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第八章 真実は何処に
ジャガイモと実験と
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[武術大会]翌日の午前中。
朝早くからの収穫のアルバイトを終えたミリアは、焦げ茶色のエプロンに身を包むと、春の優しい日の光を浴びなが庭のジャガイモの発育状況を念入りに調べていた。
地面にしゃがみ込み、土の表面を舐めるように見つめるミリア。
しかし、残念ながら、ジャガイモの芽はひとつも確認できなかった。
「育てるの、失敗しちゃったのかな……」
そう独り言ちてしょんぼりと肩を落とすミリア。
と、その時――。
「おはよう、ミリアちゃん。ジャガイモの具合はどうかな?」
「あ、シャインさん!」
そう言って、瞳をキラキラさせ、表情を明るくするミリアに。
シャインも、穏やかな笑みを浮かべるとこう言った。
「約束通りジャガイモの様子を見に来たんだけど……その前に、これを」
そう言って、シャインは丈夫な麻袋に入った何かをミリアの両手に手渡した。
「わっ。何ですか、これ。かなり重いですけど」
ずしりと重いそれに、ミリアは驚いたようにシャインに尋ねる。
と、そんな目をまん丸くして口をぽかんと開けるミリアに、シャインは苦笑気味にこう言った。
「只のジャガイモだよ。僕が実験で作っているものだけど」
「シャインさん、ジャガイモを作っているんですか?」
目を輝かせ、興味津々といった体でそう尋ねるミリアに。
シャインは少し困ったよう笑うと、首を竦めてこう言った。
「厳密には、ジャガイモじゃなくて肥料の実験のためにジャガイモを利用している……って、感じなんだけどね」
「肥料、ですか」
そう言って、興味深そうにシャインの話を聞くミリアに。
シャインは、フッと笑うとミリアの足元に、もうひとつ大きめの麻袋を置くとこう言った。
「それで、今日はこんなものを持ってきてみたよ」
「これは、土嚢……ですか?」
土の入った袋にしか見えないそれに、ミリアは首をかしげてそう言った。
ミリアのその感想に、シャインは思わず吹き出すとこう言う。
「……これはね、肥料だよ。僕が配合したね。そんなわけで……じゃあ、早速、使ってみようか」
「はい!」
そう言って、土嚢のような肥料の袋を片手に抱えたシャインを、ミリアは自分のジャガイモ畑へ案内した。
するとシャインは、芽が出ていないミリアのジャガイモを畑を隅から隅まで食い入るように見つめると、その場にしゃがみ込んで土の状態を熱心に確認する。
それから、持ってきた肥料を少量手に取ると、それを五つのジャガイモの土、全てに混ぜ込んでいく。
そうして、一通りその作業が終わると、シャインは腰を軽く叩きながらこう言った。
「多分、上手く行けばすぐにでも成果が出るはずなんだけど……」
と、シャインの会話が終わるか終わらないかの間に。
「あ! 芽が……芽が出ました! ここにも、あっ、ここも!」
飛び上がらんばかりにそう言うと、ミリアはジャガイモの袋をドサッ地面の上に置いた。
そして、地面にしゃがみ込むと、ジャガイモの発芽を嬉しそうに見つめる。
そんな、幸せそうなミリアを優しい眼差しで見遣ると、シャインは顎に片手を添えつつ、考え深げにこう呟いた。
「五つ中、三つか。もう少し改良の余地がありそうだな……」
そんな、冷静なシャインを前に。
ミリアは興奮冷めやらぬといった感じでこう言った。
「シャインさん、ありがとうございます! これで、父から貰った大切なジャガイモを失わないで済みそうです」
そう言って、芽が出た嬉しさと感動で瞳に涙を浮かべて頭を下げるミリアに。
シャインは苦笑しつつこう言った。
「とんでもない。僕だって、大切なデータを頂くことが出来たからね。感謝するよ」
そう言って片目を瞑って見せるシャインに、ミリアは嬉しそうにこう言った。
「それじゃあ、[ウィン・ウィン]ってことですね!」
「そうなるかな」
そう微笑するシャインに、ミリアはハッと思い付いたようにこう言った。
「もし良ければ、お茶とか……飲んでいかれますか?」
少し躊躇いがちにそう尋ねるミリアに。
シャインは横に頭を振ると、申し訳なさそうにこう言った。
「いや、ここで得られたデータをすぐにでも解析したいから、また今度誘ってくれるとありがたいかな」
「はい、じゃあそのうちまた」
そう言って、エプロンに着いた土を払い落すミリアに。
シャインは、大きく伸びをすると、腰を軽く叩きながらこう言った。
「ああ。それじゃ、僕はこの辺で。ジャガイモ、元気に育つことを願っているよ」
そう言って、腰を擦りながらゆっくりと去って行くシャインの背中を見送ると。
ミリアはふっと真顔になってこう呟く。
「こんなにたくさんのジャガイモ、どうしよう……」
シャインから貰った大量のジャガイモの麻袋を見つめると。
ミリアはそう言って首を捻るのであった。
朝早くからの収穫のアルバイトを終えたミリアは、焦げ茶色のエプロンに身を包むと、春の優しい日の光を浴びなが庭のジャガイモの発育状況を念入りに調べていた。
地面にしゃがみ込み、土の表面を舐めるように見つめるミリア。
しかし、残念ながら、ジャガイモの芽はひとつも確認できなかった。
「育てるの、失敗しちゃったのかな……」
そう独り言ちてしょんぼりと肩を落とすミリア。
と、その時――。
「おはよう、ミリアちゃん。ジャガイモの具合はどうかな?」
「あ、シャインさん!」
そう言って、瞳をキラキラさせ、表情を明るくするミリアに。
シャインも、穏やかな笑みを浮かべるとこう言った。
「約束通りジャガイモの様子を見に来たんだけど……その前に、これを」
そう言って、シャインは丈夫な麻袋に入った何かをミリアの両手に手渡した。
「わっ。何ですか、これ。かなり重いですけど」
ずしりと重いそれに、ミリアは驚いたようにシャインに尋ねる。
と、そんな目をまん丸くして口をぽかんと開けるミリアに、シャインは苦笑気味にこう言った。
「只のジャガイモだよ。僕が実験で作っているものだけど」
「シャインさん、ジャガイモを作っているんですか?」
目を輝かせ、興味津々といった体でそう尋ねるミリアに。
シャインは少し困ったよう笑うと、首を竦めてこう言った。
「厳密には、ジャガイモじゃなくて肥料の実験のためにジャガイモを利用している……って、感じなんだけどね」
「肥料、ですか」
そう言って、興味深そうにシャインの話を聞くミリアに。
シャインは、フッと笑うとミリアの足元に、もうひとつ大きめの麻袋を置くとこう言った。
「それで、今日はこんなものを持ってきてみたよ」
「これは、土嚢……ですか?」
土の入った袋にしか見えないそれに、ミリアは首をかしげてそう言った。
ミリアのその感想に、シャインは思わず吹き出すとこう言う。
「……これはね、肥料だよ。僕が配合したね。そんなわけで……じゃあ、早速、使ってみようか」
「はい!」
そう言って、土嚢のような肥料の袋を片手に抱えたシャインを、ミリアは自分のジャガイモ畑へ案内した。
するとシャインは、芽が出ていないミリアのジャガイモを畑を隅から隅まで食い入るように見つめると、その場にしゃがみ込んで土の状態を熱心に確認する。
それから、持ってきた肥料を少量手に取ると、それを五つのジャガイモの土、全てに混ぜ込んでいく。
そうして、一通りその作業が終わると、シャインは腰を軽く叩きながらこう言った。
「多分、上手く行けばすぐにでも成果が出るはずなんだけど……」
と、シャインの会話が終わるか終わらないかの間に。
「あ! 芽が……芽が出ました! ここにも、あっ、ここも!」
飛び上がらんばかりにそう言うと、ミリアはジャガイモの袋をドサッ地面の上に置いた。
そして、地面にしゃがみ込むと、ジャガイモの発芽を嬉しそうに見つめる。
そんな、幸せそうなミリアを優しい眼差しで見遣ると、シャインは顎に片手を添えつつ、考え深げにこう呟いた。
「五つ中、三つか。もう少し改良の余地がありそうだな……」
そんな、冷静なシャインを前に。
ミリアは興奮冷めやらぬといった感じでこう言った。
「シャインさん、ありがとうございます! これで、父から貰った大切なジャガイモを失わないで済みそうです」
そう言って、芽が出た嬉しさと感動で瞳に涙を浮かべて頭を下げるミリアに。
シャインは苦笑しつつこう言った。
「とんでもない。僕だって、大切なデータを頂くことが出来たからね。感謝するよ」
そう言って片目を瞑って見せるシャインに、ミリアは嬉しそうにこう言った。
「それじゃあ、[ウィン・ウィン]ってことですね!」
「そうなるかな」
そう微笑するシャインに、ミリアはハッと思い付いたようにこう言った。
「もし良ければ、お茶とか……飲んでいかれますか?」
少し躊躇いがちにそう尋ねるミリアに。
シャインは横に頭を振ると、申し訳なさそうにこう言った。
「いや、ここで得られたデータをすぐにでも解析したいから、また今度誘ってくれるとありがたいかな」
「はい、じゃあそのうちまた」
そう言って、エプロンに着いた土を払い落すミリアに。
シャインは、大きく伸びをすると、腰を軽く叩きながらこう言った。
「ああ。それじゃ、僕はこの辺で。ジャガイモ、元気に育つことを願っているよ」
そう言って、腰を擦りながらゆっくりと去って行くシャインの背中を見送ると。
ミリアはふっと真顔になってこう呟く。
「こんなにたくさんのジャガイモ、どうしよう……」
シャインから貰った大量のジャガイモの麻袋を見つめると。
ミリアはそう言って首を捻るのであった。
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