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第九章 不穏な予感
気難しい男
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アキを見送った後。
自宅へ戻ったミリアは、ランチのバケットにかぶり付つきながら、ある事を思い出し、顔色を青くした。
(そうだ、ジャガイモ! どうしよう……色々あり過ぎて、すっかり忘れてたよ)
そう思い立つと、ミリアはランチもそこそこに、椅子の背に引っ掛けていた茶色いエプロンを身に纏うと、急いで庭に繰り出した。
庭の花壇に、急いでジャガイモの芽を探すミリア。
すると、芽が出ていたはずのそこには、陽の光をたっぷりと浴びたジャガイモの苗が、たくさんの葉を目いっぱい広げて元気よく育っていた。
ミリアは、ホッと胸を撫で下ろすと、青々と茂るジャガイモの葉を中腰で触りながら、満足そうにこう言った。
「結局、シャインさんの肥料で芽を出した三つだけが育った感じだけど。それでも、全滅よりは全然いいよね」
そう言って、地面にしゃがみ込むと、すくすくと育ったジャガイモの苗を嬉しそうに見つめる。
そして、ミリアは片手をかざし、眩しい春の青空を仰ぐと、流れる小さな雲たちを眺めながらこう言った。
「父さん、ジャガイモ……元気に育ってるよ」
そんなミリアの様子を。
向かいに住むエイベルは、微笑まし気に見つめるのであった。
※ ※ ※
辺りが黄金色に染まり、日が陰り始める頃。
ミリアは、シャインから貰って植えていたジャガイモを収穫し、それを大きめの麻袋に入れ、家の中に運び入れると、背筋をグッと伸ばしてこう言った。
「今日もお疲れさま、私。さて、今日一日の疲れを癒しに行こうかなー」
そう言うと、ミリアは茶色いエプロンを外して椅子の背もたれに掛け、桶と着替えをバッグに用意すると、鼻歌を歌いながら家を出た。
森の小道を抜け、大通りをずんずんと進んで公共浴場前の広場に差し掛かった時、ミリアは思わず出した足を後ろに引っ込めると、気まずそうにこう言った。
「あ、グレックさん。それに、マークさん……」
その小さな声に。
グレックは、辺りをきょろきょろと見回していたが、その瞳にミリアを捕えると、嬉しそうに微笑みながらこう言った。
「よう、ミリア。その、大丈夫か……?」
先日のことを慮るようにそう尋ねるグレックに。
ミリアは勢いよく頭を下げるとこう言った。
「グレックさん! マークさん! この間は、本当にごめんなさい!」
そう言って、顔を赤くしながら頭を下げるミリアに。
マークは優しい笑みを浮かべると、ミリアを気遣うようにこう言った。
「嬢ちゃん、少し落ち着いたかい?」
「はい、あの時はすみませんでした……」
そう言って、恥ずかしさで小さくなるミリアを、なぜか申し訳なさそうに見つめると。
マークは、バツが悪そうに頭をかいてこう言った。
「それよりあの夜、無事に家に帰れて良かったよ。後からあの夜、大熊が出たって聞いてな。申し訳ないことをしたなと、反省していたところなんだ。いや、済まなかった」
そういって頭を下げるマークに。
ミリアは両手を前に突き出しすと、首を横に振ってこう言った。
「そんな、気にしないで下さい。途中で知り合いの騎士の方と会って、家まで送って貰ったので、全然大丈夫でした」
「知り合いの騎士? アイザックさんか?」
そう、尋ねるグレックに。
ミリアは首を横に振るとこう言った。
「いえ、アレン・アドラーさんっていう、銃士の方です」
「アレン・アドラーって……」
その名前に目を見張るグレックをよそに。
マークは顎に手をやると、意外そうな顔でこう言った。
「アレンか……あの気難しい男が、女を家まで送る……ねぇ」
そう言うと、マークは愉快そうに笑みを浮かべるのであった。
自宅へ戻ったミリアは、ランチのバケットにかぶり付つきながら、ある事を思い出し、顔色を青くした。
(そうだ、ジャガイモ! どうしよう……色々あり過ぎて、すっかり忘れてたよ)
そう思い立つと、ミリアはランチもそこそこに、椅子の背に引っ掛けていた茶色いエプロンを身に纏うと、急いで庭に繰り出した。
庭の花壇に、急いでジャガイモの芽を探すミリア。
すると、芽が出ていたはずのそこには、陽の光をたっぷりと浴びたジャガイモの苗が、たくさんの葉を目いっぱい広げて元気よく育っていた。
ミリアは、ホッと胸を撫で下ろすと、青々と茂るジャガイモの葉を中腰で触りながら、満足そうにこう言った。
「結局、シャインさんの肥料で芽を出した三つだけが育った感じだけど。それでも、全滅よりは全然いいよね」
そう言って、地面にしゃがみ込むと、すくすくと育ったジャガイモの苗を嬉しそうに見つめる。
そして、ミリアは片手をかざし、眩しい春の青空を仰ぐと、流れる小さな雲たちを眺めながらこう言った。
「父さん、ジャガイモ……元気に育ってるよ」
そんなミリアの様子を。
向かいに住むエイベルは、微笑まし気に見つめるのであった。
※ ※ ※
辺りが黄金色に染まり、日が陰り始める頃。
ミリアは、シャインから貰って植えていたジャガイモを収穫し、それを大きめの麻袋に入れ、家の中に運び入れると、背筋をグッと伸ばしてこう言った。
「今日もお疲れさま、私。さて、今日一日の疲れを癒しに行こうかなー」
そう言うと、ミリアは茶色いエプロンを外して椅子の背もたれに掛け、桶と着替えをバッグに用意すると、鼻歌を歌いながら家を出た。
森の小道を抜け、大通りをずんずんと進んで公共浴場前の広場に差し掛かった時、ミリアは思わず出した足を後ろに引っ込めると、気まずそうにこう言った。
「あ、グレックさん。それに、マークさん……」
その小さな声に。
グレックは、辺りをきょろきょろと見回していたが、その瞳にミリアを捕えると、嬉しそうに微笑みながらこう言った。
「よう、ミリア。その、大丈夫か……?」
先日のことを慮るようにそう尋ねるグレックに。
ミリアは勢いよく頭を下げるとこう言った。
「グレックさん! マークさん! この間は、本当にごめんなさい!」
そう言って、顔を赤くしながら頭を下げるミリアに。
マークは優しい笑みを浮かべると、ミリアを気遣うようにこう言った。
「嬢ちゃん、少し落ち着いたかい?」
「はい、あの時はすみませんでした……」
そう言って、恥ずかしさで小さくなるミリアを、なぜか申し訳なさそうに見つめると。
マークは、バツが悪そうに頭をかいてこう言った。
「それよりあの夜、無事に家に帰れて良かったよ。後からあの夜、大熊が出たって聞いてな。申し訳ないことをしたなと、反省していたところなんだ。いや、済まなかった」
そういって頭を下げるマークに。
ミリアは両手を前に突き出しすと、首を横に振ってこう言った。
「そんな、気にしないで下さい。途中で知り合いの騎士の方と会って、家まで送って貰ったので、全然大丈夫でした」
「知り合いの騎士? アイザックさんか?」
そう、尋ねるグレックに。
ミリアは首を横に振るとこう言った。
「いえ、アレン・アドラーさんっていう、銃士の方です」
「アレン・アドラーって……」
その名前に目を見張るグレックをよそに。
マークは顎に手をやると、意外そうな顔でこう言った。
「アレンか……あの気難しい男が、女を家まで送る……ねぇ」
そう言うと、マークは愉快そうに笑みを浮かべるのであった。
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