猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴

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第八章 真実は何処に

大橋の上で

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「何、ミリア。用事って」

 午前中も、十一時を過ぎた頃。

 そう言って、酒場の厨房から忙しく出て来たエマに。
 ミリアは手早く要件を伝えてこう言った。

「エマさんは、アキさんの家って、どこにあるか知ってます?」

 その問いに、エマは渋い顔をするとこう言った。

「それが、あいつ……尋ねても全然教えてくれないのよね。だから、未だにどこで何してるのか、全く……」

 そう言って、肩をすくめて見せるエマに。
 ミリアは、肩を落とすとこう言った。

「そう、なんですね」

 そんな、意気消沈のミリアを困ったように見つめたものの、エマはふと思い出したようにこう言った。

「でも、数人のお客さんから、アキらしい人の情報はちらほら入ってきてはいるのよ。でも、私は仕事が忙しくてなかなか確かめにいけなくてね」
「え、どんな情報ですか」

 すぐさま食いついてきたミリアを苦笑い気味に見遣ると。
 エマは、記憶を手繰り寄せる様にこう言った。

「確か、王都にある一番大きな橋の上で、絵を売ったりしているとか、そうでないとか」
「絵を?」

 思い当たる節があるミリアは、目を輝かせてエマを見る。
 と、そんなミリアを不思議そうに見つめると、エマは腰に両手を当ててこう言った。

「まあ、あの子……ガイさんと少し似ているところがあって、昔から、絵を描くのは上手い方だったから。断言はできないけど、まあ、行ってみたら?」

 そう言って、優しく笑うエマに。
 ミリアは感謝の言葉を述べるとこう言った。

「エマさん、ありがとうございます。王都の大橋、探してみます!」

 元気よくそう言って、酒場の入口へと踵を返すミリアの背に。
 エマは、思い付いたようにこう言った。

「もしアキに会ったら、住所教える様にきつく言っておいて」

 そう言って苦笑いするエマに大きく頷いたものの、ミリアは思い出したようにエマに駆け寄ると、バッグを漁ってこう言った。

「エマさん、これ。お裾分けです。良かったら食べて下さい」

 ミリアから茶色い袋を受け取ったエマは、袋の口を早速開くとこう言った。

「あら、ジャガイモじゃない。これ、ミリアが作ったジャガイモ?」

 その問いに、ミリアは恥ずかしそうにこう言った。

「いえ、私のはまだ芽が出たばかりで。実は、今日シャインさんからたくさん頂いてしまって」

 そう言って、苦笑するミリアに。
 エマは、昨日の話を思い出したのか、こう言った。

「そっか、ジャガイモ……芽が出たのね。良かったわね、ミリア」
「はい! 後は、ジャガイモが取れるのを待つだけです。取れたらまた、届けに来ますね!」

 そう言って、頬を赤く染めるミリアに。
 エマはにっこり笑うとこう言った。

「ありがと、ミリア。大橋は色々と凄い所らしいから、少し楽しんで来ると良いわよ」
「凄い、ですか。はい、分かりました。楽しんできますね!」

(凄いって、景色がきれいとか……そういう事かな)

 そんなことをぼんやりと考えながら、入口へと向かうミリアの背中に。
 エマは、念を押すようにこう言った。

「あと悪いけど、アキのことよろしく」
「はい!」

(よし、絶対にアキさんを見つけて、住所もちゃんと教えて貰わなきゃ……)

 そう心に決めると、ミリアは両手をギュっと握り締め、気合を入れながら酒場を後にするのであった。



     ※     ※     ※



「うわぁ! これが大橋……」

 横幅が五、六メルト(五、六メートル)ありそうな、大きな橋が、王都唯一の水源であるイェール川の上に堂々と掛かっている。
 その橋の両端には、手づくりらしき商品を布の上に並べ、それを売っている人たちで埋め尽くされていた。
 布製品や革製品、銀製品やアクセサリー、香水にアロマオイル、そして、彫刻や絵……様々なものが、良いものからそれなりものまでピンキリの値段で売られている。
 その露店の前には、多くの国民が足を止めて眺めたり、商品を手に取ったり買ったりしていた。

 ミリアはあまりの商品の多さに、目があちこちへと向いてしまい、苦笑いする。

「アキさんを探しに来たのに、こんなんじゃダメだよね……」

 とは思いつつも、目はバッグや靴、アクセサリーへと向いてしまう。

 と、その時――。

「いたっ!」

 誰かの足を靴の踵で踏んでしまい、ミリアは反射的に後ろを向き、頭を下げる。

「ご、ごめんなさい!」
「まったく、これだから田舎者は……」

 そう言って、頭を深く下げるミリアの頭上から、聞き覚えのある忌々し気な声が降り注ぐ。

(この声って、もしかして……)

 嫌な予感が脳裏を過り、ミリアは一気にテンションが下がる。
 それでも、萎える気持ちを奮い立たせ、ミリアはゆっくりと顔を上げた。

 すると、案の定――。
 
「あなた、何でいつも私の行く先、行く先に、いるんですの?」

 腹立たし気にそう言って眉を顰めるイヴォンヌが、腕を組みながらミリアを見下ろしているのであった。
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