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第七章 忍び寄る影
災害とジャガイモと
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ブランデーをストレートで一杯と、チーズの盛り合わせと海鮮サラダを大皿でひとつ注文すると。
シャインはブランデーの入ったグラスを煽り、空になったグラスを恨めしそうに見つめる。
そんな、酒を愛するシャインに。
ミリアは興味津々といった体で尋ねて言った。
「あのー。シャインさんは、普段は何をされていらっしゃる方なんですか。あ、バーテンダーさん、とか?」
期待に満ち満ちた瞳でそう尋ねて来るミリアに。
シャインは苦笑気味にこう言った。
「国営農場で作業員として働いているんだ。部門は農耕部門だよ」
その答えに、ミリアは目を輝かせると、嬉しそうにこう言った。
「じゃあ、私は、シャインさんたちが育てた野菜を収穫しているんですね! 私、国営農場で臨時の収穫作業員として働いているんです!」
「そうか。じゃあ、そうなるかな」
そう言って、運ばれて来たブランデーを一口、口に運ぶシャイン。
その話を聞いていたエマは、軽く首を竦めると、口をへの字にしてこう言った。
「王都に住む何千人もの胃袋を満たす仕事……考えるだけで大変そう」
そう言って、運ばれて来たチーズを受け取るエマ。
そんなエマに、シャインも首を竦めるとこう言った。
「まあね。でも、大変だけどやり甲斐はあるよ。ただ災害の時だけは、連日ほぼ徹夜になるから、『一日も早く、眠らせてくれー!』って、思うこともあるけどね」
「それは、大変ね……」
そう言って、首に片手を回してため息を吐くシャインに、エマは気の毒そうに眉を顰める。
「まあ、国の備蓄庫には災害に強いとされるジャガイモが、定期的に備蓄されているから、大体、災害直後一週間ぐらいまでなら、三交代制シフトで何とか乗り切れるんだ。それ以上は、さっき言った通り。あー、考えただけでも気分が萎えてくるよ……」
そう、うんざりしながら説明するシャインに。
ミリアは、ふと考え込むようにこう呟いた。
「ジャガイモ、ですか……」
「ん? ジャガイモがどうかした?」
ミリアのその呟きを耳聡く聞きつけたシャインは、ミリアを伺うようにそう尋ねる。
ミリアはというと、口元に軽く片手を据えると、悩まし気な顔でこう言った。
「実は、王都に行くとき、餞別にって、父から貰ったジャガイモの種芋があるんですけど。それを、自宅の庭に植えてもなかなか芽が出なくて」
そう言って、眉を顰めて俯くミリアに。
シャインは真面目な顔をすると、テーブルの上に両手を組んでこう質問する。
「植えて何日目?」
「えっと……九日目です」
「普通なら、七日目前後には実が生ってもおかしくないんだけど。ちょっと……心配だね」
「はい……」
そう言って、自分の胸の前で、自分の手を何度も落ち着きなく握るミリアに。
シャインは、思い付いたようにこう言った。
「そうだ。明日、僕がちょっと見てあげようか」
「えっ、いいんですか!」
その言葉に、ミリアの顔がみるみる明るくなる。
シャインはブランデーを一口啜ると、それを美味そうに飲み下して快くこう言った。
「ああ、もちろん。丁度、試してみたいと思っていたこともあったしね」
「わぁ、ありがとうございます!」
目を輝かせ、心底嬉しそうに胸の前で両手を組むミリアに。
エマは、口元に微笑を浮かべ、目を細めつつこう言った。
「良かったわね、ミリア」
「はい!」
と、その時――。
「ミリア! エマ! 無事か!?」
「二人とも、大丈夫!?」
酒場の重い扉が勢いよく開けられたかと思うと、二人の男がそう言って勢いよく飛び込んできた。
見慣れたその顔に、ミリアとエマは、ホッとしたような顔をしてこう言った。
「あ、グレックさん、アキさん!」
「二人とも、遅いじゃない」
そして、エマとミリア、二人の顔を見て肩を撫で下ろしたグレックは、ふと二人のテーブルに着く一人の男の姿を見つめて怪訝そうにこう言った。
「エマ。そちらの方は……?」
グレックのその問いに。
シャインは、席に着いたままブランデーのグラスを傾けると、にっこり笑ってこう言った。
「初めまして。僕は、シャイン・ボールドウィン。彼女たちを大熊から助けた斧士のアイザック・スタイナーから、彼女たちの面倒を見る様にと頼まれ者だよ」
シャインのその言葉に。
グレックは、なぜか、驚いたように目を見張るのであった。
シャインはブランデーの入ったグラスを煽り、空になったグラスを恨めしそうに見つめる。
そんな、酒を愛するシャインに。
ミリアは興味津々といった体で尋ねて言った。
「あのー。シャインさんは、普段は何をされていらっしゃる方なんですか。あ、バーテンダーさん、とか?」
期待に満ち満ちた瞳でそう尋ねて来るミリアに。
シャインは苦笑気味にこう言った。
「国営農場で作業員として働いているんだ。部門は農耕部門だよ」
その答えに、ミリアは目を輝かせると、嬉しそうにこう言った。
「じゃあ、私は、シャインさんたちが育てた野菜を収穫しているんですね! 私、国営農場で臨時の収穫作業員として働いているんです!」
「そうか。じゃあ、そうなるかな」
そう言って、運ばれて来たブランデーを一口、口に運ぶシャイン。
その話を聞いていたエマは、軽く首を竦めると、口をへの字にしてこう言った。
「王都に住む何千人もの胃袋を満たす仕事……考えるだけで大変そう」
そう言って、運ばれて来たチーズを受け取るエマ。
そんなエマに、シャインも首を竦めるとこう言った。
「まあね。でも、大変だけどやり甲斐はあるよ。ただ災害の時だけは、連日ほぼ徹夜になるから、『一日も早く、眠らせてくれー!』って、思うこともあるけどね」
「それは、大変ね……」
そう言って、首に片手を回してため息を吐くシャインに、エマは気の毒そうに眉を顰める。
「まあ、国の備蓄庫には災害に強いとされるジャガイモが、定期的に備蓄されているから、大体、災害直後一週間ぐらいまでなら、三交代制シフトで何とか乗り切れるんだ。それ以上は、さっき言った通り。あー、考えただけでも気分が萎えてくるよ……」
そう、うんざりしながら説明するシャインに。
ミリアは、ふと考え込むようにこう呟いた。
「ジャガイモ、ですか……」
「ん? ジャガイモがどうかした?」
ミリアのその呟きを耳聡く聞きつけたシャインは、ミリアを伺うようにそう尋ねる。
ミリアはというと、口元に軽く片手を据えると、悩まし気な顔でこう言った。
「実は、王都に行くとき、餞別にって、父から貰ったジャガイモの種芋があるんですけど。それを、自宅の庭に植えてもなかなか芽が出なくて」
そう言って、眉を顰めて俯くミリアに。
シャインは真面目な顔をすると、テーブルの上に両手を組んでこう質問する。
「植えて何日目?」
「えっと……九日目です」
「普通なら、七日目前後には実が生ってもおかしくないんだけど。ちょっと……心配だね」
「はい……」
そう言って、自分の胸の前で、自分の手を何度も落ち着きなく握るミリアに。
シャインは、思い付いたようにこう言った。
「そうだ。明日、僕がちょっと見てあげようか」
「えっ、いいんですか!」
その言葉に、ミリアの顔がみるみる明るくなる。
シャインはブランデーを一口啜ると、それを美味そうに飲み下して快くこう言った。
「ああ、もちろん。丁度、試してみたいと思っていたこともあったしね」
「わぁ、ありがとうございます!」
目を輝かせ、心底嬉しそうに胸の前で両手を組むミリアに。
エマは、口元に微笑を浮かべ、目を細めつつこう言った。
「良かったわね、ミリア」
「はい!」
と、その時――。
「ミリア! エマ! 無事か!?」
「二人とも、大丈夫!?」
酒場の重い扉が勢いよく開けられたかと思うと、二人の男がそう言って勢いよく飛び込んできた。
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「二人とも、遅いじゃない」
そして、エマとミリア、二人の顔を見て肩を撫で下ろしたグレックは、ふと二人のテーブルに着く一人の男の姿を見つめて怪訝そうにこう言った。
「エマ。そちらの方は……?」
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シャインは、席に着いたままブランデーのグラスを傾けると、にっこり笑ってこう言った。
「初めまして。僕は、シャイン・ボールドウィン。彼女たちを大熊から助けた斧士のアイザック・スタイナーから、彼女たちの面倒を見る様にと頼まれ者だよ」
シャインのその言葉に。
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