70 / 90
第八章 真実は何処に
真実を隠すなら……
しおりを挟む
――俺たちが国民を守るために出来ることと言えば、命を懸けてこの大熊の親子と戦い、彼らの貴重な食料となって、王都を守るための人柱になることぐらいなのさ。
そんなマークの、おおよそ人道とはかけ離れた言葉に、顔色を青くし生唾を飲み下すグレック。
そんなグレックに、マークは酒を一口飲み下すと、険しい顔でこう言った。
「実際、この熊の親子がこの王都に入って来ないのは、騎士団の誰かの犠牲の上に成り立っているってのは、騎士団の中では周知の事実だ」
「王都の人は、そのことを知っているんですか」
マークをまっすぐに見つめ、そう真剣に尋ねるミリアに。
マークは、まるで謎かけのようにこう言った。
「知っている、といえば知っているし、知らないといえば、知らないともいえる。第一、そんなことが国民全員に知れてみろ。国内は右往左往の大混乱だ。そんなこともあって、そこらへんは国がしっかりと介入しているから、深刻な混乱はきたしていないというのが今の状況だ」
そう言って、酒を呷るマークに。
グレックは、真面目な顔でこう言った。
「国が介入しているって……どんな風に?」
その問いかけに。
マークは、空のグラスに酒を注ぐと、つまみのチーズににを伸ばしてこう言った。
「……そうだな。ほら、よく言うだろ? 真実を隠すなら森の中ってな。二つの似たような事実を巧みに操って真実を巧妙に隠しているのさ」
「二つの事実で、真実を隠す……」
そう言って、片手を顎に添えるグレックに。
マークは、片方の人差し指と、もう片方の人差し指をグレックの目の前に突き立てながらこう説明する。
「いいか、一つは大熊に喰われたという事実。もう一つは、大熊に殺されたっていう事実。この二つの似たような事実を、意図的に噂として流すことによって、本当に知られたくない事実――大熊に人が食われてる、ということを、あってないもののようにしようっていう寸法だ」
「そんなことが……」
そういって、ポテトフライに手を伸ばしたまま固まるグレックに。
マークは、大きなため息を一つ吐くと、頭をかきかきこう言った。
「まあ、確かに。俺たち騎士団が犠牲になっていれば、人間を喰らう[ビックスリー]は王都には現れない。そう考えれば、わざわざ[ビックスリー]の存在を国民に知らせて恐怖心を煽る必要も無いだろうっていうのが、我らが国家の方針だ」
「[ビックスリー]か……」
そう言って、グラスに入った薄い琥珀色のウイスキーを見つめるグレックに。
マークは小さなため息をひとつ吐くと、皮肉な笑みを浮かべてこう言った。
「[ビックスリー]に遭遇するかしないかは、全くを以て運次第だ。いくら金を持っていようが、いくら地位や権力を持っていようが、[ビックスリー]に出会っちまえば、俺たち騎士は、皆、棺桶確定だ。後はもう、騎士になった自分を恨むしかないってな」
そう言って、やけくそ気味に酒を呷るマークを冷静な面持ちで見遣ると。
グレックは片手を顎に添え、ふと思い出したようにこう言った。
「実は今、俺の祖父が、昔……そういう大熊と対峙したことがあると言っていたのを思い出していて……」
「えっ、グレックさんのおじいさんは、昔、王都に住んでいたことがあるんですか?」
そんなミリアの驚きの言葉に、グレックは複雑な表情をするとこう言った。
「分からない。ただ昔、大熊と戦って腕を一本、失ってるらしくて。今を思えば、祖父が剣術の研究を始めたのも、そのことが切っ掛けなんじゃないかって……」
「剣術の研究、か。腕一本持ってかれちまってるなら、大熊への復讐を考えるのも分からなくはないな……」
そう言って、酒を一口飲み下すマークに。
グレックは、更に話を続けてこう言った。
「俺を王都に送り出すとき、祖父はこんなことを言ってました。『大熊が出たときにこそ、この剣術は真の力を発揮する』と。本当に、大熊に通用するのかまだ分かりませんが、もしかしたら俺の剣術は、祖父が大熊を倒すことを最大の目的に編み出した剣術……といっても過言ではないのかもしれません」
そう言って、丸テーブルに片肘を付き、悩ましげに口を噤むグレックに。
マークは、大きなため息を一つ吐くと、腕を組みながらこう言った。
「対大熊用剣術か……それが、通用するものなら心強いが。グレック、試してみようなんて考えて、森に潜ったりするなよ?」
冗談めかしてそういうマークに。
グレックも苦笑気味にこう言った。
「マークさん、そこまで俺は剣術馬鹿なんかじゃありませんよ。俺だって命は大事ですから」
「なら、いいんだ。ただ、ガイ・リーフウッドの件もあるからな。俺も、少し神経質になっちまう」
そう言って、気難しい顔で酒を呷るマークに。
グレックがハッとした表情で尋ねて言った。
「ガイ・リーフウッド……彼が、何かしたんですか」
「おっと、これは機密事項だった。すまないな、このことは騎士のお前にも言えない事項だ。許せよ」
そう言うと、マークはミリアの作ったポテトフライを口に押し込むと、まるで、何事も無かったかのように、また酒を呷るのであった。
そんなマークの、おおよそ人道とはかけ離れた言葉に、顔色を青くし生唾を飲み下すグレック。
そんなグレックに、マークは酒を一口飲み下すと、険しい顔でこう言った。
「実際、この熊の親子がこの王都に入って来ないのは、騎士団の誰かの犠牲の上に成り立っているってのは、騎士団の中では周知の事実だ」
「王都の人は、そのことを知っているんですか」
マークをまっすぐに見つめ、そう真剣に尋ねるミリアに。
マークは、まるで謎かけのようにこう言った。
「知っている、といえば知っているし、知らないといえば、知らないともいえる。第一、そんなことが国民全員に知れてみろ。国内は右往左往の大混乱だ。そんなこともあって、そこらへんは国がしっかりと介入しているから、深刻な混乱はきたしていないというのが今の状況だ」
そう言って、酒を呷るマークに。
グレックは、真面目な顔でこう言った。
「国が介入しているって……どんな風に?」
その問いかけに。
マークは、空のグラスに酒を注ぐと、つまみのチーズににを伸ばしてこう言った。
「……そうだな。ほら、よく言うだろ? 真実を隠すなら森の中ってな。二つの似たような事実を巧みに操って真実を巧妙に隠しているのさ」
「二つの事実で、真実を隠す……」
そう言って、片手を顎に添えるグレックに。
マークは、片方の人差し指と、もう片方の人差し指をグレックの目の前に突き立てながらこう説明する。
「いいか、一つは大熊に喰われたという事実。もう一つは、大熊に殺されたっていう事実。この二つの似たような事実を、意図的に噂として流すことによって、本当に知られたくない事実――大熊に人が食われてる、ということを、あってないもののようにしようっていう寸法だ」
「そんなことが……」
そういって、ポテトフライに手を伸ばしたまま固まるグレックに。
マークは、大きなため息を一つ吐くと、頭をかきかきこう言った。
「まあ、確かに。俺たち騎士団が犠牲になっていれば、人間を喰らう[ビックスリー]は王都には現れない。そう考えれば、わざわざ[ビックスリー]の存在を国民に知らせて恐怖心を煽る必要も無いだろうっていうのが、我らが国家の方針だ」
「[ビックスリー]か……」
そう言って、グラスに入った薄い琥珀色のウイスキーを見つめるグレックに。
マークは小さなため息をひとつ吐くと、皮肉な笑みを浮かべてこう言った。
「[ビックスリー]に遭遇するかしないかは、全くを以て運次第だ。いくら金を持っていようが、いくら地位や権力を持っていようが、[ビックスリー]に出会っちまえば、俺たち騎士は、皆、棺桶確定だ。後はもう、騎士になった自分を恨むしかないってな」
そう言って、やけくそ気味に酒を呷るマークを冷静な面持ちで見遣ると。
グレックは片手を顎に添え、ふと思い出したようにこう言った。
「実は今、俺の祖父が、昔……そういう大熊と対峙したことがあると言っていたのを思い出していて……」
「えっ、グレックさんのおじいさんは、昔、王都に住んでいたことがあるんですか?」
そんなミリアの驚きの言葉に、グレックは複雑な表情をするとこう言った。
「分からない。ただ昔、大熊と戦って腕を一本、失ってるらしくて。今を思えば、祖父が剣術の研究を始めたのも、そのことが切っ掛けなんじゃないかって……」
「剣術の研究、か。腕一本持ってかれちまってるなら、大熊への復讐を考えるのも分からなくはないな……」
そう言って、酒を一口飲み下すマークに。
グレックは、更に話を続けてこう言った。
「俺を王都に送り出すとき、祖父はこんなことを言ってました。『大熊が出たときにこそ、この剣術は真の力を発揮する』と。本当に、大熊に通用するのかまだ分かりませんが、もしかしたら俺の剣術は、祖父が大熊を倒すことを最大の目的に編み出した剣術……といっても過言ではないのかもしれません」
そう言って、丸テーブルに片肘を付き、悩ましげに口を噤むグレックに。
マークは、大きなため息を一つ吐くと、腕を組みながらこう言った。
「対大熊用剣術か……それが、通用するものなら心強いが。グレック、試してみようなんて考えて、森に潜ったりするなよ?」
冗談めかしてそういうマークに。
グレックも苦笑気味にこう言った。
「マークさん、そこまで俺は剣術馬鹿なんかじゃありませんよ。俺だって命は大事ですから」
「なら、いいんだ。ただ、ガイ・リーフウッドの件もあるからな。俺も、少し神経質になっちまう」
そう言って、気難しい顔で酒を呷るマークに。
グレックがハッとした表情で尋ねて言った。
「ガイ・リーフウッド……彼が、何かしたんですか」
「おっと、これは機密事項だった。すまないな、このことは騎士のお前にも言えない事項だ。許せよ」
そう言うと、マークはミリアの作ったポテトフライを口に押し込むと、まるで、何事も無かったかのように、また酒を呷るのであった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる