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第八章 真実は何処に
施錠はしっかりと
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「ありがとうございました」
そう言って、頭を下げるミリアに、アレンは小さくため息を吐くとこう言った。
「今後、一週間は、夜遅くに外をうろつかないように」
「はい」
「じゃあな」
「あ、ちょっと待ってください!」
ミリアは急いで家の鍵を開けると、[冷蔵保管庫]から、イチゴジャムのストックを取り出し、玄関に立つアレンの前に差し出すとこう言った。
「もしかしたら、お仕事の邪魔になってしまうかも知れませんけど……良かったら、貰って下さい」
そう言って、ミリアから差し出された冷たいイチゴジャムを品定めするようにじっと見ると。
アレンは、酷く複雑な表情をしてこう言った。
「ジャムか……本来なら、『邪魔だ』、と言いたいところだが」
そう言って、言葉を切ると。
アレンは、ニヤリと笑うとこう言った。
「生憎、俺はジャムには目が無くてね。ありがたく貰っておこう」
「はい! ぜひ頂いちゃって下さい!」
そう言って嬉しそうに微笑むミリアを、ため息交じりに見遣ると。
アレンは、ウエストの皮製のバッグにジャムをしまう。
それから、何を思ったか。
アレンは、ミリアの顔をまじまじと見ると、顎に片手を当てて尋ねて言った。
「それにしても、何でこんな遅い時間に外をうろついたりしていたんだ?」
そんなアレンのもっともな問いに。
ミリアは、少し恥ずかしそうにこう言った。
「それが……夕方に友人宅にどうしても届けたいものがあって届けたのですが、友人の友人の方に後で家まで送るからと引き止められてしまって」
「そんなもの、断って帰ってくれば済む話だろ」
憮然とそう言い放つアレンに。
ミリアは、言い出し難そうにこう言った。
「それが、その方は騎士の友人の教官で、相棒でもある方で……友人の立場を思うと、色々と断り切れなくて、それで……」
そう言って、下を向くミリアに。
アレンは、ますます怪訝そうな顔でこう言った。
「それが何で、一人で夜道を歩いてるんだ?」
「喧嘩をしてしまいました」
「はぁ?」
「どうしても譲れないことがあって、それで、友人の教官で相棒の方と言い合いになってしまいまして……」
そうして、顔を真っ赤にし、下を向いたまま肩を落とすミリアに。
アレンは呆れたような目を向けると、小さくため息を吐きながらこう言った。
「そりゃ、友人は災難だなぁ」
「…………」
しょんぼりと背中を丸めるミリアに。
アレンは、更に質問を重ねると、こう言った。
「一体、何のことについて喧嘩になったんだ?」
「ガイ・リーフウッドさんについてのことで、言い合いに……」
その名前を聞いた瞬間、アレンの表情が厳しいものに変わる。
ミリアは、恐る恐るアレンを伺いこう尋ねる。
「あの、もしガイさんのこと……」
そう言った瞬間、アレンはミリアの質問を全て跳ね返すようにこう言い放った。
「悪いが、ガイ・リーフウッドのことに関しては、俺も話すことは何もない。悪いな」
「そう、ですか……」
(そうなるよね、やっぱり……)
そう心の中で呟き、落胆のため息を吐くミリアに。
アレンは、小さなため息をひとつ吐くと、ミリアから視線を逸らしてこう言った。
「そんなに聞きたきゃ、斧士のアイザック・スタイナーにでも聞いてみるんだな」
「斧士の、アイザックさんですか?」
「なんだ、知ってるのか?」
意外そうに目を見開き、ミリアを見つめるアレンに。
ミリアは、恥ずかしそうにこう言った。
「はい、先日の王都への大熊襲撃の時、助けて頂きましたから」
「はぁ? 襲撃って……あんた、なんか持ってるのか?」
呆れたように、そう言うアレンに。
ミリアはよく分からないというような顔をしてこう言った。
「え?」
「……まあ、いいや。で、ともかく……」
あまりに無自覚過ぎるミリアを呆れたように見遣ると、アレンは、気を取り直してこう話を続ける。
「アイザックは、ガイ・リーフウッドとかなり懇意にしていたはずだ。だから、奴に尋ねれば、それなりの話は聞けるんじゃないか」
「あ、ありがとうございます! アイザックさんに聞いてみます!」
そう言って、嬉しそうに頭を下げるミリアに。
アレンは首を軽く捻ると、怪訝そうな顔で尋ねていった。
「ところで、ガイ・リーフウッドとあんたはどういう関係なんだ?」
そんな、不信感も顕わなアレンに。
ミリアは、熱のこもった視線をアレンに向けると力説してこう言った。
「ガイさんは、私の友人のお兄さんなんです。彼は、お兄さんへの心無い中傷や噂で傷ついているので、どうにか力になってあげたくて。彼は、噂じゃなくて本当のことが知りたいんです。だから……」
「そうか、弟がいたのか。それは……」
そう言って、顎に手を当て、渋い顔で下を向くアレンに。
ミリアは不安になってこう尋ねる。
「なにか、問題でもあるんでしょうか……」
「いや、ともかく。まずはアイザックに聞いてみることだ。俺が言えるのはそれだけだ」
そう言うと、アレンは森の方をちらりと見ると、ミリアに向かってこう言った。
「じゃあ、俺は行くが。ちゃんと鍵は閉めて寝ろよ」
「アレンさん、ありがとうございました」
そう言って、深々と頭を下げるミリアに。
アレンは踵を返すと片手を挙げてこう言った。
「ああ、じゃあな」
(アイザックさんか……明日、探して聞いてみよう!)
そう心に決めると。
ミリアは扉を閉め、アレンに言われたようにしっかり鍵を掛けるのであった。
そう言って、頭を下げるミリアに、アレンは小さくため息を吐くとこう言った。
「今後、一週間は、夜遅くに外をうろつかないように」
「はい」
「じゃあな」
「あ、ちょっと待ってください!」
ミリアは急いで家の鍵を開けると、[冷蔵保管庫]から、イチゴジャムのストックを取り出し、玄関に立つアレンの前に差し出すとこう言った。
「もしかしたら、お仕事の邪魔になってしまうかも知れませんけど……良かったら、貰って下さい」
そう言って、ミリアから差し出された冷たいイチゴジャムを品定めするようにじっと見ると。
アレンは、酷く複雑な表情をしてこう言った。
「ジャムか……本来なら、『邪魔だ』、と言いたいところだが」
そう言って、言葉を切ると。
アレンは、ニヤリと笑うとこう言った。
「生憎、俺はジャムには目が無くてね。ありがたく貰っておこう」
「はい! ぜひ頂いちゃって下さい!」
そう言って嬉しそうに微笑むミリアを、ため息交じりに見遣ると。
アレンは、ウエストの皮製のバッグにジャムをしまう。
それから、何を思ったか。
アレンは、ミリアの顔をまじまじと見ると、顎に片手を当てて尋ねて言った。
「それにしても、何でこんな遅い時間に外をうろついたりしていたんだ?」
そんなアレンのもっともな問いに。
ミリアは、少し恥ずかしそうにこう言った。
「それが……夕方に友人宅にどうしても届けたいものがあって届けたのですが、友人の友人の方に後で家まで送るからと引き止められてしまって」
「そんなもの、断って帰ってくれば済む話だろ」
憮然とそう言い放つアレンに。
ミリアは、言い出し難そうにこう言った。
「それが、その方は騎士の友人の教官で、相棒でもある方で……友人の立場を思うと、色々と断り切れなくて、それで……」
そう言って、下を向くミリアに。
アレンは、ますます怪訝そうな顔でこう言った。
「それが何で、一人で夜道を歩いてるんだ?」
「喧嘩をしてしまいました」
「はぁ?」
「どうしても譲れないことがあって、それで、友人の教官で相棒の方と言い合いになってしまいまして……」
そうして、顔を真っ赤にし、下を向いたまま肩を落とすミリアに。
アレンは呆れたような目を向けると、小さくため息を吐きながらこう言った。
「そりゃ、友人は災難だなぁ」
「…………」
しょんぼりと背中を丸めるミリアに。
アレンは、更に質問を重ねると、こう言った。
「一体、何のことについて喧嘩になったんだ?」
「ガイ・リーフウッドさんについてのことで、言い合いに……」
その名前を聞いた瞬間、アレンの表情が厳しいものに変わる。
ミリアは、恐る恐るアレンを伺いこう尋ねる。
「あの、もしガイさんのこと……」
そう言った瞬間、アレンはミリアの質問を全て跳ね返すようにこう言い放った。
「悪いが、ガイ・リーフウッドのことに関しては、俺も話すことは何もない。悪いな」
「そう、ですか……」
(そうなるよね、やっぱり……)
そう心の中で呟き、落胆のため息を吐くミリアに。
アレンは、小さなため息をひとつ吐くと、ミリアから視線を逸らしてこう言った。
「そんなに聞きたきゃ、斧士のアイザック・スタイナーにでも聞いてみるんだな」
「斧士の、アイザックさんですか?」
「なんだ、知ってるのか?」
意外そうに目を見開き、ミリアを見つめるアレンに。
ミリアは、恥ずかしそうにこう言った。
「はい、先日の王都への大熊襲撃の時、助けて頂きましたから」
「はぁ? 襲撃って……あんた、なんか持ってるのか?」
呆れたように、そう言うアレンに。
ミリアはよく分からないというような顔をしてこう言った。
「え?」
「……まあ、いいや。で、ともかく……」
あまりに無自覚過ぎるミリアを呆れたように見遣ると、アレンは、気を取り直してこう話を続ける。
「アイザックは、ガイ・リーフウッドとかなり懇意にしていたはずだ。だから、奴に尋ねれば、それなりの話は聞けるんじゃないか」
「あ、ありがとうございます! アイザックさんに聞いてみます!」
そう言って、嬉しそうに頭を下げるミリアに。
アレンは首を軽く捻ると、怪訝そうな顔で尋ねていった。
「ところで、ガイ・リーフウッドとあんたはどういう関係なんだ?」
そんな、不信感も顕わなアレンに。
ミリアは、熱のこもった視線をアレンに向けると力説してこう言った。
「ガイさんは、私の友人のお兄さんなんです。彼は、お兄さんへの心無い中傷や噂で傷ついているので、どうにか力になってあげたくて。彼は、噂じゃなくて本当のことが知りたいんです。だから……」
「そうか、弟がいたのか。それは……」
そう言って、顎に手を当て、渋い顔で下を向くアレンに。
ミリアは不安になってこう尋ねる。
「なにか、問題でもあるんでしょうか……」
「いや、ともかく。まずはアイザックに聞いてみることだ。俺が言えるのはそれだけだ」
そう言うと、アレンは森の方をちらりと見ると、ミリアに向かってこう言った。
「じゃあ、俺は行くが。ちゃんと鍵は閉めて寝ろよ」
「アレンさん、ありがとうございました」
そう言って、深々と頭を下げるミリアに。
アレンは踵を返すと片手を挙げてこう言った。
「ああ、じゃあな」
(アイザックさんか……明日、探して聞いてみよう!)
そう心に決めると。
ミリアは扉を閉め、アレンに言われたようにしっかり鍵を掛けるのであった。
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