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第八章 真実は何処に
王太子の事情
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アキの家を逃げるように後にしたミリアは、噴水広場のベンチで一人ぼんやりと座っていた。
ただひたすら寒々しい、がらんとした部屋。
人が住んでいるという気配を全く感じさせないその部屋の中。
独り佇むアキは、まるでこの世界の住人ではないかのようで――。
ミリアはその光景に大きな衝撃を受け、逃げるようにその場を後にしてしまったのだが。
(アキさんのこと、凄く心配だけど。でも、何をどうしてあげたら良いのか全然分からないよ……)
そんなことを思いながら、行き交う人をぼんやりと眺めていると。
白い制服を着た男が一人、ゆっくりと街中を巡回しているのが見えた。
(白い制服って……もしかして、王太子殿下?)
そう思い至ると、ミリアはすぐにベンチから立ち上がり、急いで王太子殿下らしき人影を追いかける。
行き交う人を追い越し掻い潜り、王太子の背中にやっとのこと追い着くと、その背中に向かい、ミリアは息を切らせながらこう言った。
「で、殿下!」
その声に、殿下と呼ばれた男――王太子ユートは、驚いたように後ろを振り向くとこう言った。
「君は確か、アキ・リーフウッドの友人の……」
「はい、ミリア・ヘイワードです。どうしても、殿下にお聞きしたいことがあって、失礼を承知でお声かけさせて頂きました」
そう言って、息の弾む胸に片手を当てるミリア。
そんなミリアを不思議そうに見遣ったものの、王太子ユートは後ろで手を組むと、にっこり笑ってこう言った。
「それで、僕に聞きたいこととは」
王太子のその問いに。
ミリアは心臓の鼓動を落ち着かせるように、深いため息を吐くとこう言った。
「アキさん……アキ・リーフウッドのお兄さん、ガイ・リーフウッドさんのことです」
「ガイ・リーフウッド……」
その名前に。
王太子ユートは、少し顔色を青くさせると、ふと顎に手を当て、考えるような仕草をしつつそう呟いた。
そんな王太子ユートに、ミリアは懸命に懇願するとこう言った。
「アキさんは、苦しんでいます。どういう経緯でお兄さんが亡くなったのかも分からなくて……。そのことが理由で、お兄さんにはあまり良くない噂が流れていて、アキさんはすごく傷ついています。先日、斧士アイザック様のご友人のシャインさんから、アキさんのお兄さんの相棒は、殿下だったのではないかと噂があると聞いて、もしかしたら、殿下は何かを知っているのではと思って、今日、こうして声を……」
そう言って、胸の前で手を組み下を向くミリアに。
「そうか……」
王太子ユートは、酷く思いつめたような顔でそう呟いた。
そんな、悲壮感漂う王太子ユートを真っ直ぐ見つめると。
ミリアは、尚、懇願するようにこう言葉を続ける。
「殿下。アキさんと一度、お話して下さい。アキさんの不安を取り除いてあげて下さい。お願いします!」
そう言って、深々と頭を下げるミリア。
しかし、王太子ユートは、そんなミリアを突き放すように、威厳のこもった声でこう言った。
「要件は分かった。検討はしよう」
「殿下!」
そう言って、王太子ユートのサーコートに縋るミリアを。
王太子ユートは、やんわりと振り解くと、至極真面目な顔でこう言った。
「これは、そう簡単な話じゃないんだ。ましてや、僕の一存で決められるものでもない。力になれず、済まないね」
「そんな……」
そう唖然と立ちすくむミリアに。
王太子ユートは、優しい口調でこう言った。
「話はこれで終わりかな。無いようなら、これで失礼するよ」
そう言うと、王太子ユートは徐に踵を返すと、王都の人混みの中に消えていくのであった。
ただひたすら寒々しい、がらんとした部屋。
人が住んでいるという気配を全く感じさせないその部屋の中。
独り佇むアキは、まるでこの世界の住人ではないかのようで――。
ミリアはその光景に大きな衝撃を受け、逃げるようにその場を後にしてしまったのだが。
(アキさんのこと、凄く心配だけど。でも、何をどうしてあげたら良いのか全然分からないよ……)
そんなことを思いながら、行き交う人をぼんやりと眺めていると。
白い制服を着た男が一人、ゆっくりと街中を巡回しているのが見えた。
(白い制服って……もしかして、王太子殿下?)
そう思い至ると、ミリアはすぐにベンチから立ち上がり、急いで王太子殿下らしき人影を追いかける。
行き交う人を追い越し掻い潜り、王太子の背中にやっとのこと追い着くと、その背中に向かい、ミリアは息を切らせながらこう言った。
「で、殿下!」
その声に、殿下と呼ばれた男――王太子ユートは、驚いたように後ろを振り向くとこう言った。
「君は確か、アキ・リーフウッドの友人の……」
「はい、ミリア・ヘイワードです。どうしても、殿下にお聞きしたいことがあって、失礼を承知でお声かけさせて頂きました」
そう言って、息の弾む胸に片手を当てるミリア。
そんなミリアを不思議そうに見遣ったものの、王太子ユートは後ろで手を組むと、にっこり笑ってこう言った。
「それで、僕に聞きたいこととは」
王太子のその問いに。
ミリアは心臓の鼓動を落ち着かせるように、深いため息を吐くとこう言った。
「アキさん……アキ・リーフウッドのお兄さん、ガイ・リーフウッドさんのことです」
「ガイ・リーフウッド……」
その名前に。
王太子ユートは、少し顔色を青くさせると、ふと顎に手を当て、考えるような仕草をしつつそう呟いた。
そんな王太子ユートに、ミリアは懸命に懇願するとこう言った。
「アキさんは、苦しんでいます。どういう経緯でお兄さんが亡くなったのかも分からなくて……。そのことが理由で、お兄さんにはあまり良くない噂が流れていて、アキさんはすごく傷ついています。先日、斧士アイザック様のご友人のシャインさんから、アキさんのお兄さんの相棒は、殿下だったのではないかと噂があると聞いて、もしかしたら、殿下は何かを知っているのではと思って、今日、こうして声を……」
そう言って、胸の前で手を組み下を向くミリアに。
「そうか……」
王太子ユートは、酷く思いつめたような顔でそう呟いた。
そんな、悲壮感漂う王太子ユートを真っ直ぐ見つめると。
ミリアは、尚、懇願するようにこう言葉を続ける。
「殿下。アキさんと一度、お話して下さい。アキさんの不安を取り除いてあげて下さい。お願いします!」
そう言って、深々と頭を下げるミリア。
しかし、王太子ユートは、そんなミリアを突き放すように、威厳のこもった声でこう言った。
「要件は分かった。検討はしよう」
「殿下!」
そう言って、王太子ユートのサーコートに縋るミリアを。
王太子ユートは、やんわりと振り解くと、至極真面目な顔でこう言った。
「これは、そう簡単な話じゃないんだ。ましてや、僕の一存で決められるものでもない。力になれず、済まないね」
「そんな……」
そう唖然と立ちすくむミリアに。
王太子ユートは、優しい口調でこう言った。
「話はこれで終わりかな。無いようなら、これで失礼するよ」
そう言うと、王太子ユートは徐に踵を返すと、王都の人混みの中に消えていくのであった。
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