猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴

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第九章 不穏な予感

与えられるものは……

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 エイベル宅から去って行くアキを、ただ、見送ることしか出来なかったミリアは、ふとある事を思い出して、アキの後を急いで追いかけた。

(アイリスさんとの約束、アキさんに伝えなきゃ)

 そう思い、急いでアキの背中を追うミリア。
 森の小道を抜け、王城の大通りに差し掛かったところで。

 ミリアは、アキの後ろ姿を見つけてこう言った。

「アキさん! ちょっと待ってください!」

 そう言って、息を切らせて走って来るミリアを、後ろを振り返って見つめると。
 アキは、何事かと言わんばかりに目を見開くとこう言った。

「どうしたの、ミリアちゃん。そんなに息を切らせて」
「あの……アイリスさんが」

 そう言って、肩で苦しそうに息をするミリアを心配そうに見つめながら。
 アキは、首を傾げてこう言った。

「アイリスさん?」
「はい、シャインさんの、お姉さんで……ガイさんの、その……彼女さんだった人、なんですけど……」

 そう言って、荒い息を整えながら話すミリアに。
 アキは、心底驚いたような顔をミリアに向けるとこう言った。

「兄さんの、彼女? シャインさんの姉さんが?」
「……はい。そのアイリスさんが、アキさんに……会いたいって」

 そう言って、アキを上目遣いに見上げるミリアに。
 アキは、困惑したように眉を顰めるとこう言った。

「俺に? また、何で俺なんかに……」

 そう言って、訝しむようにミリアを見つめるアキに。
 ミリアは、ふと視線を下に落とすと、少し躊躇いがちにこう言った。

「アイリスさんは、アキさんのこと……ガイさんからたくさん聞いていたみたいです。それで、アキさんのこと……自分の実の弟のように思っているみたいでした」

 そう言って下を向くミリアに。
 アキは、口元を片手で覆うと、大きなため息をひとつ吐いてこう言った。

「そうか、兄さん……そうだったんだ」

 何故かホッとしたようにそう言うと。
 アキは、薄っすらと涙を浮かべて軽く微笑む。

 そんなアキを下から見上げると、ミリアは胸に両手を組み、嘆願するようにこう言った。

「アキさん、一度、アイリスさんに会ってくれませんか。アイリスさんもきっと、寂しいんだと思います。大切な人を失って……」

 そう瞳を潤ませアキを見つめるミリアを。
 アキは、真摯な眼差しで見つめ返すとこう言った。

「……分かった、ミリアちゃんに任せるよ」

 その答えに、顔をぱぁーっと明るくすると。
 ミリアは、少し控えめな口調でこう言った。

「それじゃあ、明日のお昼過ぎ、[狼と子羊亭]でどうでしょうか。エイベルさんとの訓練とかぶらなければ良いのですけど……」

 そう心配しながら提案するミリアに。
 アキは、片目を閉じて頷くと、いつもの軽い調子てこう言った。

「エイベルさんには事情を説明して、その時間は休憩を貰うことにするから大丈夫だよ」

 そう言って笑うアキを、ホッとしたように見つめたものの。
 ミリアは、少し申し訳なさそうにこう言った。

「ほんとに、訓練初日から、水を差すような話を持ってきてしまって、すみません」
「いいよいいよ、そんなこと。ただ、今の話を聞いて……兄が、俺の為だけじゃなくて、ちゃんと自分の幸せにも目を向けてくれていたことを知って、ちょっとホッとしたよ。ただ、兄の彼女だったというその人には、ちゃんと謝りたいと思う」

 そう言って、ふと真面目な顔をするアキに。
 ミリアは首を捻ってこう言った。

「謝る?」

(なんでアキさんが謝る必要があるの? ガイさんを殺したのは大熊で、別にアキさんじゃないのに……)

 そんなことを思いながらアキを不思議そうな顔で見つめるミリアに。
 アキは、ふっと悲しそうに笑うとこう言った。

「俺という存在があったことで、なかなか兄と結婚することが出来なかったのかも知れないからね。まったく……俺ってば、どこまでも厄介者だよねぇ」

――生きていても、愛する人たちに苦しみしか与えることが出来ない。

 暗にそう言って、眉を顰め、皮肉な笑みを浮かべるアキに。
 ミリアは心臓が鷲掴みされたような苦しさを感じ、目に涙を滲ませ、辛うじてこう呟いた。

「アキさん……」

 そう言って、言葉を無くすミリアを申し訳なさそうに見遣ると。
 アキは、何事も無かったかのような満面の笑みを浮かべつつ、ミリアの無防備なおでこを、指で軽く一回弾くとこう言った。

「それじゃ、ミリアちゃん。また明日ね!」

 アキに弾かれたおでこをサッと両手で隠すと。
 ミリアは、頬を赤らめながらこう言った。

「アキさん、酷い……」

 そう言って、アキをジト目で睨み付けるミリアを背に。
 アキはくつくつと笑いながら、その場を去って行くのであった。
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