57 / 90
第七章 忍び寄る影
心配の種
しおりを挟む
「そうか、君があのアキ君なのか。君のことは、良くガイから話を聞いていたよ」
「そう、ですか……」
島でのネガティブな出来事を思い出したのだろうか。
アキはそう言って肩を落とすと、ふつと押し黙った。
と、そんな意気消沈のアキに。
シャインはブランデーを一口飲み下すと、軽く笑みを浮かべつつこう言った。
「ガイは、良く言ってたよ。君はかわいい自慢の弟だって。飲み会がある度に、うるさいぐらい君の自慢話をしていたから、君とは初対面だけど、そんな感じがしなくてね。もし、僕の話し方が馴れ馴れし過ぎて気に障ったら、ごめんね」
「いえ。でも、兄がそんなことを話してたなんて……」
そう言って、口元を片手で覆い、視線を斜め下に落とすアキに。
シャインはふと笑みを浮かべると頬杖をついてこう言った。
「意外かい?」
その問いに、アキはシャインの碧の瞳を見つめると、また視線を斜め下に落としてこう言った。
「はい。絵の勉強をするって言って、勝手に独りで王都へ行ってしまった人ですから。だから、てっきり兄の頭の中は、絵のことで一杯なんだって、俺はそう……」
そう言って、言葉を詰まらせ押し黙るアキに。
シャインはため息をひとつ吐くとこう言った。
「確かに。君の立場なら、兄さんを恨みたくもなるだろうね。でも、ガイの頭の中は、いつも君のことで一杯だったよ。ある時なんか、『アキが、村の剣術大会で優勝したんだ!』って言って、凄く喜んでいたしね」
「……え、なんで大会のこと……。兄は、もうその時には王都に居たはずなのに」
アキは、眼を大きく見開くと、困惑気味にそう言った。
そんな、驚きを隠せないアキを前に。
シャインは、ブランデーを一口飲み下すと、微笑しながらこう言う。
「どうやら、村から来た貿易船の船員から話を聞いたらしくてね。彼は、貿易船が村から来るたびに、色々と君のことを聞いて回っていたみたいだよ」
そんなシャインの話を聞いていたエマは、しみじみとした口調でこう言った。
「ガイさん、王都に行ってもあんたのこと、余程気がかりだったのね。その気持ち、分からなくはないけど」
そんなエマの言葉など耳に入っていないというように。
アキは、魂の抜けたような顔をすると、目を伏せたままこう言った。
「そう、ですか」
そんな放心状態のアキを前に。
シャインはアキに寄り添うような、優しい口調でこう言った。
「ガイは、いつも心配していたよ。君のこと」
その言葉に、アキはすんと鼻を啜ると、肩肘を突き、フッと横を向いた。
と、そんなアキを心底憐れむように見遣ると。
シャインは淀んだ空気を一新するように手を叩き、にこやかに微笑んでこう言った。
「さ、湿っぽい話はこのぐらいにして。みんなお腹がすいてきたんじゃないかな? 店も片付いたみたいだし。一緒に食事でもどうだい? もちろん、僕のおごりでね」
そう言うと、シャインは立ち尽くす男たちに向かって、席に座るよう促すのだった。
「そう、ですか……」
島でのネガティブな出来事を思い出したのだろうか。
アキはそう言って肩を落とすと、ふつと押し黙った。
と、そんな意気消沈のアキに。
シャインはブランデーを一口飲み下すと、軽く笑みを浮かべつつこう言った。
「ガイは、良く言ってたよ。君はかわいい自慢の弟だって。飲み会がある度に、うるさいぐらい君の自慢話をしていたから、君とは初対面だけど、そんな感じがしなくてね。もし、僕の話し方が馴れ馴れし過ぎて気に障ったら、ごめんね」
「いえ。でも、兄がそんなことを話してたなんて……」
そう言って、口元を片手で覆い、視線を斜め下に落とすアキに。
シャインはふと笑みを浮かべると頬杖をついてこう言った。
「意外かい?」
その問いに、アキはシャインの碧の瞳を見つめると、また視線を斜め下に落としてこう言った。
「はい。絵の勉強をするって言って、勝手に独りで王都へ行ってしまった人ですから。だから、てっきり兄の頭の中は、絵のことで一杯なんだって、俺はそう……」
そう言って、言葉を詰まらせ押し黙るアキに。
シャインはため息をひとつ吐くとこう言った。
「確かに。君の立場なら、兄さんを恨みたくもなるだろうね。でも、ガイの頭の中は、いつも君のことで一杯だったよ。ある時なんか、『アキが、村の剣術大会で優勝したんだ!』って言って、凄く喜んでいたしね」
「……え、なんで大会のこと……。兄は、もうその時には王都に居たはずなのに」
アキは、眼を大きく見開くと、困惑気味にそう言った。
そんな、驚きを隠せないアキを前に。
シャインは、ブランデーを一口飲み下すと、微笑しながらこう言う。
「どうやら、村から来た貿易船の船員から話を聞いたらしくてね。彼は、貿易船が村から来るたびに、色々と君のことを聞いて回っていたみたいだよ」
そんなシャインの話を聞いていたエマは、しみじみとした口調でこう言った。
「ガイさん、王都に行ってもあんたのこと、余程気がかりだったのね。その気持ち、分からなくはないけど」
そんなエマの言葉など耳に入っていないというように。
アキは、魂の抜けたような顔をすると、目を伏せたままこう言った。
「そう、ですか」
そんな放心状態のアキを前に。
シャインはアキに寄り添うような、優しい口調でこう言った。
「ガイは、いつも心配していたよ。君のこと」
その言葉に、アキはすんと鼻を啜ると、肩肘を突き、フッと横を向いた。
と、そんなアキを心底憐れむように見遣ると。
シャインは淀んだ空気を一新するように手を叩き、にこやかに微笑んでこう言った。
「さ、湿っぽい話はこのぐらいにして。みんなお腹がすいてきたんじゃないかな? 店も片付いたみたいだし。一緒に食事でもどうだい? もちろん、僕のおごりでね」
そう言うと、シャインは立ち尽くす男たちに向かって、席に座るよう促すのだった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる