猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴

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第八章 真実は何処に

ビッグスリー

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「ミリア、この人は俺の教官で相棒の、マーク・セヴァリーさんだ」

 丸テーブルを囲み、互いに酒を酌み交わし合いながら。
 グレックはそう言って、正式にマークをミリアに紹介する。 

 紹介されたミリアは、深々と頭を下げてこう言った。

「初めまして、セヴァリーさん。よろしくお願いします」

 そう言って、畏まるミリアに。
 マークは、片手で顎を扱きながら、ニヤリと笑ってこう言った。

「よろしくお嬢ちゃん。ところで、さっき、グレックから聞いたんだが、昨日大熊に襲われたってのは、嬢ちゃんのことかい?」

 そう興味津々といった体で尋ねてくるマークに。
 ミリアは、大熊に襲われたことが酷く不名誉なことに感じ、身体を小さく縮こませると、蚊の泣くような声でこう言った。

「はい……」

 酒のグラスを両手で持ち、身体を硬くして背中を小さく丸めるミリアに。
 マークは、困ったような笑みを浮かべると、気遣うようにこう言った。

「そうか、そりゃ災難だったな。それで、怪我はしなかったのか」

 そう優しく声を掛けてくるマークに。
 ミリアは、少し心を許すと正直に話してこう言った。
 
「はい、斧士ふしのアイザックさんが助けてくれたので。幸いなことにかすり傷程度ですみました」

 そう言って、微かに笑うミリアを何故か意味ありげに見遣ると。
 マークは、空のグラスにウイスキーを注いで、それをストレートで一口飲み下すとこう言った。

「なるほど、アイザックか……ふふ、あいつ、良い男だろ?」

 そう言って、ウイスキーの入ったグラスを片手に肘をつくと、マークはミリアの反応を伺うようにそう言った。

「は、はぁ……」

 困ったように視線を彷徨わせるミリアを面白そうに見遣ると。
 マークは、畳み掛けるようにこう言った。

「王都でも女性人気が高い男だ。そんな男と知り合いになれるなんて、嬢ちゃん……さては、な?」

 そう言って、にやりと笑うマークに。
 グレックが、眉を顰めてすかさず止めに入る。

「……マークさん、彼女、困ってますからその辺で」

 そう言って、皿に盛ったチーズとポテトフライをさっとマークの前に出すグレック。
 そんなグレックのミリアへの気の効かせように苦笑すると。
 マークは、ポテトフライを遠慮なく口に放り込むとこう言った。

「ちょっと悪さが過ぎたか。済まなかったな、嬢ちゃん。とはいえ、この時期は熊に関しちゃ要注意時期だ。なるべくなら、大熊との遭遇は無いに越したことは無い。そんな訳で、イチゴがたくさんっているからといって、森の奥になんざ入ろうとは思わないでくれよ?」

 そう言って、にやりと笑うマークに。
 ミリアはあまりの恥ずかしさに、顔を赤らめ下を向くと、小さな声で答えて言った。

「……はい」

 と、そんなミリアの心情など知ってか知らずか。 
 マークはウイスキーを豪快に呷ると、すぐに話題を変えてこう言った。

「それにしても、騎士団が大熊の侵入を許すとは……とんだヘマをしたもんだ。まあ、侵入したのが[ビッグスリー]じゃなくて良かったが」
「[ビッグスリー]……?」

 そう言って、同じくウイスキーを一口飲むグレックに。
 マークは渋い顔でこう説明する。

「大熊の中には、騎士団でも討伐が難しい奴らが居てな。それが、[ビッグスリー]ていう大熊の親子なんだ」
「なんで、同じ大熊なのに討伐が難しいんですか」

 そう不思議そうな面持ちで尋ねるミリアに。
 マークは、空のグラスにウイスキーを注ぐと、真面目な顔でこう言った。

「簡単なことだ。奴らは俺たちより強いのさ。そして厄介なことに、こいつらは人間の[味]ってのを知ってる。騎士団の防衛線の無い王都なんて、奴らに取って見れば外敵のいない安全な狩場だ。きっと、王都は血の海になるだろうな」
「そんな……」

 そう言って、眉を顰め口元を片手で押さえるミリアに。
 マークは、眉間に眉を顰めると、皮肉な笑みを浮かべながらこう言った。

「残念だが、本当のことだ。だから、そんな俺たちが国民を守るために出来る事と言えば、命を懸けてこの大熊の親子と戦い、彼らの貴重な食料となって、王都を守るための人柱になることくらいなのさ」
「国民のための、人柱……」

 あまりにショッキングなマークの言葉に。
 さすがのグレックも、顔色を微妙に青くするのであった。
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