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第一章 遠く故郷に別れを告げて

ひとりぼっちの友だち

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 赤い夕陽に照らされて、キラキラと光り輝くロケット。
 そんな美しいロケットを、アキは、汚いものでも触るかのようにぶらぶらとぶら下げながらこう言った。

「という訳で。こんな悪趣味なロケット、もう捨てちゃおうよ。君が出来ないって言うなら、俺が代わりに捨ててあげるからさ、ほら……こうやって」

 そう言って、大きくかぶりを振ると、アキはロケットを海へ放り投げようとする。

「ま、待ってください!」

 そんなアキの手を両手で必死に抑えつけると、ミリアは祈るような目でアキを見つめてこう言った。

「そのロケット、私に返してください……お願いします!」

 アキは、今にも泣きだしそうなミリアの瞳の奥の、その奥をじっと覗き込むと、根負けしたようにこう言った。

「……分かった、君に返すよ。君の人生だし。好きにするといいよ」

 そう言うと、アキはミリア片方の掌にロケットをそっと乗せる。

 涙型の、細工の美しい銀のロケット。
 それは、夕陽を浴びて、燃える様に赤くキラキラと輝いていた。

(エリック、そしてクレア。私の大切だった人たち……)

 ミリアは、そのロケットをゆっくりと掌に包み込むと、甲板を力強く踏みしめ、船尾の先、その更に先の赤く染まった地平の果てを見つめてこう言った。

「……アキさん。これから私がすることの見届け人になってくれますか」

 そう言うなり、ミリアはロケットを手に持ったまま、神妙な顔で水面を見つめる。
 そんなミリアの様子から、何かを察したアキは、同じくミリアの視線の先を見つめながらこう言った。

「うん、いいよ……それで、どうするつもり?」

 優しい声音でそう問うアキに、ミリアは夕日で赤く染まった海を見つめたまま、意を決したかのようにこう言った。
 
「こうするんです」

 今でも。

 こうして、非情な現実を突きつけられた今でも。

 エリックとクレア、二人のことをまだ信じたい、信じていたいと願う自分がいる。

 それでも――。

 ミリアは頭を横に振ると、気持ちを奮い立たせて心の中でこう言った。

(私は、前に進みたい。だから――)

 ミリアは、ゆっくりと船のヘリまで近づくと、ロケットを持った手を海の上にかざす。

 そして――。

 ミリアは掴んでいたロケットを躊躇うことなく手離した。

 ロケットは、夕陽ゆうひを浴び、一瞬、黄金のようにきらりと光る。
 だが直ぐに、燃えるような海に吸い込まれるように消えていった。

 その様子を神妙な顔で見届けたミリアは、大きなため息をひとつ吐く。
 そして、広い海の地平の果てを静かに見つめながら、心の中でこう呟いた。

(さよなら、お父さんお母さん。さよなら、大好きな私の妹たち――エイミーにセシリア。さよなら、村のみんな。さよなら、クレアにエリック。そして、さよなら、私の故郷……さよなら、私の大好きだったものたち)

 それから。

 ミリアはゆっっくり後ろを振りると、今にも泣きだしそうな顔に笑みを浮かべながら、アキを見つめてこう言った。
 
「ふふ、これで私……恋人も親友も友だちも、何もかもみーんな失ってしまいました」

 そう言って、明るく涙を押し殺すミリアをアキは真顔で見つめると、無言のまま、後頭部をかきかきこう言った。

「何言ってるの。いるでしょ、ここに」

 そう言って、少し照れたように親指で自分の胸を指し示してみせるアキ。

「あ……」

 鼻を啜りながら零れる涙を拭うミリアに。
 アキは、全てを達観したかのような意味ありげな笑みを浮かべると、苦しみも悲しみも全てを包み込むような、優しい表情かおでこう言った。

「君さえよければ、俺が君の友だち第一号ってことで。あ……嫌じゃ無ければだけど、どう? 俺じゃ嫌かな?」

 そう言って、少し不安そうにミリアの顔を伺うアキの、その細やかな気遣いと優しさに、ミリアは思わず涙を堪えることが出来なくなるのだった。
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