吸涙鬼のごはんになりました。

黒咲ゆかり

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14.涙を誘う匂い

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静かな部屋。
涙が居なくなった物足りなさが残る部屋。

「はぁっ……やっと落ち着いて寝れるな」

静かすぎて落ち着かないなんて…
二人がいなくなった時以来感じたことなんてなかった。

1年前の夏。
祖母の家に1人で泊まりに来ていた俺は
浮かれすぎていて、電車で帰るための
自分の小遣いを全て使い果たしてしまった。
共働きの両親だったが、俺が迎えに来て欲しいと頼んだ日はなんの不幸か
珍しく二人共仕事が休みだった。

山の上の方にある祖母の家は見通しがよく、両親の車が来ることはすぐに分かった。見通しがいいだけに……俺はみてしまったんだ。


対向車のトラックが俺の両親の車を
一瞬にして吹き飛ばす所を。


俺が迎えなんか呼ばなければ。

何度もそう思った。

1ミリも涙なんて出なかった。

葬式でも泣く資格のない俺は涙を枯らした。

大切な人を亡くして涙が出ないなんて
俺はなんて冷たい人間なんだ。

そうだ。このまま冷たい人間でいよう。

誰の暖かさも感じてはいけない。

全ては俺が悪いんだから。
大切な人なんて、俺にはもうつくれない。


涙がいきなり寮に来てから
散々な目にあった。

泣かされたり、変態なことされたり。

俺の中で枯れていたはずの涙が
何故か止まらなくなって。

体温の低い涙の暖かさに心地良さを感じてしまった。

これ以上俺に 『幸せ』を感じる資格はないんだ。


二段ベッドの下の段。
涙の寝ていた所に寝そべる。

(……るいの匂いが…する)

俺を泣かせる度に漂わせていたあの匂いが。優しい匂いが俺を惑わせる。

(…………なにやってんだ…俺は。)




「あれ…な………んで。」

気づいたら涙が止まらなくなっていた。

蛇口を捻る加減を間違えたみたいに
堪えても、堪えても。

止まらない。

「………っ…あいつ居ないのに…なんで」

これはなんのための涙なんだろう。

そもそも、俺が『何かのため』に涙を流すことはあっただろうか。

全部自分のため。そんな自己中心的で
汚い涙があっていいのだろうか。


るいの匂いは涙を誘う。

だから俺はこの匂いが……


嫌いだ。
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