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第四章 王都からの洗礼
森に住まうもの
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「わぁー!」
そう言って、ミリアは思わず歓声を上げた。
そこには、見るからに美味しそうな、真っ赤に色づいたイチゴが、地面の上にたくさん顔を出していたのである。
これは歓声を上げずにはいられない。
ミリアは嬉さと共に腰をかがめると、足元に生るイチゴを踏まないようにしながら、手早くどんどんもいでいった。
おかげでスカスカだった籠の中はたくさんのイチゴで一杯になっていく。
(こんなにたくさんイチゴが取れるのに、なんでみんな小道の脇ばっかりに群がってるんだろう……)
「王都の人って、なんか変かも」
そんなことを思っているうちに籠もいっぱいになり、ミリアはゆっくりと腰を上げる。
そして、籠を地面に下ろし、こり固まった体をストレッチでほぐしていたその時。
ミリアはふと黒い物体が目の端の方を通り過ぎた気がして、辺りをゆっくり見回した。
「特に、何もない、よね……?」
そう言って、イチゴの籠を片腕に下げて、一路、森の小道まで戻ろうとした、まさにその時――。
ミリアの鼻っ柱を、黒く、重そうな何かが勢いよく掠めて行く。
「え……な、何――」
思わず後ろに後ずさり、目の前に目を凝らすミリアがその場で見たものとは――。
「これは……何?」
鋭く尖った歯をむき出し、涎をだらだらと垂らしながら迫って来る、二メルト(二メートル)以上はあろうかという巨大な、何か――。
「い、いやぁー!」
ミリアはイチゴの入った籠を地面に投げ出すと、巨大な何かに背中を向けて走りだす。
だが、恐怖のあまり足が思うように動かない。
ミリアはその場にぺたりとへたり込むと、思わず叫んでこう言った。
「き、キャー! だ、誰かーっ!」
(グレックさん! アキさん! 助けて――!)
と、その瞬間――。
――ズキュィィーン!
空を切り裂く重々しい音と共に、火薬のにおいが辺り一面に立ち込める。
それと同時に。
ズサッ……。
目の前の巨大な何かが、口から血の泡を吹きながらゆっくりと前のめりで崩れ落ちた。
見ると、巨大な何かのこめかみから白煙がゆるゆると立ち上っている。
「私、助かった……の?」
地面の上にへたり込み、そう一人自問していると、茂みの中から一人の男がゆったりとした動作で姿を現す。
男は、銀色の癖のない少し長めの前髪を片方の耳に掛けると、黒の制服の詰襟を徐に外してこう言った。
「イチゴ摘みで人出が多いと聞いて、嫌な予感がしてきてみれば……案の定、危険地帯でイチゴを摘む奴が居たか。あれほど中央広場の掲示板で注意喚起してあったってのに……全く」
そんな男の片手には、木製のライフルがしっかりと握られている。
(そうか、この人が助けてくれたのね……お礼、言わなきゃ)
ミリアは慌てた様にその場に立ち上がると、深々と頭を下げてこう言った。
「あ、あの……ありがとう、ございます」
すると男は、ミリアの無事に笑顔を浮かべるどころか、眉間に皺を寄せ、酷く冷たい口調でこう言い放った。
「『ありがとう』じゃねぇよ。俺がもう少し遅かったら、あんたは棺桶行きだったんだ。もっと自分の行動に責任を持つこったな……」
そう言って、男は辺りを今一度見回すと、足元に転がる巨大な何かを長靴の靴底で転がし、じっと見つめる。
そんな素気無い銀髪の男を申し訳なさそうに見遣ると。
ミリアは、もう一度頭を下げてこう言った。
「本当に、す、すみませんでした」
そう言って、再度頭を下げるミリアを改めて見た銀髪の男は、ミリアの服装を見て呆れたような顔をすると、更にため息交じりにこう言った。
「それにしても、熊避けの鈴も持たないで森の奥に来るなんて……あんた、イカれてんのか? ったく、ほらよ……もってきな」
森の中に、涼やかな音が鳴り響く。
「……これは、鈴?」
「熊避けのな。ほら、さっさと小道に戻れ!」
「は、はい。あ、あの……」
「あん?」
「お、お名前は……」
そう問いかけるミリアに、銀髪の男は冷たい青い瞳をスッと細めると、面倒くさそうにこう言った。
「……アレン・アドラー。銃士団の銃士だ」
「あ、アレンさん。ありがとうございました!」
(銃士のアレンさんか……なんか、申し訳ない事しちゃったな……)
そう心の中で反省すると。
(これからは、森に行くときには鈴を付けていかないとね、うん)
分かっているのか、いないのか。
そう言って、ミリアは心の中で深く頷いて見せるのであった。
そう言って、ミリアは思わず歓声を上げた。
そこには、見るからに美味しそうな、真っ赤に色づいたイチゴが、地面の上にたくさん顔を出していたのである。
これは歓声を上げずにはいられない。
ミリアは嬉さと共に腰をかがめると、足元に生るイチゴを踏まないようにしながら、手早くどんどんもいでいった。
おかげでスカスカだった籠の中はたくさんのイチゴで一杯になっていく。
(こんなにたくさんイチゴが取れるのに、なんでみんな小道の脇ばっかりに群がってるんだろう……)
「王都の人って、なんか変かも」
そんなことを思っているうちに籠もいっぱいになり、ミリアはゆっくりと腰を上げる。
そして、籠を地面に下ろし、こり固まった体をストレッチでほぐしていたその時。
ミリアはふと黒い物体が目の端の方を通り過ぎた気がして、辺りをゆっくり見回した。
「特に、何もない、よね……?」
そう言って、イチゴの籠を片腕に下げて、一路、森の小道まで戻ろうとした、まさにその時――。
ミリアの鼻っ柱を、黒く、重そうな何かが勢いよく掠めて行く。
「え……な、何――」
思わず後ろに後ずさり、目の前に目を凝らすミリアがその場で見たものとは――。
「これは……何?」
鋭く尖った歯をむき出し、涎をだらだらと垂らしながら迫って来る、二メルト(二メートル)以上はあろうかという巨大な、何か――。
「い、いやぁー!」
ミリアはイチゴの入った籠を地面に投げ出すと、巨大な何かに背中を向けて走りだす。
だが、恐怖のあまり足が思うように動かない。
ミリアはその場にぺたりとへたり込むと、思わず叫んでこう言った。
「き、キャー! だ、誰かーっ!」
(グレックさん! アキさん! 助けて――!)
と、その瞬間――。
――ズキュィィーン!
空を切り裂く重々しい音と共に、火薬のにおいが辺り一面に立ち込める。
それと同時に。
ズサッ……。
目の前の巨大な何かが、口から血の泡を吹きながらゆっくりと前のめりで崩れ落ちた。
見ると、巨大な何かのこめかみから白煙がゆるゆると立ち上っている。
「私、助かった……の?」
地面の上にへたり込み、そう一人自問していると、茂みの中から一人の男がゆったりとした動作で姿を現す。
男は、銀色の癖のない少し長めの前髪を片方の耳に掛けると、黒の制服の詰襟を徐に外してこう言った。
「イチゴ摘みで人出が多いと聞いて、嫌な予感がしてきてみれば……案の定、危険地帯でイチゴを摘む奴が居たか。あれほど中央広場の掲示板で注意喚起してあったってのに……全く」
そんな男の片手には、木製のライフルがしっかりと握られている。
(そうか、この人が助けてくれたのね……お礼、言わなきゃ)
ミリアは慌てた様にその場に立ち上がると、深々と頭を下げてこう言った。
「あ、あの……ありがとう、ございます」
すると男は、ミリアの無事に笑顔を浮かべるどころか、眉間に皺を寄せ、酷く冷たい口調でこう言い放った。
「『ありがとう』じゃねぇよ。俺がもう少し遅かったら、あんたは棺桶行きだったんだ。もっと自分の行動に責任を持つこったな……」
そう言って、男は辺りを今一度見回すと、足元に転がる巨大な何かを長靴の靴底で転がし、じっと見つめる。
そんな素気無い銀髪の男を申し訳なさそうに見遣ると。
ミリアは、もう一度頭を下げてこう言った。
「本当に、す、すみませんでした」
そう言って、再度頭を下げるミリアを改めて見た銀髪の男は、ミリアの服装を見て呆れたような顔をすると、更にため息交じりにこう言った。
「それにしても、熊避けの鈴も持たないで森の奥に来るなんて……あんた、イカれてんのか? ったく、ほらよ……もってきな」
森の中に、涼やかな音が鳴り響く。
「……これは、鈴?」
「熊避けのな。ほら、さっさと小道に戻れ!」
「は、はい。あ、あの……」
「あん?」
「お、お名前は……」
そう問いかけるミリアに、銀髪の男は冷たい青い瞳をスッと細めると、面倒くさそうにこう言った。
「……アレン・アドラー。銃士団の銃士だ」
「あ、アレンさん。ありがとうございました!」
(銃士のアレンさんか……なんか、申し訳ない事しちゃったな……)
そう心の中で反省すると。
(これからは、森に行くときには鈴を付けていかないとね、うん)
分かっているのか、いないのか。
そう言って、ミリアは心の中で深く頷いて見せるのであった。
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