正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第三章 生きることの罪

ユーイング、世に憚る

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「じゃあ、ユーイング先輩。私、注文内容メモしたので注文しちゃいますね!」

 ダニーとは対照的に、ユーイングとの食事を心から楽しんでいるルイーズは、そう言うと元気に給仕きゅうじを呼び止めた。
 その様子を斜め前に確認すると。
 エフェルローンは視線を目の前のユーイングに戻し、真面目な顔で尋ねて言った。

「そう言えば先輩、グランシールとの戦況って今、どんな感じなんですか。新聞で見る限り、膠着状態って感じですけど」

(だが、あのべトフォードの襲撃を見る限り、何か裏でグランシールが動いていないとも限らない。油断はできない状況なのか……?)

 そんなエフェルローンの心の中の問いに。
 ユーイングは、当たらず触らすといった体でこう言った。

「そうだなぁ。まあ、そうと言えばそんな感じか」

 話をはぐらかそうとするのが見え見えのユーイングに。
 エフェルローンは、さらに踏み込んでこう言った。

「今年中に、戦争は……ありそうですか」

 そんな、エフェルローンの率直な質問に。
 ユーイングは、上手く話しを反らすと、綺麗にまとめてこう言った。

「うーん、それは難しい質問だな。今年は冬も間近だし、グランシール側からすれば、攻めるタイミング的には少し時間が足りない感はある。そう考えると、来春というのもあり得る……」
「ということは、どっちにしろ戦争は起こる……そう云うことですよね」

 そう、核心を突くようなエフェルローンの質問に。
 ユーイングは、酷く曖昧に答えて言った。

「さあな。あるかもしれないし、無いかもしれない」

 そんなユーイングの答えに。
 ダニーは、少し不安そうな顔をしつつ、恐る恐る尋ねて言った。

「その時は、先輩も戦場に?」
「まあ、そうなるだろう……生きて帰れるように、神様に祈っておいてくれよ?」

 冗談めかしてそう悲し気に微笑むユーイングに。
 エフェルローンは冷めた目を向けると、ため息交じりにこう言った。

「祈らなくても。先輩の場合、『憎まれっ子、世に憚る』って言いますから、大丈夫ですよ」
「はは、言ってくれるねぇ。ま、ご期待に沿えるよう頑張るよ」

 そう言って、豪快に笑うユーイングを真正面に。

(そうは言いつつ、結構逆境を楽しんでるんだよな、この人……しかも、逆境に強いし)

 エフェルローンは、面白くなさそうに肩肘を突くと、ため息をひとつ吐く。
 
 と、その時――。

「海鮮サラダとシーザーサラダ、あと、かつおのカルパッチョ、来ましたよー」
「おし、カルパッチョ回して」

 やたら元気なユーイングは、カルパッチョの皿を受け取ると、自ら小皿に盛り始めた。

(おいおい、嘘だろ。俺様な先輩が、俺たちの分をわざわざ小皿に盛ってる……)

 あまりに希少価値の高い出来事に、驚きを隠せないエフェルローンは思わず目を丸くする。
 と、そんなエフェルローンの視線に気づいたユーイングはというと、面白そうに笑うとこう言った。

「俺だって、やろうと思えばこのぐらいの気を使えるってな。ほら、ちゃんと食えよ」

 そう言って差し出された小皿をまじまじと見た。
 少し多めに、乗せられたかつおに少し心がジンとする。

(色々と問題の多い人ではあるけれど……やっぱり、憎めない人だよな。まあ、『やろうと思えばこのぐらいの気を使える』って、「普段からやってろ!」って話だけど……)

 そう心の中で毒吐くエフェルローンの耳に、ユーイングやルイーズ、そしてダニーの楽し気な声が響いてくる。

「あ、ボンゴレロッソと、[白身魚のフライとポテトフィッシュ・アンド・チップス]も来ましたよー!」

 そう言って、受け取った側から忙しく料理を小分けにしていくルイーズ。
 それを微笑ましく見守っていたユーイングは、「頃合いか」と云うように両手を合わせると、一同を見回してこう言った。

「さすがにステーキはちょい時間かかるみたいだから。取り敢えず、冷めないうちに食うか!」

 そう言うと、ユーイングはエフェルローンに向かって泡の無くなった麦酒エールを掲げると、破顔一笑こう言った。

「んじゃ、エフェルの退院を祝って、乾杯チアーズ!」

 こうして、横暴でお節介で暑苦しい先輩――ユーイングが開いた宴の席は、こうして幕を開けたのであった。
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