生涯の伴侶

希紫瑠音

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第三王子は船乗りに恋をする

王子に射止められる(5)

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 きっとアンセルムのことだから自分を押し通し、すぐに仁の元へと来るのだろう。

 すぐに家は騒がしくなるのだろうなと、口元を綻ばす。

 自分の心を素直に認めてしまってからは、静かな日々に物足りなさを感じるようになっていた。

「はやく家にこいよ」

 そうして待ち続けて、一日、また一日と過ぎていく。

 しかも、連絡すらないことに、アンセルムの身に何かあったかと心配になってくる。

 シオンに連絡をして確かめて貰おう、そう思い席を立つが、もしも別の理由だったらと思い直して椅子に腰を下ろす。

 待つことがこんなに辛いことだったなんて。今まで、船から戻る自分を待ち続けてきたアンセルムはどういう思いだったのだろう。

 そんな相手を、仁はずっと冷たくあしらってきたのだ。

 今更だが、どうして優しくできなかったのかと気持ちが落ちこむ。

「アンセルム、早く約束したことをやりに来い」

 抱きしめて、温もりを感じたい。そしてアンセルムの作った美味しい食事を食べながら一緒に話をしよう。

 そしてベッドでこの前の続きをやらせてやる。

「俺を、一人にしておくな」

 伴侶として迎えてやるから。

 ぎぃ、とドアが軋む音共に開かれ、そこには眩しいばかりに笑顔が輝くアンセルムの姿がある。

「一人にしておいてごめんね、ジン」

 なんてタイミングで現れるのだろう。

 会えた嬉しさ、弱音をはいていた自分に対する羞恥心、それが全部まじりあって複雑な感情となる。

「王子、タイミングが悪すぎますよ」

 そう口にするなり、仁はアンセルムを強く抱きしめていた。

「えぇ? タイミングが良かったの間違いじゃないの」

 弱音をはく所に居合わせたアンセルムにとってはそうかもしれないが、仁としては恥ずかしいだけだ。

「貴方は無駄に存在感がありすぎるから、勘違いしてしまっただけです」
「ふふ、そっか、ジンは私のことをそんなに想っていてくれたんだ」

 仁の本当の気持ちは見通されているのだ。

 嬉しいよ、なんて言いながらアンセルムは仁の額に口づけを落とした。

「……貴方って本当にポジティブ思考ですよね」

 じっとアンセルムを見れば、ふっと笑みをこぼし唇へとキスをする。

 それを応えるように口を開けば、アンセルムの舌が歯列をなぞり、口づけはさらに濃厚なものになる。

「はぁっ」

 ちゅっとリップ音をならしながら、甘く息をはきだして。

 濡れた唇を何度も、何度も重ね合い、熱のこもった眼差しで見つめ合う。

「ジン」
「ん、アンセルム、さま」

 互いの唇が離れていき、名残惜しそうに濡れた唇を見つめる。

 アンセルムは愛おしそうに仁の頬を暫く撫でた後、上着のポケットへと手を突っ込み、中から小さな箱を取り出した。

「これは?」

「いつかジンに渡そうかと思って作らせておいたんだよね」

 とそれを掌の上へと置いた。

 開けてみてと言われ、中を開けてみればそこにはシルバーリングがあった。

 智広の護衛も兼ねているため、一緒に商談へと着いていくことが多く、いつの間にか良い品を見極める目が養われていた。それ故にアンセルムからの贈り物がどれだけ素晴らしかがわかる。

「良い腕の職人ですね」
「君はチヒロと共に商談に行くことも多いでしょう? だから誰に見られても目を惹くような品をと思ってね」

 確かにこのリングは目を惹くだろう。意外と相手は自分たちの身なりを見てくるものだ。

「ありがとうございます、アンセルム様」

 その気遣いが嬉しくてその身を抱きしめた。

「ふふ、喜んでもらえてうれしいよ」
「アンセルム様、俺からもお渡ししたいものがあります」

 アンセルムから身を離し、箪笥の上に置いてある小物入れの中にある巾着袋を手にし、中身を取りだして彼へと手渡す。

「これは、和ノ國の櫛かい?」

 と、仁から渡されたものに、アンセルムは目をパチクリさせる。

 櫛には椿の花が彫られており、どうみても女性ものである。それを手渡されて戸惑っているのだろう。

「はい、そうです」

 若い娘が好みそうな櫛をアンセルムに手渡すのはどうかと思っていたのだが、母親から娶りたいと思う相手ができたらあげなさいと言われて持たされたものだから。

「和ノ國では娶りたいと思う女性に櫛を贈ります」

 その先に続く言葉を期待するかのようにアンセルムが仁を見つめている。

 そう、この先に続く言葉は間違いなくアンセルムが期待する通りの言葉なのだから。

「アンセルム様、俺の伴侶になってくれますか?」
「あぁ、もちろんだとも!!」

 幸せだよと櫛を大切そうに握りしめ、仁の唇に唇を重ねた。

「ん、あんせるむ、さま」

 先ほども深く口づけもだが、アンセルムとのキスは仁へ甘い疼きを与える。

 何度も音を立てながら唇を啄んで、ほうと甘い気を吐き見つめ合う。

「ねぇ、ジン、私達は伴侶となるのだから敬語と様付をやめてくれないかな」

 と言われ、仁はすぐにその提案を受け入れる。

 きっと、前に襲われた時のように余裕がなくなってしまいそうだから。

「あぁ、いいぜ。その方が俺も楽だ」

 敬語は堅苦しくていけねぇよと口角を上げる。

 話し方ひとつで雰囲気がかわったかのようで、アンセルムがニヤニヤとした表情を浮かべている。

「な、なんだよ」
「いや、その口調のジンは雄雄しいよね」

 うっとりと見つめられて仁は照れくさいのを隠す様に、アンセルムの顔を自分の手のひらで覆えば、そのまま掌に口づけをおとしはじめる。

「お、おい」

 真っ赤な舌が指の付け根を舐り、人差し指を咥えられてしまう。

「アンセルム」
「ん……」

 仁に見せつけるように扇情的に舌を動かす。

 その姿に下半身が疼き、仁はたまらず前かがみになってしまい、それを見逃すアンセルムではなく、そのままベッドへと押し倒されたかと思えばその上に跨る。

「この前の続き、しようね」

 と服を脱がされ、肌を手が舌が愛撫していく。アンセルムはすごく厭らしい。

「ジンがね、可愛い顔をして私のを欲しがる姿をオカズに自慰をしているんだよ」

 今、その話をするところではないだろう。折角の雰囲気が台無しだ。

「あー、あー、そんな話は聞きたかねぇ」
「えぇ、興味ないの? 私がどんなふうにするのかって」
「あのなぁ、いまからそれ以上にすげぇことをするんだろうが」

 黙れとばかりに口づけをすると、嬉しそうにそれに応えるように舌を絡ませる。
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