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第三章 生きることの罪
死の足音
しおりを挟む目の色が戻ったシーバルは、さっきのようにフラフラしなくなった。矢を受けたとは思えないしっかりとした歩みで、俺とニールさんを引き連れ、王宮への抜け道に案内する。
そして王宮の結界の綻びを3人でくぐった時、ニールさんは感嘆の声をあげた。
「まさかこんなところにあったとは。せっかく教えていただきましたがここは塞がせていただきます」
「ああ」
ニールさんはシーバルの返答にまた慌てだす。俺はこのシーバルの声色を聞いて理解した。シーバルは本当に、俺を屋敷に帰すつもりだ。だから父上に報告されて軟禁されようが、抜け道を塞がれようが、関係ないのだ。
俺はまだ彼の優しさや愛に報いていないのに。
俺の焦燥やニールさんの困惑をよそに、シーバルは宮殿とは別の方向に歩きだす。
「怪我の手当をしなければなりませんよ!」
方角的にあの滝と池に行くのだろう。そのまま消えて無くなってしまいそうなシーバルに、ニールさんは必死に呼びかける。
「穢れを落としてくる。着替えを持ってきてくれるか。そのあと宮殿で手当を頼む」
シーバルは俺の前以外ではこういう口調なのだろう。余裕がないのか、それとも諦めてしまったのか、隠そうともしなかった。
ニールさんは宮殿に着替えを取りに行くと、俺とともに歩きはじめた。
「ニールさんは袖付と聞きましたが、ニールさん以外に直接シーバルからの命令を受ける人はいるのですか?」
ニールさんは貴方までなぜ? といった顔で振り返る。確かに自分でも唐突すぎたと反省した。
「シーバルは俺を屋敷に帰そうと手配をするかと思うんです。それを手配する人はニールさん以外にいますか?」
「い、いえ! 袖付は袖の要で、武力を伴わない雑務の命令は私しか受けられない仕組みとなっております! し、しかしなぜ……リノ様が屋敷に帰るからシルヴァル皇は……」
ここで自暴自棄とも取れるシーバルの行動にニールさんも気づいたようだった。
「リ、リノ様……私は一介の袖付で、もし先程の無礼に気を悪くされたのであればどうか私の首をお刎ねください……シルヴァル皇は……」
首を刎ねるという言葉に、青と赤の記憶が呼び起こされたが首を振って払い除けた。
「もし着替えを渡す時にその手配を命令されたら、ニールさんの胸だけに留めていただけませんか?」
ニールさんは口から魂が抜けたような音を出して立ち止まってしまった。
「婚姻とか、そういったものはまだよくわからないのですが、彼の愛に報いたい。それには少し時間をいただきたいのです」
「は……はわわわ……!」
「勝手でしょうか……散々彼の気持ちを踏みにじってきたのに……」
「そ、そそ、そんなことございません! あんな一方的な拙い愛で、リノ様が振り向いてくれるなんて! 本人でさえも思っていません! シルヴァル皇の執念は本来あんなものじゃないんです! きっとリノ様が屋敷に帰られたら……帰られたら……ううっ……」
ニールさんは散々失礼なことを言いながら、妙なところで泣きだしてしまった。
2人はまるで密偵のようにひっそりと宮殿に帰り、治療の方法を教わった。そしてニールさんは着替えを持って大急ぎで宮殿を後にする。
シーバルはあの池で泣いているのだろうか。そして、いつものような無邪気な演技で帰ってくるのだろうか。
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