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第四章 王都からの洗礼
過去を哀れんでも
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グリフォードとプラハが店を出て行ったことを確認すると。
グレックは大きなため息と共に、肩の荷が下りたと言わんばかりにこう言った。
「行ったか」
「行ったわね……」
エマも、めんどくさい奴らが居なくなったという安心感からか、椅子の背もたれに寄り掛かると、ため息交じりにそう言う。
そしてミリアも、胸の前で両手を合わせると、ホッとしたようなため息を吐いてこう言った。
「ふぅ、良かった……」
そんな気疲れしているであろう三人を前に。
アキは、申し訳なさそうに後頭部をかくと、視線を机の上に落としてこう言った。
「みんな、ごめんねー。嫌な思いさせちゃって」
「別に。お前の方こそ大丈夫なのか」
グレックはそう言って、アキを心配そうに見遣るものの。
アキはというと、へらへらと笑いながらこう言った。
「俺は、へーきへーき。こんなのもう慣れっこだから」
そう言って、片目を瞑って見せるアキに。
グレックは、納得できないという顔をするものの、ため息交じりにこう言った。
「そういう言い方はあまり感心しないがな。まあ、ともかく。あんまり一人で背負い込まないことだ」
「あはは、ありがと」
そう言って、にっこりと微笑むアキに、グレックはもう一度ため息を吐く。
そんな二人のやり取りを背に、ミリアは、グレックが言っていたあることをふと思い出してこう言った。
「あの……なんであの人、アキさんに食って掛かって来るんでしょうか」
その問いに、グレックも反応してこう言った。
「それは俺も気になっているところなんだが。アキ、心当たりはあるのか」
そんな二人の疑問を前に。
アキは、「うーん」と考える仕草をすると、バツが悪そうに後頭部をかきかきこう言った。
「たぶん、あれだよねー」
「あれ、とは?」
そう話を促すグレックに。
アキは、話したくなさそうに口を噤むも、エマの力強い視線に促されつつ口を開いてこう言った。
「さっき、エマも言ってたと思うけど。一回だけ、村のイベントの剣術大会に参加して、優勝しちゃったことがあるんだ。あいつら、グリフォードとプラハを破ってさ。もう三年前ぐらいの話だけど」
そう言って、なぜか「思い出すのも不快だ」、と言わんばかりの険しい顔をするアキ。
そんなアキに、グレックは当然の疑問を口にしてこう言った。
「あいつらに勝って優勝……って。そこはアキ、腹を立てるところじゃなくて、誇るところじゃないのか?」
不思議そうにそう首を傾げるグレックに肩を竦めると。
アキは、困ったように眉を顰め、その後、ため息交じりにこう言った。
「誇るって言ってもねぇ……。その試合の後、『アキが優勝するなんて不吉だー!』って、村を上げての大騒ぎになっちゃってさー。それでまた、枯れた井戸に放り込まれて閉じ込められちゃったんだよねー。以来、『もう絶対剣なんか持っもんかぁー!』って、そう思ったわけでさ……誇るどころか思い出すのも嫌なんだよねー、ほんと」
そう吐き捨てるように言うと、アキは「これ以上は、何も思い出したくも無い」と口をへの字に曲げてそっぽを向いた。
そんなアキを困ったように見遣ると。
エマは両手を二回叩いて淀んだ空気を一掃し、ミリア、アキ、グレックの三人をゆっくり見回してこう言った。
「まあ、ちょっと横やりは入ったけど。折角、四人集まったんだし……今日は楽しみましょう?」
その声に、グレックがいち早く賛同してこう言った。
「だな。早速そうするとしよう。それと、アキ。俺の言ったこと、あんまり気にするなよ」
ミリアも、少し元気のないアキを気に掛けながらこう声を掛ける。
「みなさんと一緒に食事が出来て、私、すごく嬉しいです。だから、アキさんも元気出してください!」
そんな三人の優しい心づかいに。
アキは酷く儚げに微笑むと、小さく呟いてこう言った。
「過去を哀れんでも、未来は微笑んではくれない……か」
「……? 何ですか、アキさん?」
ミリアのその何気ない言葉に。
アキは大袈裟に笑って見せると、白いシャツの袖を捲り上げつつこう言った。
「そうだよねー。折角四人集まったんだし、楽しまなきゃーってね! ……ってことでー、早速色々注文しちゃおっかー!」
「はい!」
そう言って、ミリアは幸せそうに笑うと、手元のメニュー表をエマと一緒に熱心に見定め始める。
そんな天真爛漫なミリアの、その屈託のない笑みと幸せそうな声に。
アキの口元には、思わず柔らかな笑みが浮かぶのであった。
グレックは大きなため息と共に、肩の荷が下りたと言わんばかりにこう言った。
「行ったか」
「行ったわね……」
エマも、めんどくさい奴らが居なくなったという安心感からか、椅子の背もたれに寄り掛かると、ため息交じりにそう言う。
そしてミリアも、胸の前で両手を合わせると、ホッとしたようなため息を吐いてこう言った。
「ふぅ、良かった……」
そんな気疲れしているであろう三人を前に。
アキは、申し訳なさそうに後頭部をかくと、視線を机の上に落としてこう言った。
「みんな、ごめんねー。嫌な思いさせちゃって」
「別に。お前の方こそ大丈夫なのか」
グレックはそう言って、アキを心配そうに見遣るものの。
アキはというと、へらへらと笑いながらこう言った。
「俺は、へーきへーき。こんなのもう慣れっこだから」
そう言って、片目を瞑って見せるアキに。
グレックは、納得できないという顔をするものの、ため息交じりにこう言った。
「そういう言い方はあまり感心しないがな。まあ、ともかく。あんまり一人で背負い込まないことだ」
「あはは、ありがと」
そう言って、にっこりと微笑むアキに、グレックはもう一度ため息を吐く。
そんな二人のやり取りを背に、ミリアは、グレックが言っていたあることをふと思い出してこう言った。
「あの……なんであの人、アキさんに食って掛かって来るんでしょうか」
その問いに、グレックも反応してこう言った。
「それは俺も気になっているところなんだが。アキ、心当たりはあるのか」
そんな二人の疑問を前に。
アキは、「うーん」と考える仕草をすると、バツが悪そうに後頭部をかきかきこう言った。
「たぶん、あれだよねー」
「あれ、とは?」
そう話を促すグレックに。
アキは、話したくなさそうに口を噤むも、エマの力強い視線に促されつつ口を開いてこう言った。
「さっき、エマも言ってたと思うけど。一回だけ、村のイベントの剣術大会に参加して、優勝しちゃったことがあるんだ。あいつら、グリフォードとプラハを破ってさ。もう三年前ぐらいの話だけど」
そう言って、なぜか「思い出すのも不快だ」、と言わんばかりの険しい顔をするアキ。
そんなアキに、グレックは当然の疑問を口にしてこう言った。
「あいつらに勝って優勝……って。そこはアキ、腹を立てるところじゃなくて、誇るところじゃないのか?」
不思議そうにそう首を傾げるグレックに肩を竦めると。
アキは、困ったように眉を顰め、その後、ため息交じりにこう言った。
「誇るって言ってもねぇ……。その試合の後、『アキが優勝するなんて不吉だー!』って、村を上げての大騒ぎになっちゃってさー。それでまた、枯れた井戸に放り込まれて閉じ込められちゃったんだよねー。以来、『もう絶対剣なんか持っもんかぁー!』って、そう思ったわけでさ……誇るどころか思い出すのも嫌なんだよねー、ほんと」
そう吐き捨てるように言うと、アキは「これ以上は、何も思い出したくも無い」と口をへの字に曲げてそっぽを向いた。
そんなアキを困ったように見遣ると。
エマは両手を二回叩いて淀んだ空気を一掃し、ミリア、アキ、グレックの三人をゆっくり見回してこう言った。
「まあ、ちょっと横やりは入ったけど。折角、四人集まったんだし……今日は楽しみましょう?」
その声に、グレックがいち早く賛同してこう言った。
「だな。早速そうするとしよう。それと、アキ。俺の言ったこと、あんまり気にするなよ」
ミリアも、少し元気のないアキを気に掛けながらこう声を掛ける。
「みなさんと一緒に食事が出来て、私、すごく嬉しいです。だから、アキさんも元気出してください!」
そんな三人の優しい心づかいに。
アキは酷く儚げに微笑むと、小さく呟いてこう言った。
「過去を哀れんでも、未来は微笑んではくれない……か」
「……? 何ですか、アキさん?」
ミリアのその何気ない言葉に。
アキは大袈裟に笑って見せると、白いシャツの袖を捲り上げつつこう言った。
「そうだよねー。折角四人集まったんだし、楽しまなきゃーってね! ……ってことでー、早速色々注文しちゃおっかー!」
「はい!」
そう言って、ミリアは幸せそうに笑うと、手元のメニュー表をエマと一緒に熱心に見定め始める。
そんな天真爛漫なミリアの、その屈託のない笑みと幸せそうな声に。
アキの口元には、思わず柔らかな笑みが浮かぶのであった。
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