猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴

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第七章 忍び寄る影

王都と猛獣

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 ミリアが[狼と子羊亭]を後にしたのは、月と星の光がの光に取って代わり、しばらく経った夜も遅くのことであった。

「さすがに帰ってから公共浴場行くのはまずいですよね」
 
 そう言って、自分の着ている服の袖のにおいをスンスンと嗅ぐミリアに。
 シャインは苦笑しながらこう言った。

「公共浴場で魔獣に襲われるってもの、難だし。明日の午前中とかの方が良いんじゃないかな」

 その提案に。

 ミリアも、納得したように頷くと、少し残念そうにこう言った。

「やっぱり、そうですよね。明日、アルバイトの収穫の仕事が終わってからにします」
「それにしても、猛獣って、街の中にまで入って来ることがあるんですね。王都だから、てっきり安全だとばかり思っていましたけど……」

 ミリアの話に割って入るように、アキは素直な感想を口にしてそう言った。
 その率直な感想に、シャインは首を竦めてこう言う。

「まあ、誰だってそう考えるよね。けど、王都ではこういうことは割と多いんだ。特に、大熊の冬眠明けの春の時期とか、冬眠前の秋とかは予断を許さないかな。その時期は、森の付近はもちろん、王都内の騎士の配置も若干多くなるんだけど。今回は、[武術大会]と重なったのが痛かったね」

 そう細かく、大熊の出没の理由を分析するシャインに。
 グレックは、得心がいったとばかりに大きく頷くと、腕を組みつつこう言った。

「なるほど。だから、森の付近に騎士団の詰め所があるんですね」
「ああ。森と王都の境目が、いわば、デッドラインだからね。そこを猛獣に超えられたら、死者が出る確率は大幅に跳ね上がる。だから、森の付近は、常時騎士たちが警備をして回っているんだ」

 そんなシャインの話を真面目な顔で聞いていたエマが、心配そうにこう言った。

「ミリアとグレックは確か、森のそばよね。十分気を付けてね」

 そう言って、眉を顰めるエマに。
 ミリアは努めて明るくこう言った。

「はい」

 グレックも、軽く笑みを作るものの、反対に女性であるエマを心配してこう言った。

「エマこそ、気を付けて帰れよ」

 そんなグレックの気遣いに微笑を洩らすと、エマは挑戦的な笑みを浮かべつつこう言った。

「大丈夫よ。シャインさんに送って貰うから」
「そうか……」

 そう言って、少しホッとした顔をするグレッに、くつくつと笑うエマ。
 そんな二人をシャインは苦笑いながら見つめると、今度は、一人、カウンターに移動するアキに視線を移し、気づかわし気にこう言った。

「アキ君は、やっぱりもう少し酒場で過ごすのかい?」

 シャインのその問いに、アキは口元に軽く微笑を浮かべると、困ったような顔をしてこう言った。

「……はい、色々と考えたいこともあるんで。家だと、少し静か過ぎて逆に気が滅入っちゃうんで、適度に賑やかしい方が丁度良いというか……」

 そう言って、頭をかくアキに。
 シャインは、心底心配そうにこう言った。

「そうか。騎士たちが警備しているとはいえ、その隙を突いて猛獣は襲ってくる。だから、あまり遅くならないよう、気を付けて帰るように」

 まだ若いくせに、少しおやじ臭いシャインの物言いに。
 アキは口の端を吊り上げ苦笑すると、肩を竦めてこう言った。

「……俺、子供じゃないですよ。自分のことぐらい、自分で面倒見れますから」

 そう言って、手に持ったワイングラスを艶っぽく斜めに傾けるアキに。
 シャインは小さく両手を上げると首を竦めて苦笑する。

 そんなアキをエマはため息交じりに見遣ると、それでも気持ちを切り替える様にこう言った。

「それじゃ、お互い気を付けて帰りましょ」

 そのエマの言葉を合図に。

 ミリアとグレック、エマとシャインはそれぞれの家路に着くのであった。
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