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第五章 それぞれの闘い
最後の最後まで
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「どうした、ミリア? 少し、元気が無いようにみえるが。本当に、何かあったんじゃないのか」
そう言って、ミリアの隣に腰を下ろすグレックに。
ミリアは、きつく握った自分の両手を見つめながら、肩を落としてこう言った。
「実は……」
そう言って、少し離れた隣のベンチで話している若者たちをちらりと見ると。
ミリアは、曇った顔をしてまた下を向く。
そんな、鬱々としたミリアの様子に。
グレックは軽く肩を竦めると、荷物を椅子の上に置き、ニヤリと笑ってこう言った。
「さては、俺の前評判を聞いてしまった、かな」
「はい……」
そう言って、悲痛な顔をするミリアに。
グレックは豪快に笑って見せるとこう言った。
「まあ、気にするな」
「でも、グレックさんは優勝を目指しているのに、あんな……!」
両手にありったけの力を込め、ミリアは訴える様にグレックを見る。
(あんな言い方って……)
そう言ってちらっと若者たちを見遣るミリアに。
グレックは両腕を組むと、口元に余裕の笑みを浮かべながらこう言った。
「俺は、そのぐらいのことで俺の夢を諦めたりはしない。それは、ミリアだってそ同じだろう?」
「え?」
突然話を振られ、ミリアは弾かれたようにグレックを見る。
そんなミリアに、グレックは首を竦めると、ミリアの瞳をしっかり見つめてこう言った。
「お父さんがくれたジャガイモの芽が出なくても、最後の最後まで諦めたりしない、だろ?」
「……はい、しません。絶対に!」
「そういうことだ」
そう言って話を締め括ったグレックは、ベンチの背に両腕を回すと、星々が美しく散りばめられた夜の空を見上げてこう言った。
「確かに、俺の技術は周りから見たら派手ではないし、冴えないかもしれない。それでも。俺は、自分が信じる祖父の剣技を、そして自分の努力を信じて前に進んでいくだけだ。それでダメなら、今よりも更に頑張ればいい。たとえ、最終的に俺の才能が開花しなかったとしてもな」
「グレックさん、そんな言い方……」
「ミリア。俺は、そこまで能天気な男じゃない。今回の大会も、決して楽観してはいない。俺は、俺に自信を持ってはいるが、大会は何が起こるか分からない。負けるかもしれない結末もちゃんと想定してるよ。だから、ミリアが心配する必要はない」
「……はい」
――『俺は、そこまで能天気な男じゃない。負けるかもしれない結末も、ちゃんと想定してる』
(グレックさん、そこまで覚悟決めてるんだ……。それなのに私ったら、そんなグレックさんの決意に水を差すようなこと……)
そう言って、今度は違うことで肩を落とすミリアに。
グレックは困ったように肩を竦めるも、直ぐに、口元に笑みを浮かべてこう言った。
「ミリア。俺が勝利に近づくためにはミリアやアキ、それにエマの応援は必須条件なんだ。応援があるだけで力が、勇気が、気力が湧き上がってくる。だから、明日は応援、よろしく頼む!」
そう言って、深々と頭を下げるグレックに。
ミリアは笑顔で胸を叩くと、目を潤ませながら元気よくこう言った。
「はい、精いっぱい応援させて頂きます!」
夜空に輝く、色とりどりの美しく可憐な星たちの下。
ミリアとグレックはお互い湯冷ましを口実に、大会前の緊張感と高揚感を味わうため、しばし、その場にとどまるのであった。
そう言って、ミリアの隣に腰を下ろすグレックに。
ミリアは、きつく握った自分の両手を見つめながら、肩を落としてこう言った。
「実は……」
そう言って、少し離れた隣のベンチで話している若者たちをちらりと見ると。
ミリアは、曇った顔をしてまた下を向く。
そんな、鬱々としたミリアの様子に。
グレックは軽く肩を竦めると、荷物を椅子の上に置き、ニヤリと笑ってこう言った。
「さては、俺の前評判を聞いてしまった、かな」
「はい……」
そう言って、悲痛な顔をするミリアに。
グレックは豪快に笑って見せるとこう言った。
「まあ、気にするな」
「でも、グレックさんは優勝を目指しているのに、あんな……!」
両手にありったけの力を込め、ミリアは訴える様にグレックを見る。
(あんな言い方って……)
そう言ってちらっと若者たちを見遣るミリアに。
グレックは両腕を組むと、口元に余裕の笑みを浮かべながらこう言った。
「俺は、そのぐらいのことで俺の夢を諦めたりはしない。それは、ミリアだってそ同じだろう?」
「え?」
突然話を振られ、ミリアは弾かれたようにグレックを見る。
そんなミリアに、グレックは首を竦めると、ミリアの瞳をしっかり見つめてこう言った。
「お父さんがくれたジャガイモの芽が出なくても、最後の最後まで諦めたりしない、だろ?」
「……はい、しません。絶対に!」
「そういうことだ」
そう言って話を締め括ったグレックは、ベンチの背に両腕を回すと、星々が美しく散りばめられた夜の空を見上げてこう言った。
「確かに、俺の技術は周りから見たら派手ではないし、冴えないかもしれない。それでも。俺は、自分が信じる祖父の剣技を、そして自分の努力を信じて前に進んでいくだけだ。それでダメなら、今よりも更に頑張ればいい。たとえ、最終的に俺の才能が開花しなかったとしてもな」
「グレックさん、そんな言い方……」
「ミリア。俺は、そこまで能天気な男じゃない。今回の大会も、決して楽観してはいない。俺は、俺に自信を持ってはいるが、大会は何が起こるか分からない。負けるかもしれない結末もちゃんと想定してるよ。だから、ミリアが心配する必要はない」
「……はい」
――『俺は、そこまで能天気な男じゃない。負けるかもしれない結末も、ちゃんと想定してる』
(グレックさん、そこまで覚悟決めてるんだ……。それなのに私ったら、そんなグレックさんの決意に水を差すようなこと……)
そう言って、今度は違うことで肩を落とすミリアに。
グレックは困ったように肩を竦めるも、直ぐに、口元に笑みを浮かべてこう言った。
「ミリア。俺が勝利に近づくためにはミリアやアキ、それにエマの応援は必須条件なんだ。応援があるだけで力が、勇気が、気力が湧き上がってくる。だから、明日は応援、よろしく頼む!」
そう言って、深々と頭を下げるグレックに。
ミリアは笑顔で胸を叩くと、目を潤ませながら元気よくこう言った。
「はい、精いっぱい応援させて頂きます!」
夜空に輝く、色とりどりの美しく可憐な星たちの下。
ミリアとグレックはお互い湯冷ましを口実に、大会前の緊張感と高揚感を味わうため、しばし、その場にとどまるのであった。
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