生涯の伴侶

希紫瑠音

文字の大きさ
上 下
10 / 21
第三王子は船乗りに恋をする

王子に射止められる

しおりを挟む
 船に乗り異国と商売をし、稼いだ金で珍しい品を買って帰る。

 しかも和ノ國の品が流行しており、美しい織物は貴族の間で人気が高い。

 小早川の親戚が和ノ國で店を開いている為、良い品が手に入りやすく、それを買い求めようと商会に声が掛かり、とても忙しい日々を送っている。 

 今日も和ノ國へと品物を仕入れに行く所で、智広の隣に立つ男を見た瞬間に仁の眉間にシワがよる。

「おい、智広、船長は俺だよな?」
「うん、そうだよ」
「王子が乗船するなんて聞いてねぇぞ」

 ひそひそと和ノ國の言葉で智広に話しかければ、主は僕だよねと言い返される。

「王子のお願いを無碍にはできないでしょう?」

 相手はこの国の王族だよと言われ、仁はグッと喉に声を詰まらせる。

 アンセルムの見た目は確かに王子だ。だが、料理を作ったり、洗濯物を洗ったりしながら街の女たちと楽しくおしゃべりをしたりと、あまりに王族らしからぬ事をするものだから、改めて言われてそうだったと、本来はそんな態度をとっていい相手ではなかったのだ。

「アンセルム王子はね、王太子のお誕生日の祝いの品を、自ら選んで贈りたいんだって。ねぇ、兄を想う弟の気持ちを汲んであげて」

 仕事の邪魔はさせないからと、智広のその言葉を信じる事にした。

 それから和ノ國につくまで、天気も良く運航は順調。しかも拍子抜けするぐらいに何事もなかった。アンセルムに邪魔される事もなかった。

 しかも王子らしい振る舞いを見せ、仁は驚いた位だ。

 陸に降りる準備があるからと智広の案内でアンセルムは宿へと向かったはずだ。

 なのに樽に寄りかかる和服姿のアンセルムの姿を見つけ、何故ここにいるのかと彼の傍へと向かう。

「アンセルム様、お供の者は?」

「ん、さぁ?」

 とぼけた顔をしてあちらの方角へと顔を向ける。

「……確か鶴屋に泊まってますよね。行きますよ」

 腕を掴み鶴屋へと向かおうとすれば、

「折角、着物を着てジンと町をぶらぶらしようと思ったのに」

 と唇を尖らせる。

「俺はまだ忙しいので」

 相手にしていられないとばかりに冷たく言い放つが、部下に任せておけばいいじゃないかと簡単には引き下がらない。

 いい加減にしてほしい。ぐっと拳を握りしめ怒りに耐える。

「俺はこの船を任されているんです。そういう訳にはいきません」

「じゃぁ良い。一人で帰るから」

 仁から背を向けて歩きはじめる。どうあってもアンセルムは我儘を通すつもりのようだ。

 これで何かあった日には智広が一番責任を負わねばならなくなる。

「な、駄目に決まっているでしょう! 鶴屋まで送ります」

 このままでは終わるまでここに居そうなので、鶴屋に着くまでの間なら付き合うと言う。すると腕に腕を絡ませて嬉しそうに微笑んだ。

 そういう素直な所は可愛いと思う。

「行きますよ」

 いつもは振りほどく所だが、今日はそのままにさせておき鶴屋に向けて歩き出す。

 少しだけ遠回りをしてやろうという気持ちになり、一本違う道へと入る。

「ふふ、こうして君が生まれた所を一緒に歩きたかったんだよ」

「そうですか」

 ご機嫌な様子であたりを見わたし、店の看板を見つける度に尋ねてよこす。

 それにこたえつつ、時折店の中を覗いた。

 仁にとっては見慣れた物もアンセルムにとっては珍しい物で、目を輝かせて品物を見る姿が子供のようだ。

「おお、これは髪飾りだろう!」

 飴細工を指さし、女性の髪を結うときに使うやつと自信満々にいうものだから、つい笑ってしまった。

「違いますよ。これは……、そうですね、オヤジ、飴を二つくれ」

 和ノ國の言葉で飴売りに話しかけ鶴と亀の形をした飴細工を買う。

「さ、どうぞ」

 鶴の方をアンセルムに差し出して自分は亀の方を舐める。

「え?」

 驚いて目を瞬かせるアンセルムに、舐めてみてくださいと言う。

 それを恐る恐る舐めた後、目を見開き、まじまじと飴細工を見る。

「和ノ國の者は凄いな。飴でこんなに見事なものを作るのか」

 アクトリアにも飴はある。飴細工のような飴はなく、かたちはただ丸めただけだが色々な味を楽しむ事が出来る。初めて食べた時、今のアンセルムのような自分もしていた気がする。

「食べてしまうのが勿体ない」
「ですが、食べて貰えぬ方が可愛そうです」
「そうだな」

 飴を食べながら町を見て歩き、そして鶴屋の前へとたどり着く。

 その頃には二人の飴は小さくなっていた。

「少しだがジンと町を歩けて良かった」

 仁も意外と楽しかった。だが、それを素直に口にすることはしない。アンセルムが調子付くのは嫌だからだ。

「それでは失礼します」

 つれない態度をとり、来た道を戻ろうとした、その時。

「明日、ジンは実家に行くんだよね?」

 と聞かれて、何故それを知っているのかと思わず振り返ってしまった。

「私も連れて行っては貰えないだろうか」

 その眼が何か良からぬ事を考えているように見える。

「無理です」
「何故だい? 御両親にご挨拶をさせて欲しい」

 嫁となる予定として。きっとそう言いたいのだろう。

 考えている事が解ってしまい、頑としてそれは拒否しなければいけない。

「親子水入らずで話したいので」

 そう言ってしまえばアンセルムは渋々ではあるがしょうがないと諦めてくれた。

「ありがとうございます」

 お礼をいう必要はないのだが、そう言って頭を下げる。

「お会いしたかったが、しょうがない、か」

 ふ、と、暗い表情をし、上手くいかなかったことが悔しかったのかなと仁は思う。

 だが、すぐにいつもの調子で、仁にまたねと投げキッスをしてよこした。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】一回ヤッたら溺愛されました〜甘えたがりの甘え下手〜

大竹あやめ
BL
「そうだ、お前ら付き合っちゃえば?」友人からそう言われ、なんだかんだと同棲することになった駿太郎と友嗣。駿太郎は理性的で大人なお付き合いをしたかったのに、友嗣は正反対の性格だった。下半身も頭も緩い、しかもバイセクシャルの友嗣に、駿太郎は住まいだけ提供するつもりだったのに、一回ヤッてみろという友人の言葉を信じた友嗣にホテルに誘われる。 身体を重ねている途中で、急に優しくなった友嗣。そんな友嗣に駿太郎も次第に心を開いて……。 お互い甘えたがりなのに甘え下手な、不器用な大人のメンズラブ。

陛下の恋、僕が叶えてみせます!

真木
恋愛
もうすぐヴァイスラント公国に精霊がやって来る。 建国の降臨祭の最終日、国王は最愛の人とワルツを踊らなければならない。 けれど国王ギュンターは浮名を流すばかりで、まだ独身。 見かねた王妹は、精霊との約束を果たすため、騎士カテリナにギュンターが最愛の人を選ぶよう、側で見定めることを命じる。 素直すぎる男装の騎士カテリナとひねくれ国王ギュンターの、国をかけたラブコメディ。

流されました、絆されました。

ひづき
BL
孤児院育ちのルークはある日突然いきなり兵士に連行され、異常発情状態の男に襲われる。 何でも男は呪われているそうで。 これ以上利用されたくないルークは逃げ出すが─── ※合意のない性行為があります。 ※冒頭から喘いでます。 ※シリアス、迷子。 ※悲惨さ、迷子。

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

この恋は運命

大波小波
BL
 飛鳥 響也(あすか きょうや)は、大富豪の御曹司だ。  申し分のない家柄と財力に加え、頭脳明晰、華やかなルックスと、非の打ち所がない。  第二性はアルファということも手伝って、彼は30歳になるまで恋人に不自由したことがなかった。  しかし、あまたの令嬢と関係を持っても、世継ぎには恵まれない。  合理的な響也は、一年たっても相手が懐妊しなければ、婚約は破棄するのだ。  そんな非情な彼は、社交界で『青髭公』とささやかれていた。  海外の昔話にある、娶る妻を次々に殺害する『青髭公』になぞらえているのだ。  ある日、新しいパートナーを探そうと、響也はマッチング・パーティーを開く。  そこへ天使が舞い降りるように現れたのは、早乙女 麻衣(さおとめ まい)と名乗る18歳の少年だ。  麻衣は父に連れられて、経営難の早乙女家を救うべく、資産家とお近づきになろうとパーティーに参加していた。  響也は麻衣に、一目で惹かれてしまう。  明るく素直な性格も気に入り、プライベートルームに彼を誘ってみた。  第二性がオメガならば、男性でも出産が可能だ。  しかし麻衣は、恋愛経験のないウブな少年だった。  そして、その初めてを捧げる代わりに、響也と正式に婚約したいと望む。  彼は、早乙女家のもとで働く人々を救いたい一心なのだ。  そんな麻衣の熱意に打たれ、響也は自分の屋敷へ彼を婚約者として迎えることに決めた。  喜び勇んで響也の屋敷へと入った麻衣だったが、厳しい現実が待っていた。  一つ屋根の下に住んでいながら、響也に会うことすらままならないのだ。  ワーカホリックの響也は、これまで婚約した令嬢たちとは、妊娠しやすいタイミングでしか会わないような男だった。  子どもを授からなかったら、別れる運命にある響也と麻衣に、波乱万丈な一年間の幕が上がる。  二人の間に果たして、赤ちゃんはやって来るのか……。

くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました

あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。 一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。 21.03.10 ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。 21.05.06 なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。 21.05.19 最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。  最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。  最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。 23.08.16 適当な表紙をつけました

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

花、留める人

ひづき
BL
ヘンリックは祖国で要らない王子だった。突然現れた白金髪の男に連れ出され、伸び伸びと育てられ─── 16歳の時、身体を暴かれた。それから毎日のように伽をしている。 そんなヘンリックの歪な幸せの話。 ※エロ描写、大変軽い。物足りないと思われる。

処理中です...