69 / 90
第八章 真実は何処に
ビッグスリー
しおりを挟む
「ミリア、この人は俺の教官で相棒の、マーク・セヴァリーさんだ」
丸テーブルを囲み、互いに酒を酌み交わし合いながら。
グレックはそう言って、正式にマークをミリアに紹介する。
紹介されたミリアは、深々と頭を下げてこう言った。
「初めまして、セヴァリーさん。よろしくお願いします」
そう言って、畏まるミリアに。
マークは、片手で顎を扱きながら、ニヤリと笑ってこう言った。
「よろしくお嬢ちゃん。ところで、さっき、グレックから聞いたんだが、昨日大熊に襲われたってのは、嬢ちゃんのことかい?」
そう興味津々といった体で尋ねてくるマークに。
ミリアは、大熊に襲われたことが酷く不名誉なことに感じ、身体を小さく縮こませると、蚊の泣くような声でこう言った。
「はい……」
酒のグラスを両手で持ち、身体を硬くして背中を小さく丸めるミリアに。
マークは、困ったような笑みを浮かべると、気遣うようにこう言った。
「そうか、そりゃ災難だったな。それで、怪我はしなかったのか」
そう優しく声を掛けてくるマークに。
ミリアは、少し心を許すと正直に話してこう言った。
「はい、斧士のアイザックさんが助けてくれたので。幸いなことにかすり傷程度ですみました」
そう言って、微かに笑うミリアを何故か意味ありげに見遣ると。
マークは、空のグラスにウイスキーを注いで、それをストレートで一口飲み下すとこう言った。
「なるほど、アイザックか……ふふ、あいつ、良い男だろ?」
そう言って、ウイスキーの入ったグラスを片手に肘をつくと、マークはミリアの反応を伺うようにそう言った。
「は、はぁ……」
困ったように視線を彷徨わせるミリアを面白そうに見遣ると。
マークは、畳み掛けるようにこう言った。
「王都でも女性人気が高い男だ。そんな男と知り合いになれるなんて、嬢ちゃん……さては、持ってるな?」
そう言って、にやりと笑うマークに。
グレックが、眉を顰めてすかさず止めに入る。
「……マークさん、彼女、困ってますからその辺で」
そう言って、皿に盛ったチーズとポテトフライをさっとマークの前に出すグレック。
そんなグレックのミリアへの気の効かせように苦笑すると。
マークは、ポテトフライを遠慮なく口に放り込むとこう言った。
「ちょっと悪さが過ぎたか。済まなかったな、嬢ちゃん。とはいえ、この時期は熊に関しちゃ要注意時期だ。なるべくなら、大熊との遭遇は無いに越したことは無い。そんな訳で、イチゴがたくさん生っているからといって、森の奥になんざ入ろうとは思わないでくれよ?」
そう言って、にやりと笑うマークに。
ミリアはあまりの恥ずかしさに、顔を赤らめ下を向くと、小さな声で答えて言った。
「……はい」
と、そんなミリアの心情など知ってか知らずか。
マークはウイスキーを豪快に呷ると、すぐに話題を変えてこう言った。
「それにしても、騎士団が大熊の侵入を許すとは……とんだヘマをしたもんだ。まあ、侵入したのが[ビッグスリー]じゃなくて良かったが」
「[ビッグスリー]……?」
そう言って、同じくウイスキーを一口飲むグレックに。
マークは渋い顔でこう説明する。
「大熊の中には、騎士団でも討伐が難しい奴らが居てな。それが、[ビッグスリー]ていう大熊の親子なんだ」
「なんで、同じ大熊なのに討伐が難しいんですか」
そう不思議そうな面持ちで尋ねるミリアに。
マークは、空のグラスにウイスキーを注ぐと、真面目な顔でこう言った。
「簡単なことだ。奴らは俺たちより強いのさ。そして厄介なことに、こいつらは人間の[味]ってのを知ってる。騎士団の防衛線の無い王都なんて、奴らに取って見れば外敵のいない安全な狩場だ。きっと、王都は血の海になるだろうな」
「そんな……」
そう言って、眉を顰め口元を片手で押さえるミリアに。
マークは、眉間に眉を顰めると、皮肉な笑みを浮かべながらこう言った。
「残念だが、本当のことだ。だから、そんな俺たちが国民を守るために出来る事と言えば、命を懸けてこの大熊の親子と戦い、彼らの貴重な食料となって、王都を守るための人柱になることくらいなのさ」
「国民のための、人柱……」
あまりにショッキングなマークの言葉に。
さすがのグレックも、顔色を微妙に青くするのであった。
丸テーブルを囲み、互いに酒を酌み交わし合いながら。
グレックはそう言って、正式にマークをミリアに紹介する。
紹介されたミリアは、深々と頭を下げてこう言った。
「初めまして、セヴァリーさん。よろしくお願いします」
そう言って、畏まるミリアに。
マークは、片手で顎を扱きながら、ニヤリと笑ってこう言った。
「よろしくお嬢ちゃん。ところで、さっき、グレックから聞いたんだが、昨日大熊に襲われたってのは、嬢ちゃんのことかい?」
そう興味津々といった体で尋ねてくるマークに。
ミリアは、大熊に襲われたことが酷く不名誉なことに感じ、身体を小さく縮こませると、蚊の泣くような声でこう言った。
「はい……」
酒のグラスを両手で持ち、身体を硬くして背中を小さく丸めるミリアに。
マークは、困ったような笑みを浮かべると、気遣うようにこう言った。
「そうか、そりゃ災難だったな。それで、怪我はしなかったのか」
そう優しく声を掛けてくるマークに。
ミリアは、少し心を許すと正直に話してこう言った。
「はい、斧士のアイザックさんが助けてくれたので。幸いなことにかすり傷程度ですみました」
そう言って、微かに笑うミリアを何故か意味ありげに見遣ると。
マークは、空のグラスにウイスキーを注いで、それをストレートで一口飲み下すとこう言った。
「なるほど、アイザックか……ふふ、あいつ、良い男だろ?」
そう言って、ウイスキーの入ったグラスを片手に肘をつくと、マークはミリアの反応を伺うようにそう言った。
「は、はぁ……」
困ったように視線を彷徨わせるミリアを面白そうに見遣ると。
マークは、畳み掛けるようにこう言った。
「王都でも女性人気が高い男だ。そんな男と知り合いになれるなんて、嬢ちゃん……さては、持ってるな?」
そう言って、にやりと笑うマークに。
グレックが、眉を顰めてすかさず止めに入る。
「……マークさん、彼女、困ってますからその辺で」
そう言って、皿に盛ったチーズとポテトフライをさっとマークの前に出すグレック。
そんなグレックのミリアへの気の効かせように苦笑すると。
マークは、ポテトフライを遠慮なく口に放り込むとこう言った。
「ちょっと悪さが過ぎたか。済まなかったな、嬢ちゃん。とはいえ、この時期は熊に関しちゃ要注意時期だ。なるべくなら、大熊との遭遇は無いに越したことは無い。そんな訳で、イチゴがたくさん生っているからといって、森の奥になんざ入ろうとは思わないでくれよ?」
そう言って、にやりと笑うマークに。
ミリアはあまりの恥ずかしさに、顔を赤らめ下を向くと、小さな声で答えて言った。
「……はい」
と、そんなミリアの心情など知ってか知らずか。
マークはウイスキーを豪快に呷ると、すぐに話題を変えてこう言った。
「それにしても、騎士団が大熊の侵入を許すとは……とんだヘマをしたもんだ。まあ、侵入したのが[ビッグスリー]じゃなくて良かったが」
「[ビッグスリー]……?」
そう言って、同じくウイスキーを一口飲むグレックに。
マークは渋い顔でこう説明する。
「大熊の中には、騎士団でも討伐が難しい奴らが居てな。それが、[ビッグスリー]ていう大熊の親子なんだ」
「なんで、同じ大熊なのに討伐が難しいんですか」
そう不思議そうな面持ちで尋ねるミリアに。
マークは、空のグラスにウイスキーを注ぐと、真面目な顔でこう言った。
「簡単なことだ。奴らは俺たちより強いのさ。そして厄介なことに、こいつらは人間の[味]ってのを知ってる。騎士団の防衛線の無い王都なんて、奴らに取って見れば外敵のいない安全な狩場だ。きっと、王都は血の海になるだろうな」
「そんな……」
そう言って、眉を顰め口元を片手で押さえるミリアに。
マークは、眉間に眉を顰めると、皮肉な笑みを浮かべながらこう言った。
「残念だが、本当のことだ。だから、そんな俺たちが国民を守るために出来る事と言えば、命を懸けてこの大熊の親子と戦い、彼らの貴重な食料となって、王都を守るための人柱になることくらいなのさ」
「国民のための、人柱……」
あまりにショッキングなマークの言葉に。
さすがのグレックも、顔色を微妙に青くするのであった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる