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第7章 エリスの絶望
第10話 エリスとエリザベス
しおりを挟む「おー、走ってる走ってる」
朝飯の片づけが終わって、昼食の準備が一段落したところで窓から外を眺めると、偵察隊の人達が走っていた。
「私もよく走ってたなあ……」
今だって過去形ではなく、まったくの他人事ごとではない。調理室でご飯作りをしていても、自衛官であることには変わらないし、定期的に訓練に参加することもあるのだから。
「でも、最近じゃ脚力より、絶対に腕力の方が強くなっているわよね」
大鍋でおかずをかき混ぜたりするのはかなりの重労働。二の腕には、ここに来た時よりも絶対に筋肉がついたと思う。そう思いながら腕を曲げて力こぶを作ってみた。ほら見て、立派な力こぶができた♪
私の後ろでは、駐屯地内のいろんな部署から派遣されてくる隊員さん達が昼食の準備をしていた。別に私がサボっているわけでも、彼等が懲罰でここに来させられているわけでもない。これも、一応は訓練のうちなのだ。
どういうことかというと、なにか有事が起きてここの隊員達がてんでばらばらになった時にでも、ちゃんと一人でサバイバルできるように調理技術も身につけさせるという、まあいわば親心みたいなものなんだとか。
いま作業している彼等も、最初に来た時はそりゃもう使いものにならなくて大変だった。
まさか自衛隊に来て、誰かにジャガイモの皮のむき方から仕込まなくちゃいけなくなるなんて、私も思いもしなかった。だけど、そんな彼等も今ではなんとか形になるものを作れるようになり、味つけに関しても私が確認すれば良いだけになっていた。すごい進歩でしょ? 鍋をひっくりかえしたくなる衝動をこらえながら、我慢強く指導した自分をほめてあげたい。
「あれ、ペースが遅くなってきた」
最初は張り切って走っていた一団の、走るスピードがどんどん遅くなっている。もしかしてスタミナ切れ? ああ、やっぱりもっと栄養価が高くて腹持ちのする朝ご飯を用意しなくちゃ駄目かな?
「……でも、後ろについて走ってる人はずっと同じペースで走り続けてるよね」
人によってエネルギー代謝率はさまざまだし、後ろを走っている人は省エネタイプなのかな。そう言えば見たことのない顔かも。あ、新しく着任した小隊長さんかな?
そんな私の頭の中の声が聞こえたのか、グループの最後尾を走っていた人がこっちを見た。や、やばい、糧食班がサボっていると思われちゃうよ! 慌てて姿勢を正してみたものの、窓際に立っていたら同じことだって気がついた。な、中に引っ込まなくちゃ!
「わあ」
後ろに下がろうとしたら、濡れていた床に足をとられて尻餅をついてしまった。よく見ればジャガイモの皮が。どうやらこれで滑ったらしい。
「もう! なんでこんなところにジャガイモの皮?!」
もしかして私の長靴にでもひっついてきた? 皮をつまむ。そして皮を見つめたところで、その向こう側でこちらを見ている数名の隊員と目が合った。
「ちょっと。そこはこう、なんて言うか、大丈夫ですかって声をかけないまでも、見ないふりをする優しさとか無いんですか?」
私のムカついた言葉に、慌てて視線を自分達の手元におとす。どうして肩が震えているかな、まったく。あ。
「あ、これってもしかして、私に対する嫌がらせですか?!」
つまみあげたジャガイモの皮を突き出すと、全員がとんでもないと慌てて首を振った。
「違う違う、嫌がらせなんてとんでもない!」
「そうですよ。ここにきて二ヶ月、ここまで任せてもらえるまで調理の腕が上達できたのは、音無三曹の指導のお蔭なんです。感謝することはあっても、嫌がらせなんてとんでもない」
「音無三曹がいなくなったら、俺達は美味しいご飯が食べられなくなるじゃないか。嫌がらせする奴は俺達が許さないから……俺達の胃袋のためにも」
「それって喜んでいいんですか?」
「もちろんですよ!」
そう、私はここの駐屯地の男連中の胃袋を、わしづかみにしているらしい。
「その調子で、新しく来た幹部殿のことも調略してほしいんですけどねえ」
「調略って、どこの陰謀時代劇ですか」
「だってすっげー怖い人らしいですよ。鬼、悪魔って呼ばれているらしいです。その人が配属された小隊から死人が出るかも」
「えー?」
俺、ここから戻りたくないなあなんて言い出す人までいる始末。いったい、どんな怖い人がやって来たのやら。
「その人って、どこか別のところから来たベテランさんなんですか?」
「いや。BOCを終えたばかりの若い幹部だよ。今年度うちに来たのは二人なんだけどね、そのうちの一人が、そりゃえげつないぐらい化け物じみているらしいよ。あ、これは人事の知り合いからの伝聞で、俺はまだ会ったことがないけど」
「それって一体どういう……」
もしかして私の憧れるなんとか兵曹みたいな人なんだろうか? あ、でも彼は特殊部隊の指揮官をしていたベテランで、新米さんではないわよね? ってことはミリオタかぶれの変人とか? ああ、でもそれだったらBOCなんて行かないような気はするし。
「あ、そういえば」
さっき偵察小隊の一団の後ろを走っていた人も、見たことのない顔だった。ってことは、そのなんとか兵曹もどきさんの可能性もあり?
気になってもう一度、こっそりと窓から外をのぞいてみる。さっきの小隊はまだ走っていて足元がおぼつかない隊員が何人かいる中で、一番後ろの隊長さんらしき人はまったくさっきと変わらない。どのぐらいの時間を走っているのかわからないけど、なかなかのスタミナだよね。
「もしかしてー、もしかするのかなー?」
どんな人なのかな? ちょっと興味があるかもしれない。普段は厨房の奥に隠れている私も、その新しい小隊長さんは気になる存在になりつつあった。だって憧れのなんとか兵曹だよ? 気になって当然じゃない? ああ、鬼か悪魔だったら困るけど。
「音無三曹、味の確認をお願いします」
声をかけられたので窓から離れる。
「今日のカレーのできばえはどうでしょうか」
本日の味つけを任されたのは、この中で一番若い陸士長君だ。この子も、来たばかりの時は、包丁の持ち方からしてどうしようかと思うぐらいだったけれど、今では野菜の皮むきをさせたら右に出るものはいないぐらいなっていた。最近では、捨てる皮を使って細工切りまでするんだから感心してしまう。
小皿にルーを入れてフーフーしながら味見。うん、素晴らしい。
「うん、おいしいです。もしかして今回が、今までで一番のできじゃないですか? 合格です」
「本当に? やったー! ここにいる間に合格もらえたー!!」
よっしゃー!と言う感じで両手をあげて喜ぶ陸士長君。ここまで長かったねー、お姉さんも嬉しいよ。
「この調子で夕飯の時も頑張りましょう」
「了解しました!!」
そういうわけで隊員の皆さーん、本日のお昼ご飯は皆の大好きなカレーですよー!
+++++
昼食の時間になって、外にいた隊員達が一斉に食堂に戻ってきた。
さっき私が走るのを観察していた小隊の人達も戻ってきたけど、心なしか顔色が悪い。さらにはその中の大森二曹と山本二曹が、ご機嫌ななめな様子でなにやらブツブツと悪態をついている。なになに? あの森永ってやつの持久力は化け物か?
ああ、やっぱりさっきの隊長さんらしき人がケーシーなにがしさんなんだ。遠くからしか見えなかったけれど、どんな人なんだろう? 顔を見たいけど、幹部はこことは違う場所で食事をしているので、残念ながら遠目でしかご尊顔を拝することはできない。
「今日のカレーはうまいな」
そんな声が聞こえてきて、自分のことのように嬉しくなる。ぜいたくを言うなら、もう少しゆっくり味わって食べて欲しいんだけどなかなかそれは難しい。でも、ここからながめていても、おいしそうに食べてくれているのがわかるから良しとするか。
そんな感じで慌ただしい食事作りの任務もとどこおりなく終わり、在庫確認を終えると、食器を片づけるという一日の最後の作業に入った。人数が人数だからこれもなかなか重労働な作業だ。所定の場所に食器を片づていると、コンコンとカウンターをたたく音がした。ふりかえると、トレーを持った隊員が立っていた。
「ああ、もう。なんでもう少し早く持ってきてくれないんですか? そりゃあ任務のうちですから片づけますけどね、次の準備もありますし、こっちにも手順ってものがあるんですよ?」
「すまない。名取一佐に呼び出しを受けていて、食べるのが遅くなってしまった」
「そうなんですか? しかられていたのならしかたないですね、こっちに渡してください」
「べつに、しかられていたわけじゃないんだが」
「どちらにしろ呼び出しを食らったんでしょ? 似たようなものですよ」
そう言いながら、その人が立っているところに足早に向かう。
「……あまり見かけない顔ですね?」
と言いながら、階級章に目をやって飛び上がった。二尉ってことは幹部! 幹部がどうして食器を自分で運んでくるの?! こういうことって下の子達がすることなんじゃ?!
「あ、失礼しました! 幹部のかたとは知らずに」
「いや、かまわない。遅くなったのは事実だから。ところで、ここでは君がすべて食事を作っているのか?」
カウンターにトレーを置くと少しだけこちらを覗き込むように身を屈めてから尋ねてきた。
「ここは民間に委託してませんからね。糧食班には、駐屯地内の色んな部署から隊員が派遣されてくるのは御存知でしょう? 彼らが慣れるまでは私がしますが、ある程度任せられるようになったので、今はほとんど彼らが作ってますよ。お口にあいませんでしたか?」
心配になって思わず聞いてしまった。
「いや、うまかったよ」
「そうですか、それは良かった。今日は新人陸士長君会心のできでしたからね。幹部の人にほめてもらったって知ったら喜びます」
食器をシンクに運んでから、その人がまだそこに立っていることに気がついた。
「あの、まさかご飯のおかわりがしたいとか、言いませんよね?」
「あるのかい?」
「残念ながら完食御礼です。幹部のかたなら営外住みで自由に出来るんだから、色々と自宅に備蓄はしてるんでしょう? まだお腹が寂しいならそれを食べてください」
私の言葉に、その人がおかしそうに笑った。真面目な顔をしている時はちょっと怖そうな感じではあったけど、笑うと急に可愛くなっちゃうのね、意外なギャップだ。
「そう言えば、昼間のカレーはうまかったな」
「ここは毎週水曜日がカレーの日なんですよ、昼だったり夜だったり、まちまちですけど」
陸自カレーに関しては、海自カレーとは違って全体で曜日が統一されているわけではないのだ。
「そうか。じゃあ、来週の水曜日をまた楽しみにしているよ」
「ここはカレーしかおいしくないって言われてるみたい」
「そんなことはないさ。朝飯もうまかったし、この夕飯もうまかった」
「なら良いんですけどね」
「じゃあ。二度手間をかけてもうしわけなかった」
「いいえ。次からはできるだけ時間内に食べてくださいね。そうしたらカレーのおかわりにありつけるかも」
頑張るよと笑いながら立ち去ろうとしたその人は、急に立ち止まってふりかえった。
「ところでそっちの名前は?」
「私ですか? まさか無礼な口振りを上に告げ口するとか」
「そんなことはしないよ。社交辞令の一環として」
「なら良いんですけど。音無です、音無三等陸曹です。そちらのことをおうかがいしても?」
「森永だ」
あ、つい最近その名前を聞いた覚えが。
「ああ、ケー」
ケーシーなにがしと言いかけて、あわてて口をつぐんだ。
「ケ?」
「いえ。新しく着任された小隊長のお一人なのかなと」
「ああ、そうだ。これからはしばらく俺の胃袋がお世話になると思うけどよろしく」
こうして私は、気になるケーシーなにがし的な小隊長さんと対面することができた。
「……思っていたより細身で小柄だったかな」
映画と現実をごっちゃにしたら駄目だよって話だよね。
朝飯の片づけが終わって、昼食の準備が一段落したところで窓から外を眺めると、偵察隊の人達が走っていた。
「私もよく走ってたなあ……」
今だって過去形ではなく、まったくの他人事ごとではない。調理室でご飯作りをしていても、自衛官であることには変わらないし、定期的に訓練に参加することもあるのだから。
「でも、最近じゃ脚力より、絶対に腕力の方が強くなっているわよね」
大鍋でおかずをかき混ぜたりするのはかなりの重労働。二の腕には、ここに来た時よりも絶対に筋肉がついたと思う。そう思いながら腕を曲げて力こぶを作ってみた。ほら見て、立派な力こぶができた♪
私の後ろでは、駐屯地内のいろんな部署から派遣されてくる隊員さん達が昼食の準備をしていた。別に私がサボっているわけでも、彼等が懲罰でここに来させられているわけでもない。これも、一応は訓練のうちなのだ。
どういうことかというと、なにか有事が起きてここの隊員達がてんでばらばらになった時にでも、ちゃんと一人でサバイバルできるように調理技術も身につけさせるという、まあいわば親心みたいなものなんだとか。
いま作業している彼等も、最初に来た時はそりゃもう使いものにならなくて大変だった。
まさか自衛隊に来て、誰かにジャガイモの皮のむき方から仕込まなくちゃいけなくなるなんて、私も思いもしなかった。だけど、そんな彼等も今ではなんとか形になるものを作れるようになり、味つけに関しても私が確認すれば良いだけになっていた。すごい進歩でしょ? 鍋をひっくりかえしたくなる衝動をこらえながら、我慢強く指導した自分をほめてあげたい。
「あれ、ペースが遅くなってきた」
最初は張り切って走っていた一団の、走るスピードがどんどん遅くなっている。もしかしてスタミナ切れ? ああ、やっぱりもっと栄養価が高くて腹持ちのする朝ご飯を用意しなくちゃ駄目かな?
「……でも、後ろについて走ってる人はずっと同じペースで走り続けてるよね」
人によってエネルギー代謝率はさまざまだし、後ろを走っている人は省エネタイプなのかな。そう言えば見たことのない顔かも。あ、新しく着任した小隊長さんかな?
そんな私の頭の中の声が聞こえたのか、グループの最後尾を走っていた人がこっちを見た。や、やばい、糧食班がサボっていると思われちゃうよ! 慌てて姿勢を正してみたものの、窓際に立っていたら同じことだって気がついた。な、中に引っ込まなくちゃ!
「わあ」
後ろに下がろうとしたら、濡れていた床に足をとられて尻餅をついてしまった。よく見ればジャガイモの皮が。どうやらこれで滑ったらしい。
「もう! なんでこんなところにジャガイモの皮?!」
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「ちょっと。そこはこう、なんて言うか、大丈夫ですかって声をかけないまでも、見ないふりをする優しさとか無いんですか?」
私のムカついた言葉に、慌てて視線を自分達の手元におとす。どうして肩が震えているかな、まったく。あ。
「あ、これってもしかして、私に対する嫌がらせですか?!」
つまみあげたジャガイモの皮を突き出すと、全員がとんでもないと慌てて首を振った。
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「えー?」
俺、ここから戻りたくないなあなんて言い出す人までいる始末。いったい、どんな怖い人がやって来たのやら。
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「いや。BOCを終えたばかりの若い幹部だよ。今年度うちに来たのは二人なんだけどね、そのうちの一人が、そりゃえげつないぐらい化け物じみているらしいよ。あ、これは人事の知り合いからの伝聞で、俺はまだ会ったことがないけど」
「それって一体どういう……」
もしかして私の憧れるなんとか兵曹みたいな人なんだろうか? あ、でも彼は特殊部隊の指揮官をしていたベテランで、新米さんではないわよね? ってことはミリオタかぶれの変人とか? ああ、でもそれだったらBOCなんて行かないような気はするし。
「あ、そういえば」
さっき偵察小隊の一団の後ろを走っていた人も、見たことのない顔だった。ってことは、そのなんとか兵曹もどきさんの可能性もあり?
気になってもう一度、こっそりと窓から外をのぞいてみる。さっきの小隊はまだ走っていて足元がおぼつかない隊員が何人かいる中で、一番後ろの隊長さんらしき人はまったくさっきと変わらない。どのぐらいの時間を走っているのかわからないけど、なかなかのスタミナだよね。
「もしかしてー、もしかするのかなー?」
どんな人なのかな? ちょっと興味があるかもしれない。普段は厨房の奥に隠れている私も、その新しい小隊長さんは気になる存在になりつつあった。だって憧れのなんとか兵曹だよ? 気になって当然じゃない? ああ、鬼か悪魔だったら困るけど。
「音無三曹、味の確認をお願いします」
声をかけられたので窓から離れる。
「今日のカレーのできばえはどうでしょうか」
本日の味つけを任されたのは、この中で一番若い陸士長君だ。この子も、来たばかりの時は、包丁の持ち方からしてどうしようかと思うぐらいだったけれど、今では野菜の皮むきをさせたら右に出るものはいないぐらいなっていた。最近では、捨てる皮を使って細工切りまでするんだから感心してしまう。
小皿にルーを入れてフーフーしながら味見。うん、素晴らしい。
「うん、おいしいです。もしかして今回が、今までで一番のできじゃないですか? 合格です」
「本当に? やったー! ここにいる間に合格もらえたー!!」
よっしゃー!と言う感じで両手をあげて喜ぶ陸士長君。ここまで長かったねー、お姉さんも嬉しいよ。
「この調子で夕飯の時も頑張りましょう」
「了解しました!!」
そういうわけで隊員の皆さーん、本日のお昼ご飯は皆の大好きなカレーですよー!
+++++
昼食の時間になって、外にいた隊員達が一斉に食堂に戻ってきた。
さっき私が走るのを観察していた小隊の人達も戻ってきたけど、心なしか顔色が悪い。さらにはその中の大森二曹と山本二曹が、ご機嫌ななめな様子でなにやらブツブツと悪態をついている。なになに? あの森永ってやつの持久力は化け物か?
ああ、やっぱりさっきの隊長さんらしき人がケーシーなにがしさんなんだ。遠くからしか見えなかったけれど、どんな人なんだろう? 顔を見たいけど、幹部はこことは違う場所で食事をしているので、残念ながら遠目でしかご尊顔を拝することはできない。
「今日のカレーはうまいな」
そんな声が聞こえてきて、自分のことのように嬉しくなる。ぜいたくを言うなら、もう少しゆっくり味わって食べて欲しいんだけどなかなかそれは難しい。でも、ここからながめていても、おいしそうに食べてくれているのがわかるから良しとするか。
そんな感じで慌ただしい食事作りの任務もとどこおりなく終わり、在庫確認を終えると、食器を片づけるという一日の最後の作業に入った。人数が人数だからこれもなかなか重労働な作業だ。所定の場所に食器を片づていると、コンコンとカウンターをたたく音がした。ふりかえると、トレーを持った隊員が立っていた。
「ああ、もう。なんでもう少し早く持ってきてくれないんですか? そりゃあ任務のうちですから片づけますけどね、次の準備もありますし、こっちにも手順ってものがあるんですよ?」
「すまない。名取一佐に呼び出しを受けていて、食べるのが遅くなってしまった」
「そうなんですか? しかられていたのならしかたないですね、こっちに渡してください」
「べつに、しかられていたわけじゃないんだが」
「どちらにしろ呼び出しを食らったんでしょ? 似たようなものですよ」
そう言いながら、その人が立っているところに足早に向かう。
「……あまり見かけない顔ですね?」
と言いながら、階級章に目をやって飛び上がった。二尉ってことは幹部! 幹部がどうして食器を自分で運んでくるの?! こういうことって下の子達がすることなんじゃ?!
「あ、失礼しました! 幹部のかたとは知らずに」
「いや、かまわない。遅くなったのは事実だから。ところで、ここでは君がすべて食事を作っているのか?」
カウンターにトレーを置くと少しだけこちらを覗き込むように身を屈めてから尋ねてきた。
「ここは民間に委託してませんからね。糧食班には、駐屯地内の色んな部署から隊員が派遣されてくるのは御存知でしょう? 彼らが慣れるまでは私がしますが、ある程度任せられるようになったので、今はほとんど彼らが作ってますよ。お口にあいませんでしたか?」
心配になって思わず聞いてしまった。
「いや、うまかったよ」
「そうですか、それは良かった。今日は新人陸士長君会心のできでしたからね。幹部の人にほめてもらったって知ったら喜びます」
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「あの、まさかご飯のおかわりがしたいとか、言いませんよね?」
「あるのかい?」
「残念ながら完食御礼です。幹部のかたなら営外住みで自由に出来るんだから、色々と自宅に備蓄はしてるんでしょう? まだお腹が寂しいならそれを食べてください」
私の言葉に、その人がおかしそうに笑った。真面目な顔をしている時はちょっと怖そうな感じではあったけど、笑うと急に可愛くなっちゃうのね、意外なギャップだ。
「そう言えば、昼間のカレーはうまかったな」
「ここは毎週水曜日がカレーの日なんですよ、昼だったり夜だったり、まちまちですけど」
陸自カレーに関しては、海自カレーとは違って全体で曜日が統一されているわけではないのだ。
「そうか。じゃあ、来週の水曜日をまた楽しみにしているよ」
「ここはカレーしかおいしくないって言われてるみたい」
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「じゃあ。二度手間をかけてもうしわけなかった」
「いいえ。次からはできるだけ時間内に食べてくださいね。そうしたらカレーのおかわりにありつけるかも」
頑張るよと笑いながら立ち去ろうとしたその人は、急に立ち止まってふりかえった。
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「そんなことはしないよ。社交辞令の一環として」
「なら良いんですけど。音無です、音無三等陸曹です。そちらのことをおうかがいしても?」
「森永だ」
あ、つい最近その名前を聞いた覚えが。
「ああ、ケー」
ケーシーなにがしと言いかけて、あわてて口をつぐんだ。
「ケ?」
「いえ。新しく着任された小隊長のお一人なのかなと」
「ああ、そうだ。これからはしばらく俺の胃袋がお世話になると思うけどよろしく」
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スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
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学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
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【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
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🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
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クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
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小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
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