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第八章 真実は何処に
紹介したい人
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雲ひとつ無い清々しい青空の下、暖かな陽の光を全身に浴びながら。
ミリアは市場に向かう最後のリアカーを見送って額の汗を手の甲で拭った。
大勢の作業員たちが、運営管理人のブーンから日当を貰い、笑顔で各々の行きたい場所へと散って行く。
ミリアも、早速日当を貰う為、ブーンに近付いてこう言った。
「ブーンさん、お疲れ様です!」
「おお、ヘイワードさんか。はい、今日の日当だよ」
「ありがとうございます! あの……」
そう言って、ミリアはブーンを伺うようにこう言った。
「シャイン・ボールドウィンさんは、今日いらっしゃってますか」
ミリアのその問いに。
ブーンは一瞬、奇妙な顔をするものの、それでも笑顔でこう言った。
「シャインかい? ああ、来ているとも。今は、明日出荷のキャベツの状態を確認していると思うよ。シャインに何か用かい?」
そうさり気無く尋ねて来るブーンに、ミリアは少し困ったように頬を指で搔くとこう言った。
「あの、ちょっと私用で……。それで、シャインさんの居る場所は……」
そう言って、辺り一帯を見渡すミリアに。
ブーンは、一軒の大きな平屋の建物が経つ農場の一帯を指し示してこう言った。
「ああ、あそこの前に広がる農地のどこかにいると思うよ」
「ありがとうございます、ブーンんさん! 行ってみます!」
広大な畑を指さしそう説明するブーンに、ミリアは深々とお辞儀すると、小走りでキャベツ畑へ向かって走っていく。
そんなミリアの姿を温かい目で見守ると、ブーンは徐に顎を扱いてこう言った。
「女っ気のないシャインにも、やっと春が来そうだねぇ……」
そう呟くと、ブーンは独りくつくと笑いながら満足そうに頷いて、運営管理事務所へと去って行くのであった。
※ ※ ※
「シャインさん!」
キャベツ畑の端の方で作業員と話していたシャインは、辺りをきょろきょるすると、声の主をその瞳に認めてこう言った。
「あれ? ミリアちゃん。ひょっとして、ジャガイモがどうかしたのかい?」
ミリアはシャインの側まで近づくと、弾む息に肩を上下させるとこう言った。
「いえ、ジャガイモは、今のところ、元気なんですけど。アキさんが……その、元気ない、というか」
そう言って、片手で胸を押さえながら話すミリアを心配そうに見つめながら。
シャインは、渋い顔でこう言った。
「やっぱり、ガイのことでかい?」
「はい……」
そう言って、表情を暗くするミリアに。
シャインは深いため息をひとつ吐くと、両腕を組んでこう言った。
「そうか……あ、そうだ。丁度、今、アイザックも来ていてね」
そう言うなり、シャインは片手を口の横に添えると大きな声でこう叫んだ。
「アイザック、ちょっと!」
そう言って、シャインは金髪の女性と何やら話し込んでいるアイザックを有無を言わせず呼びつける。
そんなシャインの横暴にも怒ることなく、アイザックは頭をかきかきシャインに近づくとこう言った。
「おう。どうしたシャイン? ……って、君は確か」
シャインの傍らにミリアの姿を認めると、アイザックはそう言って首を捻る。
そんなアイザックに、ミリアはくすっと笑うとこう言った。
「数日前に酒場で大熊から助けて頂いた、ミリア・ヘイワードです」
「あ! そうか、あのときの……」
そう言って、バツが悪そうに頭をかくアイザックに。
ミリアは襟元を正すと、意を決してこう言った。
「あ、あの!」
「うん?」
「ガイ・リーフウッドさんのこと、知っていること何でも良いので教えてくれませんか?」
ミリアのその言葉に。
アイザックは、眉を片方吊り上げると、険しい顔でこう言った。
「ガイのこと? どういうことだ」
アイザックの問い質すようなその質問に。
ミリアは威圧されながらも、勇気を振り絞ってこう言った。
「実は、ガイさんの弟さんのアキさんが、ガイさんに纏わる噂や中傷に深く傷ついているんです。だから、ガイさんに関する何か新しい話が聞けたら、それがガイさんの悪い噂を打ち消す何かに繋がるんじゃないかって思って。なので、どうか、ガイさんのことで知っていることがあれば、教えて下さい! お願いします!」
そんな、ミリアの話を真剣な面持ちで聞いていたアイザックは、ミリアの青い瞳を探るようにじっと見つめると、濃褐色《のうかっしょく》の瞳を一度、そっと閉じた。
それから、もう一度、閉じた瞳をゆっくり開くと、ミリアをじっと見つめてこう言う。
「それは構わないが。俺も、ガイの弟のアキくんには個人的に紹介したい奴がいてね。それを飲んでくれれば、俺が知っているガイのことを君らに話してもいいと思ってるんだが、どうだろう?」
「紹介したい人、ですか……」
そう言って、不審そうに眉を顰めるミリアに。
アイザックは豪快に笑いながらこう言った。
「なに、相手は二十代の壮年の男だが、別に取って食おうってんじゃない。こいつとちょっと話をして欲しいだけさ」
「それくらいなら、たぶん大丈夫だと思いますけど」
(ちょっと、怪しいけど……ガイさんのことを知る為には、取り敢えずしょうがないよね)
そう自分に言い聞かせると、ミリアは真っ直ぐにアイザックを見つめてこう言った。
「それで、その方とアキさんが話をするとして……私は、どうしたらいいでしょうか?」
そう身構えながら尋ねるミリアに。
アイザックは、にやりと笑ってこう言った。
「じゃあ、早速なんだが。今夜、君にはアキ君と二人、[狼と子羊亭]に来て貰いたい」
「今夜、ですか」
余りに唐突過ぎて、ミリアは思わずそう聞き返してしまう。
そんなミリアに、アイザックは状況を説明してこう言った。
「合わせたい奴が、直近だと、今日の夜しか都合が付かなそうでね。急で申し訳ないが、今日でお願いしたい。その代わり、約束は必ず守る」
アイザックの約束の件に、ミリアは心を決めると、大きく頷いてこう言った。
「はい、アキさんの居場所がちょっと微妙ですが、何とか探して連れてきます」
「よし、交渉成立だ。じゃ、今夜。よろしく頼むよ」
そう言って、片手を差し出すアイザックの手を片手で握り返すと、ミリアも頭を下げてこう言った。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、王都でのガイの話を聞くために。
ミリアとアキは、今夜[狼と子羊亭]で、アイザックとシャイン、そして、彼らが会わせたいという人物と会うことになるのであった。
ミリアは市場に向かう最後のリアカーを見送って額の汗を手の甲で拭った。
大勢の作業員たちが、運営管理人のブーンから日当を貰い、笑顔で各々の行きたい場所へと散って行く。
ミリアも、早速日当を貰う為、ブーンに近付いてこう言った。
「ブーンさん、お疲れ様です!」
「おお、ヘイワードさんか。はい、今日の日当だよ」
「ありがとうございます! あの……」
そう言って、ミリアはブーンを伺うようにこう言った。
「シャイン・ボールドウィンさんは、今日いらっしゃってますか」
ミリアのその問いに。
ブーンは一瞬、奇妙な顔をするものの、それでも笑顔でこう言った。
「シャインかい? ああ、来ているとも。今は、明日出荷のキャベツの状態を確認していると思うよ。シャインに何か用かい?」
そうさり気無く尋ねて来るブーンに、ミリアは少し困ったように頬を指で搔くとこう言った。
「あの、ちょっと私用で……。それで、シャインさんの居る場所は……」
そう言って、辺り一帯を見渡すミリアに。
ブーンは、一軒の大きな平屋の建物が経つ農場の一帯を指し示してこう言った。
「ああ、あそこの前に広がる農地のどこかにいると思うよ」
「ありがとうございます、ブーンんさん! 行ってみます!」
広大な畑を指さしそう説明するブーンに、ミリアは深々とお辞儀すると、小走りでキャベツ畑へ向かって走っていく。
そんなミリアの姿を温かい目で見守ると、ブーンは徐に顎を扱いてこう言った。
「女っ気のないシャインにも、やっと春が来そうだねぇ……」
そう呟くと、ブーンは独りくつくと笑いながら満足そうに頷いて、運営管理事務所へと去って行くのであった。
※ ※ ※
「シャインさん!」
キャベツ畑の端の方で作業員と話していたシャインは、辺りをきょろきょるすると、声の主をその瞳に認めてこう言った。
「あれ? ミリアちゃん。ひょっとして、ジャガイモがどうかしたのかい?」
ミリアはシャインの側まで近づくと、弾む息に肩を上下させるとこう言った。
「いえ、ジャガイモは、今のところ、元気なんですけど。アキさんが……その、元気ない、というか」
そう言って、片手で胸を押さえながら話すミリアを心配そうに見つめながら。
シャインは、渋い顔でこう言った。
「やっぱり、ガイのことでかい?」
「はい……」
そう言って、表情を暗くするミリアに。
シャインは深いため息をひとつ吐くと、両腕を組んでこう言った。
「そうか……あ、そうだ。丁度、今、アイザックも来ていてね」
そう言うなり、シャインは片手を口の横に添えると大きな声でこう叫んだ。
「アイザック、ちょっと!」
そう言って、シャインは金髪の女性と何やら話し込んでいるアイザックを有無を言わせず呼びつける。
そんなシャインの横暴にも怒ることなく、アイザックは頭をかきかきシャインに近づくとこう言った。
「おう。どうしたシャイン? ……って、君は確か」
シャインの傍らにミリアの姿を認めると、アイザックはそう言って首を捻る。
そんなアイザックに、ミリアはくすっと笑うとこう言った。
「数日前に酒場で大熊から助けて頂いた、ミリア・ヘイワードです」
「あ! そうか、あのときの……」
そう言って、バツが悪そうに頭をかくアイザックに。
ミリアは襟元を正すと、意を決してこう言った。
「あ、あの!」
「うん?」
「ガイ・リーフウッドさんのこと、知っていること何でも良いので教えてくれませんか?」
ミリアのその言葉に。
アイザックは、眉を片方吊り上げると、険しい顔でこう言った。
「ガイのこと? どういうことだ」
アイザックの問い質すようなその質問に。
ミリアは威圧されながらも、勇気を振り絞ってこう言った。
「実は、ガイさんの弟さんのアキさんが、ガイさんに纏わる噂や中傷に深く傷ついているんです。だから、ガイさんに関する何か新しい話が聞けたら、それがガイさんの悪い噂を打ち消す何かに繋がるんじゃないかって思って。なので、どうか、ガイさんのことで知っていることがあれば、教えて下さい! お願いします!」
そんな、ミリアの話を真剣な面持ちで聞いていたアイザックは、ミリアの青い瞳を探るようにじっと見つめると、濃褐色《のうかっしょく》の瞳を一度、そっと閉じた。
それから、もう一度、閉じた瞳をゆっくり開くと、ミリアをじっと見つめてこう言う。
「それは構わないが。俺も、ガイの弟のアキくんには個人的に紹介したい奴がいてね。それを飲んでくれれば、俺が知っているガイのことを君らに話してもいいと思ってるんだが、どうだろう?」
「紹介したい人、ですか……」
そう言って、不審そうに眉を顰めるミリアに。
アイザックは豪快に笑いながらこう言った。
「なに、相手は二十代の壮年の男だが、別に取って食おうってんじゃない。こいつとちょっと話をして欲しいだけさ」
「それくらいなら、たぶん大丈夫だと思いますけど」
(ちょっと、怪しいけど……ガイさんのことを知る為には、取り敢えずしょうがないよね)
そう自分に言い聞かせると、ミリアは真っ直ぐにアイザックを見つめてこう言った。
「それで、その方とアキさんが話をするとして……私は、どうしたらいいでしょうか?」
そう身構えながら尋ねるミリアに。
アイザックは、にやりと笑ってこう言った。
「じゃあ、早速なんだが。今夜、君にはアキ君と二人、[狼と子羊亭]に来て貰いたい」
「今夜、ですか」
余りに唐突過ぎて、ミリアは思わずそう聞き返してしまう。
そんなミリアに、アイザックは状況を説明してこう言った。
「合わせたい奴が、直近だと、今日の夜しか都合が付かなそうでね。急で申し訳ないが、今日でお願いしたい。その代わり、約束は必ず守る」
アイザックの約束の件に、ミリアは心を決めると、大きく頷いてこう言った。
「はい、アキさんの居場所がちょっと微妙ですが、何とか探して連れてきます」
「よし、交渉成立だ。じゃ、今夜。よろしく頼むよ」
そう言って、片手を差し出すアイザックの手を片手で握り返すと、ミリアも頭を下げてこう言った。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、王都でのガイの話を聞くために。
ミリアとアキは、今夜[狼と子羊亭]で、アイザックとシャイン、そして、彼らが会わせたいという人物と会うことになるのであった。
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