猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴

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第八章 真実は何処に

真実を隠すなら……

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――俺たちが国民を守るために出来ることと言えば、命を懸けてこの大熊の親子と戦い、彼らの貴重な食料となって、王都を守るための人柱になることぐらいなのさ。

 そんなマークの、おおよそ人道とはかけ離れた言葉に、顔色を青くし生唾を飲み下すグレック。 
 そんなグレックに、マークは酒を一口飲み下すと、険しい顔でこう言った。 

「実際、この熊の親子がこの王都に入って来ないのは、騎士団の誰かの犠牲の上に成り立っているってのは、騎士団の中では周知の事実だ」
「王都の人は、そのことを知っているんですか」

 マークをまっすぐに見つめ、そう真剣に尋ねるミリアに。
 マークは、まるで謎かけのようにこう言った。

「知っている、といえば知っているし、知らないといえば、知らないともいえる。第一、そんなことが国民全員に知れてみろ。国内は右往左往の大混乱だ。そんなこともあって、そこらへんは国がしっかりと介入しているから、深刻な混乱はきたしていないというのが今の状況だ」

 そう言って、酒をあおるマークに。
 グレックは、真面目な顔でこう言った。

「国が介入しているって……どんな風に?」

 その問いかけに。
 マークは、空のグラスに酒を注ぐと、つまみのチーズににを伸ばしてこう言った。 

「……そうだな。ほら、よく言うだろ? 真実を隠すなら森の中ってな。二つの似たような事実を巧みに操って真実を巧妙に隠しているのさ」
「二つの事実で、真実を隠す……」

 そう言って、片手を顎に添えるグレックに。
 マークは、片方の人差し指と、もう片方の人差し指をグレックの目の前に突き立てながらこう説明する。

「いいか、一つは大熊に喰われたという事実。もう一つは、大熊に殺されたっていう事実。この二つの似たような事実を、意図的に噂として流すことによって、本当に知られたくない事実――大熊に人が食われてる、ということを、しようっていう寸法だ」
「そんなことが……」

 そういって、ポテトフライに手を伸ばしたまま固まるグレックに。
 マークは、大きなため息を一つ吐くと、頭をかきかきこう言った。

「まあ、確かに。俺たち騎士団が犠牲になっていれば、人間を喰らう[ビックスリー]は王都には現れない。そう考えれば、わざわざ[ビックスリー]の存在を国民に知らせて恐怖心を煽る必要も無いだろうっていうのが、我らが国家の方針だ」
「[ビックスリー]か……」

 そう言って、グラスに入った薄い琥珀色のウイスキーを見つめるグレックに。
 マークは小さなため息をひとつ吐くと、皮肉な笑みを浮かべてこう言った。

「[ビックスリー]に遭遇するかしないかは、全くを以て運次第だ。いくら金を持っていようが、いくら地位や権力を持っていようが、[ビックスリー]に出会っちまえば、俺たち騎士は、皆、棺桶確定だ。後はもう、騎士になった自分を恨むしかないってな」

 そう言って、やけくそ気味に酒をあおるマークを冷静な面持ちで見遣ると。
 グレックは片手を顎に添え、ふと思い出したようにこう言った。

「実は今、俺の祖父が、昔……そういう大熊と対峙したことがあると言っていたのを思い出していて……」
「えっ、グレックさんのおじいさんは、昔、王都に住んでいたことがあるんですか?」

 そんなミリアの驚きの言葉に、グレックは複雑な表情かおをするとこう言った。

「分からない。ただ昔、大熊と戦って腕を一本、失ってるらしくて。今を思えば、祖父が剣術の研究を始めたのも、そのことが切っ掛けなんじゃないかって……」
「剣術の研究、か。腕一本持ってかれちまってるなら、大熊への復讐を考えるのも分からなくはないな……」

 そう言って、酒を一口飲み下すマークに。
 グレックは、更に話を続けてこう言った。

「俺を王都に送り出すとき、祖父はこんなことを言ってました。『大熊が出たときにこそ、この剣術は真の力を発揮する』と。本当に、大熊に通用するのかまだ分かりませんが、もしかしたら俺の剣術は、祖父が大熊を倒すことを最大の目的に編み出した剣術……といっても過言ではないのかもしれません」

 そう言って、丸テーブルに片肘を付き、悩ましげに口をつぐむグレックに。
 マークは、大きなため息を一つ吐くと、腕を組みながらこう言った。 

「対大熊用剣術か……それが、通用するものなら心強いが。グレック、試してみようなんて考えて、森に潜ったりするなよ?」

 冗談めかしてそういうマークに。
 グレックも苦笑気味にこう言った。

「マークさん、そこまで俺は剣術馬鹿なんかじゃありませんよ。俺だって命は大事ですから」
「なら、いいんだ。ただ、ガイ・リーフウッドの件もあるからな。俺も、少し神経質になっちまう」

 そう言って、気難しい顔で酒を呷るマークに。
 グレックがハッとした表情で尋ねて言った。

「ガイ・リーフウッド……彼が、何かしたんですか」
「おっと、これは機密事項だった。すまないな、このことは騎士のお前にも言えない事項だ。許せよ」

 そう言うと、マークはミリアの作ったポテトフライを口に押し込むと、まるで、何事も無かったかのように、また酒を呷るのであった。
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