猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴

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第八章 真実は何処に

ベンチの隣で

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「ふぅー、さっぱりしたぁー。これで今夜は、安心してアイザックさんたちに会えるよね」

 濡れた髪の毛を乾いたタオルで拭きながら。
 ミリアは桶を右手に、着替えた服が入った布バッグを左肩に引っ掛け、ゆっくりとした足取りで自宅へ向かって歩いていた。

 丁度、噴水広場に差し掛かった時。
 ミリアは何だか喉が渇いて、辺りをぐるっと見回す。

(お風呂に少し長く浸かり過ぎたかな)

 すると、噴水広場の端の方に、テント付きのショップワゴンが見え、ミリアは嬉しそうに顔を綻ばせる。

(あんなところに、ジュース屋さんがあったんだ。一杯、頂いて帰ろうかな)

 そう決めると、ミリアはワゴンに近づき、グレープフルーツジュースを一杯、購入する。

(確かここ、ベンチがあったよね)

 そう思い、ミリアはベンチを探すも、どこも全て人で埋まっいて、座れる場所が見つからなかった。
 ミリアは、ジュースの入った紙コップを握り締めながら、それでもきょろきょろと辺りを見回していると。

「お嬢さん、もしや席をお探しかな?」

 鉄製のアンティークなベンチに腰掛けた老人の男性が、そう言ってミリアに声を掛けて来た。

「あ、はい。でも、座る所が見つからなくて」

 そう言って、苦笑するミリアに。
 老人は、自分の小脇に置いた大きな荷物を地面に下すと、自分の隣の席を片手て叩いてこう言った。

「なら、ここに座ると良い」

 そんな親切な老人に、ミリアは礼を言うと、老人の行為に甘んじてこう言った。

「ありがとうございます!」

 そう言って、横に腰かけるミリアに。
 老人は、なぜか懐かしそうに目を細めるとこう言った。

「あんた、島からの移住者かい?」
「はい、そうですけど」
 
 そう言って、首を傾げるミリア横に。
 老人は正面を向き、遠い目をしながらこう言った。

「懐かしいねぇ、実はわしも島からの移住者でな。何島の出身かね?」
「……フェスタ島です」

 そう言って、老人と同じように、遠い目で目の前の噴水を見つめるミリアに。
 老人は、しみじみとした表情でこう言った。

「そうか、遠いのう。わしは、王都に一番近いタラ島でな。数日前に開かれた[武術大会]のロブナントには内心、期待しておったのだが……王都のフェリクスも、ボークス島のグレック・ワイズナーも、思っていたよりいい剣士じゃった」

 そう言って、愉快そうに笑う老人に。
 ミリアは頬をうっすらと紅潮させると、少し自慢げにこう言った。

「実は、グレックさ……グレック・ワイズナーさんは、私の友人なんです!」

 そう目をキラキラさせて、嬉しそうに語るミリアを優しく見遣ると。
 老人は、顎に生やした短めの白い髭に触ると、目を細めてこう言った。

「そうか、そうか。あれはいい剣士になるぞ。このわしが保証する」

 そう力強く宣言する白髭の老人に。
 ミリアは、不思議そうに首を捻るとこう言った。

「保証するって、おじいさんは、剣を握った経験が?」

 そんな、困惑気味のミリアを前に。
 白髭の老人は、ニヤリと笑うとこう言った。

「握っていたも何も、わしはこの国の元剣士団団長、エイベル・ヘインズじゃよ」

 老人――エイベルはそう言うと、愉快そうに笑うのであった。
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