽く上げて立ち去る。
「俺次第ねぇ……」
一筋縄ではいかない相手に対してどう攻めるべきか。
それが闘いならば経験豊富なのだが、恋愛の方は不得意だ。
ガシガシと頭を掻き、ため息をついて項垂れる。
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